全国大学生協連の研究会報告

国際化対応を進める大学の中の 留学生、日本人学生の実像

4月24日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する第27回「学生の意識と行動に関する研究会」が、 「大学のグローバル対応と留学生」をテーマに、早稲田大学早稲田キャンパスで開催されました。 この研究会の概要をお伝えいたします。

「留学生30万人計画」が策定されて6年、現在では13万人を超える留学生が日本で学んでいます。企業を中心にグローバル人材の育成が大学に期待される今、大学内でも世界に通用する教育と研究を目標に、単に留学生の受け入れだけにとどまらない、さまざまな方策がなされるようになってきました。

今回は、理系留学生の育成に力を入れ、その就職支援に尽力する東京工業大学のとりくみと、留学生と日本人学生が日常的に異文化交流を行うキャンパスの構築に向けて職員と学生スタッフが協働する早稲田大学のとりくみをご報告いただきました。

日本における理系留学生の就職の実態と課題

専修大学経営学部准教授 佐藤康一郎氏

東京工業大学 特任教授 国際室国際連携プランナー 廣瀬幸夫氏

近年日本は、経済のグローバル化とアジアを中心に加速する企業の海外事業展開に伴い、高度な技術力と折衝力を擁する人材の確保を求め、海外に熱い眼を向けるようになりました。世界の大学ではすでに国策としてさまざまな施策を設け、優秀な留学生を世界中から網のようにすくっています。

留学生を集める リクルート体制(入り口)

東京工業大学(東工大)は大学院大学で研究をする者が多いのですが、2011年震災後、留学生の受入数はほとんど1200〜300人を動かず、そのうち学部生は200人程で、約千人が大学院生です。

高等教育に求められる国際通用性に対する方策の一つとして、我々は優秀な留学生を集めるためにアジアの各地に拠点オフィスを設け、さまざまな広報戦略を仕掛けています。最近では海外の大学を訪問して学生を募集しても間に合わないので、中国であれば上海や瀋陽の有名高校に定期的に通い、高校生に東工大をアピールする活動もしています。

留学フェアもその一つで、ベトナムや中国などアジアでは頻繁に開催しています。欧米でも行います。中国や韓国では、学生よりも保護者の方が熱心です。ご父兄を説得するのに一番効果的なのは「世界のランキングで何番目」という言葉で、「東工大のランキングは何番です。アメリカではこの大学に相当しますが、この大学に行くよりもうちに来た方がいいですよ」というような広報をしています。

日本での就職状況(出口)

現在、卒業を控え就職を考えている留学生はトータルで約3万人いるのですが、その中で日本企業に入りたい者は大体50〜60%の1万5、6千人、現実に就職に結びつくのは8千人です。「日本で就職をしたい」と考えている留学生のうち、二人に一人しか就職を実現できていないことになります。

企業の採用状況は千差万別で、非常にグローバル化して先端的にやっている企業もあれば、表向きグローバルでも職場の変革すら手一杯の企業もあり、優秀な留学生は欲しいけれども、日本人に近い留学生なら受け入れられるというのが大半の現状です。そこで留学生に求められるものは、異文化適応能力・日本語/英語力・高度専門知識、そしてできれば日本での就業経験です。

我々は経済産業省や中小企業省が中心になって、あるいは厚生労働省と協働して、留学生の就職説明会を何度も開いていますが、留学生は大半東京関東地区に集まっているので、どうしても説明会は東京で行うことになります。最初から地元の企業に入るなら問題ないのですが、勤務先の種類も数も東京の方が断然多い。そうすると説明会のために上京するという、地方在住学生にとっては非常にコストがかかって大変なシステムとなり、それが地方に住む留学生の悩みです。

