法政大弓削ゼミ 座談会SDGsと大学教育~誰一人取り残さない~

今回は、法政大学法学部国際政治学科の弓削ゼミナールと座談会を行いました。弓削ゼミナールでは、国連など最前線で働かれていた弓削先生による授業と、学生主体で作り考える実践ワークショップを通じて、国際開発・平和構築のテーマからSDGsを理論と実践で深めています。その経緯や想いについて聞いてきました。

インタビュー

弓削 昭子先生
(法政大学 法学部国際政治学科 教授)

渡部 梨乃さん
(法政大学 法学部国際政治学科 弓削ゼミナール ゼミ長)

柴田 茉衣さん
(法政大学 法学部国際政治学科 弓削ゼミナール 副ゼミ長)

聞き手

  • 小島 望
    (全国大学生協連 学生委員長)
  • 金田 直己
    (全国大学生協連 執行役員)
  • 宮田 好未
    (全国大学生協連 執行役員)

いま何を学び、いま何を感じられるか

まずは、弓削先生や、ゼミナールの中で普段どのように展開されているか、SDGsの関連で普段具体的に何をされているのか、その経緯などご説明いただければと思います。

弓削ゼミは国際開発と平和構築がテーマ。国際開発は、開発途上国の課題のこと。つまり貧困問題、保健衛生、難民、気候変動、紛争後の復興支援、平和構築もそう。そういったことについて勉強して、途上国だけの問題としてというより、地球規模の課題としてというテーマでやっている。まさにSDGsそのもの。タイトルはSDGsではないけど、内容的には重なっている。もう一つの特徴は、私自身が現場でずっと30年以上仕事してから大学へ来たので、理論やテキストだけで教えても面白くないと思っている。理論と実践を合わせて、開発のアプローチにはこういうものがある、でも実際はどうかということを組み合わせてやっているのが特徴。教科書は使うが、国連文書でSDGsが含まれているアジェンダ2030の合意文書を勉強して、首脳レベルの国連総会で採択された内容を4月の1回目のゼミで勉強する。それに基づいてまず私がSDGsとはなにか、どのような背景でSDGsができたのか、実施がどのように進んでいるのか、実施における難しい面はどこにあるかを話して各論へ入る。もう一つは英語でゼミを行っている。国際問題、国際協力ということで、現場に行く海外研修などでも結局日本語では通じない。国連での採択文書も英語ですし、いろいろな海外からの情報、途上国がどう考えているか、などの情報を得るためにも英語が必要。日本語の文献ばかり読んでいては限られた情報になってしまう。世界の人たちが何を考えているのか、途上国・先進国・国連はどういうことを考えているか、国際NGOはどういうことを考えているかなどさまざまな視点を吸収・理解して、発信するということも国際社会の共通語である英語でやらないと、一部の日本語だけの世界になってしまう。文献購読もプレゼンもディスカッションも私とゼミ生の連絡でさえ英語。語学としての英語のクラスではないので、狙いとしては、国際開発を勉強することが主で、そのために英語を使うと、ダブルメリットになるということ。英語力も内容も身につける。国際会議に参加したときに、また途上国で色々な話をするときに英語を使うことができる。それが弓削ゼミの特徴。申し上げたように、最初の2回でまずSDGsとは何かをみんなで大枠なグローバルな合意として理解して、貧困削減のためには具体的にどうするとか保健衛生改善のためには、とかの各論に入っていく。SDGsという大枠を踏まえて議論を進めていくというやり方でやっています。こういうゼミですよということを伝えて、みなさんに応募して入っていただくというかたちです。

普段実際に学ばれている学生はどのようなことをしていますか?

大きく2つ。一つは普段の授業について。4,5限に授業があって、4限では理論について学ぶ。毎回、英語の教科書の予習に苦労していて、単語もわからないものが多い。こういう教科書を読んで、担当の班の人たちが英語でプレゼンをして、その後にプレゼンを担当した班の人がディスカッションテーマを事前に考えてくるので、それについてみんなで話している。5つの班に分かれてそれぞれの班で議論して、共有の時間を最後にとって、各班からの結論を共有して先生のフィードバックがある。5限ではワークショップをする。学生が班ごとに交代交代で、まるまる100分何をするか決めている。弓削先生は企画とかを学生に任せてくださる。とにかくそのワークショップでゼミ生全員が考える機会がある。そのワークショップで具体的に行っている例を紹介したい。2種類資料を持ってきた。

