全国大学生協連の研究会報告

大学のグローバル化を図る秋入学などの学事暦の改革

第22回「学生の意識と行動に関する研究会」より

大アカデミックカレンダーを検討しクォーター制導入を推進

早稲田大学 田中愛治教授

早稲田大学 教務部門総括理事 政治経済学術院教授 田中愛治氏

早稲田大学では、2008年度より1年を4期に分ける"クォーター制"の議論を進めていましたが、今年5月の学術院長会で来年度より部分的にこの制度を導入する事を決定しました。

早稲田から世界へ!世界から早稲田へ!

本学は現行ではセメスター制(2学期制)を採用しています。夏に短期留学・語学留学を希望する学生は多いのですが、その中には欧米の現地の学生が履修するサマースクールに行きたいという者がかなりいます。しかし、日本で7月末まで授業があると、6月初旬に始まるサマースクールには間に合いません。また、夏季に海外から教員を呼んで特別講座を行いたくても、彼らは5月の半ばか6月から来られるのですが、日本では学生が受ける正規の授業が7月末まであるので、この講座を取ることは難しいのです。

本学では2008年度にアカデミックカレンダー検討委員会を立ち上げ、現状を見直し、クォーター制という新しい制度を導入する事を提唱しました。私どもは、クォーター制は秋入学とともに国際化を図るには非常に便利なデバイスであると考えており、クォーター制を取り入れた本学のアカデミックカレンダーを海外主要大学とできるだけ合致させられるよう、各国のアカデミックカレンダーとの比較をしました。  欧米ではセメスター制の大学でもクォーター制の大学でも、サマースクールの開始は大体6月の初旬ですから、本学のクォーター制で6月7日に春学期前半が終了すれば、十分欧米のサマースクールに参加する事ができます。

また、本学では秋学期は9月末から始まり、11月末に秋学期後半に入りますが、その時期は11月下旬に学年度が終わって夏休みに入るオセアニアとも一致します。すると、オセアニアで1学年度の留学が終わった学生が秋学期後半から本学に戻ってくることも、また留学生を受け入ることも可能になる。出て行く場合でも、秋学期前半を終えた本学学生が11月下旬からオセアニアの大学のサマースクールに参加できることになります。

早稲田の場合はアジアからの留学生が多く、中国やシンガポールはアメリカ型のアカデミックカレンダーで9月から始まるので、夏から本学に来る事ができます。

セメスター制からクォーター制へ

現実には私どもがクォーター制を進めるにあたって、通年制からセメスター制に移りきっていない学部がいくつかあり、学内でも随分反発や躊躇がありました。3年半にわたって議論を積み重ねてきましたが、2009年度くらいから11年度中には全ての学部が完全にセメスター制に移行し、これがクォーター制の導入を円滑にしました。

本学のクォーター制では1科目を8週間で完了するために、週に複数回の授業も可能です。1学期に履修する科目数が減り、学生は非常に短期間に集中して授業を受けることになります。

現行のセメスター科目には、週2回授業を行う4単位の科目と、週1回授業の2単位の科目があります。4単位の科目は中間試験の時期に二つに分ければクォーター科目にできます。2単位科目は1単位科目にもできます。このように多くのセメスター科目は、変形させてクォーター科目にできると考えられます。

現行のセメスター科目には、週2回授業を行う4単位の科目と、週1回授業の2単位の科目があります。4単位の科目は中間試験の時期に二つに分ければクォーター科目にできます。2単位科目は1単位科目にもできます。このように多くのセメスター科目は、変形させてクォーター科目にできると考えられます。

基本的な考えは、現行の通年制、セメスター制と併存する形でクォーター制を導入します。例えばゼミは通年制、歴史学や哲学などセメスターの方が向いている科目は現行通りにと、柔軟に対応します。8週間で集中的に講義を行う事で教育効果が高まると考えられる科目から順次、来年の4月以降に導入していきます。その場合、学籍異動や科目登録、成績発表は年2回、今もセメスター制ですので現行のまま半期ごとに(4月と9月)行います。現在では年4回の科目登録は考えておらず、また新制度導入にあたり、総授業時間数は変えないよう考えています。

※早稲田大学のクォーター制の各学期の名称は、春学期前半(4/6~6/7)・春学期後半(6/8~8/2)・秋学期前半(9/27~11/27)・秋学期後半(11/29~2/7)で各8週ずつ、さらに春学期後半を2期間(各4週)に分けて集中授業をする予定です。

