全国大学生協連の研究会報告

地方創生―地域と大学、大学生が共に地域を創る

3月12日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する第41回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「地方創生と大学生―その変化と成長、地域と大学の在りよう」をテーマに、東京都千代田区のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催されました。

少子高齢化、18歳人口減少による大学の生き残りの中、地域と密着した教育面でのとりくみを行うことで、独自の魅力と価値を上げている大学は全国各地に存在します。日本私立大学協会との共催で行われた今研究会では、協会に加盟する2大学から地域に根差したとりくみをご報告いただき、それぞれの活動に実際に取り組んだ学生が意見を述べました。

十分杯で長岡を盛り上げよう!地域の発展は地域資源の活用にあるのでは?

長岡大学 経済経営学部教授 權 五景 氏

長岡大学 経済経営学部教授 權 五景 氏
長岡大学 経済経営学部教授
權 五景 氏

 私は韓国の大学を卒業後、文部省(当時)から奨学金を得て来日し、新潟大学に入学しました。以来24年間を新潟で過ごしています。中小企業論を担当している本学は地域連携活動の歴史が長く、私はゼミの学生と様々な企業を見学しました。7年前、長岡市の地元企業でたまたま十分杯に出会い、その可能性を探る活動を提案し現在に至ります。

地域の発展は有から有へ

 地域の発展は、地理的特性や地域的特性と切り離して考えることはできません。

 長岡と秋田は、昔は同じように石油を採掘していましたが、今では長岡の方が秋田より工業力があります。長岡は掘削機械の開発で機械工業が根差したのに対し、秋田は掘削を新潟に任せたので工業の集積がほとんどなかったという流れがあります。また、浜松には綿花、諏訪には桑畑が広がっていました。それがそれぞれ綿織物、絹織物の機械産業に発展して自動車や時計へとつながり、機械金属工業の集積地となったのは周知の話です。

 世界に目を向けると、ニューコメンの蒸気機関は、石炭採掘をする鉱山内部の排水を汲み出すために開発される必要がありました。これが、後にイギリスが世界を制した原動力になります。また、グーテンベルグの出身地は、ワインで有名なドイツのマインツです。彼はワイナリーで使うブドウ圧搾機を改良して活版印刷術を発明しました。

 これらの事例より、地域にある資源を活用して地域の難題を解決していく中で様々な企業が育ち、それが需要にマッチして発展していったのが分かります。従って、資源をどのように生かすか、課題をどのように克服するかが重要となります。無から有ではなく、有から有をつくる連続の過程が経済発展の過程ではないかと私は思っています。

權ゼミの活動~長岡にあって活用すべきもの、解決すべき難題は?

 私のゼミでは長岡にあって活用すべきものとして、歴史的に長岡とのかかわりが深い十分杯を取り上げてきました。最近では、日本で二番目に酒蔵が多い街にもかかわらずあまり活用法がなかった酒粕の可能性を探り、十分杯と酒粕を地域資源の二つの軸として位置付けています。

*十分杯を知らしめる

 活動を立ち上げた7年前、残念ながら十分杯は長岡でも知名度が低かったので、学生たちはまず十分杯の認知度向上に動きました。市民の皆さんに向けて街頭で十分杯の広報活動をしたり、学園祭など声がかかったらどんなところでも選ばずに展示したりして、広報に励みました。

 これらの活動が功を奏したのか、2年目より長岡市が秋に行う「酒の陣」というイベントにブースをいただきました。数百名の方々に来ていただいており、十分杯の教えや長岡との関わりを説明したり、実演をしたりして認知度を上げることができました。

 4年目より地域の方々との意見交換を目的に「十分杯会議」を開催し、学生が司会を務めています。この会議での提案を市の観光協会がJRへとつなげてくださり、観光列車「越乃Shu*Kura」とコラボして車内での地酒試飲と十分杯の紹介が実現しました。この催しは広報に大きな効果があり、十分杯を県内外に向けて広く紹介することができました。

 そのほか、十分杯のリーフレットやカレンダーを作り、陶芸教室も開きました。十分杯の認知度も上がってマスコミにも取り上げられるようになり、JRから感謝状をいただきました。鋳物の街でもある長岡のPRも兼ねて、様々なイベントがよく行われる施設に直径1mほどの大きな十分杯も設置されています。

*十分杯と酒粕を世界市場へ

 2016年度は主に商品化と広報に力を入れました。自分たちで枡の十分杯を作り、「吾唯足知(われただたるをしる) 」と焼印を押しました。底に小さな穴があり、ちゃんと十分杯として機能しています。長岡らしさを演出しようと、江戸時代の絵をあしらった包装紙も作りました。また、長岡といえば「米百俵」が有名ですが、約1年以上かけて米俵三俵を形にした「米百俵十分杯」を作りました。将来的には十分杯を長岡市の指定文化財にという想いがあります。

