学長・総長インタビュー

法政大学

廣瀬 克哉 総長

「HOSEI 2030」の中で、大学生協にできること。
学生が知と出会う、ストーリー性のあるビジネスモデル。

コロナ禍を経て得たもの、失ったもの、そして、そこからのレジリエンス。

小沢:学生にとっても、大学にとっても、社会にとっても、コロナ禍は、やはり深刻な影響を与えてきました。今、そこからようやく脱却しつつあるわけですが、コロナ禍によって法政大学はどのように変わったとお考えですか?

廣瀬:実は、コロナ禍が始まる直前の私の出張は、沖縄にある名桜大学と連携協定を結んだことを記念するシンポジウムへの参加でした。両大学の役員が名桜大学に集った上で専用の電子会議システムを活用して、名桜大、法政大の2大学を中継で結んで遠隔のシンポジウムができるようにしたのですが、遠隔で人と人が相対するには、そういう特別なシステムが必要だと、当時は思い込んでいたんですね。ところがコロナ禍で、その認識は一変しました。このインタビューを受けている本日の夕方にも、連携協定を結んでいる陸前高田市に対して、学生たちが「SDGsに資する政策提案」をオンラインで実施する予定です。学生たちはいったん先方を訪問してフィールドワークを行った後、定期的にオンラインで地元の方と打ち合わせて準備を進めてきました。かつてはフィールドワークと言えば現地に赴いて、一定の限られた日数で、足を使ってするものと相場が決まっていました。物理的に会えないことを補うためだけのものだったオンラインでのやり取りが、コロナ禍前よりもっと充実したフィールドワークを可能にしたと実感しています。

小沢:大学生協の中には、学生委員会という学生組織があるのですが、彼らは毎年、学生や保護者に対して大学を理解してもらうための説明会を実施しています。コロナ禍になっても、彼らは当たり前のようにオンラインで説明会を実施していました。私などは何も知らなかったので、これには本当に驚きました。

廣瀬:一方で、対面による授業が本格的に戻ってきた時に、ある1人の学生から「今日はせっかくここに集まれているんだから、その集まれているということを生かさないともったいない」という言葉が出たんですね。私はこの言葉が本当に印象に残っていて。コロナ禍前の2019年までは教室に授業のために集まっているのは当たり前で、集まれているという機会を生かすという発想はなかったと思います。
ゼミとか少人数の授業ならともかく、講義型の対面の授業の場合、聞く側はただ座っているという傾向が強かった。それがオンラインによる授業が大半を占める時期を経て、せっかくここにいるのだからオンラインではなかなかできないことをやらないともったいないという発想が出てきたことは非常に大きな変化だったと思っています。

創立150周年を控えて、長期ビジョン「HOSEI 2030」が描く未来。

小沢:コロナ禍による変化を経て、社会も、法政大学もさらに変わっていかなくてはならない時代に来ています。こうした中、法政大学では長期ビジョン「HOSEI2030」を掲げていますが、これについて教えてください。

廣瀬:HOSEI2030は、コロナ禍前の2016年、本学が創立150周年を迎える2030年を展望して策定されたものです。「財政基盤確立」「教学改革とキャンパス再構築」「ダイバーシティ化推進」「長期ビジョン実現のためのガバナンス改革」「憲章・ミッション・ビジョン実現とブランディング推進」の5つの分野において、具体的な取り組みが進められています。コロナ禍という困難は確かにありましたが、それに動じることなく、常に社会や世界の動向に開かれた視野を持つことが肝要であると考えています。そして、目まぐるしい変化の中にあっても一貫性を保ちつつ、必要な場合には計画の見直しや修正にも柔軟かつ積極的に取り組んでいく所存です。

小沢:今後予定されている取り組みの中には、どのようなものがありますか?

廣瀬:HOSEI2030の中で取り組んでいるものの一つに、「キャンパス再構築」があります。
基本的に法政大学には、市ケ谷キャンパス、多摩キャンパス、小金井キャンパスと都内に3つのキャンパスがありますが、キャンパス再構築では各キャンパスにおいて必要な施設の整備を行うとともに、立地条件との適合性も含めて教育・研究の場としての魅力をそれぞれ最大限に高めることで、教育機関としての価値を向上させることを目指しています。中でも、経済学部・社会学部・現代福祉学部・スポーツ健康学部のある多摩キャンパスでは、学生、教職員をまじえたワークショップを開催し、将来目指すべきキャンパスの姿を話し合っています。

小沢:具体的なイメージのようなものは、すでにでき上がっているのですか?

