学長・総長インタビュー

日本で最高の教育環境の提供をめざし進取の精神を持つ人材の育成

大学の危機と社会へのアピール

佐藤:吉田学長は、国立大学協会(以下、国大協)の副会長もされており、全国の大学の状況にもお詳しいと思います。最初に、日本の大学の現状などについてどのように認識されていらっしゃるかお聞かせ下さい。

吉田:日本は「教育立国」や「科学立国」と言われており、本来であればいっそう教育と研究を充実させていくことが求められています。しかし実際の国の政策等を見ると、そのことがしっかりと堅持されているかどうかは、極めて疑問に感じられます。

特に、高等教育に関する予算で、1年間で機械的に10%減らされる試算も出されました。もし、このことが実行されるのであれば、高等教育は壊滅的な打撃を受けて、国家の土台が揺らいでしまいます。例えば鹿児島大学に当てはめると、法文学部や教育学部ほどの規模の学部が、毎年ひとつ消えてしまうことになります。

このことに関して全国の国立大学は、非常な危機感を抱いており、国大協においても、このまま見過ごすわけにもいかないと、相当な決意で臨んでおります。

今年の夏には、全国の学長たちがそれぞれの県選出の国会議員や知事、あるいは財界のトップに説明に回りました。私も国会議員や知事、市長の方々に会い、説明をさせていただきました。また、この10月に政府が求めた「政策コンテスト」でのパブリックコメントの応募には、全国の大学の教職員や学生が積極的に意見を寄せ、全体の36万件の内、高等教育に関することが過半数を超えたと言うことです。

さらに、10〜11月には国大協がとりまとめて、「国立大学フェスタ2010」を推進しました。これは、大学が果たしている役割や存在意義の重要性について広く社会の理解を得るため、各国立大学が8つのテーマに沿って様々な活動を実施し、それを国大協がまとめて報道発表するとい新しい試みです。鹿児島大学においても、ここ2カ月間で22の事業を展開しました。

11月1日には、国大協の総会において、政府の「新成長戦略」の趣旨に沿い「強い人材、強い大学、元気な日本」として、平成23年度の予算編成に当たって、運営費交付金の拡充、教育費負担の軽減など6項目の要望を実現するよう、決議しました。

以上のように、今、国立大学の存亡が問われ、それに対して全国の大学とその構成員が、大学の社会的な責務を果たすべく、社会へのアピールを強め始めた状況にあると思います。

国立大学の原点と広報活動

鹿児島大学
鹿児島大学

佐藤:今触れられたパブリックコメントについては生協としても、呼びかけを行ないました。これまで国の費用削減などについて教職員としては「しょうがない」と受け止めがちでした。しかし、国大協や大学の主体的なとりくみのお話しを聞き、心強く、また教職員としておおいに協力していきたいと感じました。

ただし、これまで大学あるいは教職員として社会に向けての広報はあまり行なわれておらず、大学への理解もまだまだだと思います。その点をどうしていったら良いのでしょうか?

吉田:国会議員の方たちと直接お会いして、今の国立大学の現状を説明すると皆さん大変驚き、かつ共感をしていただきました。そして、国立大学の存在意義をもっと知らせていったほうがよいとのアドバイスもたくさんいただきました

国立大学の原点は、高等教育の機会均等と全国各地域の均衡ある発展に寄与することにあり、一地方一拠点としての国立大学の存在の大切さとその業績をあらためて知ってもらわなければならないと痛感しました。

鹿児島大学としても、教育研究情勢の可視化を進めるために広報センターを設置して、ホームページの開設や鹿大ジャーナル等を定期的に発刊するなど種々の取り組みを行っておりますが、今後は、さらに新聞への出稿や市電や駅でのポスター掲示などを開始します。特に報道関係者との関係作りにも力を入れていきます。担当の記者も短期間で変わられる場合もありますので、現在月に一度、学長と記者との懇談会を開催しています。ここでは形式ばったものではなく、できる限り鹿児島大学の実情をこれまでの経緯を含めて知ってもらうようにしています。