 酒粕については、学生と酒蔵見学をさせていただいた折に、酒を造るときの栄養は酒粕の方に残るのに活用法があまりなく残念だと教えられました。食すると経験したことのないような非常に不思議な味で、学生たちも面白く思い、十分杯を軸にしながらもう一つの活動をやろうということで始まりました。私のゼミ学生と地域とのコラボで商品化しています。東京の新宿高島屋で行われた「大学は美味しい!!」というイベントでは、十分杯と一緒にクリーミーパテなどの酒粕商品を売り完売、また追加生産した分も完売できました。今は地元で販売されております。

 そして今、十分杯を世界に広めるため、英語版・中国語版・韓国語版の印刷物を作る準備をしています。東京五輪では、日本を代表する土産物として紹介したいというのが私たちの理想です。地域の方々や産業と結び付いた活動を通して、私は十分杯も酒粕も長岡だけではなく、世界の市場につなげる必要があると感じています。大学としてすべきことは、各地方にある良いものを見つけ、地方から海外市場に直接アクセスできるよう、海外経験がある学生、外国語のできる学生の育成です。地方を支援する企業にも、そういう活動を支援してほしいと願います。

十分杯とは…天道虧盈(てんどうきえい)―世の中の物事は満つれば欠く


十分杯の仕組み

長岡に江戸時代から伝わるからくり酒杯、十分杯。杯の中央の突起と底の穴が管でつながっており、およそ八分目までは普通の杯と同じように酒を注げますが、それを超えるとサイフォンの原理で底の穴から酒がすべて流れ出てしまいます。

江戸初期、長岡藩は度重なる水害や隣の藩のお家騒動の鎮圧等で財政難に苦しんでいました。藩主牧野忠辰が十分杯(十分(過ぎた慾)を戒める杯)に感銘を受けて詠んだ『十分杯銘並序』にある「天道虧盈」という言葉には、「満つれば欠く」(世の中の物事は満つれば欠いてしまうため、一杯一杯にしない方がいい)、「足るを知る」(身分相応に満足することを知る)という教訓が込められ、戒めの精神が強調されています。

日本の皇室をはじめ全国各地、韓国や中国、遠くギリシャにも似た仕組みの杯がありますが、長岡市には日本最古の十分杯が残されており、現在も祝い事で配ったり節目の年に贈ったりされています。本学では地元の篤志家に寄贈いただいた多数の十分杯を展示し、市民の方に自由にご覧いただいています。


米百俵十分杯


枡十分杯「知足」


十分杯リーフレット

この活動を通して、ほかの学生には得られないような経験をしました。地域の様々な年代、職種の方と触れ合う機会を得たことは、私にとって大きな成長につながりました。(長岡大学3年 水落柊哉さん)


グローカルに学生を育成~留学生とともに地域活性化~

青森中央学院大学 経営法学部准教授/国際交流センター長 大泉 常長氏
同           学習支援センター 古山 正英氏

青森中央学院大学 大泉 常長氏
青森中央学院大学
大泉 常長氏

青森中央学院大学 古山 正英氏
青森中央学院大学
古山 正英氏

 本学経営法学部では、大学院生を含め約140人の留学生が在籍しています。東南アジアの協定校からの紹介が多いのですが、留学生支援の蓄積の賜物か、帰国した卒業生の口コミによる受け入れも近年非常に多くなってきています。

将来性のある若者に機会を

 本学国際交流センターでは留学生の受け入れ・支援、日本人学生の海外留学プログラムの推進等の業務を行っています。

①入学前支援

本学への留学希望者の負担軽減のため、受験者の母国で入学試験を行っています。2000年度より秋入学も導入しました。入試の際は保護者にも面談を行うなど、本学への理解を促すかたちで入学してもらっています。

マレーシアやベトナムなど漢字圏ではない国の、優秀ではあるが受験時点で日本語の習得が限定的である学生には、入学までの日本語学習サポートを行います。

②入学後支援

留学生の修学支援の一つとして、習得レベルに応じ7段階の日本語教育カリキュラムを構成し、最終的には卒論が書けるように指導しています。半期ごとに開講するので、春秋の入学時期にかかわらず、本人のレベルに適した授業を受けられます。

