全国大学生協連の研究会報告

大学生が意欲的に学び成長するためには高校時代の学びや意識付けがポイントになる

3月28日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する第24回「学生の意識と行動に関する研究会」が 「高大接続 〜大学生の現状から高校生に求められること」をテーマに東京大学駒場キャンパスで開催されました。 この研究会の概要をお伝えいたします。

2012年9月より中央教育審議会(中教審)で高大接続特別部会が始まりました。キャリア教育、グローバル人材育成、リメディアル教育など、大学も社会からの要請に応えるべくさまざまな教育改革を行っていますが、大学教育だけにとどまらない、高大接続の教育が喫緊の課題となりつつあります。  今回の研究会では、高校生が大学を経て社会へと力強く成長していく力が、単に大学時代の教育だけでは不十分であり、高校時代の意識付けと日常的な学習によって培われるものも大きいことを、さまざまな調査や高校での授業などの実践例より明らかにします。

大学生調査の分析結果に見る 高大接続教育の必要性

京都大学高等教育研究開発推進センター 准教授 溝上慎一氏

データから見えてくる三つのポイント

大学には、積極的に学び成長している学生と、大学が行うさまざまなとりくみが響いていかない学生とがいます。データ(京都大学・電通育英会共催『大学生のキャリア意識調査』)から見えてくるのは、学び成長する学生に共通する、三つの重要なポイントです。

一つ目は、「主体的に学ぶ力」。 授業外学習や読書などで教室外に学習の時間や行動を広げたり、主体的に課題に取り組んだりする力です。

二つ目は、「豊かな対人関係や活動性」。 コミュニケーション力やプレゼンテーション力などを培い、人と協力して課題に取り組む力です。

三つ目は、キャリア教育につながる「将来の意識」です。 人生の見通しを持ち、面倒な授業や課題でも将来に必要だから頑張ろうとする力です。

大学の4年間では学生はなかなか変らない

先の調査の追跡版で、大学1年生の11月に将来の見通しの「ある・なし」と、実現に向けてすべきことを「理解し実行」または「不実行」かを尋ねました。同じ学生が4年生になったとき、4年間彼らがどのように将来の見通しと理解実行をつくってきたかを尋ねました。1年生のときのステイタスとクロスさせると、1年生のときに「将来の見通しあり・理解し実行」の学生の66・7%は比較的見通しあり・理解実行で4年間を過ごし、「見通しなし」の学生の47・4%は比較的見通しなしのまま4年間を過ごすことがわかりました。

大阪府立大学のデータですが、個人の1年前期から3年前期にかけてのGPAの相関を見てもほとんど変化は見られず(相関係数はr= ̇803)、1年前期の成績が3年以降をかなり規定することが分かります。

以上より主体的に学ぶ力、将来の意識は、4年間ではなかなか変わらないと言えます。この力や態度は、小学校からいろいろな課題を与えられて取り組む中で少しずつ育まれていくものです。これを面倒だと思う人はそういう態度を根深く身に付けていて、大学側が精一杯さまざまな教育をしても学習態度に変化の見られる学生はさほど多くなく、学生に三つの力がないとうまく育っていかない可能性が高いと言えます。

社会人調査から伺える高校・大学時代の意識

3千人の社会人を対象とした振り返り調査を紹介します。高校1〜2年、高校3年、大学1〜2年のそれぞれの時期に将来の見通しを持っていたかを尋ねました。   一番多かったのは、すべての時期に将来の見通しがなかった学生で50%、次がすべての時期に見通しがあった学生20%です。そして「これからの仕事に希望を持てるか」「能力や業績は社内で平均より上か下か」等を聞き得点をつけると、どの項目においても前者は得点が低く、後者は得点が高いという結果が得られ、将来に対する意識が職場にも影響を及ぼすことが分かりました。

次に、高校、大学、就活、最初の職場の四つの時代を振り返り、それぞれの時期に○×をつけてもらいました。×が多いのは高校、就活、配属先の順です。

高校時の×の理由は、「やりたいことや目的がなかった」「勉強しなかった」が多いです。また、就活時の×の理由は「やりたいことが分からなかった」「しっかりやらなかった」で、就職が厳しい状況下で就活をしっかりやれなかった人が結構います。配属先の×は、「会社や仕事が合わなかった」「労働条件が悪かった」「職場の人間関係に恵まれなかった」で、3年以内に転職するのもここに理由がありますし、大学時代良く過ごしても社会に出てうまくいかない人も現実にいるのです。

