全国大学生協連の研究会報告

総選挙―若者は何を見て考えて、どう行動したのか

去る12月11日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する第40回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「総選―若者は何を見て考えて、投票したのかしなかったのか」をテーマに東京都杉並区のセシオン杉並(高円寺地域区民センター)にて開催されました。

昨年10月の第48回衆議院議員総選挙は、さまざまな報道がなされ話題に事欠かなかった選挙であった一方、投票率は53.68%と前回52.66%に次ぐ戦後2番目の低さでした。また、今回初めて衆院選で18歳選挙権が導入されましたが、10代の投票率は41.51%と、若年層の低投票率が目立ちました。今研究会では選挙後2カ月というタイムリーな時期に、学生・若者の選挙に対する考え方や大学での学びと、実際の投票行動はどうであったのかを探り、その選挙や政治に関する実態に迫りました。

18歳選挙権の現状と大学での政治・選挙に関する学び

東洋大学社会学部非常勤講師・立教大学兼任講師/
模擬選挙推進ネットワーク代表・事務局長一般社団法人日本政治教育センター代表理事
東洋大学/立教大学
林 大介氏

顔写真

若年層の低投票率

 2016年7月の参院選で新たに有権者となった18歳と19歳の投票率は46.78%で、総投票率(56.08%)より低かったものの、20歳代(35.60%)、30歳代(44.24%)を上回りました。18歳の投票率(51.28%)が19歳(42.30%)より高いという傾向は、昨年10月の衆院選での18歳50.74%、19歳32.34%という結果(暫定速報値)にも同様に見られました。衆院選では衆院選と比べて18歳投票率は1ポイント弱、19歳にいたっては10ポイント近く下がりました。

 注目すべきは、 16年参院選での 18歳の投票率と比べ、17年衆院選で同世代とみられる19歳が18.94ポイントと著しく下がっていることです。衆院選で20〜30代、あるいは40歳前半よりも高かった18歳(当時)の投票率が、なぜ翌年の衆院選で下がってしまったのか。高3で投票したが政治に飽きてしまったのか、いろいろな新党ができてよく分からなかったのか、就職、進級・進学で住民票を移していなかったので投票できなかったのか、分析する上で非常に悩ましいところです。

若者は何を学ぶべきか
〜主権者教育に関する調査より

 文部科学省が 16年に全国の高等学校を対象に行った主権者教育の実施状況調査では、実施する教科は主に特別活動や公民科で、指導時間も1時間から2〜4時間でした。具体的な指導内容は「公職選挙法や選挙の具体的な仕組み」が8割以上で、「模擬選挙等の実践的な学習活動」や「現実の政治的事象についての話し合い活動」は非常に低く、副教材を使った政治教育を学校内だけで完結させている様子が窺えます。

 同年総務省が18〜20歳の有権者に実施した「18歳選挙権に関する意識調査」では、子どもの頃に親の投票についていったことが「ある」人の投票率が63%で、「ない」人より20ポイント以上高いという結果を得ました。親の背中を見て子どもは育つという例で、それは家庭でできる効果的な選挙教育、主権者教育だと思われます。また、高校で選挙や政治に関する授業を受けた人は、受けなかった人より投票した割合が約7ポイント高いという結果も出ています。

 一方、「高校生がより選挙や政治に関心を持つためには何をすればいいと思うか」という設問への回答で最(二つ選択)も多かったのは「分からない」(24.2%)でしたが、「学校で模擬選挙を体験する」「学校で選挙や政治に関するディベートを行う」「議員や政党の人に来てもらう」等の声も聞かれました。当事者である若者は、制度の説明に終始する授業よりも、実際に生の政治に出会いそれを議論する、いわゆる参加型あるいは自ら考える授業を行うことの方が重要だと感じているわけです。

 参院選では選管の職員が選挙期間中に積極的に模擬選挙を呼びかけていた自治体があり、それも 歳の投票率の高さに結びついた一因ではないかと思います。

大学生が「主権者教育」に取り組む

授業内で行う模擬選挙

 私は立教大学および東洋大学の授業において、主権者教育の一環としてさまざまな模擬選挙を実施しています。昨年の衆院選では、学生自らが新聞やテレビ報道、SNS、スマホの投票支援ツールなどを参考に各政党の政策を比較し、グループワークを通し政策課題について議論しました。その中で消費税や憲法9条、北朝鮮問題などといった自分自身の争点となる「My争点」を決め、最後に投票するという流れです。

