学長・総長インタビュー

関西学院大学

村田 治 学長

グローバル化の時代だからこそ、『優しさと強さ』でスクールモットー“Mastery for Service"を体現する

私学の状況、関学の強み

冨田 日本の大学、特に私立大学が直面する課題についてお話し下さい。

村田 日本の大学は、今、曲がり角に来ており、戦後の学制改革に次ぐ大きな改革が進みつつあります。大学進学率の上昇が背景にあって、OECD加盟国の平均を見ても進学率は60%を超えています。昔のエリートが学ぶ大学から比べると、当然学力の低下があり、先進国全体で教育のあり方が大きく変わってきています。日本もまさにその真っ只中にいる、それがこの5年から10年の大きな課題です。
進学率が50%を超えてユニバーサル段階に入ると、大学教育の目的は、「知識・技能の伝達」から、「新しい広い経験の提供」へと変化する、まさにコンピテンシーレベルの教育が問われています。

本学は、スクールモットー“Mastery for Service"(奉仕のための練達)がある日本でも数少ない大学であり、ミッションステートメント『“Mastery for Service"を体現する世界市民の育成』と、それにもとづくディプロマポリシーがあって、そこが強みとなっています。
創立当時に作られた関西学院憲法には、「キリスト教主義にもとづく全人教育」という言葉があります。プロテスタントの大学として、神の前では皆が平等であり、学生と教職員の垣根が非常に低いのが特徴です。全人教育という本学が連綿と行ってきたことが、時代の変化とともに求められる教育のあり方となり、世界の教育の動きが本学が行ってきたことになりつつあると思っています。

補助金が少ない私学

村田 OECD加盟国中、日本の私立大学生一人あたりの補助金は最低です。国立大学生の補助金はOECD諸国の平均以上の水準にあります。大学数で75%、学生数で80%を占める私立大学と国立大学との格差が大きく、そこをもっと国には考えて欲しい。
特に本学のように戦前から歴史のある、人文社会科学系も含めて学生数の多い、ボリュームゾーンのある私立大学が、日本経済を支えてきました。そこへの教育投資をしないということは、本当に日本経済をどう考えているのか疑問です。知識基盤社会の日本で、知識を持っていて、高等教育を受けた比較的優秀なボリュームゾーン、そこをもっと国として支えていかないとだめなのではないかというのが私の持論です。

関西学院大学の改革の方向性

冨田 そのような状況の中で、どのような戦略で関西学院大学の改革を進めるのか、お話いただけますでしょうか?

村田 まずユニバーサル段階の中でのグローバル化について考えねばなりません。グローバル化とは、何も留学生を受け入れたり留学させたりということだけではなく、世界で通用する人材を国内で育成するという改革が重要です。
一つはコンピテンシーレベルでの授業を重視する必要がある。知識や技能は大前提として必要ですが、そこに留まらない新しい広い経験という教育の提供が大事です。日本の高等教育の第一人者である金子元久先生は、日本の大学教育が世界の中で何とかやってこられたのも、ゼミ・研究室の役割があってこそだと言われています。私もそう思います。
初年次教育では、全学科目でのアクティブラーニング化が必要です。

社会で活躍する学生を

村田 大切なことは、就職して社会に出た卒業生がどれだけ活躍できるかです。入試の偏差値と就職率・卒業後の社会での活躍が、社会的評価の大きな指標になっています。

東大、京大を含めた国公私立大学で毎年5000人以上の卒業生が出る大学で、本学は実就職率が3年連続ナンバーワンです。キャリアセンターが学生全員に就職調査をして、就職が決まっていない学生に電話して相談するなど、本当にきめ細やかな指導をします。学生が優秀で頑張っていることと、大学として学生一人ひとりを大切にしていることが、実就職率が高いことの理由です。

さらに本学はビジネスパーソンの輩出に強いのも特長です。カナダ人宣教師で第4代院長のベーツ先生はスクールモットー“Mastery for Service"について「お金儲け自体が悪いことではない、儲けたお金を誰のために使うかだ」と学生に語りました。プロテスタントの大学である本学は、まさにマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』にあるように、勤勉、倹約が美徳とされる考えがあるのだと思います。お金を儲けること自体はビジネスであり、問題はそれをどう使うかで、まさに金融資本主義、株式資本主義が行き過ぎた資本主義であれば、それをどう考えるかが問われます。

“Mastery for Service"というプロテスタントの良いところを持っているから、ビジネスパーソンにも強い、就職に強いということだと思うのです。

ハンズオン・ラーニングで

村田 入学式でもお話しましたダブルチャレンジ制度は、インターナショナルで海外へ出る、ハンズオン・ラーニングで社会へ出る、そして他学部でも学ぶ、という三つのプログラムを通じて、「二つのことにチャレンジせよ」と学生に言っています。世界では今、イノベーションやクリエーションが求められています。新しいアイデアは、一つのことをずっと考えているよりも、別のところからふっと出てくる。ダブルチャレンジは新しい人材育成を進めるために制度化しているものです。