東工大の就職支援

日本の理工系留学生の修士課程学位授与者数は約2千人で、主な内訳は東工大(1割)・東大・早稲田・慶應・京大・阪大なので、企業がこれらの大学を徹底的に回れば人材確保は一番手っ取り早いのです。確かに良い人が地方にもいるのですが、説明会などではなかなか効率が悪い。留学生は人数が少ないので、本学では修士修了生を中心に調査をしています。例えば企業が求める条件に専門分野、出身国、日本語がどのくらい話せるか、年齢制限の有無が分かれば、研究室内で適任者が当てはまります。いずれにしても、留学生自身も勤めたい気持ちを前面に出し、自主的に活動する態度がないと、就職へとつながりにくいものです。

日本の企業では、ほとんど理工系のものづくりの会社が留学生を欲しいと言ってきます。しかし、留学生は、B to Bの会社はほとんど知りません。日本人ならたいてい知っているようなメーカーを知らない留学生が大変多いので、本学では、彼らを連れて工場見学を実施しています。例えば、東レの沼津工場に行って炭素繊維を作る過程を見せてもらいました。4階の屋上から出てきた炭素繊維の材料が、最後にボーイング787の機体、あるいは翼になります。そう説明すると、特に理系の学生は非常にピンとくるわけです。そして一人、二人と就職につながる。留学生の場合は、一人入ると、先輩が入ったのだからと次の年につながります。そうすると東レに毎年東工大から留学生が一人ずつ行くというようなルートが築けます。

それから、留学生の多くは10月入学9月卒業です。日本の企業は、9月卒業の学生採用についての方策ができていないので、それは学生が自らやらなければなりません。日本語力については、読み書きが最低できるといいのですが、話せるけれど読み書きができないという留学生が多く、非常に就職で困ります。また、中途退職した留学生が30歳以上で再就職するのも不利になります。出身国にかかる枷としては、日本企業が進出していない国、ネパール・ラオス・カンボジアの学生は日本での就職に非常に困っています。

日本社会への受け入れ

今、大学では留学生を集めてホームステイや日本文化体験などをして国際交流と言っています。それを否定はしませんが、その先に何があるかという見通しを持ち、やはりコンセンサスを作っておく必要があるのではないかと思います。

留学生の就職の問題、それから留学生が就職すると今度は留学生に家庭ができ、地域社会との問題ができます。次に永住権の問題、年金の問題が出てきます。その後留学生に子どもができ、世代交代が起きると年金の受給が始まります。そして、永住権を求めて移民になります。この辺までも念頭に置いて、留学生政策においてこれから先の議論を巻き起こしていかなければいけないと思っています。

オンキャンパス・グローバル・ コミュニティ形成に向けて

早稲田大学国際コミュニティセンター 課長 櫨木裕子氏

ICCの概要

早稲田の国際コミュニティセンター(ICC)は、2006年に設立されました。本学に学ぶ99カ国約4千700人の留学生と日本人学生が交流するためのさまざまなイベントやプログラムを実施するセンターで、学生支援業務を担う学生部の一機関です。

2013年度は年間で合計352のイベントを行い、累計1万4千人以上の参加者がありました(全在籍外国人学生では述べ7割が参加)。学生数5万人を抱える大学としてなるべく多くの学生にきっかけを得てほしいということでイベントの数は年々増えており、設立以来累計7万人以上の学生がICCの活動に関わっています。

センターには、教員であるセンター長の下、専任・常勤嘱託あわせて6名の職員がいます。運営・企画をする13名の学生スタッフリーダーは、私どもがスチューデントジョブとして雇用している日本人・留学生の学生です。

イベントやプログラムには、学生スタッフと職員が協働で当たりますが、時には有給のスタッフだけではなく、ボランティアで学生を募集したり、学生サークルと連携することもあります。企画の幅を広げ、質を高めるために、学内外のさまざまな機関との連携もしています。

多岐にわたるイベント

ICCには実際どんなイベントがあるのか、一部を紹介します。

  • カントリー・フェスタ(各国文化紹介)
  • ジャパニーズ・カルチャー・ウィーク(日本文化紹介)
  • ランゲージ・アワー(ネイティブの留学生がコーディネートする)
  • ランゲージ&カルチャー・エクスチェンジ(留学生と日本人学生がペアで互いの言語や文化を教え合う)
  • スポーツ・イベント
  • フィールド・トリップ(研修旅行)
  • トーク・セッション(学外から講師を招いて年間約20本実施)
  • JICA連携国際協力セミナー
  • アウトリーチ(留学生と日本人学生のペアで地域の小中高等学校を訪問し留学生の母国の文化を紹介する)