1つ目が最近やったもので、RPG(ロールプレイングゲーム)をやった回だった。国ごとに分かれ、国の中でも更にNGOなど役割が分かれていて、それぞれの国がそれぞれのアクターとしてどうやってCO2削減に取り組めるか考える。最終的にどれだけ世界でCO2を減らしたいかという目標があり、それをそれぞれの国はどれだけ減らしていくのかっていう、模擬国連みたいなものをするワークショップ。もう一つは、教育に関するワークショップ。自分たちはNGOの一員だという設定で、決まったお金をもらえて、それを発展途上国で学校を作るためにどう使うかという計画をするワークショップ。本とか文具とかの値段が決まっていて、自分たちは限られた予算でどこにどれだけお金をかけるか、どれだけ高い質の教育をするかを考えていく。

それも5つの班でそれぞれ考えて、意外と違うものが出てくる。教育のほうだとトイレは1つだけという計画を考える班もあれば2つ、3つ作る班もあって、なんでそうなの?という話になったり。意外とそれぞれ違うプランになる。

例えば教育の場合だと、ワークショップでディスカッションもやっていて、個々の部分は、もっとこうしたほうがいいとか、これはいらないからこっちにお金をかけるべきとかお互いに話をしていく。

今は毎週やっている?

それが基本的な形。

なりきる、というのが具体的なアクション。普通なら「個人でできること」を考えることもあると思うが、国際を意識されて「なりきること」を意識しているんだというのがすごく具体的だなと思いました。他に印象に残っている回はありますか?

最近やったのは、5つの班全て企業という設定で、それぞれ何の企業かが前の週から設定されている。食品系とか、ITとか、車とか、ケミカルとか割り振られて、企業もSDGsに向かって取り組んでいるのがある。まず最初に企業理念を考えて、ビジネスを通じて社会貢献をどうするかという形で、他の班と連携してどんなことを目的にどんなプランを立てるか話し合うことはやった。それも楽しかった。

そういうことを通じて、お二人やゼミ生もどういう反応?どんな感覚になるのか。

個人的には、自分にはなかった考え方とかが出てきたりして、新しい視点というのが一番得たものだと思っている。そういう考え方もあるんだとなることは毎回のゼミで感じる。

渡部が言ったこともそうですし、あとワークショップでRPGを通してアクターになると、自分が今まで思いつかなかった困難や、このアクターならこういうこともできるという発見もある。ワークショップは実践的なので毎回新しい発見がある。

学生同士が交渉するのは見ていて結構面白い。班で自分たちはこういうアプローチにしようと決めて、その後どういう風に企業とパートナーシップを組んでやったらいいかを考えられる。NGO、政府など、パートナーと組んでシナジー効果を狙って、比較優位性、自分たちにないものを持っている相手と組むことで補いあって、1+1が2以上になることが、ワークショップの三段階目くらいで出てくる。発表した後に誰と組んだらいいか、ここと交渉してこれを得ようとか、強気で交渉したりして、他の人も助けに来たり、それも凄く面白い。交渉が成り立つ場合もあれば、ディスカッションしているうちに得ることがないから協力できないという結果になったりする。なぜ合意に至らなかったかを考える時、ギブ&テイクであり、win-winじゃないといけないと気づいたりする。パートナーシップを組むことで、どうやってwin-winシチュエーションになるか。ギブ&テイクが重要。ギブだけでもテイクだけでもない。「何をくれるんだ」「与えるものはない」となると難しい。他のアクターと組んで、SDGsを進めるためにも自分が思ったことだけではだめで相手と一緒にどうしたらいいかが大事。

視点やシチュエーションはグローバル。アクターになって自分が実践を考えるうえではミニマム。まさにそういう立場になったらこうなるかもと想像しつつリアルに学ばれているなと感じました。

Think globally,act locallyとあるように。グローバルなことを踏まえながら自分がやるとしたらローカル。そういう2つのレベルで考えると具体性が出てくる。実際にゼミ生が全部アイディアを出して、私がそれに修正をするだけだが、ゼミ生から全て出ている。主体は学生。

学んでいるのは2年生、3年生?

そうです。全部で29人。

じゃあそれを経験した人がまた上級性になるんですね。国際開発とか平和構築をテーマで、アクティブにリアルに考えることを弓削ゼミナール以外のゼミとかではされていますか?

もう一つ国際協力をテーマにしているゼミがあり、そこは日本主体、日本からどう支援するかを考えている。そこもRPGを通してアクターに分かれてディスカッションすることはあると聞いている。そこは似ているかもしれない。でも英語っていうのは私のゼミだけですね。