3月22日、全国大学生協連が後援し報道関係者が参加する第34回「学生の意識と行動に関する研究会」が、
「18歳選挙権〜学生の社会的活動や関心と政治とのつながり」をテーマに、大学生協杉並会館にて開催されました。
この研究会の概要をお伝えいたします。
7月の参議院議員選挙より18歳選挙権導入が決まり、この間さまざまな報道がなされています。全国大学生協連の調査からは、学生の政治への関心が高まったという報告も得られました。
今研究会では、社会を創生する市民として若者を育てる大学内外のさまざまなとりくみをご紹介し、現代の若者が抱く社会や政治への意識と活動を探りました。
東洋大学 林 大介氏
18歳選挙権について、今の若者は政治・選挙に関心がないから選挙に行かないだろう、政治のことを話しても分からないだろうと言われています。
20歳代の投票率は30歳以降の年代に比べると極めて低く、政府に対する不信率も世界各国の20代の中では最も高いというデータが得られています。新聞の世論調査では、成年年齢の18歳引き下げに反対する割合は20歳代が他の年代に比べて最も多く(66%)、「大人としての自覚がない」「精神的に未熟」等を理由に挙げています。社会問題への関与や社会参加の意識も各国と比較すると相対的に低い状況です。
しかし、今までの20歳選挙権でも、その年齢に達するまでに学校や家庭や地域で主権者としての責任を育む教育がなされてきたかというと、疑問を感じます。少なくとも子どもを大人に育てて社会に参加させていくという意識が周りに欠けていた結果、子どもや若者の政治や選挙に対する関心が低くなっていったのではないのでしょうか。
昨年の夏休みに、「僕らの一歩が日本を変える。」(「ぼくいち」)というイベントが国会で開催され、私も18歳選挙権のセッションに参加させていただきました。全国から100人以上の高校生が集まって憲法改正、環境、原発などのテーマについて熱心に議論しました。この春休みにも、「ぼくいち」のほかに「未来高校生会議」「子ども国会」等々、同様の催しが行われています。
政治や選挙に関心がないと言われながら、しかし国会で国会議員と話せるような機会には、意識の高い若者が各地から集まります。このように、若者が有権者になる前から政治や選挙について考え、話せる場を得ることは、非常に重要であり意味があるといえます。
『子ども・若者白書』のアンケートでも、「自国のために役立つと思うことをしたい」と答える若者の割合は、諸外国と比べても高い数字が出ています。そういう人は「自らの社会参加によって社会を変えられるかもしれない」と考えているので、彼らが社会参加の経験を積めば、今後の主権者意識に深く関わってくるだろうと思います。
私自身は模擬選挙という形で長年政治教育をしておりますが、1票を投じ、有権者であると実感することは、市民としての自覚につながっていくと思っています。実際の選挙に合わせて未来の有権者が投票をする模擬選挙は、海外ではポピュラーなシティズンシップ教育で、2008年アメリカ大統領選では全米700万人が投票しました。2014年スウェーデン総選挙では42万人。しかしながら日本では2014年総選挙で8343人と、まだまだ浸透していない状況です。
模擬選挙には架空の選挙を題材にする方法もありますが、私は生のリアルな資料が豊富にあるという点で、実際の選挙を題材にしています。中高生に模擬選挙をすると、最初は選挙や政治に関心を示さなかった子が、選挙後には非常に関心が高まります。また、模擬選挙で投票した子の6割は、実際に選挙権があったら投票したいと答え、55%は選挙年齢18歳引き下げに賛成の立場を取っています。
実際に選挙管理委員会から投票箱を借り、ポスターや政策比較表を配って投票前に生徒どうしで議論させたり、選挙公報や新聞記事を読み比べたりさせると、普段選挙や政治について話さない友達どうしで議論に発展します。サッカーの話しかしない子が尖閣諸島に詳しかったり、TPPを気に掛けていたりします。農業高校や工業高校の子、また昼間働いて定時制高校に通う子がより政治経済に敏感だということが、こうした模擬選挙から感じられました。彼らからは、「最初は選ぶ基準が分からず政党名で決めたが、次は政策を見比べた」「投票した政党がどうなったのか気になった」という感想を得られました。
国政選挙においては、模擬選挙の投票結果は実際の選挙結果に非常に近くなりました。しかし、地方選挙では実際の選挙結果と異なる場合があります。それは、地方選になるほど政策がより身近になるので、例えば「高齢者政策を充実させます」と言って票を取ろうとする候補者と同様、子どももスポーツ施設新設など自分にとって身近な政策を取捨選択しているのです。
私が本学で試みているのは、2015年度では「社会貢献活動入門」という授業の中で、NPOや社会的企業、CSR等のとりくみを紹介し、就労が単に給与や待遇面だけではなくて、それが社会にどうつながっているのかに意識を促しました。また、ゼミでも国内外のさまざまな場所にフィールドワークに出る機会をつくっています。
