※データの無断転載はお断りいたします
2013年9月13日
収入が多くても生活が苦しい? ~大学生活の充実感を得にくい<苦しい>学生も~ 収入額の大きさより内容で実感する<楽>な暮らし
~第48回学生生活実態調査データより~
全国大学生活協同組合連合会(以下 全国大学生協連)では、毎年秋に「学生生活実態調査」を実施しており、2013年2月には、48回の調査結果概要として、経済生活、就職への意識、勉強時間について報告させていただきました。 この報告の中で学生の収入は増えていないにもかかわらず、半数以上が自らの経済生活を<楽>と感じていると報告し、大きな反響を頂きました。
今回はさらに、暮らし向きの感じ方が何に因っているのか、学生生活の過ごし方や意識の違いを再分析しました。また暮らし向き<楽>増加の背景となっていることが何か、11年度の数値と比較しその傾向を見ました。
経済不況の中で育った現代の大学生は、収入の総体金額よりも、親からの「こづかい」や「仕送り」が多いことで<楽>を実感し、「奨学金」に頼る収入構造を<苦しい>と自覚している傾向が見られます。
さらに暮らし向きの感じ方の違いは、学生生活の充実感や人間関係づくりの違いともなって表れていることなど、学生の意識と生活の現状についてご報告いたします。
はじめに 調査概要とサンプル特性
<調査概要>
1.調査実施時期 |
2012年10~11月 |
2.対象 |
全国の国公立および私立大学の学部学生 |
3.回収数 |
8,609(回収率29.2%) |
<サンプル特性>(図表1)
1) |
第48回学生生活実態調査は78大学生協が参加、18,948名から協力を得た。ただしここで紹介する数値は、経年での変化をより正確に見るために、毎年指定している30大学生協で回収した8,609名の平均値である。 |
2) |
全体的に昨年の構成比と比べ、大きな差異がなく、経年での比較にも耐え得る調査である。 |
3) |
今回に限ったことではないが、専攻別の男女の構成比は、文科系4.5:5.5、理科系7.5:2.5、医歯薬系3.9:6.1となっており、文科系と医歯薬系の特徴は女子の影響を受けやすく、反対に理科系の特徴は男子の影響を受けやすくなっている。 |
【図表1】 サンプル特性
大学設置者別(人・%)
|
12実数 |
12構成比 |
11構成比 |
国公立 |
5,182 |
60.2 |
59.1 |
私立 |
3,427 |
39.8 |
40.9 |
総計 |
8,609 |
100.0 |
100.0 |
学部別(人・%)
|
12実数 |
12構成比 |
11構成比 |
文化系 |
4,099 |
47.6 |
46.8 |
理科系 |
3,417 |
39.7 |
40.6 |
医歯薬系 |
1,093 |
12.7 |
12.6 |
総計 |
8,609 |
100.0 |
100.0 |
学年別(人・%)
|
12実数 |
12構成比 |
11構成比 |
1年 |
2,584 |
30.0 |
31.7 |
2年 |
2,109 |
24.5 |
24.6 |
3年 |
1,928 |
22.4 |
21.6 |
4年 |
1,988 |
23.1 |
22.1 |
総計 |
8,609 |
100.0 |
100.0 |
性別(人・%)
|
12実数 |
12構成比 |
11構成比 |
男子 |
4,840 |
56.2 |
56.1 |
女子 |
3,769 |
43.8 |
43.9 |
総計 |
8,609 |
100.0 |
100.0 |
住居形態別 (人・%)
|
12実数 |
12構成比 |
11構成比 |
自宅 |
4,126 |
47.9 |
45.2 |
下宿 |
4,256 |
49.4 |
52.0 |
アパート |
2,419 |
28.1 |
33.8 |
マンション |
1,549 |
18.0 |
14.8 |
下宿(Kなし) |
20 |
0.2 |
0.2 |
学生会館 |
111 |
1.3 |
0.7 |
親保有 |
15 |
0.2 |
0.3 |
不明 |
62 |
0.7 |
0.8 |
食事付下宿 |
80 |
0.9 |
1.2 |
寮 |
227 |
