和歌山大学 瀧 寛和 学長

和歌山大学

瀧 寛和 学長

具体的な教育の変革を通して、
自分の頭で考えてイノベーションを起こせる学生を社会に送り出す

日本の大学の状況

阿部 最近の日本の大学における全般的な状況について、どのようにご認識でしょうか。

 社会構造が大きく変化しています。一つは少子高齢化による子ども数の減少です。18歳人口もどんどん減ってきており、個々の大学で事情も違いますが、定員割れ私学も相当数あります。今後も少子化の影響が続きますので、ほとんどの大学がかなり影響を受けます。国立大学も受験生が減り、従来受験していた層とは違う層が入ってきます。

 もう一つは、社会における大学の役割の変化です。バブル崩壊後、右肩上がりだった日本経済が衰退しても、日本はGDP世界第2位の経済大国でした。しかし、現在の日本経済は、中国に抜かれ今後ますます厳しくなっていくと思われます。国も、従来の「大学は社会と一定の距離間を保つ独立運営」から、今は大学の力を借りてでも国の力を維持したい、と変わってきています。

 大学も昔は、学問の自由を中心に教育を行う存在でしたが、大学だけで大学の未来を考えていると社会から取り残されるかもしれません。社会の要請も見ながら大学をどう変えていくか、そういう時代になっていると思っています。

 特に国立大学は、イノベーションの源泉となることが期待されますので、すべての国立大学が規模や役割に応じて、地域のイノベーションを牽引することで、存在価値を示す必要があります。地域サービスだけでは駄目で、国立大学として地域イノベーションの牽引力が必要だと国も見ています。本学も、絶えざるイノベーションにより地域が発展し、さらにまた新しいものが出て循環する、地域イノベーションを続けるエコシステム、そういうものにしていかなくてはいけないと考えています。

地域イノベーションの中核

 和歌山大学も地域イノベーション・エコシステムの中核になる必要があります。和歌山県は「人口減少の先進地域」です。ここに新しい産業や新しい力の仕組みなどを導入して、地域と大学の両方とも衰退しないようにすることが大事です。

 私が学長になって、従来は少なかった産業界の方とお話する機会が増えました。大学の地域とのチャンネル数を増やして、いろいろな方々と話をするには、市民向け、自治体向け、工業向け・食品向け・農業向けと、いろいろなチャンネルを持った人を配置すること、そういうことが大事だと認識しています。

時代の変化と学生の学び

阿部 人工知能やビッグデータの活用が進み、就職活動も大きく変化していく時代に、学生はどうすれば良いのでしょうか?

 産業構造の変化に伴い、製造拠点も日本から中国など海外の工場に移り、国内では就職先がサービス業などに移ってきました。また金融業の窓口業務もスマートスピーカーなどのAIシステムに変わり、小売業もamazonに圧倒されています。人生100年時代では、さらに新しい職業もたくさん出てくるので、例え既存の仕事が無くなっても違うことをやれば良い、と思えるように学生が自ら将来を見据えて学ぶことが必要です。

 但し受け身の学びでは、学んだことが使えなくなると何もできなくなってしまいますので、自ら学ぶ姿勢が重要です。一方それを支援する大学も、人生で2回、3回と学べる仕組みをつくる必要があります。

 また社会に出る最初の一歩で躓くとその後が続かなくなることも多いので、その一歩を踏み出せるようにする大学の責任も非常に大きいです。本学では、来年度はデータサイエンス教育を、再来年度は人工知能教育を全学教育としてスタートする予定です。社会が変わることを大学は止められませんが、新しい技術や知識を理解していれば社会に出ても怖くありませんので、そこは自分の目で見て積極的に学んでいくことが大切です。

 平成13年3月の大学設置基準の一部改正により、卒業に必要な124単位のうち60単位まではインターネットの利用も含むメディア教育も可となり、大学で64単位を学び、残りの60単位は家等学外でeラーニングで学んでもよいこととなりました。これはとても画期的なことで、激的な規制緩和です。大学院にいたっては、全ての授業がメディア教育でも可となりました。

 本学では平成29年度よりBYOD(PC必携化)を実施していますが、推進にご協力いただいた和歌山大学生協には大変感謝しています。学生は、PCを活用して勉強しなければならなくなりましたので、学びの形が相当変わるでしょう。これは大学にとって大変大きな変革だと思っております。

企業と学生の学びの変化

阿部 本学の学生の特徴は、メンタル面も含めていかがでしょうか。

 一言でいうと真面目です。真面目に物事を考えるので、いろいろなことを深刻に考える人も多いように思います。また、「至れり尽くせり」の教育環境で育った人も多いかもしれませんが、社会構造も変わってきており、逆に自由奔放に育ち、家族との絆も弱く、社会との接点をうまくつくれない学生もいます。

 大学の使命は、入学した学生が社会で活躍できるように教育して送り出すことです。社会に出て活躍の場がない人が増えると非常に困ります。一方、社会の様々な人材(ダイバーシティ)の活用環境も整備する必要があります。

