全国大学生協連の研究会報告

後ろ倒し日程で大きく変化した16年卒の就活
学生の動きと支援サイドのとりくみは?

4月8日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する第30回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「就職活動の今 以前からの変容」をテーマに、青山学院大学で開催されました。 この研究会の概要をお伝え致します。

今年から就職活動(就活)の日程が大きく変わりました。

企業側からの説明会など情報提供の開始が3年生の12月から3月へ、採用選考活動開始が4年生の4月から8月へと後ろ倒しになっています。

このような変化の中で、学生の実際の動き、それをサポートする大学キャリアセンターのとりくみ、また企業側の採用活動がどのように変化したのか、3月1日から1カ月余りを経た今、それぞれの情報を伝えていただきました。

青山学院大学の就活状況
大学や校友会と協力して 年間400以上の支援行事を実施

青山学院大学 進路・就職センター部長 薮田 洋氏

青山学院大学 進路・就職センター部長 薮田 洋氏

データに見る進路状況

本学がホームページ等で公開しているのは進路決定率(進路決定者数(就職者+進学者)÷卒業生数)と就職者率(就職者数÷卒業生数)です。  

データが揃った2013年度の進路状況では、進路決定率は全学平均88.6%(男子87.3%、女子89.9%)、学部別の進路決定率も平均80%~90%台の数字が並びます。本学は大学院進学や留学をする学生も多く、この数字を重視しています。

就職者率は全学平均80.0%(男子75.6%、女子84.0%)で、女性が就職に強い大学と言われます。ちなみに厚労省・文科省調査で使われる就職率で表すと94.1%です。私どもは1学年4千名強の学生の進路をほぼ100%捕捉していますので、これらの数字は非常に信憑性が高いものと思われます。

2013年度の就職状況

学生の就職先を見ると、文系では圧倒的に金融機関に強いといえます。公務員・教員には毎年約170名がコンスタントに進んでいます。理系は電気機器メーカー中心に技術系の企業に就職しています。文理融合の社会情報学部の就職先はさまざまですが、やはり情報系の企業に多く入っているのが特徴です。

規模別では、資本金10億円以上、あるいは従業員千名以上のいわゆる大企業に行く学生は約半分、あとの半分は中堅中小企業に行きます。上場・非上場では圧倒的に非上場の企業が多く、上場企業に入るのは文系で20%、理系で40%弱です。従って大企業ばかりを見ないで、むしろ第一志望とする企業の状況を見るようにと指導しています。

進路・就職支援体制

進路・就職センターは大学の就職部委員会と協議を重ね、学内外の機関と協力してさまざまな支援を行います。学生には大学生活を有意義に過ごしてほしい、その経験が就職を含むキャリアプランにつながるのだと常に話しています。大学が開かれる1年約250日に400以上の支援行事を行い、ほぼ毎月実施する学内説明会には1200以上の企業に出展いただいております。

私どもの活動は、校友会と一体となった支援を数多く行っているのが特徴です。校友会も在校生の就職支援に熱心で、15業界40社以上の企業から参加するOB・OGに実際的な仕事や業界の話を聞くセミナーを実施しています。これらの支援行事は全学年対象で、1年次から多くの学生が積極的に参加します。校友会による支援行事は年間20を数え、述べ1500人以上の学生の参加を得ます。その内容は、模擬面接や模擬グループディスカッション、OB・OGと話す〝しゃべり場〟の設置など多岐にわたっています。

センターでは週3回学年ごとにキャリアアドバイザー講座を実施し、ガイダンスのようにマスの講座でなく、小規模な講座を段階的に位置づけ、さまざまなプログラムを走らせております。インターンシップの提供、個別相談も行っております。

現状と今後の動き

今年度は就活日程の変更に合わせて全体のスケジュールを少し遅らせたのですが、残念ながら学生はプログラムどおりに動いてくれなかったというのが、率直な感想です。  

3年次は動き出しが鈍く、学内行事の参加率が低かったと思います。「景気回復」や「売り手市場」という言葉に惑わされるなと提言していましたが学生の実感を得られず、早く動いた者と準備不足の者との間に開きが出て、二極化した印象があります。内定出しが早まっても決められない学生が増え、結果として就活が長期化する恐れがあります。  

