学長・総長インタビュー

全学部で実務系教育を進め専門職業人の輩出に貢献

厳しさの中で問われる教育と大学運営


大場:岐阜大学のお話に入る前に、最初に、現在の日本の大学がどのような状況におかれているのか、お聞かせ頂けますでしょうか。特に東京大学が発表した、「秋入学」についての感想などもいただけるようであればありがたいです。

森:社会からの様々な期待に日本の大学は十分に応えていないのではないかと、大学の評価には大変厳しいものがあると思います。例えば、学力の低下が問題となっており、大学は的確な教育をしていないのではないか。今回の震災や原発の問題でも、地震の予知や原発の安全性などに関して、大学がしっかりしていないことの指摘がされたりしています。特に、国立大学の場合は国の税金が投入されているため、責任論が出るのだと思います。

国立大学はどのような教育をしてどのような人材を輩出しているのか、社会に理解していただく必要がありますが、その点でも私たちの努力不足があるかもしれません。

国の財政状況の悪化の下で国立大学の運営交付金は継続的に減少してきており、国立大学は苦しい状況の中にあって、教育の質を下げず、教職員の意欲も落とさずに運営していることを理解して頂きたいと思います。

多くの大学と連携した「秋入学」の実現を

森:東京大学が「秋入学」について積極的な考えを表明したことは、社会構造をリセットする意味では、一つの投げかけだと思います。これまでも言われてきていた大学の国際化の重要性を、改めて明確にしたことは意義あることです。

しかし、一部の大学が実現すればよいという問題ではなく、多くの大学や日本の初等中等教育とも連携し社会全体で対応していくことが望ましいのではないでしょうか。

一部の産業界からは即座に歓迎する旨のコメントがあり、そのことは理解できないわけではないのですが、地元の企業の方、あるいは「大学コンソーシアム岐阜」に参加する学長の方々の大半は、「慎重に臨むのが良い」とのことでした。

本学でも役員会や教育研究評議会で論議をしましたが、重要な問題をいろいろ含んでいますので、進展状況を鑑みながら検討していきたいと思っています。ちなみに、岐阜大学では現在でも大学院では秋入学を実施しています。

ミッションが明確な五つの学部で人材輩出

大場:先生は2008年に学長になられて、現在5年目となっています。これまでの4年間の実績を積まれてきたご経験から、この間の成果の紹介も含めまして、岐阜大学の状況や主な特徴をどのように捉えていらっしゃるかお教え下さい。

森:岐阜大学には五つの学部がありますが、学部数は決して多いとは言えません。本学は実学系学部が主体で、人材育成のミッションは鮮明です。しかし、私立大学は人文系学部が中心ですので、学生の親御さんなどの間では、本学の知名度はそれほど高くないかもしれません。

「工学部」は、〝物づくり〟を中心とする産業界に専門職業人として人材を輩出しています。岐阜高等農林学校を前身とする「応用生物科学部」は、食の生産や森林を中心とする環境の意義、獣医学を中心とする人獣共通感染症に対応できる人材を育てています。「教育学部」の多くの学生は先生を目指しますし、「医学部」は、医療人を育成しています。「地域科学部」は、新しい学部でやや分かりづらい名称ですが、他大学でも同じような学部が増えております。この学部は、多様な面で貢献できるゼネラリストを育てています。

一つのキャンパスに全学部があることにより、学生間のコミュニケーションが容易ですし、一体感の醸成に繋がる教育が出来るのが岐阜大学の特長であると思います。

三つの連合大学院と多様な研究センター

森:以上のような学部とそれに接続する大学院に加えて、岐阜大学には本学を主管とする三つの連合大学院があります。

そのうち二つは、「連合農学研究科」と「連合獣医学研究科」の如く農学系です。「連合農学研究科」は静岡大学と、「連合獣医学研究科」は帯広畜産大学・岩手大学・東京農工大学とで作っております。三つ目は、比較的新しい「連合創薬医療情報研究科」で、岐阜薬科大学と連合しています。岐阜薬科大学は創薬学が盛んですし、岐阜大学病院では医療情報システムが進んでおります。岐阜大学工学部の生命工学は、ライフサイエンスの研究を行っております。関連することですが、岐阜薬科大学の一部は岐阜大学のキャンパスに移ってきています。

