全国大学生協連の研究会報告

大学図書館が学生とともに仕掛ける 読書推進活動

7月23日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する第28回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「学生の読書推進活動」をテーマに、アルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催されました。この研究会の概要をお伝えいたします。

大学生は本を読まないと言われて久しいものがあります。
2013年秋に実施された全国大学生協連の第49回「学生の消費生活に関する実態調査」では、1日の読書時間が0の学生が調査開始以来初めて4割を超え、社会的にも大きく注目を集めました。
今回は、そのような状況の中で大学の図書館が行う読書推進活動のとりくみを通じ、そこに関わる学生の変化し成長する姿、また現代大学生の読書の実状などを探ります。

図書館読書運動プロジェクトの 活動と今後の展望

専修大学経営学部准教授 佐藤康一郎氏

桜美林大学図書館メディアセンター課長 佐々木俊介氏

2005年に始まった本学の図書館読書運動プロジェクト(以下、読プロ)は、学生・教職員・図書館・大学生協が対等の立場で協同してつくりあげるプロジェクトです。 毎年の活動として、さまざまなテーマに基づく読書会や上映会を企画・運営し、海外の学生と意見交換をしたり、著名な作家や映画監督などのゲストを招いてトークイベントを開催したりしています。

桜美林コメント大賞

4年間で本を100冊読もう〟を合言葉に、10年以上にわたって大学生協が展開している「読書マラソン」。学生が書いた本のお薦めコメントを全国規模で審査し表彰していますが、本学では毎年11〜12月に本学生協で募集したコメントカードを対象に、独自で選考会を行います。審査は学生と教職員が協力してコメント大賞はじめさまざまな賞を決め、授賞式には有名作家を招いて、本について語っていただきます。

この選考、授賞式イベントなどの企画・立案・準備・運営は、全部読プロ学生委員が行い、教職員や図書館、生協は基本的にアドバイスや指導、具体的には学内手続きや経費処理を行います。学生たちには、依頼状の書き方や事務処理の仕方などを指導し、これが学生たちの学びと成長につながっていきます。

読書会

キャンパスのあちこちでさまざまなジャンルの読書会が、学生同士、あるいは学生と教職員との自主的な活動として行われている、そんな理想のもとに読書会が指導され開催されています。 学生の司会で「自分はこのフレーズが気に入った」「発言を掘り下げてみたい」などの意見が出ますが、自分一人で読んだだけでは得られない、いろいろな人の読み方、意見が新鮮で面白いと好評です。

読プロ本棚

図書館にはさまざまな本があります。しかし、多くの学生はなかなか自分から本を探しに行くという行動に至りません。それならこちらから目の前に出してあげようと、読プロで本棚を作りました。教職員ではなく学生企画なので、「こんな本を読む学生がいるんだ」と興味を引きます。

2011年には大震災がありました。こういうときにこそ本を読もう、読書を通じて何かできることはないかと学生たちが発案し、「祈望の本〜今だからこそ読んでほしい一冊」をテーマに教職員から広く本を紹介してもらい、図書館に推薦本を設置したコーナーを作りました。

2014年は「薄くて濃ゆい本」というテーマで、文庫本で100〜150ページの、薄いけれども実は内容が濃い本、それならば学生も手に取りやすいのではなかろうかと、雑談の中から出てきた案をそのまま形にしました。

学生の読書の嗜好

学生が圧倒的に好きなのは、文学・ミステリ・ファンタジー・ライトノベルなどのいわゆる娯楽的読書です。小説でいえば日本の現代小説が主で、例えば図書館のデータを見ても、海外の小説はあまり読まれなくなってきています。全国読書マラソンの応募作品でも、国内の現代小説が圧倒的に多い。外国の小説を読まない傾向があるのは、自分が行ったことがない場所、したことのない生活を想像するのがしんどいからかもしれません。

読まない(苦手)なジャンルは、哲学思想、政治、経済、歴史、地理、社会学、法学、産業、技術工学、医学、スポーツ…。授業のためには強制的に読むのかもしれませんが、こういう本はあまり積極的に読まれていません。専攻にもよるのかと思いますが、例えば自分たちがどういう社会で生きているのかを知るためには、このような本を読むことも重要です。食わず嫌いでは成長しないので、こうした本を学生たちにどんどん紹介していく、いわばノイズを注入してあげるのが図書館の使命であり、教職員の仕事、役目であろうと思っています。