趣旨として異文化理解・異文化交流の促進という本来の目的につながるものであれば、広くとらえて実施していますが、大きく分けてその方向性は二つあります。一つは、こういったことに関心の薄い学生が目を向けるきっかけになればという位置づけで、気軽に参加できるスポーツやカフェの企画です。もう一つは、もう少し意識と関心の高い学生にターゲットを絞り、テーマ性と学びを重視しています。

教員のいない自主ゼミ形式のプロジェクトや、人気大手企業と連携したクリエイティブグループコンペなどがありますが、単位の出ないアカデミックな課外活動では、どれほど本気で取り組みたい人がいるのだろうかという懸念がありました。ところが実際始めてみると、単位が出ない分、活動に参加して得られるものは実体験だけなので、学生は非常にやる気を出して密度の濃いグループワークにつながり、満足度が高いプロジェクトになりました。また、グループに必ず留学生が入っているので、背景や価値観の違う留学生との協働は、日本人学生にとって大変貴重な体験になります。

イベントは、参加者の立場だけではなく、むしろ運営側に学生を引き入れることで、学生自身にとって非常に大きな学びになります。彼らも積極的に自分のアイデアや力を生かして何かをできる立場に置かれた方が本当に生き生きと活躍してくれるので、そのような場を提供することも、学生支援の一環だと考えます。

学生スタッフはICCの顔


早稲田大学国際コミュニティセンター

ICCへの学生の関わり方は大きく分けて三つあります。単純にイベントに参加者として参加する、企画側にボランティア(サポーター)として関わる、雇用され学生スタッフリーダーとして企画運営に携わる、の三つです。

学生スタッフリーダーは、ICC開設時より学生自身の企画力発想力行動力をドライビング・フォースとして存分に発揮してもらいたいという趣旨で始まりました。試行錯誤の末、8年経った今では全国の大学関係者がICCにヒアリングに来られるまでの存在になりました。採用は公募制ですが、書類選考と面接選考を経て、平均競争率10倍ほどになります。

日本人学生と留学生の交流を促し、ピアラーニングの環境をつくるという活動は、日本人学生にはグローバルなことに関心を持つきっかけになり、海外留学をしなくても、キャンパスで異なる価値観や考え方を持つ学生と互いに高め合えるという体験につながります。留学生には総合的な留学生活の充実につながり、孤独や鬱や深刻なトラブルに陥らないためのリスクヘッジの方策としても、このようなキャンパスにおけるグローバルコミュニティの形成が機能してくれればと思っています。そしてその仕組みづくりに関わる学生スタッフにとっては、活動が自身のグローバルリーダーに向けての成長と経験の場であれば理想的かと思います。

ICCが実施する特色あるイベント

「日中ホンネ交流キャンプ」

日本人と中国人の学生が3日間語り合う合宿形式のイベントで、上海出身の学生スタッフが、領土問題や歴史問題など避けては通れないことを、学生ならではのフリーな立場を生かして建設的に話し合えるような環境を作りたいと打ち出した企画です。

「にほんごペラペラクラブ」

イベント参加になかなか一歩を踏み出す勇気が出ないシャイな留学生のために、「クラブ形式で毎回決まった日本人とお話できますよ」と打ち出してみたら、かなりヒットしました。留学中、自分が現地でお世話になったから恩返しをしたいという動機でも多くの日本人学生がボランティアとして登録してくれます。

「ノーボーダー・キャンプ」

中国生まれ、日本育ちの学生スタッフが、国籍から来る先入観にとらわれない真の交流を創出したいと企画しました。国籍・年齢・学部・学年といった属性情報をすべて隠して交流を行います。参加者にも大好評で、今ではICCオリジナルの定番キャンププログラムとなっています。

