学長・総長インタビュー

大阪大学

西尾 章治郎 総長

University4・0が求められる今
社会との「知の協奏と共創」により、創立90周年に向けた
『OUビジョン2021』の実現を目指す

University4・0が求められる時代

江口 2021年の創立90周年に向けて大学改革にご尽力されている先生に、大阪大学の教育・研究・社会貢献活動についてお伺いいたします。
最近先生がよくお話しされているUniversity4・0についてご説明いただけますでしょうか。

西尾 大学は時代とともに変革を遂げてきました。まず中近世においてはイタリアなどにおいて、古典の研究と教育から始まり、専門職養成の機関へと変遷をとげたUniversity1・0の時代です。
 その後、研究の重視とともに研究と教育を一体化させたドイツモデルとしてのUniversity2・0、大学院制度を設け、さらに社会貢献という使命が加わったアメリカモデルとしてのUniversity3・0に発展し、今日の大学はその真っ直中にあります。
 しかし、今や先進国ではこの社会貢献の意味が変容しつつあります。社会課題が大規模、複雑かつ解決困難なものに変容し、大学が専ら知識を生産し、それを課題に適用するという解決手法が限界を迎えており、University4・0が求められています。社会課題の設定の段階から大学が社会と連携し、その解決のための知を共に創造していくこと、すなわち社会との「知の協奏(Orchestration)と共創(Co-creation)」が重要と考えています。

OUビジョン2021

江口 大阪大学の歴史的背景と、昨年発表された「OUビジョン2021」との関連性について、お考えをお聞かせください。

西尾 大阪大学は、地域社会の要請から生まれ、市民の手で育まれてきました。
 18世紀の大坂という市民社会が生んだ学び舎である「懐徳堂」、19世紀に西洋の学問を志した若者が集った「適塾」をその精神的な源流とし、1931年に、関西の政界と財界、そして何よりも市民からの強い要望により、地域社会と結びついた「市民主導の帝国大学」として誕生しました。2007年統合の大阪外国語大学も、海運関係の実業家のご夫妻からのご寄附により設立された学校です。
 このような歴史的背景をもつ大阪大学は、課題をいかに解決するかという手段を考える前に、「何が解決すべき社会課題か」を考え、その解決のために「何をすべきか」という根源の問いに立ち戻り、広く社会と共創することにより、新たな価値を生み出すイノベーティブな大学になることを目標としています。
 このような大阪大学モデルのUniversity4・0の確立を、創立100周年の2031年までに実現すべく、2016年に「Openness(開放性)」をキーワードとした大学改革の指針「OU(Osaka University)ビジョン2021」を策定しました。


Open Education 教育の新たな取り組み

西尾 まず教育に関して、今年度から全学的に4学期制を導入しました。
 これは、学生の主体的な学びを促進するとともに、海外も含めた多様な学修体験の機会を確保できるよう学事暦を「柔軟化」するものです。社会からの期待に応え、グローバルに通用する人材を育成する教育を実現するための制度改革の一環として実施しました。
 また、これまで大阪大学の高度教養教育を担ってきたコミュニケーションデザイン・センターをさらに発展させ、昨年7月に設置したCOデザインセンターを中心に、高度な専門知の修得を通じて獲得した知的技能を、他分野の問題や社会課題の解決に活用できるようにするための高度汎用力教育などを新たに企画・実施していきます。

Open Research 研究で力を入れたいこと

江口 研究面について、世界屈指の多面的・多角的な研究型総合大学として、先生が今後力を入れていきたいことを少しお話しいただけますか。

西尾 新学術領域の開拓により世界的研究拠点を形成し、そこに世界中から優秀な研究者を集めて世界トップレベルの研究を推進し、その成果を世界に対して発信していきたい。
 そのために、今年、二つの新しい研究機構を設置しました。
 「先導的学際研究機構」は、これまでに類のない新学術領域を社会との協働と共創によって生み出すための先導的な組織です。
 「世界最先端研究機構」は、世界最高水準の拠点形成に資する取り組みを行う組織として設置しました。本学が世界に誇る免疫学フロンティア研究センター(IFReC)はこの機構内のセンターとして組織しています。
 さらに、昨年度設置の「データビリティフロンティア機構」が、その世界最高水準の拠点形成の一連のプロセスを加速する役割を担います。
 また、将来を担う若手研究者の育成が研究型総合大学の最も重要なミッションの一つですが、近年の国立大学法人の厳しい財政難のしわ寄せにより、それが十分に果たせないという深刻な状況に至っております。そこで、外部からの資金援助の下、卓越した若手研究者を長期雇用・育成するために、「高等共創研究院」を昨年12月に設置しました。

