岡田 隆(バズーカ岡田)氏 身体づくりには「人生を変える力」がある!~心地よい空間から半歩でも踏み出して、みんな 成長しよう~

「筋トレを社会実装する」。明るく語る岡田さんは、自らも実践者でありたいと、今もボディビル競技に挑みます。そのひと言ひと言には、研究と実践で得られた最新の知見をもとに、常人には想像し難い厳しさをストイックに自分に課せ続けた者が発する言葉の重みがありました。大学教授、理学療法士、ボディビルダー、実業家といくつもの顔を持ち、運動と筋肉の素晴らしさを伝えている岡田さん。トップアスリートから幼児体育、介護予防までさまざまな年代層を指導し、心と体を鍛えるトレーニングを実践する岡田さんに、大学生の健康・安全活動に取り組む学生委員が貴重なアドバイスを頂きました。

インタビュイー

日本体育大学教授、
骨格筋評論家、
理学療法士、
ボディビルダー

岡田 隆
(バズーカ岡田)

プロフィール

聞き手

全国大学生協連
学生委員会 学生委員長
(司会・進行)

角田 咲桜

全国大学生協連
学生委員会

齋藤 薫

全国大学生協連
学生委員会

鳥井 和真

全国大学生協連
学生委員会

松田 佳子

全国大学生協連
学生委員会

高橋 明日香

(以下、敬称を省かせていただきます)

大学生協連 学生委員会より、本日は学生の健康・安全分野を主軸に活動しているメンバーでお話を伺わせていただきます。短い時間ですがよろしくお願いいたします。

実は、インタビュー企画でバズーカ岡田さんを推薦したのは私です。私は筋トレするときに岡田さんの動画を見たり、岡田さんの著書『世界一細かすぎる筋トレ図鑑』を読んだりして参考にさせていただいています。

私は、健康と安全に関するセミナーも担当しておりますので、今日はより発信力を高めるためにも、たくさんのアドバイスを頂ければと思っております。

最近ちょっと太ったので、お話を聞いて健康には気を付けようと思います。

私もこの夏は鍛えたいと思っております。よろしくお願いいたします。

バズーカ岡田です。日本体育大学の教授を務めており、私の使命は筋トレの社会実装です。それを達成するためにYouTubeやメディアに出たり、本を執筆したり、講演会をやったりしています。そのほかには、トレーニングをする場所を提供するジムを経営しています。現在ボディビルの大会に向けて減量したり日焼けしたりする実践者でもあります。筋トレはすでに軽く社会実装されていますが、まだまだ足りないなと思うので、これをさらに推し進めるのが私のライフワークです。それを叶えるためにいろいろな角度から、さまざまな年代層にアプローチしています。

挫折からの出発

人生最大の挫折が転機に

岡田さんは学生時代、柔道選手を続けていらっしゃったときに、選手生命に関わるような大けがをされたとお聞きしています。

そのけがが、私の人生の一つの大きな転機になりました。日体大進学後、柔道部に入って頑張ろうと思っていた1年生のときに、膝の前十字靭帯損傷といって選手生命も危ういけがをしてしまったんです。オペをしないと治らないと言われ、どん底に突き落とされました。自分の人生において最も大きな挫折だったと思います。

ただ、膝のオペをして、そのけがを治していく過程で、専門家の先生たちと一緒に取り組む時間が持てたのです。理学療法士の先生に専門的な知見を頂き、「身体っていうのはこんなに研究されていて、こんなに治す方法が考えられているんだ」と感銘を受けました。そこから選手という道よりも、勉強して選手を支える道を進みたいと考えるようになりました。
というのは、私は選手としてはもう難しい立場にいたのですね。オペ後も復帰までには1年くらい時間が必要だったのです。そうすると大学生活が半分終わってしまうので厳しいですね。そうした選手としての環境に限界を感じたのと、その理学療法に感銘を受けたのとが、それからの勉強に注力するきっかけになりました。だから、その挫折はすごくつらかったのですが、挫折の中に何か光明が見えたので、良かったと思います。

その心の切り替えには、時間がかかりましたか。

選手を諦めるという部分での切り替えには時間がかかりました。選手を諦めていく自分と、一方でこの専門的な勉強はものすごく面白そうだなという気持ちは、一つのグラフには同時に載らないものだと思うのですね。だから、単純にプラマイゼロという感じではなく、悔しい思いが時間と共にだんだん薄れていくと、それとはまた別軸で、選手を支える研究や勉強への期待はどんどん上がっていったという感じだったと思います。

何かが駄目だったからもう何もできないというのではなくて、前を向くような感情もあり、そちらが強まったときには行動を起こすモチベーションが高まるということですね。

そうですね、やはり選手としてやりたいという気持ち、専門家として勉強したいという気持ち、どちらも切り捨てられないので、両方とも大事に向き合うしかなかったですね。その中で期待が上がっていくものを見付けられたというのは、ポジティブでいられた要因だったと思います。苦しむことに自分の心を占拠されて、ポジティブな時間を全く持てないというのは、人生の浪費でしかないと思いました。

私はいろいろな仕事を担っているのでそれぞれの問題も抱えており、今でもつらいことはたくさんあります。でも、つらいことだけを見て早く解決してくれと渇望するのではなく、別の可能性に目を移す。煤とそれがポジティブな心を創り出し、救いになる。そこで、自分がコントロールできないことについては、あまり心のリソースを使わない方がいいということを学んでいったと思います。切れた靭帯はいくら心が心配しても治らないんです。そうではないところに心のリソースを割いたほうがいい。これからこれを読んでくださる若い方々も挫折することはあると思いますが、そのときはほかに目を移してポジティブになれるものを、ぜひ探してほしいと思いますね。