 企業は、昔は学生を未完成品として受け入れて、活躍できるようにするのは自分たちの責任だと、新入社員を教育していましたが、今は、即戦力を求める企業が多いです。新入社員を即戦力にしたいと言います。大学の教育もできるだけ即戦力になるように変わってきているのですが、そういう変化が非常に難しい点です。

阿部 大学に対して企業がいろいろと求めている中で、どういうこと、どういう力が教育として大事なのかを少し教えていただけますか。

 企業が採用した学生に求めることはいろいろありますが、若い人にしてもらう仕事の内容が定まっているときは、企業は即戦力を求めます。そうでないときは、アイデアを出してほしいのです。企業は割と同じ方向を見て走っていて、新しいことをする力が実は企業も強くありません。若い人に新しいアイデアを出してほしいのです。小さい企業でも大手でも、アイデアを出してくれれば、それをやらせようという会社も結構たくさんあります。

 それがだめなら自分で起業するのもいいと思います。社会を見て、自分で考えることが必要です。海外の大企業も、大学生のときにしていたことから大企業に成長しています。Facebook、Apple、ヒューレットパッカードも皆そうです。

 新しい発想が出てきて、それを評価するのはなかなか難しいですが、新しい発想を生み出すための仕組みを学んでもらうことが、学生には大事だと思っております。

 その育成につながるのがアクティブラーニングで、自分で問題を設定して自分で解いていく。その問題設定や解き方、出てくる答えが正しいかどうかも分かりませんが、それを進める力が我々教員に求められているのかもしれません。

阿部 大学教育は旧態依然として、教員がフンボルト的に自分の学んだことを下に教え込んでいくものでしたが、やはり学生を中心に学生を主役として我々が力を引きだしていく、ファシリテイトする能力も大学の教員にとっては必要なのですね。

 そうです。そしてまた、そういう教育を受けた人は、次の人をそのように教育できます。そういうものが取り入れられて続いていくことが大事なのだと思います。

学生支援

阿部 次に具体的な学生支援について教えてください。

 学生支援では、心の問題が一番で、次は経済的な問題です。

 メンタル面で困っている学生にとっては、キャンパスライフサポートルーム(障がい学生支援室)、保健センターなどいろいろ相談できる場所があり、良い点です。

 一番の特徴は「アミーゴの部屋」です。そこは授業に出られない学生が来る小中学校の保健室のような居場所です。「アミーゴの部屋」のいいところは、引きこもりから復帰した学生が悩んでいる学生を支援することです。経験のない人では理解できないかもしれないけれども、復帰した自分がその経験を生かして助けるという仕組みです。

 また、経済面の問題については、いろいろな奨学金でサポートしています、さらに、一般的な奨学金以外に家計急変の人のサポートも行っています。

食べることが大切

阿部 学生生活の現状として、和歌山大学は地方国立大学ですので、一つの特徴として、金銭的に厳しい学生が多い。そういう学生へ意識しておられることは何でしょうか。

 経済的に厳しい人は、まず食費を削る人が多い。日本の教育で食育があまり進んでいない中、バランスよくいろいろなものを食べる習慣がない人もたくさんいて、病気になったりやる気が出なかったりします。

 今一番関心があるのは、生協食堂のレシートの食品成分の赤・緑・黄の点数やカロリー摂取量表示で、これを学生さんが見る習慣がついて欲しいと思います。そのビッグデータを元に、学生がどういうバランスで摂取しているかを生協から逆に発信して、例えば「最近の傾向としてこういう人が2割ぐらいいますよ」、「バランスが崩れている人が結構多いですよ」、「こうバランスが崩れているとこんな病気になりやすいですよ」など、そういうフィードバックができると良いと思います。

 このような情報提供が生協の新しいサービスやビジネスになるかもしれません。こういうアイデアが大事ですね。

 学生生活はやはり「食べること」がすごく重要で、生協が学生に比較的安い金額でいろいろなものを提供されていることは、ものすごく大事なことだと思っております。

生協への要望

阿部 生協へ何かご要望、課題がありましたら、教えてください。

 大学のさまざまな物品等の調達ですが、同じ物が複数まとまると安くなることがありますので、複数の大学が同じ物を欲しいときは、生協でまとめて仕入れをすると安くなることが期待できます。200もの大学分を同時に買うと、かなり安くなるでしょう。

阿部 自転車や原付バイクで通学する学生に関して、協力できることがあれば教えてください。

 学生が卒業時に、自転車を学内のいろいろなところへ放置してしまい困っています。それを大学で処分することが大変なので、例えば1年生の入学時に、4年間レンタルし、卒業時返却するといくらか戻ってくる、保険もメンテナンスもついている。今のBYODのパソコンサービスの自転車版があると良いと思います。卒業時に集めて、次の人にリユースする、使えないものは処分する、途中で無くしてしまったら、新品は無理だけど中古リサイクルで継続する。それが生協の事業として成り立つと良いですね。

阿部 本日はありがとうございました。

(編集部)