昨年度は大きな選挙はありませんでしたが、文京区長選を題材に模擬選挙をしました。選挙経験のない学生もいましたが、文京区の課題や特色を調べ、選挙について考える意識啓発につながったと思います。そういう「本物と出会う場」「参加する機会」を設け、生の政治を通して自分の考えを仲間と議論する場をつくる。それが民主主義を培う教育になればと思っています。
(3月22日研究会資料より)
シティズンシップ共育企画代表
川中 大輔氏
2003年に、一人ひとりの声と力を基盤に社会がつくられていくことが実感できる場になればと願い「シティズンシップ共育企画」を立ち上げ、現在は兵庫県尼崎市に拠点を置いて活動しています。
京都では、(公財)京都市ユースサービス協会と共に「ユースACTプログラム」という長期実践型ボランティア学習プログラムを提供しています。このプログラムでは、高校生世代の若者が半年かけて、自らの問題意識にもとづいて地域や社会の問題を解決するプロジェクトを企画・実践しています。参加する若者のサポーターとして大学生が最初から事後の振り返りにまで関わり、相互に学びあう機会にもなっています。
尼崎では、教育委員会が全公立中学校を対象に展開している社会力育成事業の一環で、自分の学校や地域をよりよくしていく活動を企画・実践するためのプログラムを提供しています。
こうした各種活動の場では、「動いても何も変わらん」と思っていた若者が自らの可能性に気づき、エンパワメントされていく過程が見られます。
このように市民が社会を動かしていけるという自信を回復し、また、自分たちには自らの望む形に社会を動かしていく権利があるということを認識し、民主主義の担い手としての自覚を涵養していくために私たちは活動しています。
18歳選挙権が実現し、投票を中心に据えた主権者教育の必要性が各所で指摘されていますが、投票には二つの側面があると言えます。
一つは、自分の意思を代弁しうる議員を公式的な政策形成過程に送り出していることを実感し、主権者としてエンカレッジされる機会という側面です。もう一つは、数年に1度の投票機会に市民の政治参加が抑制されていると実感し、主権者としてディスカレッジされる機会という側面です。
投票行動を過度に強調すると、後者の側面が出た場合に、逆効果となるのではないかとの懸念を持っています。また、在日外国人や子どもなど、投票権を持たない人々の排除の問題もあります。子ども・若者は未来の担い手として扱われがちですが、現在においても担い手であることを忘れてはいけないでしょう。多様なアプローチで参加の権利を保障し、その影響力を拡大することで主権者としてのエンカレッジを図っていくべきでしょう。
主権者教育にも相反する二つの側面があり、権利の自覚が進み、各種リテラシーが向上して参加の「踏切板」となる場合もあれば、強い責任感や各種リテラシーの習熟が条件のように思われて参加の「足かせ」となる場合もあります。主権者教育を推進する時には、後者の側面が前面に出ないよう、市民には参加の権利が認められていることをまず伝えるべきでしょう。
各種社会調査結果によると、日本の若者にも一定の高さで社会貢献意識があるようです。しかし、同時に「どうせ自分の力では社会は変わらない」と感じている若者も多いようです。このため、積極的に問題解決行動をとる意味を見いだせず、「言われたらする。言われなければしない」姿が見られます。諦めや無力感から脱却するためには、若者が自らの力で社会を動かしうる可能性を感じる体験が必要です。
この時、大人は若者を教育指導対象にするのではなく、若者の活動の協働パートナーとして自己を位置づけなければ、若者は手応えを得られず、エンパワメントは実現しません。
ですから、私が携わる高校生・大学生の活動では、企画・実践・評価すべてを若者の視点から考えます。例えば、企画段階では、まず若者が生活の中で困っていることを話し合い、自分にとって「ぬきさしならない問題」を見つけ出していきます。「こういう問題が社会にあるから解決しよう」と上から教導するのではなく、「自分はこの問題を変えていきたい」と自らの発意で下からイニシアチブを発揮していく機会を増やしていっています。
他人事に感じられる社会問題を自分事にすることを促すだけではなく、自分事を世の中ごとにすることを促すことで社会形成者としての当事者性は高まるのではないでしょうか。一見私的に思われる日常生活の小さな問題であっても、切実な問題意識から探究していけば、その問題を惹起している社会構造上の問題の発見につながり、政治参加に導かれる可能性があります。
私たちの活動に参加した若者の声からは、現在の課題も浮かび上がってきます。
例えば、「考え方や価値観の違う人でも仲良くなれるんだ」。“みんなで仲良く〟するために対立を回避してきたようですが、それが深い関係を形成する機会を逃していたようです。
「こんなに一つの問題についてがっつり考えたことはなかった」「同じ問題意識の人と集まって解決策を考えたのは初めてだった」といった感想があります。学校では「社会問題に関心があります」と言うと「意識高い系」と揶揄されるのが怖くて、さまざまな想いを口にできなかったことや、限られた生活空間・人間関係の中で仲間や資源を見つけられなかったことが背景にあります。
