2023年度ドイツ学生支援協会(DSW)との交流

概要

コロナ禍の影響で、全国大学生協連のドイツ研修訪問がオンラインとなっていましたが、幸いにも2023年に対面での交流を再開することができました。今回の訪問は、STWフランクフルト・マインでの研修、そしてノイシュタットで開催される2023ヨーロッパ学生支援会議(ESAC 2023)への参加という組み合わせです。

DSW「ドイツ学生支援協会(Deutsches Studentenwerk)」・・・ドイツ国内の57の公的学生サービス機関(STW)による全国組織。ドイツの大学生の経済的、社会的、健康的、文化的促進を目的とする。

STW・・・ドイツにおける「公的学生サービス機関(Studentenwerke)」国内200以上の年で280万人の学生にサービス(住まい、食事、奨学金、託児所、文化イベント他)を提供する。

ESAC2023・・・DSWが中核団体となり、ヨーロッパ各国の学生サービス支援機関が集い開催されたカンファレンス。パンデミック、ウクライナ紛争、気候変動などにより大きな変化にさらされた学生、大学、学生支援サービスのこれからの姿について議論された。

全体行程

2023年7月3日(月)

  • ドイツ到着
  • 歓迎夕食会(大学生協連、DSW、STW)

2023年7月4日(火)STWフランクフルト・マイン(ゲーテ大学フランクフルト校)訪問

  • 歓迎の言葉、STW紹介
    • ドイツにおける高等教育と学生サービスの現状: DSWのSven Engel国際部部長による報告
    • STWの組織構造、事業、資金調達:STWフランクフルト・マインのJohannes Tiebel専務補佐による報告
    • 心理的カウンセリング:STWチームによる報告
  • Mensa(学生食堂)Cafeteria Hoagaschtで昼食
  • キャンパスツアー:STWの学生支援事業
    • ゲーテ大学フランクフルト校のキャンパスウエストエンドにある、学生食堂を中心とした施設の視察(STWフランクフルト・マインのGudrun Hartmann食堂部部長)
  • ESAC 2023の会場(ノイシュタット)へ移動

2023年7月5日(水)2023ヨーロッパ学生支援会議(ESAC 2023)

  • ESAC 2023への参加

2023年7月6日(木)2023ヨーロッパ学生支援会議(ESAC 2023)

  • ESAC 2023への参加
  • 大学生協連からの報告:「コロナ禍の日本の大学生の状況と大学生協の学生支援」

2023年7月7日(金)2023ヨーロッパ学生支援会議(ESAC 2023)

  • ESAC 2023への参加
  • 日本へ帰国(7/8到着)

フランクフルト・マインSTW見学

・・・ドイツ国内のSTWの中でも比較的大規模なSTW(提供しているサービス)

食堂事業

  • 32の食堂、カフェ/朝食から夕食まで対応/手頃な価格、ローカル、インターナショナル、ヘルシー/トレンド・・・ビーガン、地域食材、持続可能性、フェアトレード


基本食堂。日本の大学生協でヒントを
得た鉄板が導入されていた。


画像認識レジ


夕方以降提供されるバーカウンター

学生寮

  • 34の学生寮、3749室/家賃290~650ユーロ/音楽・スポーツ・社交活動のための共用スペース/インターナショナル・チューターの存在

政府奨学金制度運営

  • 2022年度は約12000件の応募

カウンセリング・ソーシャルサービス→コロナ禍でニーズ増えている

  • 学資確保のためのアドバイス(奨学金、ローン他)/法律相談/子どもを持つ学生へのサービス(育児施設、資金サービス)/留学生支援
  • 個別カウンセリングと心理的ソーシャルグループのサービス
  • フランクフルト・マイン地区の6つの大学内での事業展開/対象となる学生は約73000人
  • 収入構造(2022年度) 事業収入 53%/政府補助金 30%/学生負担金 12%/その他 5%
    ~政府補助金はコロナ前は減少傾向にあったが、コロナ禍で再度増加傾向にある

ESAC2023参加のまとめ

コロナ禍を経て学生支援分野は世界的に危機的な状況に陥り、事業戦略の転換を迫られている状況にあります


日本の大学生協からも事例報告

  • 2021年、2022年にもドイツDSWとはコロナ禍でのオンライン交流を行っており、日本と同様に対面講義や接触機会が減少していることが報告されていましたが、ヨーロッパ全土でも同様な局面にあることを改めて認識しました。またドイツにおいては日本に比べても対面講義の回復度合いは緩く、オンライン講義がより定着している印象でした。
  • この状況に加え、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻は、陸続きであるヨーロッパにはより大きな影響を与えています。長期化によるエネルギー価格高騰やインフレはドイツ国民により強く実感され、学生生活にも大きな影響を与えているようでした。
  • この困難な状況の下で、DSWや各国の学生支援サービスがどのように向きあっているのか、このことが「ESAC2023」の大きなテーマとなりました。