昨年の4年生については、前年度に比べ大手に内定を得たという感触はありましたが、大手に決まらないと早々にあきらめて卒業延期制度や留年に走る傾向が見られました。内定が決まらない学生には6月から電話をかけ続けましたが、コールバックが少ないのが残念です。


青山学院大学の就活状況
後ろ倒し日程に混乱する学生 就活長期化への不安も

青山学院大学 経営学部教授 就職部長 高橋 邦丸氏

青山学院大学 経営学部教授 就職部長 高橋 邦丸氏

私のゼミでは、ビジネスプランの策定と企業向けにマーケティングプランの提案をしています。本日はゼミに所属する新4年生の就活状況について報告しますが、男女合計15名というかなり限定された内容であることをご了解いただければと思います。

インターンシップの 参加状況(2014年8月~)

エントリーが12月から今年の3月にずれ込んで、学生もインターンシップに出ないと不安に思ったのか、かつてないほどの参加率でした。  

期間は圧倒的に1日(ワンデー)が多いのですが、これは企業側の思惑も絡んでいるように思います。エントリーは誰でもできますが、優秀かどうかは分かりません。しかし、学生に接触する機会を多く得ることで、いち早く優秀な学生を集められるのがこのワンデーインターンシップなのではないでしょうか。

エントリー開始前までの動き(~2015年3月)

インターンシップ後、夏休み明けから3月までは、セミナー・イベント参加がありました。  

グループディスカッションや課題解決型ビジネスゲームを行うというパターンがあり、これにより学生の能力を判断し、優秀な学生をピックアップできます。このイベントについては、学生はTwitterやFacebookから情報を得ていました。

一方、IT系やマスコミ業界などのいわゆる新経団連企業については、ガチ選考です。本学にはマスコミ志望の学生も多く、8月からの本格的な選考の予行演習として受け、面接を通過した学生も多く見られます。

エントリー開始後の 就活状況(2015年3月~)

3月以降は就活解禁ですが、本学は学内説明会が大変充実しており、多くの学生が参加して混雑している状況です。リクナビ・マイナビ主催の説明会は規模が大きすぎて行くだけで疲れますが、学内だと行きやすく、さほどお金もかかりません。

一方で、就活サイトで企業情報やエントリー開始の情報を収集、あるいはOB・OG訪問で業界や企業をより詳しく研究するという動きがあります。企業独自で説明会を行う会社もあり、参加するとその後社員座談会や体験セミナーに進み、広い意味での選考が始まっていくというようなところが、現在の状況です。

期間変更に伴う戸惑い

就活時期の後ろ倒しに伴い、3月以降にエントリー・説明会・インターンシップ・セミナーが混在しているという状況になりました。学生もかなり混乱していて、何か集中しきれないという声も聞こえてきます。

企業も、エントリーして初めて説明会に参加できる、あるいは説明会に参加しなければエントリー不可というように対応がバラバラです。人気企業はエントリーが数分でクローズされるということもあり、なかなか希望の企業にエントリーできないという問題も指摘されます。

形式上8月に面接がありますが、ESの締め切りが3月中で、5カ月先のことを今、決断しなければいけないという状況にもなっています。

また、就活サイトの開設が3月になり、大企業と同時に中小企業の情報も得られるのですが、学生は中小企業の情報収集まで手が回らず、大手に目が行ってしまいがちです。ずれ込むということは中小企業にとっては必ずしもメリットにならないのではないかという懸念が残ります。

そもそも就活の時期を後ろに倒したのは、学生の本分である学習期間を保証するということからでした。昨年までは12月開始で実質5カ月以内に就活を終わる人が多く見られましたが、今回はエントリー開始が3月、面接等は8月から始まるので、5カ月以内に終わるということはありえなくなりました。

企業は短期間にまとめて採用活動を行うので、学生も今まで10社受けていたのが5社しか受けられないという状況も発生する可能性があり、意外と就活が長期化するのではないかと予想しています。


インターネットで激変 学生の就活20年を指導して

ハナマルキャリア総合研究所 代表取締役 上田 晶美氏

ハナマルキャリア総合研究所 代表取締役  上田 晶美氏

1994年に日本初のキャリアコンサルタントとして創業し、大学生の就職、社会人の転職に関する講演・執筆活動を続けてきました。今では全国20大学に就職の講座を持ち、主催するハナマル式就活セミナーは今年21期生を迎えます。

