学長・総長インタビュー

弘前大学

福田 眞作 学長

弘大スタイル。学生にも、弘前市民にも、愛され続ける大学であるために。

学長の重責を任された時から、患者ファースト→学生ファースト。

山田 今回のテーマは「弘大スタイル」ということですが、弘前大学が他の大学とは異なる、何か特別なことをしているわけではないですよね?ただ、私が福田学長について、勝手に抱いているイメージは「学生ファースト」という姿勢です。

福田 これまでは消化器内科の教授として、大学病院の病院長として、何よりも「患者ファースト」を大切にしてきました。ただ、学長になったのだから、これからはやはり「学生ファースト」だと思って今日まで取り組んできました。今回のようなコロナ禍にあっては、学生の学びを守り、あるいは生活を守ることが大事なんだと、より強く思いましたね。
「日本一学生に優しい大学」という言葉が、今や私のスローガンのようになっていますけれども、もともとは大学広報誌で取材を受けたときに、やっぱり学生に対してどこよりも寄り添う大学でありたいと思ったので、そう口にしたら「それいいですね」ってライターの方がおっしゃって。

山田 そうだったんですか。確かに、学生が大学の中では主役、一番大切な存在だと私も思います。ただ、学生がより成熟するためには、ある面では厳しく、生きる力を身に付ける教育をすることも重要だと考えています。

福田 高校までは時間割があって、彼らは決められたことをただこなしていればよかった。大学では4年間をどう過ごすか、ほとんどの時間を学生自身で決めることができます。だからこそ、あまり考えていない学生は、ただ漫然と学生生活を過ごす可能性が高いわけです。いくら自由だからと言って「、どうぞ、どうぞ」と野放しにはしておけない。ある程度の道筋や方向性を示してあげるのが、私たち教員の仕事ではないかと思うんですよね。私としては、その中でいかに学生の能力や興味を引き出してあげられるか、に喜びを感じたいと思っています。

山田 大学時代というのは、確かに成長いちじるしいときではありますが、いろいろ悩んだりする時期でもあります。おそらく大半の人にとってみれば、最後の学生生活になるわけですが、社会に出るに当たっては、自分が何をしたいのか、なかなか答えが見つからないという学生も少なくないと思うのですが…

福田 将来の夢を明確に持って入学している学生もいると思うんですね。例えば医学部や教育学部であれば、医師や教員と目指す職業は明確です。それ以外の学生は、実はその先が意外と見えていない。大切なのは、いろいろなことに挑戦することだと思うんですよね。自分に合った学びや興味、職業を見つけるにはいろいろな出会いと交流が重要になってくると思っています。

コロナ禍の時期だからこそ、弘大スタイルの真価が発揮できる。

山田 新型コロナの感染拡大がいまだ予断を許さない状況ではありますが、コロナ禍によって大学自体も、世の中同様、多くの制約を受けています。こうした中で、先生がまず取り組んでいきたいと考えていらっしゃるのは、どういったことですか?

福田 どこの大学も同じだったと思いますが、オンライン授業になったときに、コミュニケーションをどのように成立させるか、あるいはアルバイトができなかったときに生活支援をどのように実行するかということを考えていました。どういうアプローチで支援していくかの違いだけ。弘大では「ご飯さえ食べられれば、まずは何とかなる」という提案に生協さんからご協力をいただいて、「100円夕食」や「100円昼食弁当」を実現することができました。1年半を経過して計11万食以上の食事の提供を通じて、とりあえずは健康面でのサポートは実現できていると思います。

山田 弘大はなるべく対面で授業をしようという姿勢をとっていて、これはすごくいいことだと個人的には感じています。先ほど先生もおっしゃいましたけれども、多くの人と出会うことによって自分の人間性を見つけていく、育んでいくというところがあると思うんです。だから、それがなかなかできないというのは、本当にかわいそうですよね。

福田 オンライン授業がもっと成熟すれば、オンライン上でかなり高度なコミュニケーションができるかもしれません。しかし、現状ではまだそこまで来ていないですね。なので、可能な限り対面授業に戻していくべきだと思っています。この2年間を人との自由な交流を断たれた状況で過ごした学生たちが、メンタルヘルスに障害を抱いているのではないかということは、当然気になっています。メンタル的にダメージを負った学生たちが、もっと気軽に相談できる。そんな窓口や雰囲気をつくるため、保健管理センターに学生たちのメンタルサポートを担ってもらっています。