とは言え人間なので、今でも心がつらいときは、コントロールできないことに目が向いてしまうことはありますよ。今、私は4年ぶりにボディビルの大会復帰を目指していて、体脂肪を全部除去するために1月からもう15キロぐらい減量しているわけです。私としてはこれを最後の大会にしたいと思っているので、並々ならぬ決意があります。でも、やはりつらいことが起こると、「今日はトレーニングしたくない」「今日はもうご飯食べちゃいたいな」という気になる弱い自分もいます。でもそのコントロールできないものに左右されて、トレーニングとか食事とか自分が本当に大事にしてきたものをおろそかにするのはマイナスでしかないと思うので、その負のスパイラルには絶対に巻き込まれないことが大事だと気付きました。

心が潰れるほどの負荷をかけない

身体だけではなく精神を鍛えるコツはあるのですか。

筋トレの世界でいうと、身体というのは、限界まで行けた人が早く成長するのですよ。ですので、限界をいつも更新していけるような激しいトレーニングに向き合えるような人が、身体を変えるという成果を得やすいのですね。そういうことを繰り返していく中で、心が強くなっていく可能性は十分あると思います。だから私は、トレーニングでは「心と身体を鍛える」と言っています。

ただ、若い人たちを見ていると、ボディビルで立派な心身をつくっていても、社会生活にそれを転用できていないケースも見られます。私もまだその原因は分かりませんが、身体づくりで鍛えた心が、必ずしも一般社会で戦うときの心としては適応できていない場合もあるなと見ています。ただしベースとなる心の体力はあるので、うまくフィットしていけば、一気に花開くと信じています。
いわゆるオーバーワーク、過剰な負荷を身体にかけても、下手したらけがして終わりです。筋トレの場合はそうしたとき、潰れないように補助を入れます。あるいはレストを入れる。しばらく休み、身体に適切な休養を与えるわけです。これを心においても実践していくと、心もだんだん強くなっていきます。だから、自分が潰れるほどの負荷をかけた筋トレが成立しないのと同様、心にも潰れるような負荷を与えるのは避けたほうがいいと思います。

トレーニングで必要な心と一般社会で必要な心というのは何が違うのかと思いながら話を聞いていたのですが、トレーニング同様、心にも負荷をかけ過ぎないことが大切だということですよね?

今改めて思ったのは、トレーニングで心を強くしていくのは、自分がなりたい身体があって、そのための限界更新だから、割とポジティブで心がつらくなりにくいですね。普通はそんなにも負荷に向き合えないのですが、なりたい身体があるなら筋トレや食事改善の負荷は心地いいのです。トレーニングの時に心が限界を更新していくのも、心地よい追い込み方なのじゃないかと思いました。
一方で、社会でつらいときって、心地よくない追い込まれ方、望まぬ追い込まれ方をしている。あるいは、自分でコントロールできない追い込まれ方をしているのが不快だと思うのですね。だから、トレーニングの心の負荷とはちょっと種類が違う。心にはより慎重に負荷を与えていかないと強くなれないし、潰れやすい可能性があると思います。

なるほど、今すっと理解できたような気がします。確かに自分がやりたくてやっているわけではなくて、なにかやらなきゃ、という縛りがある中で課せられた負荷というのは、求めていたものではないですものね。

そうですね。筋肉を付けたいと思って筋トレするのは、自分で望んで取りにいく負荷です。でも、望まない負荷や追い込み方だと、やはりきついですよね。だから慎重にならないといけないし、「俺は筋トレで頑張ってきたから社会でも頑張れる」と言うのは、必ずしも当てはまらない部分もあると思います。

負荷を克服するたびに心は強くなる

大学生協の「こころの相談テレフォン」の相談件数も増えています。先ほど岡田さんが、心の補助や休憩も大事だとおっしゃいましたが、今の大学生について感じていらっしゃることをお聞きしたいです。

心の補助は、知り合いや仕事仲間に助けてもらっていくことだと思います。社会で起こることというのは、自分一人では解決できないですね。ですので、もう完全に外注です。法律の専門家、会計の専門家、いろいろな専門家がいるじゃないですか。心の専門家もいるでしょう。そういう人に迷わず頼るというスタイルが大事だと思います。筋トレも同じで、筋肉をつけたい人が自分一人でやっていても限界があるから、トレーナーをつける。それは筋肉の専門家です。という感じで、頼れる人たちとつながっていくのはすごく大事じゃないですか。それが補助になってくれますよね。

私はYouTubeなどでも結構気楽なキャラですが、トラブルがないわけではなくて、実はこう見えて結構メンタルをやられてきているんですよ。でも、そういう経験をしてきて強くなってきたので、今もこのように明るく話せています。だから、「自分がコントロールできないことは気にしない」と言っていますけれども、簡単にはできないのは分かります。
でもね、一歩一歩絶対に成長する。それは私自身本当に実感していて、5年前よりははるかにそういった問題への対処能力は高くなったと思います。いきなり大きな問題が出てくると、それは「ベンチ300キロやれ」みたいなものです。でも、乗り越えていくしかないから、向き合いすぎて潰れないようにした方がいいとは思いますが、逃げずに少しずつ階段を登っていくのが大事だと思います。若いときは自分の身体と心しかあまり問題にならないと思いますが、年を経ると子どもの問題が出てくるし、親も弱ってくる。降りかかってくる問題は年々大きくなっていきますし、本当にコントロール不能の問題がやたらと出てきますからね。その時に初めて苦境に立ったら相当大変だから、徐々に負荷を入れて強くなっていったほうがいいと思います。