しかし、広報的にはまだまだ不十分で、これからも工夫していかなければならないと思っています。

基本理念を共有し地域とともに歩む

佐藤:今、鹿児島大学の広報面について触れていただきましたが、中期計画の2期目が進み始めている中で、鹿児島大学の今後の方向性についてお話ください。

吉田:2007年に、鹿児島大学が今後どのような理念で存続していくかを定めた「鹿児島大学憲章」を制定しました。この憲章では、鹿児島大学の普遍的な基本理念である「自主自律」と、鹿児島という地域が脈々と受け継いでいる教育的な伝統である「進取の精神」を基本理念に据えました。そして、この2つを堅持しながら、地域とともに社会の発展に貢献する「総合大学」をめざすこととしました。

その点を踏まえつつ、現在第2期中期計画に入っています。この第2期に臨むに当たっては、本学の経済的状況がさらに悪化しても、「鹿児島大学は日本で最も学生を大切にする学習環境の良い大学」を基本にし、「人間力がしっかりした上で、進取の精神を持つ人材を育てていく」ことを貫いていくことを、強く決意しています。

授業やプログラムの改善と学生自身による「学生憲章」の策定

佐藤:進取の精神を持つ人材の育成について、どのようなことが必要となり、教育などに関して具体的にどのような施策を考えていらっしゃるのか。そして、鹿児島という地域の特長をどう生かしていくのか、お教えください。

吉田:「進取の精神」とは何か、どう学生に身につけさせるか、どのような授業を進めていくかが非常に大切です。教員は進取の精神の涵養という観点から授業やカリキュラムの改善に真剣に取り組んでいく必要があります。現在鹿児島大学は8学部ありますが、共通教育と全学部の専門教育で、この観点で改善を進め、系統的なカリキュラムを形成したいと考えています。新カリキュラム作成と授業法の開発に、ぜひ全ての教員が果敢に挑戦していってもらいたいと思っています。

これに関して、去る8月20日に「進取の精神に関する講演会と学生憲章ワークショップ」を、学生も参加して開催しました。ここでは、「『進取の精神を有する』人材の育成」に向けての授業開発、系統的なカリキュラムの構築や、学生の行動指針となる「鹿児島大学学生憲章」の原案策定などについて協議しました。「学生憲章」は学生たちが自らまとめ、多くの意見も反映させ、第61回開学記念日である11月15日に制定いたしました。非常にすばらしい内容となり、感心しています。

一方、鹿児島の地域特性を生かす教育や研究は、これまでもずいぶん取り組まれてきています。今後もこれまで以上にグローカルに教育研究を推進し、地域での問題を解決し、あるいは地域の研究を進める中で普遍的なものを突き詰め、東南アジアなど世界的に共通する課題の解決にも関わっていければよいと思っています。

その点では、今年度後期より、10の大学院研究科での横断的な教育プログラムである「島嶼学特別教育コース」を設置しました。来年度は、「環境学特別教育コース」と「食と健康教育コース」の2つのコースを設置し、それぞれのテーマに関わる人材育成と諸課題の解決に大きな役割を果たすとことになります。

学生支援と生協の役割

佐藤:最後に学生生活に関する支援に関することと、生協に対するご注文やご期待などがあればお願いいたします。

吉田:先ほども言いましたように、日本で最も良い学習環境を提供する上で、不可欠である学生支援は様々な面から実施、あるいは検討をしています。たとえば、今年度からは、「進取の精神」を涵養するために開講されている学生の海外研修旅費の援助を開始しました。また、経済的な面で授業料免除枠の拡充について検討を急いでいます。留学生についても授業料免除とともに、宿舎の増築を考えています。

鹿児島大学生協は、学生支援の面では、特に学生生活の環境づくりにすばらしい役割を果たしていただいており、また、学生たちの人間力を涵養する存在でもあります。大学本来の総合的な責務から考えても、生協が支えてきた面は大きく、信頼感や安心感も醸成されています。今後も大学と協力をしながら運営していって欲しいと思います。

佐藤:大学生協には多くの学生が関わっており、その学生の力によって生協があり、大学の中でも一定の役割を果たしていると思います。そういった学生たちに対して大学からも評価をしていただくと、彼らの大きな励ましになると思っています。

今後も大学の中での役割を大切にして運営をしていきますので、よろしくお願い致します。

本日はお忙しいところ誠に有り難うございました。
(編集部)