学長・総長インタビュー

一般社団法人公立大学協会

相原 道子 会長(横浜市立大学 学長)

公立大学を取り巻く、多様な課題の解決へ。
公立大学協会がけん引する、新しい時代の公立大学

「地域性」と「多様性」が特徴の公立大学。同じ公立大学でも特徴は千差万別。

武川:公立大学協会に所属する公立大学とは、どのような特徴を持っているのでしょうか。

相原:公立大学の特徴を一言で表現するなら「地域性」と「多様性」ということになると思います。国立大学や私立大学との最も大きな違いは、公立大学にはそれを設置する自治体の存在があるということでしょうか。しかも、その自治体との結びつきが極めて強いのです。地域経済の活性化、地場産業の育成、行政課題の解決など、地域はそれぞれにさまざまな課題を抱えています。その課題を解決する、すなわち地域に必要な人材の育成と課題解決につながる研究をすすめていくことこそが公立大学の使命なのですから、おのずと設置した自治体とのきずなも欠かせないものになるというわけです。
もう一つの大きな特徴は、公立大学と一口に言っても、大学ごとに多様な個性を持っている点です。国立大学のようにある程度決まった目標が設定されている大学とは異なり、地域の要望に合わせて、さまざまなストロングポイントを発揮することが求められています。たとえば、看護・福祉系の人材育成を目標としてつくった上にいろいろな関係学部を加えてきた大学もあれば、つくられてから一貫して単科大学として存在している大学もあります。また、大阪公立大学のように大規模な総合大学から、横浜市立大学のような中規模の総合大学、もっとコンパクトな単科大学までその規模とタイプは多種多様です。さらに、地方と都市部とでは抱える問題も、目指すところもおのずと違ってくるのですから、同じ公立大学でも随分と印象が違うかもしれませんね。

武川:確かに、地方と都市部では、まったく同じ公立大学とは思えませんし、実に多様な公立大学があるのですね。

相原:また、首都圏や大阪、名古屋などの大都市にある公立大学は、人材の育成とともに研究に力を入れていることが挙げられると思います。国立大学との比較の中で、とかく弱く見られがちな研究基盤の強化や、特色ある研究の推進、魅力ある研究の発信などを積極的に推進しています。地域への貢献はもちろん、日本全国から、さらには世界という視点で研究を発展させていくといったところにも大いに期待を寄せていただければと思っています。

自らの存在意義を問い直す。今、公立大学を取り巻く課題は山積。

武川:各公立大学ともコロナ禍を経て現在にいたっているわけですが、公立大学が抱える課題があるとすれば、どのようなものですか。

相原:公立大学協会で収集・分析したデータによれば、公立大学に通う学生は、国立大学や私立大学に通う学生よりも収入の少ない家庭が多い傾向にあり、公立大学協会としてはそういった点も考慮しながら運営していく必要があります。大学を支える運営費交付金は、国・総務省から地方交付税として地方自治体に配分されたのちに地方自治体によって決められた額が各公立大学に交付されます。交付額は設置自治体の財政状況に影響されることから安定せず、運営に困難を抱える大学が少なくないのが実情です。

武川:最近、ニュース等でも話題になっていますが、地方の私立大学が公立大学化しているというケースがあります。こうした傾向は、今後、増えていくのでしょうか。

相原:正直、そこは何とも言い難いところがあります。私立大学を運営していたけれども、「赤字が続いてしまったので、どうぞ引き取ってください」と言われても、自治体からすれば「はい、わかりました」というわけにはいきません。大きな赤字を持つ大学を地方自治体が引き受けていくことになるわけですから、公立化するのであれば、大学としてだけでなく、地域および学生にとっても、公立化した時に享受できる何らかのメリットがなくてはなりません。ただ残念なことに享受できるメリットが何なのかを明確化できないまま話が進んでいるケースがあるように思いますね。

武川:今お話しいただいた私立大学の公立化もそうですし、設置自治体とのかかわりについてもそうでしたが、公立大学としての存在意義をどう見出すかが重要ということですね。

相原:医療・看護系の大学のように設置目的が明確な場合はよいのですが、総合大学、特に、同じ地域に国立大学がある公立総合大学の場合はその地域における存在意義の明確化は重要です。これまでもそうでしたが、これからはより一層、大学としての使命は何かを考え、先鋭化していくことが必要だと思っています。もちろん、大学として基本的に押さえておくべき共通部分はしっかりカバーしながら、特にここはという、得意な分野には最大限の力を注ぐ。さらに大事なことは、地域の国立大学や私立大学と競合するのではなく、「共に働く」、共働するという意識だと思います。これから18歳人口はますます減っていきます。大学の統合や淘汰等、いろんな表現が社会で使われていますけれども、やはりそこで互いに協力し、また切磋琢磨しながら、18歳人口が減ることを嘆くのではなく、社会人も含め優秀な人材を育てていくこと、そのためにいかに教育の質を上げていくことができるかが、私たちに課せられた重要な課題だと思っています。