多くの大学で教育改革を進めていますが、主体的に学ぶ力、豊かな対人関係や活動性、キャリア意識が学生の学びと成長を推進させる基礎となること、ひいてはそれらが卒業後の職場での働き方に影響を及ぼすことを、高校に伝えていきたいと思います。

新しく始まる活用・探究から高大接続の課題を考える

全国大学生協連 福島裕記専務理事

立命館大学 理工学部 講師 椋本 洋氏

高大の教育接続が 必要になった背景

大学進学率は1990年ごろを境に上昇し続け、2011年には58%、専門学校も含めた高等教育進学率は80%にも達しています。こうした高等教育の量的規模の拡大と2000年に入試方式の改善を意図した改革が必ずしも有効に機能しなくなったため、多くの大学で基礎学力の低下が課題となってきました。たとえば、ベネッセの11年の大学生基礎力調査では、センター入試など学力試験を受けて入学した学生層とAOなど学力試験を受けずに入学した層との間に差があることが明らかになっています。もっとも、こうした学力の差が大学卒業時まで続くわけではないことも知られています。

高校と大学の接続

とはいえ、多くの大学では「高校卒業時の学力」が不十分なため、高等教育のスムーズなスタートを切らせることに苦労しています。元来、初等中等教育と高等教育は、義務教育と高校教育のように接続することを前提に作られたものではありません。そうした理由から大学の授業についていけない学生が増え、入学までの期間を利用して入学前教育をやらざるを得ないという状況です。日本リメディアル教育学会の調査では、国立大学で69%、私立大学では85%が入学前教育をやっています。

加えて、中教審の学士力答申にみられるように、これからの知的基盤社会を力強く生きていくための力が求められるようになりました。そのことは2013年度から実施する高等学校の新学習指導要領にも反映され、従来から言われてきた基礎学力の充実に加えて「思考力、判断力、表現力」などの力をつけさせることが目標になりました。そして今、知識や技能を活用する学習や探究する学習を重視する取り組みが始まりました。ここでは、すでにこうした実践を行っている高校の例を二つ紹介します。

活用・探究を考える汎用的能力の育成事例

●京都市立堀川高等学校  

この学校は「探究基礎」という授業をやっています。

1年前期で、どの分野を探究する上でも必要な探究の進め方や表現の仕方を学びます。つまり「型」を学ぶわけです。1年後期には少人数でのゼミ活動を行いながら具体的な調査技法(実験・フィールドワーク・資料の見方)などを学び、「術」を身につけます。2年前期には、生徒一人ひとりの個人研究が始まります。自分たちの問題意識から課題を決めて仮説を立て実証し、最後にポスターセッションを行います。この場は、教師や大学院生、上級生なども入ったコミュニケーションの場でもあり、生徒たちは物事を順序立てて説明する大切さに気づくとともに、新しい疑問を抱きます。

こうして、これからの社会で必要な具体的な手立て、スキル、考える方略を学んでいます。

●大阪府立教育センター附属高等学校

この学校は新しい学校です。教育センターのすぐ側にあり、センターの施設を活用し、いろいろな実験的な取り組みを行っています。たとえば、「探究ナビⅠ」という学校設定科目では、「聴く力」「調べる力」「説明する力」「協同する力」を付けることを目指しています。 「聴く力」の育成は、すべての学びの始まりです。きちんと聴くことを通じて、自分のことを伝え、友達とつながり、協力して考えることができるようになります。目標の二つ目である「調べる力」では、班単位になり、分担して調べ学習を行います。与えられた課題は、仕事をする意味、適職、学ぶべきことの意味を調べることです。そして、次の「説明する力」の場でそれらの調査結果を交流する機会を作ります。さらに、企業の商品の開発担当者を交えて班単位で商品開発とプロモーションを行います。最後に1年間のまとめとして、プロの劇団員の指導を受けつつ演劇的手法を使って発表会をします。 この二つの学校の実践例にみられるように、「習得型」と「探究型」の二つの学びをバランスよく取り入れることで真の学力が身に付くと考えられます。そのためには、二つの力をつなぐ「活用する力」が必要です。今、私たちはその具体的な実践プランを構想しているところです。

Data Source:

京都大学高等教育研究開発推進センター・財団法人電通育英会主催『大学生のキャリア意識調査2007追跡(2010年版)。2007年988名→2010年130名。分析では医療系を除外している。 詳しくは http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/research/ を参照

学生の方たちからの報告:大学や大学生協は学生に将来を考える場を提供する

研究会には、学生の出版企画団体「出版甲子園」実行委員と全国大学生協連学生委員の、計9人が参加しました。

高校時代は受験第一 将来を考える機会は?

