ICAによる協同組合の定義とアイデンティティ
国際協同組合同盟(ICA)は、100カ国以上の協同組合と約10億人の組合員が参加する国際組織です。1995年のICA100周年大会では「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」が採択され、協同組合の定義・価値・原則が明示されました。
協同組合の定義
「人びとの自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人びとが、共同で所有し民主的に管理する事業体をつうじて、共通の経済的、社会的、文化的ニーズと願いをかなえることを目的とする。」
協同組合の特質
協同組合は「人びとの自治的な組織」とされ、政府や私企業から独立し、組合員が共同で所有し民主的に管理します。組合員は出資額に関わらず一人一票の議決権を持ち、協同組合は「資本」中心の株式会社とは異なる「人」が基本となる組織です。
協同組合の目的
協同組合は、事業を通じて組合員の共通の経済的、社会的、文化的ニーズを満たすことを目指します。利益分配を目的とする株式会社や、社会全体への貢献を掲げるNPO法人とは異なり、組合員のニーズに応えることを最優先します。そのため、協同組合は市場での活動を効率的に行い、組合員への貢献を求められます。
協同組合の原則
- 自発的で開かれた組合員制:参加は自発的で、希望する人は誰でも加入可能。
- 組合員による民主的管理:出資額に関わらず一人一票の議決権を持つ。
- 組合員の経済的参加:資金は組合員が公平に出資し、剰余金は組合員への還元や地域貢献に使う。
- 自治と自立:外部の干渉を受けず、自らの運営を決定する。
- 教育、研修および広報:協同の必要性を理解し、組合員の教育が重要。
- 協同組合間の協同:地域・国際的に協力し合い、ニーズに応える。
- 地域社会への関与:地域の持続可能な発展に貢献し、環境保全や災害復旧活動が重要視されています。
第1原則 「自発的で開かれた組合員制」
協同組合が「組合員制」を取り、参加が「自発的」であること、そして希望する人なら誰でも加入できる「開かれた」組織であることが示されています。加入条件には、サービス利用可能性と組合員としての責任受諾が含まれ、差別禁止(ジェンダー、社会的属性、民族・文化、人種、宗教、政治的立場)が強調されています。この原則は、協同組合の利益を広く共有するためのものであるとしています。
第2原則「組合員による民主的管理」
協同組合が組合員の民主的な管理によって運営されることを確認し、組合員が政策立案や意思決定に積極的に参加することが重要とされています。協同組合では、出資額に関係なく「一人一票」の平等な議決権が与えられ、役員も全組合員に対して責任を負います。さらに、組合員は役員選出や議決だけでなく、各種組織や会議を通じて意見を反映し、民主的運営は組合員と役職員の協力によって成り立ちます。また、連合会においては、会員である協同組合の組合員数の違いを考慮した議決権配分を行うべきであるとされています。
第3原則 「組合員の経済的参加」
協同組合の事業に必要な資金は組合員全員が公平に出資し、借入に頼らないことで組合の自主性を保ちます。また、組合が生み出した剰余金(利益)については、組合自身の発展、組合員への還元、地域貢献のために使われるよう、組合員全体で議論し決定します。組合財産の管理を民主的に行い、組合員が参加することが重要とされています。
第4原則 「自治と自立」
協同組合は外部からの政治的・経済的干渉を受けず、自治と自立を基本としています。組合員が自らのために自らの運営を決定し、外部の経済的支援に依存しないことで、組合の自主性と活力を守ります。また、協同組合は特定の政党に従属せず、自由な意見表明を行い、社会改善のため積極的に政治にも関わります。ただし、組合員個々の政治的信条が尊重されており、協同組合内部で意見の統一がはかられている場合に限られます。
第5原則 「教育、研修および広報」
協同組合は、組合員や役員、従業員への教育・研修と、協同活動の意義を広く伝える広報の重要性を強調しています。組合員が協同の必要性を理解し続けることで、組合の成り立ちが支えられます。また、役職員は新しい知識や技術を学び、組合員のニーズに応える責任があります。この原則は、若者やオピニオンリーダーへの協同組合の魅力を伝えることも重視し、特に大学での講座の拡充や広報活動に力を入れています。
第6原則 「協同組合間の協同」
協同組合が地域・全国・国際的なレベルで協力し合い、組合員のニーズに効果的に応え、運動の強化を図ることを求められています。第6原則は、1966年に協同組合が単独で高度化するニーズや多国籍企業に対応するのが困難になった背景から導入されました。また、日本では2012年以降、異なる協同組合間の連携が進み、JCAの設立や2025年の国際協同組合年に向けて、国際的なつながりを強化する動きが期待されています。
第7原則 「地域社会(コミュニティ)への関与」
協同組合は組合員の承認に基づき、地域社会の持続可能な発展に貢献することが求められています。協同組合は地域のニーズに応える組織であり、地域社会の一部として存続するためには、その発展に力を尽くす必要があります。具体的には、環境保全や自然災害時の復旧活動が重要です。また、地域社会への貢献方法は組合員によって決定され、特に組合員以外への影響を考慮した議論が求められます。最近では、持続可能な地域社会づくりに対する協同組合の役割がますます重要視されています。