全国大学生協連の研究会報告

海外という場で自分と日本を見つめ直す将来に結び付くような経験も

去る12月14日、全国大学生協連が後援し報道関係者が参加する第33回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「大学生が海外に行くこと〜学生の変化と大学のとりくみ」をテーマに、大学生協渋谷会議室で開催されました。この研究会の概要をお伝えいたします。

この研究会では前回、学生の「内向き」志向をテーマに、当連合会が2014年に実施したWeb調査結果に基づく分析を報告していただきました。今回は、学生が海外に行くことに焦点を当て、社会でグローバル人材が求められている今、大学の現場で実際に行われているとりくみや、海外体験を経た学生自身にみられる変容と効果、意識の変化などについて、ご報告と意見交換を行いました。

海外教育プログラムのとりくみと大学に求められている役割

明治学院大学 国際学部 准教授 齋藤 百合子氏

明治学院大学 齋藤 百合子氏
明治学院大学 齋藤 百合子氏

今、学生が内向きだといわれ、文科省の調査などからも学生の海外派遣者数や海外留学者数が減少していることがみてとれます。

しかし、私が国際学部の学生を見る限り、全体的に内向きという感じはありません。学部内には海外に関心がない学生ももちろんいますが、海外志向が非常に強い学生も大勢います。また、関心はあるが経済的理由でとか、英語に自信が持てないとか、何かきっかけがあれば行くのだがという学生も多く、二極化もしくは三極化しているといえます。

本学が実施する海外プログラム

本学には、長期・短期留学の協定を結んでいる大学が複数あり、毎年多くの学生をさまざまな国に送り、海外からも留学生を受け入れています。そのほかにも、国連ユースボランティアや、ボランティアセンターのスタディツアーで海外に学生を送っています。

また、本学は留学以外にも海外で多彩な教育プログラムを実施しています。国際学科ではゼミ単位で海外視察や海外でのプログラムを行う校外実習をほぼ30年間行っており、世界各国と、日本では広島に学生を送っています。

国際学部の学生を対象に行うフィールドスタディでは、私はタイを中心に東南アジアを担当しています。また、インターンシップも担当しており、海外ではオーストラリア・香港・インドなどで、また国内でも行っています。海外と国内を往復すると、海外に行ったからこそ日本が見える、日本にいるからこそ海外が見えると、そういう感覚が芽生えるように感じます。

海外インターンシップの概要

国際学部のインターンシップは2年生以上が履修できる選択科目で、授業+インターンシップ150時間以上+振り返りで6単位、100時間以上ですと4単位です。

学生の送り先は大学が協定を結んでいるところで、オーストラリアには3校あります。5カ月間の日本語ティーチングアシスタントをした学生の、受け入れ先での評判は上々です。香港では、日系の会社とインターンシッププログラムを6年前に開発し、毎年8月に4週間送っています。もう一つ開発したプログラムは、人材紹介業の会社のマレーシア、シンガポール、インドで展開する現地法人に、有給で学生を6カ月間受け入れてもらいました。

評価は、事前研究、ジャーナル(日誌)、事後洞察(発表やレポート執筆を含む)に、インターン先からの評価票を加味して決定します。

海外での体験をその後の学修と関連して結び付けることはなかなか難しいと思いますが、私は、非常に良く仕組まれ、プログラミングされたインターンシップは、短期間でも効果は大変高いと思っています。

異文化体験としてのインターンシップ

バンコクでもワシントンでもサンフランシスコでもデリーでも、都市にいれば私たちはあまり変わらない生活ができます。しかし、その国の農村とか、不便なところに行くと、全く違う文化が体験できます。

ZIBASAN プロジェクトは、徳島県木頭村で行っているインターンシップの一つです。学生は、徳島から1日に3本しか出ないバスで3時間かけて過疎の山村に行きます。その村で六次産業や炭焼き等を体験し、リサーチして改善点をプレゼンするのですが、そこではタイのカレン族との織物を通した交流、柚子じゅれのフランス輸出、オーストラリアからの移住など、目覚ましい国際化が行われています。