岐阜大学には、様々な研究センターが設置されており、この様なセンターも人材教育での社会貢献を果たしています。

一番新しいのがつい最近できた「複合材料研究センター」で、物づくりのメッカである東海地方では強く求められてきたものです。「人間医工学研究開発センター」は医療ロボットなどの開発に当たっています。その他「未来型太陽光発電システム研究センター」「金型創成技術研究センター」「社会資本アセットマネジメント技術研究センター」「イノベーション創出若手人材養成センター」などがあり、産業界や地方行政と連携して人材育成や、共同研究を行っています。例えば、「イノベーション創出若手人材養成センター」では、企業の方に講義をしていただくとか、企業の海外の拠点を教育に利用させていただくとかの新しい教育スタイルを取り入れています。

秋より駅前キャンパスを設置

岐阜大学・生協食堂
岐阜大学・生協食堂

大場:岐阜大学の特徴を端的にご紹介していただいたと思います。そして、岐阜大学においてはとりわけ学生への教育が一番大切だと思います。学生の教育に関しての今後の方向性や具体的な施策がありましたらお聞かせ下さい。

森:岐阜大学のキャンパスが位置する環境はすばらしいのですが、駅からバスに乗っての通学に時間がかかり、学生は少々不便な思いをしています。

そのようなこともあって、この秋に、岐阜駅前に新しくできる37階建てのビルの4階に「駅前キャンパス」を設置します。本学の学生のうち、愛知県から通う学生が40%占めており、交通の便の良さもこの教育拠点を設置する動機となっています。従来の講義に加えて、遠隔教育や「大学コンソーシアム岐阜」による授業の実施など様々な新しいしくみを取り入れます。

大学の国際化も強化する一つです。本学に留学してきている学生は約4百名で、連合大学院があることもその要因となっています。また別に夏季に日本語を学びに来る学生もかなりいます。基本的には、アジアの地域の学生を引き受けて、その国でリーダーとなるように育てていきたいと思っています。現在は上海とバングラデシュにオフィスを置き、良い学生を紹介していただくようにしています。今後はインドネシアなどにもオフィスを設けようと検討しています。一方で、日本人学生の留学が減ってきている中で、本学の学生の留学をどのように増やしていくかも、現在検討している最中です。

国際化に力点を入れると共に、岐阜大学への愛着と学生同士の仲間意識を強めてもらおうと、卒業式などで皆で歌える「愛唱歌」を定着させようとしています。具体的には、岐阜高等農林学校の校歌であった「我等多望の春にして」という曲を指定しました。今年の入学式で初めて披露し、定着へ向け努力致します。

奨学金の支給を基金を設け開始

大場:海外の大学に行った時に、やはり中国や韓国の学生が多く、日本人が少ないことを痛切に感じていますので、本学の学生が積極的に留学するような施策を期待しております。また、愛唱歌によって愛校心が高まり、岐阜大学人としてのアイデンティティが強まり、特に卒業してからの拠りどころにはなると思いますので、生協も協力して広めていきたいと思います。

では、最後に学生への支援と、岐阜大学生協へのご要望などをお聞かせ下さい。

森:親の年収が下がってきており、学生への経済的支援が必要となってきています。岐阜大学では,創立60周年を契機に立ち上げた岐阜大学基金による事業の一環として,他の学生の模範となる学生に奨学金を支給する「応援奨学生制度」を2010年度より開始しました。教職員や企業、あるいはOBなどより基金に寄付をしていただき、その中から学部生と院生に支給しています。まだ支給できる人数はあまり多くなく、期間も当面10年間となっておりますが、ぜひ継続して行っていきたいと思っています。

生協への要望という点では、ぜひユニセフの活動を積極的に進めていただきたいと思います。私は昨年11月に設立された「岐阜県ユニセフ協会」の会長に就任しました。ユニセフの活動では地域の生協が中心的な役割を果たしています。生協の考えはユニセフの考えとも近いと思いますので、ぜひ、大学内でもユニセフを広めて欲しいですね。

岐阜大学生協の活動では、秋に実施している就職に当たっての企業展が良いとりくみだと思っています。参加している学生も真剣に臨んでいますし、その企画を実施しているのも生協に関わっている学生が中心だと聞いております。

大場:「学生企業展」は既に10年間続いている企画で、主催は大学ですが、生協の学生委員を経験した3年生が中心となり、実施しています。

本日は多岐にわたるお話をいただき、あらためて岐阜大学を再認識した点もありました。大変お忙しいところ誠に有難うございました。

(編集部)

『Campus Life vol.31』(2012年6月号)より転載