特集 コロナ休校中の学生支援のあり方

全国教職員委員長 高本 雅哉

全国教職員委員会では「学生支援」をテーマとして、一昨年の富山での全国教職員セミナー、昨年の各ブロックで開かれた教職員セミナーや交流会で活動してまいりました。本年9月には横浜国立大学において「大学生協らしい学生支援を考える」をテーマに学生が成長するためのアクティブラーニング、障害学生の支援のありかた、キャリア支援などについて、全国の教職員組合員が学び深め合う場とする予定にしておりました。新型コロナウィルス感染症の流行により、予定していた全国教職員セミナーの開催が困難となったため、講演をお願いしていた方々からそれぞれの分野において「コロナ休校中の学生支援のあり方」というテーマで原稿をいただきましたので、ここにご紹介いたします。

  • 大学生の豊かな学びを支えるための体制づくりに関する一考察
    -コロナ禍のオンライン授業で失われた「臨場性」を適度に補完し、学生一人ひとりの経験や思いを伝え合い、人生の学びに変える授業づくりと、誰でも相談しやすい学生支援体制の整備を-
    龍谷大学 障がい学生支援室支援コーディネーター 瀧本美子

    1.オンライン授業と対面授業は学生にとって何が違うのか
    ‐長期間、他者に出会わないことの計り知れない影響-

    2020年度前期、新型コロナウィルス感染症の大流行に伴い、龍谷大学(以下、「本学」という)においても全国の大学と同様、学生の大学への入構が禁止され、全面オンライン授業がスタートした。

    大学における全面オンライン授業については、学生、教職員の誰もが初めて経験することであり、開始当初は通信環境や情報機器に関する課題が指摘されたが、それらは徐々に改善されつつあり、後期授業が始まろうとしている現在においては、様々な立場からオンライン授業を肯定的に捉える意見や調査結果※1がメディアを通して伝わってくる。

    本学においても「全学オンライン授業推進委員会障がい※2学生支援ワーキンググループ」※3を設置し、障がいのある学生と教員へアンケート調査を実施したが、学生への質問項目の中でも「対面授業からオンライン授業に変更されたことで、『学修(・学習)しやすくなった』こと」についての回答率が高く、障がい種別に限らず、「オンライン授業により、通学の負担や大学内の雑音や騒音から解放され自分に合った環境で学習に集中できた」という回答や、「体調に合わせて自分のペースで受講できた」ことをプラスに評価する回答が多かった。

    特にオンデマンド授業については、「わからないところをいつでも繰り返し視聴できるため、授業内容の理解や定着が進んだ」とする回答も多く、オンライン授業は、障がいのある学生にとっての社会的障壁の一部を軽減し、授業内容の理解、定着を促す事例もあることから、障がいのある学生の学習スタイルとして一つの選択肢であるということが明らかになっている。しかし、発達障がいの学生からは、授業そのものは受講しやすくなった反面、「これまで 窓口で相談していた受講や課題提出などのスケジュール管理が一人でできず困っている」 という回答も多く、また障がいの種別に限らず、教員に直接指導を受けられないことや、 友人に気軽に聞けないことによる弊害を訴える回答もあった。

    そして、オンライン授業を肯定的に捉えるアンケート結果とは裏腹に、障がい学生支援室には、精神的に追い詰められている学生からの相談や、「ただ、喋りたい」といった相談 が徐々に増加しているのである。
    特に親元を離れ下宿している1回生や社交不安障がいなどの診断を受けている学生、家族との関係性に困難を抱え孤立している、また経済的に厳しい環境に置かれている学生複数名の状態が悪化し、頻繁に相談が入るようになっている。

  • 「コロナ災害」下の学生支援のあり方
    中京大学教養教育研究院教授 大内裕和

    新型コロナウイルス感染拡大は社会に深刻な被害をもたらしている。それが学生生活にも大きな影響を与えていることは、全国大学生活協同組合連合会が2020年4月20日~30日に行った「緊急!大学生・院生向けアンケート」からも明らかだ。

    新型コロナウイルス感染拡大によって2020年3月以降、大学生のアルバイトは急速に減少した。感染の影響を真っ先に受けた塾、飲食業、イベント産業、観光業でアルバイトをしている大学生や大学院生の比率は高く、多くの学生がアルバイトを減らしたことは明らかだろう。