学生は最初、「コンビニもお店も何もないところで自炊しろと言われても、どうしていいか分からない」とカルチャーショックを受けました。しかし、夜になると村の人たちがおかずを作ってきてくれたり、野菜を届けてくれたりして、人と人が結び付いて生かされているのだということに気付きます。これはとても大きな異文化体験だと思うのです。

海外に出て多様な文化や価値観に出会うことで、日本を相対化してさまざまなことに気付く機会は多いと思います。しかしこれは海外だけで培われる能力ではなく、海外でも日本でもどこにいてもマインドセットすればついていく能力ではないかと、私は学生に言っています。

グローバル人材(財)とは

グローバル化社会で求められる要素というのは、言語だけではなく、教養や専門性や創造力などを持ち、何か困難に当たったときにそれを解決して新しいビジョンを見出す力だといわれています。

大学の役割とは、企業が求めているような人を育てて、送り出すことではありません。それは、地球規模で世界が抱える種々の課題に、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識を持ち、きちんと物事を考えられるような人間を育てることです。ただただ「企業が欲しい人」に合わせるのではなく、もっと広い意味で社会を考えていけるような人を育てて送り出していくことが、大学が今、求められていることなのではないかと思います。

危機管理の重要性

多くの研究会で長く危機管理に携ってきましたが、私は次の三つが基本だと思っています。第一に学生および引率者の生命の安全。二番目は、その経験を通して学生が何を学ぶのか、その学びをサポートするという使命が私たちにあると感じています。最後の三つ目は、教員と学生だけではなく、大学、保証人、関わる旅行会社などいろいろな方々との情報共有と説明責任を明確にするということです。海外に行く学生を支援する大学は、この配慮を忘れてはならないと思います。


スタッフが自ら構築した「ASIAインターンシッププログラム」

神田外語大学 キャリア教育センター次長 杉本雅視氏

芝神田外語大学 杉本雅視氏
神田外語大学 杉本雅視氏

私は大学勤務の傍ら、家族で留学生寮の管理・運営を兼務しており、現在までの14年間で延べ約300名の交換留学生を受け入れてきました。

留学生の出身はインドネシア・韓国・台湾・タイ・スペインなど多岐にわたります。現在キャリア教育センターでは、これからお話しする海外インターンシップの実施について取り組んでおりますが、留学生寮での管理業務を通し、日本人学生と留学生の比較ができるのが、現在の仕事にも役立っているのではないかと思います。

学生の安全確保と充実した研修のために

さて、本学が行う学生の海外派遣プログラムには大きく分けて、(1)長期留学、(2)短期研修、(3)国際ボランティア、それに(4)海外インターンシップがあります。いずれも本学が単位認定をしており、2014年度はこれらのプログラムに計485名の学生が参加しました。

現在私が仕事でかかわっているのは、長期休業期間に行う海外インターンシップです。本学では特にアジアに力を入れており、「神田外語大学ASIAインターンシッププログラム」を構築しています。このプログラムが本格的に始動した14年度夏には、23名の学生が参加しました。15年度はインドネシア・タイ・ベトナム・台湾・インド・シンガポールに37名の学生を派遣し、学生はこれらの地域の日系企業を中心に3週間の研修を行います。

一般的には、留学やインターンシップの場合にはエージェントを介することが多いのですが、本学の場合はキャリア教育センターのスタッフが、事前に直接現地に赴きました。一社一社企業を訪問し、学生の受入れを依頼したほか、滞在先のホテルを探したり、場合によっては一軒家を借りたりなど、とにかく自分たちの足で探して実施しました。

それは学生の安全と、参加しやすい研修費用を設定するためです。海外に行く懸念事項の一つは費用が高いことですが、昨年夏は滞在費・航空運賃すべて含めて、インドネシアとタイは18万円、ベトナム・台湾は16万円でプログラムを構成することができました。昨年、最終的には外部エージェントを仲介した学生も含め、56名が海外インターンシップに参加しています。