全国の公立大学の声を受け止め、公立大学協会として、何ができるか。

武川:さまざまな課題を抱える公立大学ですが、そんな各大学に対して、公立大学協会はどのような役割を担っているのでしょうか。

相原:個々の大学が抱えている課題は立地や規模等によって異なるものはあるものの、共通の課題も多くあります。そこで課題を共有し、同じ課題を持っているのであれば、協力しながら解決への道筋を示していくことが、私たち公立大学協会の一番大きな役割と考えています。
たとえば、入学試験がそのよい例かもしれません。大学入試のカタチは近年、多様化の傾向にありますが、公立大学としては、今後どのように実施していくべきなのか。それは、多くの公立大学共通の悩みでもあります。こうした問題を話し合い、改善案を提起する検討部会も設置され、活発な議論が交わされています。
また、公立大学としては、同じ地域にある国立大学との連携が教育・研究面における新たな可能性を広げてくれるのではないかという期待があります。全国に目を向けてみると、山梨県立大学が山梨大学と「大学コンソーシアムやまなし」を形成し、相互の連携による多様な交流機会の提供、教育・研究の相互補完・向上と成果の還元、全国への情報発信に取り組んでいます。山口大学と山口県立大学、山口学芸大学の国・公・私が連携する全国初の「やまぐち共創大学コンソーシアム」が文部科学大臣から「大学等連携推進法人」に認定されました。また、医学部のない横浜国立大学と、工学部のない横浜市立大学の間でも、互いに足りないところを補って、教育・研究上の協力関係を構築しています。こうした取り組みに対する情報共有、情報発信も私たち公立大学協会の大きな役割と認識しています。

武川:先ほど、公立大学の財政面での課題について触れられましたが、その辺りは公立大学協会としてどのように向き合っているのでしょうか。

相原:公立大学協会としては、運営費交付金に頼るだけでなく各大学が独自の努力で財政基盤を強固にできるよう、国に対して働きかけをしています。たとえば、公立大学も寄付金により基金を創設することは可能ですが、その運用は厳しく制限されています。そこで、国立大学同様、資産運用型基金により収益獲得ができるよう、国に対して法改正を望む働きかけを積極的に行っているところです。

武川:多様な課題に対応する公立大学の活動を支えていくのも容易ではありませんね。

相原:公立大学の活動を支えているのは各大学の職員ですが、公立大学には設置自治体から派遣されてくる職員が多くいます。大学での勤務は初めての人たちがほとんどで、その人たちのための職員教育については、本当に力を入れて取り組んでいます。オンデマンドの職位別大学職員向け講座の開設や各公立大学が自分たちだけでは収集が難しい大学教育や研究に関する情報、政府や関係省庁の情報を公立大学協会のHPなどで入手可能にすることで、職員の活動レベルを上げられるよう努めています。

武川:公立大学協会として、これからどのようなことに注力していきたいとお考えですか。

相原:公立大学協会としての役割や取り組みについていろいろとお話をしましたけれど、大学に対する国の政策から公立大学が外されることのないよう、また、公立大学独自の課題解決に向けてこれまで以上に覚悟を持って働きかけを強めていきたいと思います。

もっと強固なものにできる、公立大学と大学生協との結びつき。

武川:先生が学長を務めておられる横浜市立大学は中規模総合大学ということで、大学生協と学生の距離も近く、さまざまなサポートがしやすい大学の一つということが言えます。

相原:そうですね。私自身も学生時代は、毎日のように大学生協さんのお世話になっていました。

武川:そんな学生との距離の近さが大学生活を支えるさまざまなサービスの改善に役立てられています。たとえば、大学生協では独自に「横市パソコン」という企画を実施。これは横浜市立大学の先輩たちの約1200名が使っていて、アンケートでも最も多く選ばれた安心のパソコンのことで、新入生がパソコンを購入する際のヒントにもなっています。学生たちの声を真摯に聞き、それを生かした好事例だと思っています。
このように横浜市立大学はもちろん、全国の公立大学でも大学生協はさまざまなお手伝いをさせていただいていますが、最後に相原先生がこれからの大学生協に期待されることがあれば教えてください。

相原:大学生協さんで持っているさまざまな情報をもっと共有し、生かすことができないかと思っています。全国にある大学生協さんの大学別のデータを統合し、それぞれの生協の活動は他大学と比べて十分なのか、また生協と大学の協力において何ができていて何が足りないのか、それらを比較・分析できるような仕組みがあればと思います。そういう仕組みが大学生協さんにあると、それぞれの大学生協の取り組みのいいところが互いに取り入れられるかなと思いますね。もちろん、それにはデータベースをつくらなくてはならないですから、導入当初は大変な苦労があると思いますけど、そんなシステムができれば成功でも失敗でも他大学の事例が参考になるだけではなくて、他大学とのコネクションを構築するきっかけにもなります。大学生協さんとの大学の結びつきをより強化することにもつながるはずです。

武川:大変貴重なご意見を承りました。本日はありがとうございました。