今後の展望

私は、大学1年生のときと大学4年生のときの読書の傾向は違っていてほしいと常々思っています。1、2年生の頃に好きな本ばかり読むのは構わないと思うのですが、3、4年生になり勉強や専攻の学習をしていく中で自分の世界が広がっていき、別のジャンルにも目覚めていく。自分の世界を広げ、自分が今いる社会を知るための読書をどんどんしていってほしい。そして4年生になったときに、後輩に読書のアドバイスをできるような先輩になってほしいと思います。

図書館の蔵書を使って読書し、図書館の資料を使って課題、疑問を解決する。正しい情報、間違った情報を見極める眼を養い、学生たちが成長するためのツールとしてこれからも計画的に図書館を活用していってほしいと願っています。

「共読ライブラリー」による学修支援の試み

帝京大学メディアライブラリーセンター
グループリーダー(図書館課程 非常勤講師) 中嶋 康氏
チームリーダー 中満恒子氏

「共読」は読書の 発展的形態

帝京大学 中嶋 康氏

「共読ライブラリー」は、2012年に帝京大学メディアライブラリーセンター(以下、MELIC)が、編集工学研究所(松岡正剛氏主宰)と共同で立ち上げた、4年間のプロジェクトです。

本プロジェクトでは、個人的な読書を発展させ、本を読みあい、薦めあい、評しあう「共読」を全学規模で推進することによって、主体的思考ができる学生を育成し、学力の向上支援を目指しています。学生主体の「共読サポーター」は、学生をMELICに誘導し、読書を習慣化してもらうために、さまざまな魅力的な仕掛けづくりを考えています。

書架を通したコミュニケーション

黒板本棚を介して問答(問いと答え)をするMONDO書架は、共読効果を高めるために開発した書棚で、次の四つの入り口があります。

Special MONDOは、読書家のゲスト著名人が学生の質問に本で答える問答棚です。学生が悩みや質問を書いて投函すると、ゲストが質問に対する回答としてお薦め本を選びます。

ゲストからのメッセージとお薦め本は、MONDO selectionとして書棚に展示します。2012年の第1回ゲストは、ピース又吉直樹さんと女優の蒼井優さん、2014年はモデルの知花くららさんにお願いをしました。

Life MONDOは、人生を読み解く問答棚です。スタッフが交互にテーマを決めて、学生の日常における疑問、興味などを提示します。春の新学期には〝共読クリニック〟と称し、「新入生の悩みに答える」をテーマに本棚を作り、コメントを書いて悩み解決を助ける本を紹介しました。

Career MONDOは、人生の先輩や教員がキャリアを切り開くヒントを与える問答棚です。初年次ガイダンスで、新入生がグループを組み図書館の中を動き回り回答を見つける、宝探しのような「スカベンジャーハント」を実施しています。クラスの先生のお薦め本を聞く問題があり、書架には166名の担当教員からのメッセージと一緒に本を並べます。先生とのコミュニケーションを取りながら、友達づくりの機会にもなっており、好評を得ています。

TEIKYO MONDOは帝京の仲間がつくる問答棚です。学生同士、あるいは留学生や中学生のインターンシップで、書架づくりを通して自分のテーマを表現してもらいます。

学生自身がつくる共読ライブラリー


共読フェスタin青舎祭にて古本市

共読サポーターは、2012年に学生の中に読書コミュニティを広げていくことを目標に組織され、今年で第3期となります。共読サポーターの学生には、よりすぐれた読解力をつけて本を薦める表現力を向上させる必要があるので、一般学生より本を読んで理解していくと強い発信力になると励ましています。

主な活動は三つ、MONDO書架の作成、月例ビブリオバトル、OPACレビュー作成を中心に活動をしています。共読フェスタin青舎祭(帝京大学学園祭)では、古本市やコメントマーケット、ビブリオバトル等を実施しました。

また学外に向けた活動では、図書館総合展に出展し、日々行っている棚づくりに加えて、ワークショップを開催しました。全国の図書館関係者と触れ合う経験は、共読サポーターにとって大きな糧となっています。

読書コメントの循環とOPACレビュー

活動の一環で、帝京大学のコメント大賞としてOBI–1グランプリの企画を進めています。MONDO書架コメント、黒板に書かれたコメント、ビブリオバトル、学祭のコメント、先生の書棚のコメント、共読サポーターのコメント、それらを集めて賞を決定し、賞に選ばれたコメントで作った帯を本に巻き、MELICの棚に並べます。帝京大学以外ともコメントの循環ができないかと考えています。