2.6 |
2.8 |
総計 |
8,609 |
100.0 |
100.0 |
住まいと暮らし向き
(1) 自宅生の暮らし向きは「こづかい」と「奨学金」の構成比による違いが明確。 「貯金繰越」の傾向も暮らし向きを反映。(図表2~5)
1. |
自宅生の1ヶ月の生活費をみると、収入合計は<苦しい>が最も多い70,300円で、<大変楽>の学生は53,600円と最も少なく、収入合計金額と暮らし向きの傾向は比例していない。 |
2. |
収入の費目で暮らし向きによる差が見られるのは「こづかい」で、<大変楽>の19,170円から <大変苦しい>の9,390円まで、暮らし向きが苦しくなるほど金額が下がり、収入全体に占める構成比も<大変楽>が36.1%に対し、<大変苦しい>は14.0%に過ぎない。 |
3. |
一方で「奨学金」は「こづかい」と逆の傾向が表れており、<大変楽>の5,330円に対し、<苦しい>や<大変苦しい>はそれぞれ24,820円と22,200円。収入全体に占める構成比も35.3%と33.1%と大きい。 |
4. |
支出の構成比を見ると、「貯金・繰越」が<大変楽>や<楽>で小さいものの、その他の費目では暮らし向き間の大きな違いは見られない。自宅生は奨学金受給者の8割が「奨学金」を大学納付金に使っており、収入における「奨学金」の金額や構成比の傾向が、そのまま「貯金・繰越」の構成比の傾向となって表れているものと思われる。 |
(2)「仕送り」の多寡が暮らしを左右する下宿生。
<大変苦しい>学生は「奨学金」と「アルバイト」が収入の7割を占める。(図表6~9)
1. |
下宿生の1ヶ月の収入合計は<大変楽>が124,680円に対して、<大変苦しい>が126,860円と2,180円多い。しかしその内訳は<大変楽>の「仕送り」が89,190円に対して、<大変苦しい>は38,470円と少なく、収入に占める構成比も30.3%に過ぎない(<大変楽>は71.5%)。 |
2. |
<苦しい>や<大変苦しい>下宿生は「奨学金」や「アルバイト」による収入が多くを占め、その構成比は合計で<苦しい>が55.8%、<大変苦しい>は68.9%にも上る。 |
3. |
支出費目のうち「住居費」は暮らし向きによる差が大きく、<大変楽>は<大変苦しい>と比べて金額で6,990円、構成比は6.0ポイント上回っている。 |
4. |
「食費」はどの層も金額で22,000円~23,000円、構成比は2割程度と暮らし向きによる影響は小さい。 |
費目別の傾向
(1)アルバイト収入
アルバイト収入の使い道が暮らし向きを表す。
生活費や授業料の負担で<苦しい>学生たち。(図表10・11)
1. |
現在のアルバイト就労率は<大変楽>が59.0%と特に低く、<楽>から<大変苦しい>の70.4%まで暮らし向きが苦しくなるほど上がっていく。 |
2. |
夏季休暇を含む半年間のアルバイトについては暮らし向きによる就労率の差は小さいが、その収入の使い道には暮らし向きによる差が明確に表れている。「衣類・バッグ」は<大変楽>の28.0%から<大変苦しい>の10.5%まで、また「旅行・レジャー」も32.7%から12.6%まで、暮らし向きが苦しくなるほど下がる傾向がある(いずれもアルバイト就労者を100として)。 |
3. |
一方で「生活費の維持」や「授業料」は暮らし向きが苦しくなると上がる傾向があり、特に<大変苦しい>は「生活費の維持」が57.9%、「授業料」も17.9%と高い。 |
4. |
「貯金」は<大変楽>から<苦しい>まで減少するが、<大変苦しい>については17.9%と<苦しい>を上回り、今後の生活に備える傾向も見られる。 |
(2) 奨学金
奨学金が支える<苦しい>学生の大学生活。
一方では使い道を「特に決めていない」<楽>な学生も。(図表12・13)
1. |
暮らし向きが苦しくなるほど奨学金の受給率は高くなり、「奨学金をもらう必要性を感じなかった」は低くなる。 |
2. |
使途については暮らし向きに関わらず、5割前後の学生が「食費や住居費などの生活費」に使っている。また<苦しい>や<大変苦しい>層では「大学納付金」の学生がそれぞれ60.7%と63.3%で、奨学金に支えられながら大学生活を送る学生が多く存在することが読み取れる。 |