    最も緊急に対応が必要なのは、春学期・前期の学費支払いへの支援である。2020年4月7日(火)、私は労働者福祉中央協議会とともに文部科学省記者クラブで、「奨学金返済猶予と学費支払い猶予・延納・分納」を求める緊急記者会見を行った。そこでも強調したように、自らのアルバイトで学費を支払っている学生にとっては、2020年3月以降のアルバイト急減は、4月の春学期・前期の学費支払いの困難に直結する。そこで、まずは学費の「延納・分納」措置が重要である。各大学は学費の「延納・分納」制度について学生に周知し、また既存の「延納・分納」制度の充実(延納期限の延長や分納回数の増加)を進めることが求められる。学費の延納、分納を行う高等教育機関に対しては、必要なつなぎ資金を政府が公的に援助することが望まれる。
    幸いにもさまざまな運動や学生からの切実な声を受けて、東京大学や明治学院大学をはじめ多くの大学で、学費の「延納」期限の延長措置が取られることになった。新型コロナウイルス感染拡大の影響は長期化が予想されることから、延長された「延納」期限についても、学生の経済事情によっては再延期を行うことが強く求められるだろう。また、私のところには、「アルバイトが減ったために、秋学期・後期の学費支払いのための貯金をすることができなくて不安だ」という学生からの声が複数寄せられている。秋学期・後期の学費についても「延納・分納」について学生の実情に合った柔軟な措置を取り、その内容をできるだけ早く学生に伝えるべきだ。

    次に、キャンパスや教室での感染を防ぐため、多くの大学で実施されるオンライン(遠隔型)授業への対応である。オンライン授業を行うにあたって、学生の情報環境格差の是正が必要であると考える。

    近年深刻化する貧困化によって、パソコンを所有していない学生が一定数存在する。また自宅にWi-Fi環境がない学生も少なくない。パソコンを所有していない学生や自宅にWi-Fi環境がない学生は、オンライン授業を受講する際に不便が生じる。教育格差を拡大させないためには、オンライン授業と学生の情報環境整備をセットで行う必要がある。たとえば、ノート型パソコンやモバイルルーターを学生に貸与するなどの措置が有効だろう。また、学生の情報環境整備のために大学が一定の資金を提供する方法もある。こうした学生の情報環境整備のための大学の費用負担に対して、政府は各大学への公的支援を行うべきである。

    緊急事態宣言が5月31日(日)まで延長となり、学生がアルバイトをすることが困難な状況が続き、保護者の失業や収入減も広がっていく危険性が高い。こうした「コロナ災害」が長期化すれば、より一層の学生支援が必要となるだろう。

    第一に考えられるのは、授業料・学費減免の措置である。授業料・学費減免を実行することはすべての学生を支援することになり、学生間の分断を生み出さない点でも有効である。授業料・学費は多くの大学の運営費を支えていることから、減免分の授業料・学費については政府による財政支援が必要不可欠である。

    第二に考えられるのは、学生の生活費への支援である。アルバイトや保護者からの支援減少によって、日々の生活費に苦しむ学生が増加している。学生アルバイトの減少について、雇用政策の視点からは休業手当の支給や雇用保険の拡張適用などが望まれるが、教育政策としては給付型奨学金の支給が有効だろう。

    2020年4月からスタートした「大学等における修学の支援に関する法律」は、住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯出身の学生に対する大学等の授業料・入学金の減免と給付型奨学金の拡大を内容としており、支援対象が一部の低所得世帯出身者に限られている。これでは今回のコロナ災害に対応することはできない。「大学等における修学の支援に関する法律」の支援対象よりも、より高い所得の世帯を対象とした返済不要の給付型奨学金制度を整備すべきである。

    2020年5月6日(水)現在、コロナ災害が今後どこまで深刻化するかを正確に予測することは困難である。「コロナ災害による退学者を一人も出さない」を原則として、状況に対応した学生支援を行っていくべきである。

  • 「コロナ休校中の発達障害学生の支援について」
    松山大学 田中輝和

    1. はじめに
    2019年末から全世界に流行している新型コロナウィルスは、新型であるがゆえにワクチンがなく、日本では2020年3月初めから、小中高の各学校は休校体制に入った。4月の緊急事態宣言、5月の宣言延長により、当初春休みまでとされた休校期間は、4月を飛び越して、5月中旬まで延び、愛媛県では5月11日から分散登校することとなった。

