学長・総長インタビュー

大阪樟蔭女子大学

北尾 悟 学長

「美」のおもいをつなぐ過去・現在・未来

大阪樟蔭女子大学だからこそ掲げられる、「よすが」でなければなりません。

高橋 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まずは、近年の日本の大学が置かれている状況について、北尾先生のご認識をお聞かせいただけますでしょうか。

北尾 ここ数年、大学を取り巻く環境が急激に変化してきたことを感じています。以前から話題となっていた少子高齢化や、AI技術、ICT等の進展によって、大学の将来像もどんどん変わってきていました。そこへ新型コロナウイルスの感染拡大という、極めて深刻な災禍が襲ってきたわけですから、時代や社会が大学に新たな変革を求めてこられるのもやむを得ないところでしょう。

高橋 学長に就任されて、今年が5年目でいらっしゃいます。その間、2017年に樟蔭学園として創立100周年、2019年には新制大学として創立70周年の節目を迎えました。そういったことは、大学経営に対する先生のお考えや、将来的なビジョンの構築にどのような影響をもたらしましたか。

北尾 就任した当初は、この伝統ある大阪樟蔭女子大学をいかに他大学と差別化し、サステイナブルな存在として社会と共存させていくか、を常に考えていました。小規模な、しかも女子大学であることに、少なからず危機感を抱いていたわけです。しかし、このサイズ感や女子大学であることが、他大学との差別化を実現し、自らの特徴づけをいち早く浸透させてくれるストロングポイントでもあったのです。創立者の思いが込められた建学の精神の趣旨は、「『高い知性』と『豊かな情操』を兼ね備えた社会に貢献できる女性の育成を目指す」です。将来に向けてその主旨に基づいて私たちが目指すべきは、美の「知」、美の「人」を追究し、知性美・情操美・品性美の三つの「美」を兼ね備えた社会の要となり得る人材の育成を通して社会に貢献することだと考えを固めました。そこで2017年の樟蔭学園創立100周年を機に、「美を通して社会に貢献する~美 Beautiful」をスローガンとしたグランドデザインを発表しました。ここでいうところの「美」とは、単なる外見上のものではなく、教養があり、立ち居振る舞いに品がある、洗練された「美」を意図しています。

高橋 ただ、そもそも「美」というものの捉え方も人それぞれだと思います。このグランドデザインに対しては、さまざまな意見があったのではないかと推察されますが、そのあたりはいかがだったのでしょうか。

北尾 確かに最初はいろいろなご意見をいただきました。「美」という言葉の概念や捉え方は人それぞれで違いますし、それはもう厳しいお言葉をこれでもかというほどに言われたことも…(笑)。それでも私の思いが、ぶれることはありませんでした。根底にあったのは、他の大学がまねすることのできないものであること。大阪樟蔭女子大学だからこそ掲げることのできる「よすが」でなければならないということでした。例えば、国文学科や国際英語学科などの学びには、文字や言葉の表現に対する美しさがあるでしょう。心理学科には心の美しさが、ライフプランニング学科には暮らしのしつらえという美しさが、児童教育学科にはこども生徒に対するおもてなしの美しさが、そして健康栄養学科にはまさに健康美があります。そして一番「美」に関わりの深い化粧ファッション学科には装いの美があります。
すべての学部学科が、「美」という大阪樟蔭女子大学ならではの価値観に連なっていく。グランドデザインを通じて、しっかりとした礎を作り、社会的に誰からも認められるような大学にしていきたいと思っています。

高橋 「美 Beautiful」に込められた思いは、大学の学びの中にも大切にされていると思いますが、具体的にはどのような取り組みがなされているのでしょうか。

北尾 最も特徴的なのは、独自の教養教育として設置された樟蔭コア科目というカリキュラムですね。「建学の精神」や「歴史・伝統」を通して、一人ひとりの自己理解の深化を目指すため新入生全員必修の「樟蔭の窓」をはじめ、「女性のライフサイクル」「ジェンダーを考える」等のユニークな科目が準備されています。
また、副専攻においては、「美をめぐる諸領域」ならびに、SDGs(持続可能な開発目標)にまつわる科目群を用意しました。国連が定めたSDGsの一つである「質の高い教育をみんなに」は、大学として当然関わり続けなければならない重要な目標であり、社会で担うべき役割をコミットメントしていく必要があります。そういう意味で、SDGsの理念は、私たちのグランドデザインとも共鳴し合うものだと考えています。