冨田 就職支援やキャリア教育も生協で一部受託しておりますし、アクティブラーニングについても、生協では農協・漁協・森林組合などとの協同組合連携や、国内外での「テーマのある旅」などの体験型とりくみも行っています。関西学院大学の「スーパーグローバル大学創成支援」事業のハンズオン・ラーニングとして、国内でのさまざまな社会体験をすべての学生に受けさせるプログラムの一部を生協が担えれば、正課教育においてもさらに貢献できる、と思っております。

村田 ぜひお願いします。

更なる奨学金の充実

冨田 学生も親御さんも格差や貧困が広がり、不況で学生の財布の紐も固くなっている中で、学生支援についてのお考えをお聞かせ下さい。

村田 やはり奨学金が気になります。本学だけでは解決できませんが、学生間の格差も広がっていると思います。
本学の「スーパーグローバル大学創成支援」事業では、留学する学生数を45%まで上げようとしています。海外に行く学生に対して、アジア圏約3万円、ヨーロッパ等に約5万円の奨学金を何とか捻出しました。本学はもともとニードベースの奨学金が充実しています。しかし、世界の趨勢として先進国の財政赤字により、ニードベースからメリットベースへ奨学金もシフトして、授業料無料のイギリスも有料化になりました。大学だけでの解決は難しいですが、ニードベースの奨学金をさらに充実できるよう、関西学院同窓会とも相談しながら考えています。

冨田 関西学院大学は伝統的に大学の経常経費から一定の割合で奨学金を出している、基金ではなく相互扶助という考えで、しかも貸与ではなく、支給を中心にしています。奨学金制度としては日本で一番高い水準ではないかと思います。それはもともと関西学院の理念から出ているものです。関西学院は「優しい大学」だということを打ち出していけばよいのではないでしょうか。

村田 まさしく「優しい大学」で、弱者に対する視点は常に持っています。東京オリンピック・パラリンピックでも本学はパラリンピックに力を入れていきますし、また「日本ライトハウス」も本学出身の岩橋武夫氏が設立されていて、そういう伝統、社会的弱者に対する目線がある。その上でビジネスでも勝っていく。もちろん、勝って自分の為にだけ使う人間を育成しても仕方ない。
ベーツ第4代院長曰く、Masteryだけでは利己心につながるし、for Serviceだけでは自己満足に終わる。両方を体現する形で、奨学金やパラリンピックの支援を行い、もう一方で就職支援もきちんとやる。両輪でやらなければいけないと思います。

冨田 関西学院大学は、生協の祖である賀川豊彦先生ゆかりの大学でもあります。大正時代に賀川先生が最初にセツルメントでスラムに入っていくときに連れていったのは、原田の森の関学生でした。そういう意味で関西学院大学と生協は双子のように感じています。これだけ格差と貧困が問題になっている今、力強さも大事ですが、賀川豊彦に代表される優しさも求められているのではないでしょうか。
関西学院大学では、力強さを学長が代表するなら、生協が優しさですね。

村田 いやいや両方必要ですよ。優しくなるためには強くなければならない、と確信しています。

生協への期待

冨田 ぜひベクトルを合わせながら一緒に関西学院大学の一部として生協も頑張っていきたいと思っています。お弁当でもいろいろ生協も努力しておりますが、何か生協に対してご意見やご要望などありますか?

村田 国際学部ができ学生数も増えてきて、食堂だけでは食事がとれない。お弁当やおにぎりを食べる、またカップ麺などで安くすませたりする。経済的な理由もあって、学生はお昼の食費を削っていて、とても心配です。大学として学生の食事場所の確保が大きな課題となっていますが、生協にはぜひメニューと「おいしさ」をお願いしたい。女子学生が増えてきて、揚げ物よりも野菜など、ヘルシー嗜好も増えていますしね。

冨田 生活防衛でお弁当を持ってくる学生も増えています。その上で、生協でおかずを一品取ったり、野菜や総菜のバイキングを利用したり、など多様な利用形態に合わせられるように、投資を含めて対応してきています。

村田 私は4年生から大学院まで下宿でしたが、一番助かったのが生協の朝ご飯です。朝食提供は今はやっていないのですか?

高橋(生協専務理事) やっております。西宮上ヶ原キャンパスでは一時期やめていましたが、2011年度に再開し、8時から提供しています。神戸三田キャンパスでも2011年度の途中から開始しました。

村田 それは良かった。

冨田 上ヶ原はグラムバイキング方式(量り売り)で、ご飯は自分で盛り放題です。

村田 立命館でも実施されている100円朝食は?

冨田 立命館は父母会との連携で実現しました。関西学院でも後援会からの補助があれば、安く提供することは実現できます。

村田 朝ご飯は下宿生には大切なので、後援会と話してみないといけませんね。

冨田 生協では消費者教育で兵庫県と連携していて、多くの学生委員が県認定のインストラクター資格を持っています。キャリア教育と並んで消費者教育を、学生が社会に出るまでに、ピアtoピアのプログラムとして行うことも可能です。

村田 それはありがたいので、ぜひ提案して下さい。

冨田 生協としても、関西学院全体の教育力を上げていくことに、いろいろ貢献できることもありますので、今後ともよろしくお願いいたします。

(編集部)


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