 参加学生からは「講義は投票の指針となる考えをまとめるいい機会になった。実家に住民票があるので、不在者投票の手続きをしたい」等の感想を得られました。主権者または有権者になることを体験し、社会的な課題を議論する場を設けるのは、市民性を培う上で大変効果的な教育だと思われます。

大学生が高校生に「主権者教育」の出前授業を行う

 東洋大学の講義ではこの2年間、大学生が高校生対象に主権者教育の学習指導案を考え、それをもとに高校で出前授業を行うという試みを実践しています。

 都立高島高校3年生の政治経済の授業で、2016年度は7月の参院選をテーマに、学生は「模擬選挙チーム」と「振り返りチーム」に分かれて各40分の授業案を作成し、実践しました。17年度は社会福祉学科での学びを題材に学生が選んだテーマ「LGBTについて」と「視覚障がいについて」の2チームで同様に授業をしました。

授業の進め方(模擬選挙の場合)

学生は、まず講義内で別のチームを前に実際に授業をします。その授業を見ていたチームから改善点を出してもらい、指導案を直します。さらに高校で実施する前に、1年生の基礎ゼミで模擬授業を行いました。1年生はほとんどが18歳で、初めての選挙です。模擬授業をするのは3、4年生がメインなので、1年生は大学の先輩による授業を体験し、3年生にダメ出しをするというかたちになります。その後、実際に高校で実践をした後は、振り返りをします。

これが一連の流れで、講義は前期だけで15コマあるので、学習指導案を作成する前に、学生たち自ら模擬選挙を体験したり、国会議事堂に見学に行ったりします。また、「YAHOO!みんなの政治」さんなどにお邪魔したり、市議会議員に来てもらってお話を聞いたり、同じ大学生で政治教育や主権者教育に取り組んでいる団体の同世代がどんな活動をしているのかを学ぶというようなことをやってきています。

【視覚障がいチーム】実際にアイマスクを付けて歩いたことで、障がい者に対するイメージが広がりました

【LGBTチーム】学んだことをどれだけ噛み砕いて説明するか、到達点をきちんと決めて何を伝えたいか、どれだけ受動的でなく能動的に参加してもらえるかという点に心を配りました(東洋大学・笹原さんの話)

出前授業後の学生の感想から

学生からは「学習指導案を考える課程で、高校生と同じくらい自分たちも勉強になった」「主権者教育は判断力と自主性を身につけられる教育だ」など多くの感想が寄せられました。大学教育では、学びを自分事化して社会にアウトプットできる学生を育むことが求められています。それには受け身の座学だけでなく、外に出て主体的に人と関わり議論する機会がなければ、学生が主権者意識を持ち、それを育てていくことは難しいでしょう。ましてや政治や選挙への意識も高まっていかないだろうと思われます。

私は教員として関わっている以上、大学卒業即社会人という流れの中で、学生を社会に送り出す責任は大変大きいのだと強く思って主権者教育に取り組んでいます。そうした場を家庭や自治体でもぜひつくっていただきたいと願います。


「世の中を悪くしたくないから」投票しない学生について

花園大学文学部教授
師 茂樹氏

顔写真

「つぶやき授業」〜学生との対話から考えを引き出す

 学生とインタラクティブな授業を展開したいとの思いから、スマホからツイッターのようにコメントを投稿できる「つぶやき授業」を実践しています。学生は授業で私の話を聞きながら、スマホでどんどんメッセージを入力していきます。それが教室前方のスクリーンにリアルタイムで映し出されていくというかたちです。

 例えば、反原発デモで学生を主導とした大勢の人たちが国会前を埋め尽くしたスライドを見せて、「民主主義だったら、デモなんかもやっていいよね」と言ってみます。あまり真面目な話をしても学生は「先生の言っていることは正しい」と思い、つぶやきは起きません。なので、反発してくれないかな?と少々煽るわけです。すると、「反原発はある種のブームだと思う」「反対することを批判するわけではないが、原発がなくなったらどこから電気を得るんだ?」「原発は反対だが、急にはなくせないだろ」と次々につぶやきで反応を返してきます。