学生の方たちからの報告
多彩なバックグラウンドを持つ仲間と 切磋琢磨する活動で成長する

変化する自分を感じる

研究会には、早稲田大学と慶應義塾大学の学生5人が参加しました。

田中藍人さん(早稲田大学3年)は、1年生の6月からICCで学生スタッフリーダーを務めています。2年間の活動を振り返り、「多様なバックグラウンドのスタッフと協働することで非常に刺激を受けた」と述べました。自身もアメリカに数年間在住した帰国生で、さまざまな背景の人と時間を共有したことで、「やはり文化的背景が違うのでローコンテクストになっていく。例えば、時間の観念なども、いろいろな人たちが集まると、それぞれ捉え方が違うので面白い」と感じています。

ICCの活動で一番得られたことは〝挑戦することの大切さ〟と言う高橋愛梨さん(同3年)は、学生スタッフを担って1年半になります。最近では、学内で活動の知名度をもっと上げたいと思い、NHKの番組にICCを特集してもらうという提案をして受け入れられました。「ICCで培った挑戦する力は私の今後にも影響して、今年の9月から留学を決めている。今までは就職活動が遅れるとか、言葉の壁を感じて尻込みしていたが、学部・学年・国籍さまざまに異なった人と出会い刺激を受けて、リスクを恐れずに挑戦する気持ちになった」と言いました。

日系留学生の斎藤雄太さん(同3年)は昨年の夏休み前までサポーターとしてイングリッシュアワーを手伝っていましたが、プレゼンテーションのスキルアップと、多様な学生と出会うチャンスを得ようと、学生スタッフに応募しました。「ICCはマーケティングやPR、 Twitter、 Facebook何でも頑張っているのですごいと思いました」。また、「自分は日本語があまり上手ではないが、周りが『英語で話してもいいよ』とフレンドリーな雰囲気をつくってくれるので、スタッフとして働きやすい」と述べました。

マレーシアからの留学生ラミー・ハルティナさん(慶應義塾大学修士1年)は、慶應の理工学部3年生として編入しました。慶應のリーディングプログラムに参加していて、あと数年間日本にいる予定です。「日本人の仕事や時間に対する考え方が好きで、日本は結構住みやすい国だと思う。慶應矢上キャンパスにはハラルメニューがあるが、これは先輩から生協に提案しました」

降旗昇さん(同大学3年)は、慶應義塾大学IIR(国際関係会)というサークルに所属しています。メインの活動として、春休みと夏休みに2週間、さまざまな国の留学生を招いて企業訪問や東京観光、料理、旅行などを通じて日本を紹介し、相互理解を深めることを目的としたプログラムを主催しています。降旗さんは今回の研究会を自身の活動に役立てようと参加し、興味深く聞きました。

企画・運営・広報を支え 学びと成長を支援

「学生のやる気を維持するには?」という参加者からの質問に櫨木課長は、「ICCの学生スタッフの場合は、やる気のある学生を確保するために、格好いい、憧れてもらえるようなイメージを打ち出している」。また、「毎学期初めに学生スタッフ一人ひとりと面談をしてその学期の活動目標を確認し、学期修了後に振り返りをしてもらう。学生に、この仕事をやり遂げたら早大生のためにもなる、自分の将来にもつながると思ってもらえるような環境を一生懸命整えようとしている」と答えました。田中さんも、「職員の方に見守っていただけ、活動を続けることで自分自身の成長をすごく実感できる。自分の立てた企画のコンテンツや規模が、数年後にはより深くより大きく実行できるようになるのが楽しくて続けている」と語りました。

「自分の仕事を後輩にどうつなげるか?」という質問には、「下の学年の部員が全然入らなくて悩んでいた時期もあったが、プログラムのプロモーションビデオを作ってFacebookにアップして広報を全面的に押し出したところ、新1年生の入部が増えた」(斎藤さん)との答えがありました。

 (編集部)