高校時代は、勉強して当然で、勉強の意味を考えない人が多かったと言う進藤祐さん(慶應義塾大学2年)は、勉強が将来に繋がるとは思えませんでした。反面、読書に対する意欲は旺盛で、高校3年と一浪の2年間で本を250冊読み、浪人時代に「勉強が自分の興味ある分野に実践できるという認識を確立」し、きちんと勉強と向き合うことができました。

柏慶彦さん(東京大学2年)は、現役の時は特に意識しなかった自分の将来を、浪人時代に真面目に考える機会を得ました。しかし、「2年次に進振り制度があり、希望の学科に進むためには効率よく高い点数を取れる授業を選択せざるを得ず、また座学の多い授業に失望」し、学外にアウトプットの場を求めて出版甲子園に参加しました。

地方の進学校出身の大村綾(早稲田大学3年)さんは、高校時代は勉強一筋の毎日でしたが、自分ではそれが普通だと思っていました。勉強の意味や目的が本当には分かりませんでしたが、早稲田大学合格後、教師に更にレベルの高い大学を目指すために一浪を進められ、過去の勉強に疑問を感じました。今、出版甲子園に所属し、社会人と話したり交渉したりして夢が広がり、「初めて将来のことを考えられるようになった」と述べました。

佐藤静さん(早稲田大学2年)は高校の総合学習で進路研究があり、大学のパンフレットやホームページなどを読み込んで調査し、発表し合いました。しかし、入学後はそういう時間がなく、文化構想学部で2年から論系に分かれる時、周りには進路に迷う人が結構いて、「高校で将来を考えてこなかった」からなのかと思い、「それが就活への姿勢との相関に繋がるのでは」と語りました。

変われる人は 確かにいる

大学入学後に指導を受けても人はなかなか変わらないという話を受けて山﨑弘純さん(龍谷大学卒・全国大学生協連学生委員)は、「確かに変わる人はいると感じている。今、東日本大震災のボランティア本部を担当しているが、知らない人同士が何か一つの目的に向かって成し遂げていくという経験は、コミュニケーション能力を養い、協同する場としてはこの上ないと思うので、高校時代に経験する機会があれば、探究する力を培うことができるのでは」と提案しました。

立﨑聖也さん(法政大学卒・同)は、進路選択時に教員養成系の大学に進むか迷いましたが、将来の選択の幅を狭めないよう法政大学を受験。現在、大学生協連学生委員会の活動をしています。「選択肢を広げたことで想定外のことを経験できた。今、委員会活動以外にもあれこれと興味を持ち、挑戦したいという意欲が出てきたので、選択としてはよかった」と言いました。

高大接続に関して木津谷甫さん(東北学院大学卒・同)は、「大学生協でも、新入生にどんな大学生活を送るか考える場を提供してはいるが、参加者のほとんどは意識の高い人だ。意欲を持てない人が将来の夢を持てるようなとりくみが必要」と今後の活動の抱負を述べました。

大野聡さん(早稲田大学2年)は率直に、「大学全入時代で、大学入試はエリートを選抜する場ではなく、大勢の中から各々を振り分けていくような状況だ。結局エリートを選ぶ場が就活になっているので、就活が今とても厳しいのではないか」と投げかけました。

失敗を振り返り プラス要因でとらえる

最終報告書

舘恵理香さん(早稲田大学2年生)は、高校の総合学習の時間に将来の夢を設定し、そのために早稲田大学文学部に進学しました。しかし入学後、視野が広がって選択肢が増え、高校時代の目標が少しブレていきました。それに対し溝上先生からは「大学入学後に世界が広がり、高校バージョンで考えたことが崩れても全然問題はない。一度つくったものをつくり直すことは容易だが、一番問題なのは、高校のときに全然考えてこなかった人だ。入学後に無から何かをつくり上げようとするのは非常に難しい」とのアドバイスがありました。

椋本先生は「就活に成功する人は、働くことの意味を見出し、失敗したときに振り返りがきちんとできる人。自分の学生時代をマイナス要因だけで見ないで、プラスの側面を出しえた人は成功する」と結びました。

(編集部)