クォーター制のイメージ

※夏学期を2期間(各4週)に分け、集中授業を実施する

(2009.10 学術院長会)

 

早稲田大学の国際化の現状

本学の海外の留学者数は、長期留学は年間約1090人、短期を含めておおよそ1800人が毎年留学に出ており、その数は年々微増しています。受け入れている海外からの留学生が約4000人おり、これは日本で最多です。

秋入学は、早くから取り入れている研究科や学部がありますし、グローバル30開始を機に導入した学部もあり、計7学部14研究科が実施しています。

日本にいながらにして海外にいるのとあまり変わらないような、机を並べて海外の留学生と勉強できるような環境を整えていきたいと考えております。

学生の方たちからの報告現状を客観的に見据え冷静に

全国大学生協連 福島裕記専務理事

東京大学 入試企画室長 文学部教授 高橋和久氏

東京大学では、国際化に対応する教育制度を構想する一環として、将来的な入学時期の在り方について検討し、提言を取りまとめるため、2011年4月に「入学時期の在り方に関する懇談会」を設置、今年3月に報告書を出しました。

《報告書の概要》

本学学生の海外留学、留学生受け入れは特に学部段階で振るわず、海外有力大学と比べて劣っている。秋入学が国際標準となっている今、4月入学を前提とする現行の学事歴は、教育の国際化を図る上で大きな制約要因であると考えられる。

そこで、「よりグローバルに、よりタフに」社会的視野を持った市民的エリートを育成するため、思い切った教育改革を実行する事が必要となる。本学では春入学を廃止し、5年後を目途に秋入学へ全面移行し、4月から約半年のギャップタームを設定して、留学、ボランティア、インターンシップなどの学びの姿勢の転換となるような体験活動を支援するしくみの実現可能性を模索する必要がある。

最大の問題はギャップタームの扱い

そこで、「よりグローバルに、よりタフに」社会的視野を持った市民的エリートを育成するため、思い切った教育改革を実行する事が必要となる。本学では春入学を廃止し、5年後を目途に秋入学へ全面移行し、4月から約半年のギャップタームを設定して、留学、ボランティア、インターンシップなどの学びの姿勢の転換となるような体験活動を支援するしくみの実現可能性を模索する必要がある。

しかし、学内では全面的に秋入学に肯定的とは言えず、議論の焦点となるのはいわゆるギャップタームの問題で、その性格付けについては、さまざまな考え方があるように見受けられます。

ギャップタームについて東京大学としてどのようにコミットするのか、一例を挙げれば、学籍を与えるのか与えないのか、を含めて、議論の余地が残されています。3月に高校を卒業するということだけは確定していると考えなければなりませんから、ギャップタームの存在は必然ということになります。というのも、東京大学ではほとんどの大学とは違い、全学入試を実施しているため、年2回の入試は負担が大きく、また対外的な波及効果も考慮しますと、現行の入試時期の変更は、今のところ考えられないからです。

ギャップタームの時期に関しては高校卒業後の4月から8月までというのではなくて、前期課程から後期課程に移行する時に入れるとか、または大学卒業から大学院まで、あるいは卒業から就職までの時期でもいいのではないか。また、ギャップタームはそもそも学部過程にはなじまない、むしろ大学院の修士課程1年の時に設定するのがいいという意見もあり、百家争鳴の状態です。

実現のためにさらなる議論を深める

この秋入学問題やギャップタームに関しては、それぞれの学部が担っている、主要なディシプリンの差が影響しているのではないかと思います。

例えば、理系の学部や大学院、世界のトップレベルで研究を競っているところでは有力な若手研究者に来てほしいのですが、学事暦の不適合によって優秀な若手をこのままでは取れなくなっていくと、東京大学の研究拠点としての地盤沈下につながるのではないかという危機感があるようです。

現在、「教育基本問題に関する検討会議」が立ち上がり、今後存在するいろいろな問題について話し合うのですが、いずれにしても秋入学問題が主要な検討テーマになるというのは間違いなくて、そこには報告書にあるようにさまざまな論点が絡んでいます。とにかく今年度中に何らかの、秋入学を実現するための大網的な道筋を提示する方向で議論が進むのではないかと思っております。

 