「学生支援は、コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争の経済的影響、エネルギー価格の上昇とインフレ、気候変動などの要因が重なり、かつてないほどの困難に直面しています。これらの変化は、冷戦終結時に経験したものに匹敵するものです。その結果、オンライン学習やキャンパス外での生活が増え、学生やキャンパスライフは大きく変化しました。学生の福利厚生は、財政的・経済的な困難、精神的な問題、社会的な課題などに見舞われています。これらの課題に対処するため、学生支援は、費用の上昇と資金不足のギャップを埋める方法を見つけなければなりません。

この新しい状況に適応するために、学生支援は積極的な変革と戦略的管理を推進しなければなりません。そのためには、学生寮、食堂、カウンセリング、メンタルヘルスなどのサービスについて、新しいコンセプト、シナリオ、戦略的チェンジマネジメントを開発することが必要です。高等教育の社会インフラを将来に向けて変革するためには、経営における戦略的な変革が必要です。」(ESAC203開催要項より抜粋)

その対処法については、ヨーロッパ各国で様々なチャレンジが行われています

  • 残念ながら現時点では改革の指針が定められているわけではありません。しかしESAC2023では、ヨーロッパ各国を中心とした学生支援サービスの以下のような好事例が紹介され、そのヒントや教訓の学び合いが進められました。
  • マネジメント改革・・・「ビジョン」「理解」「明確さ」「行動力」をもって課題に対処するアプローチ/人事管理などにおける改革(STWダルムシュタット)
  • 良い学生サービスを提供するために必要なこととしての「学生中心の視点」(アントワープ大学)
  • ソーシャルネットワークを活用した新しいコミュニケーション(イタリア全国学生協会)
  • 連邦政府による「若者向け住宅」プログラムへの対応(STWボン)
  • 「1ユーロ食堂」の取り組みの教訓に学ぶ(フランスCROUS)
  • 要求が高く、資源に限りがあり、しかし環境に強いこだわりを持つ現代の学生への食対応(カーディフ大学)

コロナ禍の学生生活実態に沿った学生支援サービスの展開が進められています

  • 学生支援サービスの変革を検討するに際して、「学生生活実態はどのような状況にあるのか」の把握が丁寧に行われています。DSWでも定期的に学生調査が実施され、2021年5月~9月に実施された調査では、以下のような傾向が明らかになっていました。
    ~学生の 3 分の 1 は不安定な資金繰りに苦しんでいます(経済面の二極化)
    ~学生の家賃負担は止まることなく上昇し続けています
    ~健康障害が増加しており、そのほとんどが精神障害です
  • これらの傾向を受けて、ESAC2023でもヨーロッパ各国から「メンタルヘルス」「ウェルビーイング」「心理社会カウンセリング」等のキーワードで多くの大学での事例が報告されました(ドイツ、ベルギー、アイルランド他)
  • 基本的にヨーロッパの学生支援サービスは政府補助金を受けてサービス提供する形態が主流であり、その結果STW等の学生支援サービス機関がカウンセリング機能を設け、カウンセラーを雇用する、という点では日本とは異なる事情があります。しかし、コロナ禍を経て学生の心の健康問題に焦点が当たっているのは日本でも同じであり、カウンセリング機能を保有する大学と大学生協とが連携し対応を進めることで、より学生の負担に応えることができるのではないか、という感想を持ちました。

全体を通じて

  • 改めて、世界全体でコロナ禍でキャンパスライフは大きく変わり、学生支援サービスも大きな影響を受けていることを感じる機会となりました。しかしその一方で、日本の大学生協が「再生」の検討を開始したことと同様に、ヨーロッパにおいても従来の学生支援サービスのマネジメント改革の必要性が認識され、様々なチャレンジが行われていることを、リアルなやりとりを通じて知ることができました。「大変だけど、みんな頑張っている」このことを強く実感した訪問でした。
  • ヨーロッパの学生支援サービスは各国の高等教育政策との関係性が日本よりも強く、それにより対応方針も日本とは異なる状況があることも事実です。しかし、これからの学生支援サービスを考える上で原点になるのは「学生生活実態」であり、DSWを始めとして各国が丁寧に学生生活を見つめ、必要と考えられる学生支援サービスを取り組んでいることが印象的でした。やはり私たち大学生協が提供する各種事業も、「学生生活をどのように向上していこうとしているのか」という観点で不断に検証していくことが大切なのだ、ということを改めて感じる機会となりました。