生活面においては学内に二つの学生会館があり、本学の留学生は在籍身分にかかわらず、全員が卒業まで居住できます。

③地域交流による日本理解促進

本学の留学生支援の特長でもありますが、地域の学校・行政機関・国際交流団体等と連携して正課外で彼らを地域に送り出しています。

チューター制度の充実

 日本の文化や風土になじめない学生、日本語の習得や専門科目の学習で支援が必要な学生のために、本学ではチューター制度をダブルで設けています。同国の先輩留学生に新入生や後輩のサポートを依頼することに加え、13年度より日本人学生チューター制度を導入しました。同国人同士で固まり日本人と接しようとしない、あるいは日本語が未熟な学生に対応するため、有志を募ったわけです。

 日本人学生と寮生活をして、その中で育まれる国際交流もあります。本学には看護学部、短期大学や専門学校の学生もいます。世界を意識したプロジェクトや優秀な留学生と関わることで、海外への興味を持つ日本人学生も出てきています。

支援と活動を通した人材育成

 青森に来たからには青森を好きになってほしい。将来は様々な分野で活躍する彼らが、青森(東北、日本)との懸け橋を担ってほしい。そのために留学生活をいかに充実させるか。それと彼らの影響を受ける日本人学生の脱・内向き志向。私どもはこの二つを、本学が目指すグローバル人材の枠組みと位置付け、教職協働で様々なとりくみをしています。

*青森サポーター事業

04年度から民間団体「あおもりくらしの総合研究所」と連携し、留学生に農林水産業や特産品の収穫体験、栽培・加工方法の学びを通して青森への理解を深めてもらっています。彼らは帰国後も青森の地場産業に詳しいサポーターとして、青森県の様々な事業に協力してくれます。

*グリーン・ツーリズム

本学は07年度より、海外からの教育旅行生や観光客をグリーン・ツーリズム体験型観光に誘致する事業を展開しています。留学生が語学サポーターとして旅行者と農家に宿泊し、農家との橋渡しをしながら、青森の知識を生かしてガイド的な役割を担います。16年度は約700名の旅行者を受け入れました。

*県産品ローカライズ促進事業

ここ数年、県産品(リンゴ、ホタテ等)を海外現地で広報する青森県の委託事業を行っています。このプロジェクトについても、留学生OBの協力なくしてはなしえなかったと思います。(大泉 常長氏)

国際産直プロジェクト

 タイ産の希少品種「マハチャノマンゴー」をタイから直輸入し、県内中心に販売するとりくみを11年から行っています。輸入計画、品質管理、検品・仕分け、販売、梱包や発送等の業務全般を、学部国籍問わず参加した学生が担います。17年度は公募参加者43名、正課「地域探究アクト」履修者15名、そして初めての試みである高大連携で、青森県立青森商業高等学校の生徒12名の参加がありました。

 活動は主に空きコマや放課後・休日となるため、労務管理担当の学生が全員の活動日程作成や勤怠管理を行い、時間従量制で時給を支払います。収益に応じた査定によりボーナスも付与されます。

 県内道の駅等での直接販売のほか、お中元の時期に合わせてチラシとインターネットでの注文も承っています。取扱量は開始年より約2・5倍に増え、17年は3・76トンが完売するほどの人気ぶりでした。また、プロジェクトから派生した学生団体が地元企業とジェラートを開発、イベント等で販売して好評を得ています。

マハチャノマンゴー

マハチャノマンゴー

日本の市場では300g前後の青果の流通が見られる。完熟に近い状態で収穫しないと甘みや香りが落ちるため品質管理が難しく、タイ国内においても流通が少ない。500gを超え、20cmになるものも多く、本学では航空便で直輸入している。

国際産直プロジェクトで得た学び

当初は市場価格より高価なマハチャノマンゴーの魅力をうまく伝えられず、落ち込みました。しかし、お客様に納得いただき販売に結び付けられるようになると、それがモチベーションになり、輸出入に関する法律や経済等の座学をどのように実務に結びつけたらいいのかと、講義に臨む意識が変わりました。

17年の高大連携事業では、母校でプロジェクトの説明・指導をする機会を得ました。一緒に活動した後輩が今後も活動を継続したいとの思いから、本学への入学を希望したと聞いています。

この活動から派生した、マンゴーを加工しジェラートとして販売する学生団体「雪下桜乃会」の代表を2、3年生と務め、一緒に活動したタイ人学生とマッサマンカレーの試作販売も試みています。

さらに多くの留学生と交流したいとの思いで、日本人学生チューターを志望しました。留学生が孤立することのないよう、まず留学生にとって最初の日本人の友人になり、ほかの日本人学生との交流へとつながるよう、日々活動しています。

今年2月には短期海外アクトに参加し、私たちが青森とタイのチェンマイとの懸け橋の一部になれているのだと実感しました。現地研修にはタイ人の卒業生が参加し、履修者の日常生活をサポートしてくれました。