アナログからデジタルへ

1996年、就活はリクルートと言われ、スーツの色は紺、グレー、ベージュ(女子)が主流でした。パンツ姿あり、スカーフがトレンドの年もありましたが、黒は一人もいませんでした。それが一変して2000年代には黒が主流となり、ここ10年は真っ黒。不景気になったのが大きいかと思います。

*1990年~ アナログ時代

1990年頃は、大学の就職部は求人票を扱うのみでした。リクルート社より学生に求人誌が送られてきて、学生は資料請求ハガキに手書きして企業に送りました。リクルート社がリクナビのサービスを開始し、電子メールのやり取りが始まるのが96年ですが、一般に普及するのは99年ぐらいで、まだこの時代、インターネットはほとんど使われていませんでした。  1997年末に山一證券の自主廃業があり、私の講演していた「転職フェア」に転職希望者が溢れました。それまでは転職する人は少なかったので、リストラ、失業時代を実感したのがこの年からです。

*2000年~ デジタル時代

リクナビが広まり、ナビに登録してネットで説明会に申し込むというスタイルが2000年にかけて定着し、インターネットの時代になりました。エントリーシート(ES)が導入されたのもこの年からです。「就活ビッグバン」ともいえる大変革となり、学生は100社エントリーするのは当たり前、企業側には何万通というESが来るという爆発的な状態になりました。  就職難だけでなく転職難もあり、小泉内閣は01年にキャリアカウンセラーを5万人養成すると発表。キャリア教育の重要性が強調され、04年からのニート問題深刻化、08年のリーマン・ショックとそれによる内定取消し問題などで学生の就職状況が悪化したのを受けて、10年には文科省から大学教育において全学的にキャリア教育を取り入れることが義務付けられました。

最近の学生の傾向

学生に「転職に有利な仕事はどんな仕事ですか」と就職のときに聞かれて驚いたのが2000年頃です。自己分析好きな学生が現れました。2度の大震災を経た影響で「地元の役に立ちたい」と願う学生が増えてきたとも感じます。

2010年以降の傾向としては、「ブラック企業」という言葉がヒットして、学生は口々にブラック企業の見分け方を聞いてきます。働くことをおそれていると感じます。  学生の9割以上がアルバイトをしていますが、アルバイト先と就職先とをまったく区別して考えています。「アルバイトもインターンシップのつもりで行き、そこから経験を広げなさい」と言いますが、アルバイト先には入りたがりません。

また、非常に親子関係が密接です。学生はエピソードとして親への感謝をやたら話します。親も就活に入り込み、大学に頻繁に問い合わせをします。

最近よく言われる「女子の専業主婦志向」ですが、ここ5年ほどの私が取っている学生アンケートでは、保守化して専業主婦になりたいという傾向はありません。むしろ、男女とも「働くのが怖い」傾向があるのです。女子には専業主婦という言葉があるので、それがうまく使われていると感じます。  それよりも最近出てきたのが「ロンキャリ女子」です。「進学総研」が高校生にアンケートし、女子の6割がロングキャリア、結婚しても長く働くことを志向しているという回答を得ました。働き続けたい59・9%に対し、専業主婦希望は27・3%しかいないのです。

まずは志望業界の決定を

今年、就活期間の後ろ倒しが大きな話題になっています。私は就活も大事ですが学生生活も大事で、やはり3年の活動を終え諸活動の引継ぎ後、4年から就活という流れが学生にはベターだと思っています。面接でゼミの研究を問われても12月の段階では答えられません。ゼミやテーマが決まる3月ぐらいでないとESも出しづらいのではないかというのが指導における実感です。

今年、就活が短期化すると言われ、面接に行ったりESを書いたりが混在すると思われますが、ハナマルで20年間指導してきた肝は、一人ひとりの志望業界を決定させることです。まず二~三つに業界を絞り、受ける会社を大企業だけでなく、中小企業も含めてリストアップし、一緒に検討していきます。途中で志望業界が変わっても大筋がブレないように、無駄にならないようにと指導しております。


学生の方たちからの 意見
前例のない日程で模索しながら 真摯に就活に向き合う

研究会には都内の大学から6人の4年生が参加し、4月初旬現在までの就活経験を報告しました。ほとんどがゼミや卒論の方向性を決め、意欲的に就活に取り組んでいます。

準備は早いほどいい?