    私が執筆しているのは2020年5月上旬の大型連休中であるが、大学の対応がどうかというと、地域や大学によって様々であるが、私の職場である松山大学は、当初4月10日からの授業開始が3度の延長で5月28日から開始の予定となっていて、すべて遠隔授業で行えるよう準備を進めている。

    2. 発達障害とは
    発達障害は、脳の中枢神経系の機能障害であり、生物学的要因による先天的な障害である。小学校・中学校での出現率は文科省発表で6.5%、2005年度からは発達障害者支援法が施行され、2016年度からは障害者差別解消法も施行された。差別解消法の施行は合理的配慮の提供、社会的障壁の除去を目的としており、行政側では法的義務、民間側では努力義務が課せられたが、民間側である私立大学といえども努力義務だけでは厳しい状況があり、障害学生対応はいまや必須と言われている。

    発達障害は大きく分けて3つの障害名があり、まず「自閉スペクトラム症(ASD)」は社会性・コミュニケーション、創造性(こだわり等)の障害特性があり、知的を伴う自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などと呼ばれてきたものは、すべてこの範疇に入る。次に「注意欠如多動症(ADHD)」であるが、障害特性は不注意・衝動性・多動性を主訴とする。不注意優勢型と多動性・衝動性優勢型がある。最後に「限局性学習症(SLD)」であるが、これは「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」といった機能に困難さがあれば診断されることがあり、特に読み書き障害は「ディスレキシア」と呼ばれる。

    3. 日本における発達障害学生の現状
    日本学生支援機構発行の「平成30年度(2019年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」によれば、診断のある発達障害学生は全国で6,000人余り、診断書はないが配慮は受けている学生は3,000人余り、全部で9,000人余りが把握されていることになるが、実際は診断書もなく配慮も受けていない発達障害の学生が多数存在することを忘れてはならない。見た目にはわからなくとも、授業においては課題の意味が分からない学生、履修登録ができていない学生、授業開始前に教室に入室することができない等の学生が存在するが、それらの学生が障害学生支援センター等の障害学生支援部署(以下、「支援部署」と言う)に助けを求めなければ、障害学生としてカウントされないからである。授業以外の学生生活上の支援が必要な学生も多く、居場所の問題、カウンセリング、就活での躓き等が挙げられる。これらの学生には発達障害の有無にかかわらず、大学における特別支援が必要である。

    問題点の一つとして、これらの障害学生支援については大学間格差があり、支援のあるなしが大学選びにも影響を与える現実があるが、大学で教育を受ける権利は等しく保障されなければならず、この権利が侵害されている現状がある。

    4. 新型コロナウィルスが発達障害学生に与える影響について
    「2.発達障害とは」で、大きく3つの障害に分けられると説明したが、ここからは発達障害学生全般に共通する内容で考えていきたい。

    発達障害学生には、自己紹介ができない、変化に弱い、他者理解が難しい、見通しが立たないと不安になる、二次障害を起こしやすい、と言った障害特性がある。特に新入生はただでさえ環境が大きく変わり、その変化に順応できないことがある。発達障害がある学生はさらに特性を刺激されやすい時期であり、そのストレスに対応できなかったり、うまく乗り切れなかった場合には最悪短期間の在籍後に退学となることも少なくない。

    今回の新型コロナウィルス感染拡大により大学の学生に対する対応については、やむを得ない状況が続いており、特に新入生には負担の大きい事態となっている。発達障害学生の中には事態を飲み込むことができず、パニックになっている学生が相当数いることも考えられる。また、キャンパス内に入ることができなくなった場合は、友人を作ることができないままの場合があり、誰に助けを求めてよいかわからず、フリーズしている可能性もある。

    また、上級生についても、3密を避けるためガイダンスが中止または短縮されたりした場合は、履修に必要な情報を正確に掴むことができず、また授業が開始されないことが理解できず、動けない学生がいるかもしれない。また、就活期にある学生は、対人関係の問題から思うように就活ができていない可能性もあり、卒論作成にも影響が出る可能性もある。それでなくともハードルの高い時期を迎えるのに、コロナによってさらにハードルを上げられている現状があると思われる。

    学生に共通して最も大きな問題は、経済的に厳しい学生が増加している現状があることだ。バイト先を失ったり、保護者の経済状態が悪化したりして、仕送りが減ったりしている状況は行政側がアルバイト等の斡旋をするだけではもはや解決できない現状があり、私が執筆している時点で、学生の2割強が退学を検討しているというショッキングな報告もなされている。発達障害の学生がこの状況に置かれれば、自己肯定感が下がる一方で、「もうダメだ」と思い込んでしまったり、心理的に不安定となり自殺まで考えるほど追い込まれるかもしれない。