このような授業を考案した理由は、一つには学生が安心して発言できる環境をつくりたいという気持ちがありました。今の学生の特徴なのかもしれませんが、何か聞かれたら正解があるのじゃないか、間違えたらまずいのじゃないかという感覚があり、手が挙げられない、あるいは答えられない。グループワークが苦手な人もいます。

しかし、学生は手慣れた手段であれば対応し考えを表明します。今、学生と一番気兼ねなく対話できる手段を考えたら、完全匿名制のニコニコ動画のような感じがいいのではないかと思っていたのですが、京都文京大学さんがこのつぶやき授業をやっていたのでまねてみたところ、大変学生の意見を引き出しやすかったという経緯がありました。中でも選挙は扱いやすい題材で、いろいろな授業で扱っていました。

今の若者に共通した感覚?

昨年9月、衆院選を見据え、「キャリアデザインⅡ-1」という授業で「投票に行きますか?」というアンケートをとりました。「行く」という学生が多かったのですが、「行かない」理由に「間違った投票をして世の中を悪くしたくないから」と述べる学生が少数ながらいました。この考え方を大変興味深く思いツイッターでつぶやいたところ大きな反響があり、リツイートが1万2000を超えました。ネットのニュースにも取り上げていただき、大量の返事をもらいましたが、基本的にはほとんど匿名の人からです。

全体的な傾向として、投票を棄権することへの非難や特定の政党批判、ポピュリズム批判、メディア批判、自分たちがイメージする実態に即していない大学生に対する的外れの批判が多かった中、「とてもよく分かる」という意見がありました。「真面目な学生によくある『間違ったことをするくらいなら何もしない方が正しい』という感覚を『間違っているかもしれないけれど私はこう思う。なぜなら〜』というところまでもっていくまでに大学4年間の教育が時間切れになっている」(大学教員)。「間違った選択をして社会が悪くなってしまったらと思うと投票するのが怖い」「投票して失敗するくらいなら投票しない方が責任感ある行動だ」「自分が正解なのか分からない」「正解がないから、最初は無理でした。調べても何言っているかさっぱり理解できないというのもありました」(以上若者と思われる人)。中には海外からのコメントもあり、こういう感覚はうちの大学に特有の現象ではなく、そして大学偏差値の高い低いに関係なく、意外と今の若者に共通した感覚なのかと思われました。

投票しないことへの罪悪感

後日、「間違った投票はしたくないという記事が出たけど、皆さんどのように感じましたか?」と、この授業の学生に再アンケートをとりました。

一度目のアンケートではこのような意見は少数でした。しかし、二度目のアンケート、つまりこういう記事を読んだ後には「間違った投票をしたくない」という意見に対し、「私もそう思う」という答えが返ってきて、サイレントマジョリティーではないけれど、思いのほかそういう感覚を持っている学生が多いのかという感じがしました。

中には、「選挙に興味もあるし参加したい気持ちもあるが、不在者投票が面倒臭くて毎度投票せずに終わってしまう。私は叱られるべきだと思います」と書いている学生もいました。国民の半分が投票に行かない現状があるのに、投票しないことにこんなに強烈に責任感を感じている。さまざまな社会参加がある中で選挙だけがある種特権化されて、ネットやテレビで散々投票を煽られる。投票に行かなかったら非国民のように言われるのは、今の若者にとって非常に居心地が悪いことなのかと思います。

「正解がある」と思う感覚
〜真面目さゆえに投票をためらう

これらのアンケート結果に関して、私の感想めいたことを最後にまとめます。

日本の若者は政治に興味がないと思われていますが、実際選挙や政治の話をすると、「全然興味ない」と言っていた人も、ニュースで見た情報などを話し出します。ただ、その表現をみると世間の人々と同じで、メディアで言われているようなステレオタイプの言葉がよく出てきます。ネットを含めたメディアの影響をすごく受けていて、それを正しいと思い、ストレートにアンケートなどに反映しているようにも思えます。

繰り返しますが、この世代の一つの特徴かと思われる「正解があると思っている感覚」が若者の中に根深く存在します。「政治が難しくて理解できない自分が投票していいのか」と言う人もいます。しかし、選挙に正解などありません。民主主義のやり方も一つではないし、対話の仕方も一つではないでしょう。正解を探そうとする過度の真面目さ、過度の責任感、それゆえ間違っているかもしれない投票にためらう姿には、投票率という数字だけでは測れない、今の若者の特質が表れているように思います。