同行スタッフは渡航後直ちに、宿泊先から研修先まで学生に付き添い、通勤経路の確認を行ったりするほか、就業感育成を目的とした海外の現地法人で働く卒業生や元留学生との交流会を全ての地域で行いました。

研修先は人材紹介会社や新聞社、不動産会社など、多岐にわたります。学生は、インターンシップ期間中は宿泊先からそれぞれの企業に出勤し、毎週の反省会を行い、お互いに振り返りをしました。帰国後は、報告会というかたちで4回に分けて学生に発表をさせました。

学生の変化とプログラムの目的

参加学生からは「期待以上の知識を身に付けることができた」「想像していた以上に厳しい内容だったが、その分、自分の殻を破ることができた」などの感想が寄せられました。「自分のキャリアの糧になった」「海外での体験がその後の学生生活への意欲や将来の進路につながった」という声もありました。

私は金銭的に可能であれば、長期休業期間中にプログラムに参加することは意義があると感じています。ただ、注意すべき事項は目的を明確化させること。1カ月程の期間では語学力と就業力の両方の育成を望むのは、やはり無理があると思えます。ですから参加前に、目的は短期語学研修なのか、インターンシップの就業力なのかをはっきりさせることが重要です。私は、可能であれば、低学年時に短期語学研修などに参加を促し、その後高学年の長期休業期間中に薦めるプログラムとして、海外インターンシップは有効だと思います。

また、大学が工夫を重ねれば、学生に参加しやすい費用を提示できます。インターンシップの場合は海外の大学に授業料を支払う必要がないので、極端な話、旅費と宿泊費用で賄うことができるといえます。

学生のコメントからは「家族について振り返るようになった」「国際情勢について考えるようになり、新たな学業のテーマを見つけられた」という副次的な効果もうかがえました。本学の利点として、これらの問題意識をカバーする授業科目が揃っていたのは幸いだと思っています。私は、留学生寮で交換留学生との交流を通して本学学生と比較できる立場にありますが、実際のところ日本人学生の質については引けを取らないと感じております。

これからの課題

現状の海外インターンシップの問題点としては、手間がかかることと、学生の派遣先によって効果に差が出るということがあります。今回37名を25社に送りましたが、きちんとプログラムを構築してくれる派遣先とそうでないところがあったので、その質のばらつきはこれからの課題かとは感じています。

また、私どもは独自でプログラムの構築をしておりますが、それも本学のスタッフでできるのは年間60〜70名くらいかと思っています。今後海外インターンシップに年間100名送れたらと計画していますが、3、4割は外部のプログラムの力を借りながらと考えております。特に欧米圏のインターンシップにおいては、本学は独自の開発はちょっと厳しいかと思っています。今、アジア圏で20万以下に研修費用を抑えたことによって参加者が増えてきましたが、欧米ですと、やはり倍以上はかかってきます。

学生の経済的な負担を抑えたうえで、独自開発プログラムと外部のプログラムをうまく組み合わせながら、安全面も考慮して行っていこうというのが今本学の考えているところです。


学生の方たちからの意見
海外へ行く目的はそれぞれ経験を経て見える景色が変わってくる

研究会には、三つの大学からの学生と全国大学生協連の学生委員の計5人が参加し、海外での経験と自身の意識の変化を報告しました。

"Think globally,Act locally"

斎木陽子さん(明治学院大学4年)

高校1年次に1年間ニュージーランドに留学し、ホームステイも経験しました。現地の学校は、途上国の学生や難民の受け入れもしていたので、非常に自分の価値観が変わった経験でした。

大学入学後は、2年次に香港でインターンシップを約1カ月間経験したあと、3年次に内閣府のグローバルユースリーダー育成の「世界青年の船」と呼ばれる事業に参加しました。ここで世界9カ国の青年たちと学び関わるうち、自国を客観視して身近なところに眼を向け、日本を良くしていきたいと思うようになり、昨年度は休学して熱海で1年間街づくりに携わるインターンシップをしていました。