経済困窮による学習弱者という、悩みを解決する新たな試み。

山田 学習弱者という言葉で表現できるものには、実は2方向あるんじゃないかと思います。メンタルヘルス面において弱者となっている学生と、経済的困窮によって弱者となっている学生です。弘大としての彼らへの対応をお聞かせください。

福田 国立大学ということもあるかと思いますが、非常に経済的に困窮している学生が多いです。例えば、本学学生が7,000人いるとすると、そのうちの2,500人が奨学金を、さらにそのうちの約900人がいわゆる給付型の奨学金を受けています。本当に家計の収入が厳しい家庭から来ている学生が多いんです。
弘大では、こうした学生をさらに支援するために、新たに基金をつくり、学生が自由に必要な資金を借りることのできる制度を構築し「困っているときはどんどん借りていいんだよ」と呼びかけています。

山田 そこで最初の学生ファーストという姿勢に戻るわけですけれども、そのときにやはり学生一人一人が「せっかく大学に来たのだから、しっかり学ぼう」「ここで人間的に成長するんだ」という思いを持ってほしいですね。

福田 お金が払えなくて大学を辞めるというのはあまりにも悲しいことです。なので、それだけはないようにしたいと思っています。国の奨学金制度や弘大基金の利用により、経済的な困窮を理由に退学した学生は、ほぼいませんでした。文科省の発表ではコロナ禍により前年比1.4倍もの学生が中退したと伝えられています。そういう意味で弘大では、ある程度の支援ができていたのかなと思っています。

山田 まさに「弘大スタイル=学生ファースト」であり、学生のことを常に第一に考え、彼らの成長を物心ともに支援するということですね。

福田 そのために何をやるかということであり、できることは何でもやるということに他ならないというわけです。

弘前市民に愛される大学へ。恩返しではなく、「恩送り」。

山田 私も弘大で丸34年という歳月を過ごしてきたわけですが、弘前という街は基本的に学生に優しい町ですよね。で、この弘前という町の中でも弘前大学は、おそらく一番大きい組織なんじゃないかと思うんです。だからこそ、学生ファーストな大学というだけでなく、地域に貢献できる大学でもあるべきではないかと思います。

福田 なぜ、本学が青森市ではなく弘前にあるかというと、もともと青森市にあった青森医学専門学校が、終戦末期に空襲を受けて焼失してしまったことから空襲を受けなかった弘前市に移転して新たな大学を、ということで誕生したのが弘前大学です。そのときの市長や弘前市民の方が積極的に支援・応援をしてくださって、弘大が今ここにあるわけです。弘前市も、弘前市民の方々も、そういうことを知っているから弘大を大事にしてくれるし、学生に対しても本当に優しいんです。それも弘大の魅力の一つだと思うんですよね。

山田 学生も立派に育て、そして弘前の町も豊かにしていく。もっとそういう大学になっていきたいものですね。

福田 そうですね。弘前市は自然が豊かで、四季それぞれに特徴的な風景や行事があります。
春はサクラが咲いて、夏はねぷた祭りがあって、秋はリンゴがたわわに実って、冬は寒いですけれどもスキーなどいろいろと楽しめます。音楽や絵画などの芸術に触れることと同じように、豊かな自然や文化が身近にあることは人間形成にすごく大事だと思うんですよね。

山田 弘大スタイルとは、弘大らしさをいかに表すかということだと思っていますが、それはあらゆるステークホルダーに対しても同じであるべきだとも思うんです。先生としては、そのあたりはいかがですか?

福田 善意の寄附金に添えられたメッセージの中に、受けた恩をいつか他の誰かに、そして次の世代へと順々につないで欲しいという「恩送り」という言葉があり、とても気にいっています。次の世代へ夢を託すという思いを、すべてのステークホルダーと共有できたらと思っています。

山田 本日はありがとうございました。

撮影:弘前大学附属図書館