3. |
一方で<大変楽><楽>には使い道を「特に決めていない」受給者が8.2%と7.9%と、ほかの層より多く存在しており、特に使用目的がないまま奨学金を受給している学生も存在している(いずれも奨学金受給者を100として)。 |
暮らし向きと学生生活
勉強時間の長さが経済生活にも影響している<大変苦しい>学生たち。
学生生活の充実感も得にくい。(図表14~図表20)
1. |
暮らし向きが<大変楽>な学生は学生生活について、「充実している」が40.5%で「充実していない」が1.6%。対して<大変苦しい>学生は「充実している」が28.0%と低く、「充実していない」は10.4%であった。 |
2. |
学生生活の充実度別に見ても、「充実している」層の54.2%が暮らし向きを<大変楽>や<楽>と感じる学生が占めるのに対して、<苦しい>と<大変苦しい>学生は9.0%のみであり、「充実していない」層は<苦しい>と<大変苦しい>が26.4%を占めている。 |
3. |
また自分の大学については<大変楽>な学生のうち「好き」が44.8%と他と比較して特に多く、<大変苦しい>学生のうち「嫌い」が12.8%と他の層を大きく上回り、暮らし向きと大学生活の充実度は相互に影響していると思われる。 |
4. |
<苦しい>や<大変苦しい>学生の大学生活の特徴点として以下があげられる。 |
1.
|
<大変苦しい>学生のうち相談相手が「いる」は65.6%と、他の層より大幅に少ない。 |
2.
|
<大変苦しい>学生の大学生活の重点は「勉学や研究を第一においた生活」が36.0%、「アルバイトをしたり、お金をためることを第一においた生活」も8.8%と他の層と比較して多く、「自分の趣味(車・スポーツ・音楽・パソコンなど)を第一においた生活」は4.8%と少ない。また「なんとなく過ぎていく生活」が6.4%と、<大変楽>や<楽>と比較して多い傾向にある。 |
3.
|
日常生活で悩んでいること、気にかかっていることとして「生活費やお金のこと」のほか「時間が足りないこと」、「自分の性格や能力のこと」、加えて「心身の不調・病気など健康のこと」や「家族のこと」も多く、金銭面での悩みのほか、自身の健康や能力に不安を感じる学生が多く存在する。 |
4.
|
授業以外の大学の勉強時間についてみると、1週間の全体平均は274.7分だが、<大変苦しい>学生の平均は372.3分と長く、特に理系では<大変楽>と比較して94.3分、医歯薬系も81.9分長い。 |
5.
|
さらにアルバイト就労との関係では、理系の<苦しい>や<大変苦しい>学生は非就労者の勉強時間が長く、勉強時間の長さを確保するためにアルバイト就労を制限していると考えられる。 |
掴みづらい<楽>増加の背景にあるもの~11年との比較~
学生生活の充実や親元の経済状況の感じ方が影響か。(図表21~37)
1. |
<大変楽><楽>の生活費を11年と比較して見ると、自宅生、下宿生ともに「こづかい」や「仕送り」は金額も収入に占める構成比も減少し、<大変楽>においては収入合計も減少している。 |
2. |
支出については、自宅生の全ての層で「教養娯楽費」の構成比が微増となっているものの、費目毎の大きな変化は見られず、学生が感じる暮らし向きの変化は、生活費の増減とは乖離しているように見える。 |
3. |
また半年間のアルバイト収入の使い道を見ると、「生活費のゆとり」は減少し、「サークル費用」はすべての層で増加している。暮らし向きが楽な学生ほど、学生生活が充実し、自分の大学を好きな傾向があり(図表14~図表16)、サークルなどの学生生活充実のための費用増加は<楽>の増加にも通じるのではないか。 |
4. |
「こづかい」や「仕送り」、「奨学金」の受給率と父親の年収をみると、学生の経済生活が親元の収入に大きく影響を受けている様子がうかがえるが、その父親の年収と暮らし向きについてみると、750万以上の層で11年から12年にかけて<普通>が減少し、<大変楽>や<楽>が増加している。経済不況が続く中で、親元に一定以上の収入があること自体で、自身の生活も保障されていると捉え、<楽>と感じる学生が増加したとも考えられる。 |