「就活は早めに始めた」と口火を切ったのは日本大学の斎藤潤さん。3年の4月からインターンシップはワンデー・長期どちらも受け、ニュース検定2級を取りました。法政大学の谷芳樹さんも3年の8月にインターンシップに参加しましたが、周りは今年の3月から就活を始めるつもりの人が多かったので「インターンも受かりやすく、気持ちに余裕ができた」と言いました。2年から就職を意識して動いたという林裕美さん(専修大学)はさまざまな業界のガイダンスに積極的に出席した結果、志望業界を絞り込むことができました。総じてインターンの参加は多く、現在は登録企業の説明会や面接に進んでいる段階です。

プレエントリーはサイトでクリックするだけで完了するので、出席した学生は平均30~40ほどの企業に登録していました。3月1日解禁と同時に企業でセミナーの申込みを受付けますが、人気の企業は0時00分以前に準備しないとすぐに満席になるので苦労したといいます。

さまざまな活動が 就活に生きる

上村美月さん(慶應義塾大学)は8月から始めた就活とゼミの論文を常に並行して進めてきました。11月のゼミ発表終了後に就活に本腰を入れ、約20社のOB訪問を終えました。伝統的にOBとの結びつきが強い校風で、ESの添削や面接の練習を先輩に頼むこともあります。  拓殖大学の磐田良喜さんは昨年の春、1年後を見据えて何か誇れる活動をしたいと思い、NPO法人の学生ボランティアや大学生協の学生理事の活動をしてきました。

谷さんは弁論部と東日本大震災の復興ゼミに所属し、陸前高田でフィールドワークをしました。3年の夏に就活を始めたとき、心に引っかかることをしたいと思い、群馬県嬬恋村で3週間の農業インターンに打ち込みました。知り合った他大学の仲間とは今でも交流があります。このときの体験は卒論のテーマに影響を及ぼし、就活の自己アピールにも生きました。

インターンシップの実情

参加者からインターンシップについて聞かれ、「インターンシップって就業体験という意味だと思いますが」と切り出した別府高志さん(早稲田大学)。「5日間グループワークに取り組んだだけでした」。小林さんも就業体験を謳ったカリキュラムに参加しましたが、企業秘密と言われ、実際は社員の話を聞くだけでした。  これらの実例を受けて薮田センター部長は「インターンシップは整備をするべき時期にきたと思う」と述べました。もともと進路・就職センターでは学業日以外で5日間以上のインターンシップしか薦めていませんでした。しかし、企業からワンデーの申し出が多々あり、その内容が就業というより会社見学・説明会に相当すると思われるので「本来のインターンシップとは別物だということを学生に分かるようにしてほしい」と関係者に訴えました。

後ろ倒しは学業に不利?

進行中の就活期間の後ろ倒しには賛否両論がありました。「早く始めた分、人に一歩先んずることができた」(斎藤さん)、「3月解禁とはいえ、周りはそれ以前からインターンに動いていた人が多く、日程変更は学生の意識によっては影響ないと思う」(別府さん)との意見がある一方、卒論との両立を危ぶんだり、教育実習の期間とぶつかり教員免許取得には不利だとの声もあり、「中小企業と大企業の選考がかぶると、多くの学生は大企業の研究に精一杯で中小企業に割く時間は取りにくくなる」(磐田さん)との見解もありました。  林さんも「前例がない分どう動いていいか分からなくて焦る」と言い、上村さんは「授業と重なる、先輩は卒業しているのでアドバイスがもらえないという点に加え、早期から始めている人はすでに内定をいくつか持っているのでストレスを感じる」と率直に心情を述べました。

ありのままの自分で勝負

「就活と並行して院進学や公務員への道を考えているか」という質問には全員が「考えていない」と答えました。磐田さんの周囲は「公務員志望者の多くが試験勉強に絞り、民間の企業は1社も受けていない。また、院試は9月にあるので、進学希望者は入試1本に決めて7、8月は勉強一筋」という状況です。

仮に就活に失敗したら、「就職浪人をして来年再挑戦する」(谷さん)、「海外に1年間ワーキングホリデーとして行った後、再び就活するという人が多い」(上村さん)という意見がありました。全員共通して、面接やESで自分のエピソードを大きく見せる、いわゆる“盛る”ということはしないで自分の素で勝負したいと言い、真摯に就活に向き合う姿勢がうかがえました。(編集部)

*学生の方はすべて仮名です。