「同じ高校生なのにスゴいなぁ」という感想を述べた若者は、ピアでの刺激から自分たちの可能性に気づく機会を得ていました。広い世界に誘う機会の必要性を痛感しました。
研究会には大学生4人と全国大学生協連の全国学生委員会から2人が参加し、報告内容の感想と自身の意見を述べました。
川村勝さん(法政大学2年)は高校1年の時、地元名古屋で開催されたCOP10にボランティア参加したのをきっかけに、「僕らの一歩が日本を変える。」というイベントの運営に携わるようになりました。上京後、〝すべきことが分からない〟暗中模索状態だった時、地元を顧みて何かできないかと2年半前に始めたのが「名古屋わかもの会議」でした。「『ぼくいち』や『名古屋わかもの会議』は、かつての僕がそうだったように、〝何かやってみたいけれど、どうしたらいいのだろう?〟という人を集めて議論して新しい視点を見出してもらうためのきっかけ作り。これからも若者が次の社会を創っていく当事者意識を持つべきだと伝えていきたい」
菅原渉さん(兵庫県立大学2年)は、高校時代に街の活性化を図りボランティアや街頭インタビューをしたことが政治への興味につながったと言います。「問題を解決したい、僕たちの声を聞いてほしいと願った時、問題意識を育む教育の機会や授業、課外活動があれば、自然と政治につながっていく。学内で完結させず、街に出て多くの人と交流し、問題を突き詰めていけば、政治への興味関心に結びつくと思う」
笹木彰さん(明治大学2年/※出版甲子園)は、政治にはさほど関心がありませんでしたが、公務員試験を控えて行政に興味が広がりました。報告を聞いて「人数やエネルギーが必要な作業にもかかわらず、地味でスマートさもない。人々を動かすのには大変な時間と労力がかかる」との感想を持ちました。
大山紗代さん(早稲田大学1年/出版甲子園)は、高校生に政治参加を促す本の制作に携わりましたが、結局現代社会の教科書のような本しか作れませんでした。「自分の問題意識を世の中ごとにするというプロセスがなかったから、企画が深まらなかった。選挙も同様で、自分の問題意識と社会とのつながりを実感できれば投票行動につながると思う」と当時を振り返りました。
「新たに投票権を持つ18、19歳人口の総数は240万人と圧倒的に少なく、物理的に無力感を感じることはないか」という参加者からの質問に、「自分の意見が反映されないのに、投票して意味があるのかと考えることはある」と菅原さん。
笹木さんは、「その1票を自分が投じるのにかなりのエネルギーを使って調査するので、やはり選挙自体コスパが悪いように思える。しかし、自分が入れた1票に対しての責任は当然負うべきだ」と選挙への想いを語りました。
大山さんも「少数だからこそ行かなければいけないのではないかという責任感を感じる」と述べました。学生の方は全員、まだ投票経験がありませんでしたが、夏の参院選を見据え、投票に対する真摯な態度が感じられました。
川村さんは3年前の参院選で模擬投票を試みました。渋谷などでタブレットを使って、「もしあなたに選挙権があったら、どの政党に投票しますか?」と高校生に声をかけて話を聞きました。タブレットの気軽さもあっていろいろな人が参加してくれ、外見だけを見ると近寄りがたいような感じの子も意外と真剣に考えているのが分かりました。
荒木翔太さん(全国大学生協連 全国副学生委員長 愛知教育大学卒)は、「社会への問題意識を持たずに生きてきた人にいきなり『意識を持とう』と言っても無理だ。そういうところからも自分の1票に対する無力感は生まれてくる。それは教育だけで解決できる問題ではなく、家庭や生活の中から意識を持つことが大切で、自分が社会に関わったり影響を与えたりするのを実感できることが重要だ」と述べました。
加藤有貴さん(同 全国学生委員長 山梨大学卒)は、大学生協というフィールドで自発的な社会参加の発意を促す機会をどうつくれるかという問題意識をもって報告を聞きました。「自分がどういう学生生活をしたいかということに対して、組合員活動という手法でそれを実現していってもらいたい。それは社会への参画も同様だと思う」
全国大学生協連 毎田伸一専務理事は、第51回「学生生活実態調査」の結果から学生の政治や選挙に対する関心は以前よりも高まっていることを挙げ、「18歳という年齢の問題からではなく、自分たちは行くべきだろう、行くものだろうという動機の方が強い」と言い、〝コスパ〟いう言葉に関しても、「要は参加実感をどれだけ感じられるかということだと思うが、多くの学生は東日本大震災のボランティアへも、コスパなどは考えずに、ひたすら役に立ちたいという想いで行く。彼らはそういう面も持ち合わせているので、コスパだけを考えて投票に行く、行かないを決めることは決してない」と言い、そのあたりも含めたリアルな学生の姿をこれからも発信していきたいと述べました。
(編集部)
※出版甲子園についてはこちらから→http://spk.picaso.jp/
※学生の方のお名前は仮名です。また、学年は2016年3月当時の学年を掲載しました。
『Campus Life vol.47』より転載