また、OPAC(蔵書検索)を開くと、あらすじの下にレビューが出てきます。これも、直接書き込んだり、書架などの作業を集めて掲載する、というような作業を含めて、エネルギーを集約していろんな形で発信していきたいと考えているところです。

学生の方たちからの報告 課題は読書をしない学生に対するアプローチ

大学生の読書の実態

研究会には、都内の4大学から読書推進活動に関わっている7人の学生と、全国大学生協連の学生委員3人が参加しました。

大学生と読書について、「読む人と読まない人が二極化している」と発言したのは、読プロメンバーの斉藤彩華さん(桜美林大学4年)。1人で何冊も読むヘビーユーザーもいますが、多くの人はあまり読んでいないという印象を受けています。

出版甲子園に所属する太田菜摘さん(東京大学2年)は、本が好きな人が集まる団体に所属しているので周りの学生はよく本を読んでいますが、「やはり現代小説が好きな人が多い。大学入学後に教授が薦めてくれた本に触発を受けて、哲学思想や政治などの学術書は結構読む冊数が増えたが」と述べました。

全国大学生協連学生委員の中村洋平さん(奈良教育大学卒)は、「調査では本を読まない学生が増えているというデータが出ており、自分も読まなかった方だが、在学中の学生委員活動の中でも部活の仲間においても、読む人は読んでいた。そういう人が表に出てこないだけではないか」と言い、また、学術的な本を読む機会が減っているということに関しては、「やはりスマートフォンの影響が大きいかと思う。Gunosyなどの手軽に情報を得られるアプリで少しだけ経済や社会のことを調べて満足しているのかと感じている」との意見を述べました。さらに、小説は内容がイメージしやすく、学術書などはイメージしづらいので、高校の頃から学術書を読む訓練をしないと、読むのは小説だけという大学生になってしまうのではないかと投げかけました。

佐々木課長はそれを受けて、「自分が経験していないことを想像しながら読書をするという訓練ができていない学生が、日常を描いているような、入っていきやすいところで止まっているのかと思う」と述べ、中嶋グループリーダーも「拾い読みや要点を抜き出すというのは高度な技術で、そういうスキルはやはり普段から多く読んでいないとなかなか難しいと思う」と述べました。

読書をしない学生を 読書に誘うために

「読書をまったくしないという学生にとって、小説や学術書を読むということは非常にハードルが高いと思う。読書に対する負のイメージを払拭して、魅力的なものと伝えたい」(斎藤さん)という意見には、大谷幸裕さん(帝京大学 科目等履修生)も「本を読む人へのアプローチとまったく本に興味がない人へのアプローチ、二つを考えて、共読サポーターの活動をしている。重要なのは後者だ。本をまったく読まない学生の持つ、図書館に対する硬いイメージを変換していくために、MELIC内でビブリオバトルを開催したり、本棚づくりで光の具合などの工夫を施して活動している」と述べました。太田さんは「自分が読んだ感想をほかの人と共有して、相互に交流するというようなきっかけさえあれば、読書は広がっていく」と考えています。

活動に対する手ごたえを聞かれると、「本を人に薦めるというのはなかなか難しい作業だが、読書会などで参加者に自分が今まで読まなかったようなジャンルの本を提案され読むことができると、視野が広がる」(斎藤さん)、「図書館が好きで、図書館の活動に魅力を感じて共読サポーターに入った。ビブリオバトルや学祭の古本市などの実施で少しでも話題になり、来館者が増えたと思う。図書館に来て本に囲まれた環境に浸ることによって、本を読まない人も読むようになるのではないか」(大谷さん)との意見がありました。

電子書籍は普及するか

電子書籍の導入について佐々木課長は、「海外ではKindleなどが普及しているようだが、小中学校でそのような電子媒体で本を読み、調べ学習をするということに慣れた子どもたちが大学に入ってきたら、大学図書館も蔵書のあり方、収書についてあらためて考えなくてはいけないとは思っている。遠い話ではないが」との考えを述べました。

中嶋グループリーダーも「電子書籍には一般的な書籍と学術書的なもの、テキスト類などがある。MELICでは3年ほど前から導入しているが、著作権の壁が厚くて、図書館で使おうとすると、なかなか許可が下りない」と課題を指摘しました。 (編集部)

※出版甲子園…学生を対象に本の企画を募集し、出版コンペイベントで出版する企画を選ぶ学生団体。
 詳しくは http://spk.picaso.jp/

※東京大学、桜美林大学学生の方は仮名です