大学教育の国際化を図るために秋入学への全面移行を提起

メリットは認めるが議論を詰める必要あり

研究会には、東京大学、日本女子大学、慶応義塾大学から6人の学生が参加し、秋入学への賛否やギャップタームの扱いなどについて率直な意見を述べました。

まず、東京大学4年の秋野薫さんは、「教育学部所属ということもあり、先生方や学生間でも秋入学が話題になっている」が、「一般的に見て、秋入学を導入したからといって急に学生の質が上がるわけでもないと思う」と発言しました。

「立場としては反対」なのは、同大学4年の鈴木浩介さん。ギャップタームについては、「入れるとすれば、進振り前後に入れるのがいい。進振り前後は勉学に対する意識が高まる時で、多少時間があれば留学や勉強、何かしらするのではないか。高校卒業段階では経済的な問題もあり、自由な活動は難しく、必要ないと思う」。

消極的な賛成」と言葉を選ぶのは同大学3年の松本浩太朗さん。「国際化推進やボランティアなどでギャップタームにさまざまな体験を積んでいくのは非常にいい」が、「大学だけの問題ではなく、官公庁や社会・企業などがすべて絡んでくるので、もっと具体的な議論を詰めることが必要」と述べました。

日本女子大学3年の篠山尚さんは「当事者ではないので周りは関心が薄い。私自身は現時点では反対。高校を卒業した時点でギャップタームを与えられると持て余してしまうと思う」と述べ、同大学4年の武部紫さんは「現在就職活動中。あと数カ月しか自由な時間がないので、卒業後に半年程ギャップタームが与えられたとしたら、それは勉学も卒業論文も終え、学生でも社会人でもない半年間で、今やりたいと思っている事ができる。私の場合は留学やバックパッカーで、もっと海外に視野を広げたい」と語りました。

大学生になって日が浅い慶應義塾大学1年の堀口晶さんは、「初めて履修登録をした際に、今まで通年で行っていた授業を春学期・秋学期と分けていたので、大学側が制度改革に向けて動いていると実感した」と話しました。

秋入学制度導入は日本人学生の留学生増につながるか

参加者からの「留学をしたいができない学生の理由は、現行のように4月入学では海外の大学に入りづらいからか、または就活の問題があるからか、それとも、そもそもあまり留学に興味がないのか、経済的な負担がかかるから躊躇しているのか」という学生への質問には、「所属する文学部は制度的な問題があり、留学するためには留年しなければならない。たとえ半年の留学でも1年間の留年をしないといけないのでハードルが高い」(松本さん)。

「経済的な問題などのためなかなか踏み切れない人には秋入学は根本的な解決にはならないと思う。留学を志す人というのは1年生の頃から留学に関心があり、それなりに調べて計画を立てている。留学が念頭にない人に、秋入学で時間的に余裕があるから留学してみようという程のきっかけになるかは疑問。

周りには院に進学する者もいるが、基本的には学部卒で就職、あるいは教職員試験や公務員試験等を見ており、留学という選択肢を選ぶ学生は最初から多くはないと思う」(秋野さん・教育学部)。

理系的立場からは、「学部生の間はそれほど知識がないので海外に行ってもあまり意味がない。主に留学の議論が出るとすれば、早くて修士課程、普通は博士課程だと思う。語学留学に関しては、一概には言えないが」(鈴木さん・理学部)という意見がありました。

高等学校の現場では…

㈱ライセンスアカデミー 進路情報研究センター

秋入学に対する高校現場の反応を調べるため、2012年3月21日~27日まで、FAXでアンケート調査を行いました。
調査対象は、東京都・大阪府・愛知県の高校の進路指導教員で、999校中150校から回答を得ました。

  • 「秋入学」のメリットはある程度認めているが、その代償として進路・生活指導が煩雑になることが不安
  • ギャップタームの責任の所在が曖昧なままで生徒に対する指導・保護期間が延びることを懸念
  • 生徒や保護者の経済的負担を注視

ギャップタームの過ごし方として望ましい活用は、ボランティア65.4%、大学で入学前教育が64.5%、その他に留学、インターンシップ、アルバイトが続きました。

また、「秋入学への変更は社会的な影響が大きすぎるので、きちんとした議論を踏まえて実行すべきである」との意見も目立ちました。

秋入学に対する高校の反応

 

※東京大学は「進学振り分け」という制度を採用しており、入学した学生は2年の夏学期までの成績によって希望の学科に進学できるかどうかが決定されます
※学生の方はすべて仮名です。また、発言中の「ギャップターム」「ギャップイヤー」は、「ギャップターム」に統一させていただきました

(編集部)