Open Innovation 産学連携から産学共創へ

江口 次に「科学技術創造立国」に資するために、大阪大学として具体的にどのような産学共創を通じて達成できるとお考えでしょうか。

西尾 冒頭で述べたとおり、大阪大学は市民社会に支えられ、地域社会に結びついた大学です。このため「産学連携」は本学にとって非常に重要な活動であり、常に我が国におけるリーダシップを発揮する責務があると考えています。そこで、「産学連携」を「産学共創」へとパラダイムシフトさせ、大阪大学方式の「組織」対「組織」による基礎研究段階からの包括的な産学共創を促進しています。
 この活動をさらに機能強化するために、本年4月に産学連携本部を「産学共創本部」へと改組しました。従来の産学連携本部の機能に加え、産学官民が連携する先進的なオープンイノベーションの推進に取り組むことが可能なプラットフォームの構築を進め、社会的課題の解決から新しい知の創出への好循環を実現させたいと考えています。
   
  また、文部科学省の地域科学技術実証拠点整備事業にも採択されました。地域の企業と大学と地方自治体等が一つ屋根のもと連携体制を強化し、共同研究開発を通じて事業化の加速等を図っていくものであり、吹田キャンパス内に新たな産学共創のための研究施設を建設します。

Open Community キャンパスと社学連携

江口 地域社会との社学連携については、どのような取り組みをお考えでしょうか。

西尾 社学連携関係では、互いに関連する四つの組織(総合学術博物館、21世紀懐徳堂、適塾記念センター、アーカイブズ)を統合・再編し、新たに「社学共創機構」を設置します。そのもとで、研究教育活動のアウトリーチを推進するとともに、社会貢献の次なるステップである「社学共創」の実現を目指します。
 また、本学の中之島センターが中心に位置する中之島4丁目エリアの再開発では、大阪市や大阪府を中心とする自治体や周辺企業との連携により、「大阪大学中之島アゴラ構想」を軸に社学共創を実践していきます。
 さらに2021年開校を目指して、箕面新キャンパス移転の本格的な作業を進めています。新キャンパスは北大阪急行線の新駅「(仮称)箕面船場駅」駅前に位置し、大阪大学が新たな教育研究棟と学生寮を整備するとともに、箕面市とともに図書館を整備・運営します。まさに共創空間としての都市型キャンパスが生み出されようとしています。
 また、留学生・日本人学生の混住型学寮と教職員宿舎を「グローバルビレッジ」として一体的に整備する事業も、2020年の運用開始に向けて、本年より具体化していきます。世界で活躍するグローバル人材育成の拠点として最終的には2600戸を整備していく計画です。

Open Governance 大学環境づくり

江口 学びがい、働きがいのある教育研究・職場環境づくりに関して、抱負とお考えをお話しいただけますか。

西尾 財政面については、国立大学法人の基盤的経費である運営費交付金は、国立大学法人化以降、毎年1・6%減額されています。厳しい財政状況下でも『OUビジョン2021』をはじめ、さまざまな事業を着実に実施していくために、安定的な財政運営を確保し、確固たる財務基盤を築くための財務構造改革に本年度から本格的に取り組んでいきます。
 男女協働推進では、昨年採択された文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」で、産学官の女性研究者循環型育成として、女性研究者の持続的な育成と多様な活躍の場を創出、拡大します。
 本学では他大学に先駆けて、2014年1月からクロス・アポイントメント制度を導入し、教育・研究・産学連携活動等の推進を図るなど、高等教育の新たな可能性を拓いてきました。昨年11月からは、企業等とのクロス・アポイントメント協定締結も可能にし、今年度に民間企業からの研究者受入れ及び本学教員の民間企業への派遣を開始します。

生協への期待

江口 阪大生協の理事会は、24名の理事のうち半数が学生理事から構成されています。学生諸君は毎月の理事会においても活発な意見を述べてくれます。最後に、その生協へのご注文や期待等をお話しください。

西尾 生協は3万人が暮らす3キャンパスで、各種の福利厚生事業が有効に機能していますね。特に食堂はフル回転で学生生活を支え、ICカードを利用した学食定期券としてのミールプランでは、栄養バランスのとれた食生活で、保護者の皆さんからも好評と聞いています。
 さらに学生が笑顔で学生生活を過ごせるように、大学と生協が連携することは重要なことだと考えています。昨年8月に締結した包括的な相互協力協定はその根幹を成すものであり、今後更に一層充実・発展させていく必要があります。
 大阪大学生協は、1962年に中之島地区に購買・書籍店舗が最初にオープンして以来、学内における福利厚生の充実と、経済的な貢献に重点が置かれ、これまで歩んでこられました。しかし、経済的にも豊かな時代になった今日、多様なニーズに対応していくことが必要な新たなステージに入っているのかもしれません。キャリア支援事業などは、その代表的なものでしょうか。
 今後も、学生の在学中の活動、例えば入学、教学、課外活動、資格取得、就職、卒業などさまざまな場面で、大学生協だからこそできる満足度の高い福利厚生サービスの提供を引き続きお願いしたいと考えています。どうぞよろしくお願いします。

江口 ありがとうございました。

(編集部)

モニュメントと本部棟
モニュメントと本部棟

犬飼池より阪大病院を臨む
犬飼池より阪大病院を臨む

工学生協通りからのセンテラス
工学生協通りからのセンテラス