学生の方たちからの意見
自分の眼で政治を観て、考えて判断して意志を示す

 研究会には大学生3人と全国大学生協連全国学生委員会から1人が参加しました。笹原夏乃さん(東洋大学3年)と大野宏さん(東京大学1年)は、家族で選挙に行く習慣があり、投票に行くのは自然な流れだったと述べました。「親が選挙に関心があり、投票に子どもを連れていくというのは、子どもの投票意識において大きなポイントかもしれない」(笹原さん)

投票は権利、意思の表明に意義がある

衆院選後、ツイッタ―で友人に選挙に関する簡単なアンケートを試みた笹原さん。投票に「行った」人は55%と半数強で、「政治に関心を持つための第一歩として」、また「権利を放棄したら政治に文句言う資格がないと思って」というのが理由でした。

同じく鈴木順平さん(花園大学4年)も4年生を中心にアンケートをとったところ、「行った」人は4割でした。「選挙権を持っているので行くべきだ」「今の政治に反対しているという自分の意思を示したかった。結果は変わらなくても、その意思を示すのが大事なのではないか」という理由からは笹原さんのアンケート結果とも共通して、投票は権利であり、自分の意思を反映する機会と捉えているのがみてとれました。

さらに18、19歳に同じアンケートを投げかけると、7対3で「行った」人が多かったという結果でした。「世代によって結果がかなり違うことに驚いている。『権利があるのなら行きたい、でもそれを人に押し付けるのは間違っている』など結構深い意見を言う10代もいた」。報告にも(鈴木さん)あった主権者教育の効果かもしれません。

逆に「行かなかった人」の理由で「投票しても無意味と思えた」というのは、自民党の勝利は確実視されており、自分の1票で政治が変わるとは思えなかったという意味だと思われますが、「分裂したりいろいろな政党ができた。私たちが一番驚いたのは、党の代表の発言であそこまで選挙戦が左右されたことだった」と、現(鈴木さん)実の選挙を目の当たりにし、興味深く状況を見守っていた様子が窺えました。

選挙にも〝お手軽感〟を

衆院選は天候に恵まれず、投票率低下につながったとも言われます。笹原さんは「8時で投票所が閉まってしまう。ネット投票も視野に入れ、もっと簡単に投票できる仕組みがあればいいと思う」と、体制の柔軟性と簡略化を訴えました。投票日前日、期日前投票に市役所へ行くと、雨の中長蛇の列でした。「投票所が最寄り駅の近くだったら、帰宅前に気軽に足を運べたかと思う」

鈴木さんも「4回生は論文やゼミで忙しく、さらにインターンシップ、企業の面接と重なって投票に行けなかったという話を聞いた」と言い、本籍地を離れたときに住民票を移さなかった、アルバイトやサークル活動で忙しくて時間がとれず、不在者投票の煩雑な手続きが面倒臭かったという理由を述べました。期日前投票の仕方がよく分からなかった人もいたようです。

教育者側に望むこと

今の若者は、ネットを見て物事を知ることが多い傾向があります。「報告に『フィルターバブル』という言葉があったが、一つの情報から次の情報に飛ぶときに、結局自分と同じような考えを持った人のページに着地してしまうことが多い」。(大野さん)すると、自分と似た意見を持つ人のコミュニティの中で考えが完結して、まったく周りが見えないような主権者ができてしまう恐れがあります。大野さんは、「教育者は賛否ある意見を提示して、『それで、あなたはどう考える?』と尋ねるところにもっていくべきだ」と言いました。

また、間違った投票をしたくないから投票に行かないという意見に大野さんは、「今のシステムの中では自分の未来を丸投げするようなものだと思う。18、19歳の人にもやはり責任はあると思うので、当事者意識を持って、もう少し広い視点でさまざまな意見を聞きながら、選挙に行くというのがあるべき姿かと思う」と述べました。

最後に師教授は「現実問題として、白票と棄権は組織票を持った候補者に有利だということ、若者が投票しないと、投票率の高い高齢者の意見が反映されやすくなるということは学生に伝えている。今の選挙制度の改善点は多々あると思うので、一度選挙に対する見方をリセットするのもいいかもしれない」と述べました。

(編集部)

『Campus Life vol.54』より転載