廣瀬:方向性として明確に確認しているのは、学生が「無駄に集う場所をつくりたい」ということです。外国人留学生との交流を求めている人はグローバルラウンジとか、グループワークをしたい人はアクティブラーニングスペースとか、ある目的を持った人はここへ行けばいいという場所は今もあります。しかし、コロナ禍で失った「人と人が出会う」、その偶然がもたらすもの・ことの素晴らしさをキャンパスの中で施設面でも仕掛けていきたいと思っています。

大学と学生の両者にとって、ここに大学生協が存在することの意味とは。

小沢:創立150周年を迎えようとする法政大学ですが、大学生協もそのうちの70年をともに歩んできました。コロナ禍の中で、その存在意義について疑問を投げかけられることも少なくありませんでしたが、先生は大学生協をどのように捉えていますか?

廣瀬:基本的に消費者は、供給するものの都合などを考えたり、配慮したりする必要はないし、どういう仕組みでそれが供給されてくるのかを意識する必要もなく、よりよいものをより安く欲しいのだという論理で行動します。事業者はその中で勝ち残るために努力し、競争しているわけです。企業がイノベーションを起こしたり、画期的な商品を開発したりできるのは、その競争の中で消費者による選択にさらされているからだ。そういった認識を自明のことだと思い込んでいて良いのでしょうか?
大学生協の組合員になることは、大学生活を送っていく上で必要なこと、昼ご飯を食べるとか、学用品を買うとか、教科書を買うとか……その仕組みを自分たちでつくりながら、運営して、大学の中での消費生活の基盤を整えることでもあります。購買部や食堂、書籍部など、それこそ学生委員会の学生はその運営に一番深く関わっていて、買う側だけでなく、供給する側の舞台裏のことも実感していると思うんですね。さらに出資して組合員になるということは、大学生協のオーナーであるということでもあるから、これは民間企業で言えば、株主みたいなものですよね。

小沢:そうですね。まさに、オーナーシップの一端を引き受けるということでもあると思います。

廣瀬:20××年問題ということが、流通をはじめ、医療・介護、建設、飲食などあらゆる業界で言われています。高齢化や人手不足に端を発したあらゆる問題は、大学としても無関心ではいられません。当たり前のように大きなスペースを食堂として利用していた時代は過去のものとなり、学生への食提供のあり方も今とは全く違うものになっていることだってあり得るのです。それを一緒につくっていく重要なパートナーが、やはり大学にとってはその大学で組織を成している大学生協だと私は思っています。学生にとっても、大学生協の存在が大きな学びになると確信しています。

多くの学生とともに70年、これからの法政大学生協に求められること。

小沢:私たち法政大学生協としても、ぜひともいいパートナーとしてお手伝いをさせていただければと思っています。

廣瀬:大学生協で普通に消費をしているだけですぐに教育効果があるものではないかもしれませんが、学生委員による広報活動などによって、大学生協に関する情報に積極的に触れることで事業体としての大学生協を知ることにもなります。活動を通して、消費者教育だけでなく、オーナー教育にもなるのが大学生協ではないかと。

小沢:大学生協の事業に関して、何かご意見があればお聞かせください。

廣瀬:振り返ってみれば、私自身も教員になった当初は、購入する書籍のかなりの割合を大学生協の書籍部で購入していました。それが、今、ふと気がつくとネットで購入する割合が圧倒的に多くなっている。確かに棚がある書店は出会いがあるとよく言われます。それは一面の真実だと。ある大学の図書館では、本来の図書館と別に本の展示ラウンジのようなものがあって、目利きがそろえた面白そうな感じに並んでいる本のラインナップがあって、そういうところで本と学生が出会うように巧みな仕掛けが施されている。大学生協さんとは、もしかしたらそういうところでコラボレーションができるのではないでしょうか。「大学の中での知的な出会いと、それが生協での消費とつながっていく」というストーリー性のある大学生協の購買利用を促すビジネスモデルをともに構築できればと思っています。

小沢:大学生協も新しいもの・ことに積極的にチャレンジしていきたいと考えています。ただ、大きな組織ではないので、無理することなく、少しずつ着実に、お手伝いができたらと。本日はありがとうございました。