教育に対する厚み、重みを踏まえて、新しい時代に展開していきます。

高橋 今はもう大阪府の大学進学率が女子では60%を超える時代(文部科学省学校基本調査)になりました。しかし、女性が教育を受けることに抵抗の大きかった時代から女子教育の機会を提供してきたスピリットは、これからも生き続けるということですね。

北尾 そうですね。本学が100年以上続いているのは、すごいことですよね。ただ、そこはなぜ存続しているのか、しっかりと分析した上で今後につなげていく。それが大切だと思っています。稼働しきれていない女性のエンパワーメントを高め、社会の一翼を担えるよう、これからの新しい時代へ展開していけるようにしたいものです。

高橋 一方、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、これまで当たり前であったことが随分変わってきました。こうした中で、学生の学修や生活などあらゆる面で、特に留意されていることがあればお聞かせください。

北尾 特にこういう状況なので、メンタル面で不調を来す学生が増えてきているのは事実です。高橋先生は臨床心理がご専門なので、先生を中心に3年ぐらい前から修学が困難な学生への対応の検討をお願いしてきました。保健室とか学生相談室など多くの部署とのタイアップで実にきめ細かいフォローをしていただいています。

高橋 北尾先生が発案された「体調管理表」で、学生のみならずわれわれ教職員も心身両面の管理に万全を期すよう求められていますね。

北尾 確かに煩わしいことかもしれませんが、こういうことをきちんと毎日やって積み上げていくことが大切なのです。事実、大阪樟蔭女子大学では、低いレベルで感染を抑えることに成功しています。大学における健康経営の一環といってもいいかもしれませんね。

大学生協の学生委員の皆さんは、本当に高い意識と強い使命感を持っています。

高橋 学生の心身の健康を支えるという意味では、大学生協もお手伝いをさせていただいていると自負しております。特に、このコロナ禍にあっては学生委員の皆さんの協力が欠かせないものとなっています。

北尾 そういえば、2月、3月もオンラインで大学生協の学生委員の皆さんが、入学予定の高校生たちにメッセージを発信してくれたとのことで本当に感謝しています。

高橋 ありがとうございます。生協の学生たちは、やはり少しでも新入生の不安を減らしたいと、早くから新入生対象の説明会を開いています。そのほかにも、くすのき祭実行委員会がwebでの学園祭を試みたり、大学のブランディング事業の学生分科会では大学の袴コンテストをリニューアル開催したり、大学のさまざまな学生の組織が新たな試みに積極的なチャレンジを続けています。

北尾 大学生協の活動を支えている学生の皆さんは、本当に意識が高く、強い使命感を持っていると思います。そんな彼女らの真摯な姿を見ていると、われわれもできる限りのサポートをしたいと思うわけです。大切なのは、大学生協と学生、大学との連携であり、人と人とのつながりです。現在のコロナ禍においては物理的に無理であっても、実はいろいろな形で人と人はつながっていることを意識してほしいし、それを本当の意味で具現化しているのは、まさに学生委員の皆さんの活動なのではないかと思っています。

高橋 大学生協学生委員会のメンバーは、何かしら問題意識を持っています。そして、それを広く発信したいという熱い思いもあり、樟蔭の伝統を体現していると感じます。

北尾 大学は異なるバックボーンとさまざまな個性を持った人たちが集まり、互いの存在を認め合って成り立っているダイバーシティ & インクルージョンが最も尊重されるべき学びの場です。もちろん、いろいろな人がいて当たり前なわけですけれど、大学生協の学生委員の皆さんがもっているマインドやモチベーションをもう少し高め広げていきたいですね。私自身も長くお世話になってきた大学生協さんですけれども、これからもよろしくお願いします。

高橋 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
本日は、ありがとうございました。


生協 中野店長と生協 学生委員会とで撮影

撮影場所:大阪樟蔭女子大学「しょういん子育て絵本館」