海外で視野が広がりいろいろな価値観や大きな問題を学びましたが、ここでそれをアウトプットできる場を得られたと思いました。

人との関わりが大好き

高木亮介さん(神田外語大学3年)

インドネシアで日本語教育の補佐ボランティア、通訳ボランティアでアメリカに認定留学、シンガポールでインターンシップをしました。

海外インターンシップでは、最初は業者を通したものの、なかなかうまくいきませんでした。そのときに父親に渡された1枚の名刺から、初めて自分で海外の会社にメールを送って受け入れのお願いをし、宿泊先も現地の友達の実家に自分で頼みました。ホストファミリーは家族のように接してくれ、帰国後も連絡を取り合っています。インターンシップ先では、社長の運転手さんに興味を持ち、話しかけてみました。その人は自分の仕事に誇りを持っていて、すごく幸せそうに感じました。

たくさんの出会いと友達があり、人と一緒にいることが楽しくて家族のように過ごせる。それは幸せなことだと海外で気付きました。

自力で設定したインターンシップ

木原辰則さん(神田外語大学3年)

小学生のときに父を失い、その後母も病気になったので、海外への夢は高校まであきらめてきました。

大学1年の春休みに1カ月間マレーシアの大学に留学しました。イスラム圏であり、シリアやイエメンやオマーンの学生と政治・経済の話をしたのが心に残っています。帰国後は国際情勢に興味が向かい、自分にも何かできないかと考えるようになりました。
3年の夏に1カ月間、フィリピンにインターンシップに行きました。自分一人でどこまでできるか試そうと思い、大学などを通さず、全部自分で行いました。フィリピン人のエージェントと二人でいろいろな会社に電話をかけて決めた研修先は、日本人は僕1人、後は全員フィリピン人とスペイン人でした。宿泊先も情報収集をして自分で探しました。自分で考え自分で行動できたのは良かったと思います。

学業に発展するような留学なら

辻幸弘さん(※出版甲子園・慶應義塾大学1年)

日本の小説や漫画が中国で人気が高いのを知りました。国や政治レベルでの関係は必ずしも良くはないが文化面ではつながっている、そんな仕事を将来したいと思い、大学入学後の夏、北京に2週間語学研修に行きました。午前中は現地の学校で勉強し、午後は自由に観光や現地の学生と交流するプログラムでしたが、一番良かったのは友人ができたことでした。今でもLINEなどで近況報告をしますが、友達がいるかいないかで、その国に対するイメージも変わってくると思います。

僕が大学に入ったのはキャリアアップに役立てるためではなく、文学の勉強をしようと思ったためなので、休学して海外に行くということはあまり考えていません。中国で漢詩の勉強をしたいと思ったら行くと思いますし、同様に海外インターンシップも、学業に結び付くような経験があればやろうと思います。

海外での経験が土台にある

菊池愛梨さん(全国大学生協連・前全国学生委員・大阪教育大学休学中)

小学校3年生まで5年間シンガポールに住み、そこでの異文化体験が帰国後に自分の価値観の土台になりました。また、自分の考えを外国の方に伝えられることの楽しさを感じ、それが今の英語教育専攻という進路につながっています。

身近な学生との話で、留学を望まない人の理由には、「英語が苦手」ということもありましたが、特に多かったのは「留学する必要性を感じない」という意見でした。もっとコストパフォーマンスのいいかたちで、日本でいろいろな経験ができるということです。また、「日本の地域のことに関して仕事をしていきたいので、海外に行くよりはもっと国内のさまざまな場所に足を運びたい」と言う人もいました。

私自身は経験から、海外に行くことには価値があると思うので、時間があれば多くの学生が行くべきだと感じています。

(編集部)

※出版甲子園についてはこちらから→http://spk.picaso.jp/

*学生の方のお名前は仮名です。

『Campus Life vol.46』より転載