こうした課外活動を通して培ったグローバルな視野や人間力を私の糧とし、社会人になっても地方を活気づけ、世界につながるような仕事ができたらと思います。(青森中央学院大学3年 熊谷 樹さん)

「短期海外アクト1B」

 国際産直プロジェクトから派生したものに、17年9月に開講したアクティブラーニング科目「短期海外アクト1B」があります。18年2月には履修者13名が11日間にわたり、縁の深いタイのチェンマイ近郊を中心に異文化交流やフィールドワーク等の研修を行いました。履修者には現地との交流を通じて豊かな人間性を育み、国際的な人脈を築いてほしいと願います。 (古山 正英氏)


学生の方たちからの意見
地域に貢献できているという実感が活動継続の根源にある

研究会には報告者2人を含む4人の学生が参加し、意見を述べました。

座学を実学に生かす

 水落さんは「最初に十分杯を販売したとき、まったくと言っていいほど売れなかった」と活動を振り返り、「いいものだと思っても、ただ作って売るだけではお客様は手に取ってくれない。価格、パッケージ、デザイン、売る場所を考え直し、自分が大学で勉強したマーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)を実感した。座学と結び付いた瞬間だったと思う」と述べました。

 これに対し山本みささん(上智大学1年/出版甲子園※)は、専攻する新聞学科での学びを出版甲子園の活動に生かせたときに、自分も授業が勉強になったことを実感できると話しました。「座学と実学を結び付ける場を常に大学側から提供してもらえるのは、とてもうらやましい」。山本さんの出身地である富山県高岡市では高岡銅器を地域産業として盛り上げようとする動きがありますが、それはなかなか難しく、大学が地域とコラボするという報告を大変新鮮に聞いたと言いました。

 鈴木さつみさん(お茶の水女子大学1年)も同様で、自宅のある埼玉県川口市安行は植木業で有名ですが、近年は宅地化が進み、残念に思っていました。しかし、同じ学生が地域にある資源を活用し、活動を進めている報告を聞き、「自分も頑張ってみようと思った」と述べました。

※出版甲子園についてはこちらから

地域にどう貢献しているか

 熊谷さんは青森市内だけでなく、県内の高齢化が進んでいるような過疎地域にも行って販売活動をしています。毎年6月には、「去年ここでマンゴーを購入して忘れられなかったから、今年も買いに来た」と地域の方々に楽しみに待ってもらっており、「そういう面で地域に貢献できているのではないか」と思っています。

 「"商い"としてはどう貢献しているか?」という質問に水落さんは、「必ずしも自分たちが売買する必要はなく、卸売り業者の立場になって生産者と小売業の方との橋渡しができれば、市場に関われ上手に販売していくことに近づくのではないかと思う」と答え、「作る方は作る方でプロがいるし、売る方は売る方のプロがいる。我々学生が関わるのは、情報を集めて発信するというようなところが向いているのではないか」との考えを述べました。

将来はどういう働き方を?

 「報告者は就活を控えた学年だが、将来は地元に残るのか?」との質問には、「仕事にやりがいを求めたときにチャンスが多いと思い、関東での就職を考えたこともあった」(熊谷さん)。しかし、「3年間地域に根付いた活動をして、自分の活動が地域に役立っているという実感が得られた。自分が働く地域がより活性化するような仕事に就けたらと考えるようにもなった」と続け、双方を比べながらこれから就職活動を進めていくと言いました。

 水落さんも「自分もそんなに世間の視野が広くないので、今見えている範囲で就職先も探そうと思っている」と基本的なスタンスを述べ、「必ずしも今いる場所というわけではなく、自分が巡り巡って辿り着いた場所で、その地域にしかないものをうまく生かせるように働き、活性化させていきたい」との抱負を語りました。

今後の課題

 大泉准教授は、日本での就職を希望する留学生のために、企業出身者などをキャリアアドバイザーとして迎えながら、企業が欲しい人材の情報をつかんで日系企業で働きたい学生とマッチングさせる努力をしていると述べました。また、「本学では学費減免や奨学金を紹介しながら、しっかりと勉強する意識を持った学生を引き受けている。その学生が帰国後あるいは在学中にFacebookなどを通して本学での学びや参加した企画を自ら情報発信してくれている」と、現地で理解を得られることの重要性を話しました。

 權教授も、「商品を扱う流通網のハードルは高いと思うが、それを解決していく能力も非常に大事だ。学生たちは十分杯の活動を通してそういうことを真剣に考えるようになり、得られたものは大きいと思う」と述べました。

(編集部)

※報告者以外の学生の方は仮名です。学年は、2018年3月当時の学年です。

『Campus Life vol.55』より転載