    一方、発達障害の学生にとっては、この状況がメリットに働いている可能性もある。元々集団での行動や場所の苦手さがあるため、家で過ごす時間が長いことは好都合という学生もいる可能性はある。また、移動が苦手な特性がある学生には、自宅待機となりすぐに移動することがなくなったことで余裕を感じていたり、移動にかかる費用や時間がかからなくなったことをメリットと感じているかもしれない。但し、空いた時間をゲーム、ネット、睡眠、飲酒等に傾けていれば、短期間で依存傾向に陥る可能性も否定できない。発達障害の特性には依存しやすい傾向も指摘されているからである。

    5. 発達障害学生支援の方法について
    タイトルに「コロナ休校中の・・・」と入れているため、支援方法については、学生が大学構内に入れず、授業は遠隔授業となっていることを想定して考案した。

    発達障害学生支援において、一番心配されるのは心理面である。対面でのカウンセリングが難しい状況であるため、可能であれば、オンライン相談ができる状況が作れるかどうか、本人・保護者を含めてよく打合せする必要がある。休校中は大学に行く必要がなくなるので、学生生活上の心配はさほどないものと考えられるが、休校が解除となった場合のことは考えなくてはならない。

    新入生については、授業開始の延期等変更が多岐に渡ったため、状況が呑み込めず、パニックに陥っている可能性がある。支援を入学前に届け出た学生は支援部署の支援を受けられると思うが、支援が必要かどうかの判断が難しい学生については各部署で困っている学生の情報を共有し、必要であれば支援部署に連絡する。遠隔授業の手続きがなかなか取れない学生については教員から支援部署への連絡も必要である。教務系担当部署だけでなく、情報センター系部署の応援・対応も必要になると考えられる。

    学習面での主な問題は課題理解や、レポート・卒論作成等に支障が出ている場合である。おそらく、休校中は3密につながるグループ学習等は行われないであろう。支援対象としては課題の把握や内容の理解、卒業研究の進め方などの見通しが立たないことであろうから、発達障害学生は、支援部署への連絡を行い、支援部署からはその学生と担当教員の間に入って支援を進める。対面ができないため、学生に対する説明はできるだけ平易な表現を心がけるよう、教員にも伝える必要がある。

    図書館利用については閉館している大学図書館が多いが、勉強ができないことにイライラを募らせている学生も多いと思う。図書館は本の貸借をするだけでなく、情報リテラシーを付加する場でもある。新入生はガイダンスが行われないために情報検索の方法を実体験できない負荷を背負っている。このため、視覚的に分かりやすい利用者向けサービス案内動画などを作成してネットに挙げ、休校中でも何度も見られるようにしておけば、図書館が再利用になった時でも、効果を発揮すると思う。

    就活支援であるが、ただでさえストレスのかかる就活の上にコロナが重なり、社会経済全体が大きく揺さぶられている現段階では、発達障害学生の就活は前途多難である。キャリアセンターだけでの支援が難しい場合は、各都道府県に複数設置されているジョブカフェや、若年者就職支援センター、障害者就業・生活支援センター、国の直下にある障害者職業センター等との連携が必要となってくると思われる。

    大学院生についても述べておこう。特に院生になりたての頃はそれまでと環境が大きく変わるため、新入生と同じストレスを抱えることとなる。特に研究のために研究室に入ることの意味が分からず、対人関係のトラブルが増える。授業人数や指導人数が少なければ対面を許可する場合もあるであろうが、多人数であれば遠隔授業、遠隔指導となる可能性がある。できるだけ早く指導教授の個性を掴みたいところであるが、他者理解が難しいため、支援部署から指導教員に依頼し、研究室での適応や、研究の進め方等を指導していただく必要がある。

    パニックからフリーズに移行し、動けなくなっている学生は、柔軟な思考ができず、このコロナ禍の現実の中では0か100かの思考に陥っているかもしれず、なかなか繋がらない可能性が高いことから、こちらから電話・メール等によりアプローチする必要がある。家計急変やアルバイト先の急減により、経済的に困窮している学生に対する第一の支援は奨学金である。全体で2割もの学生が退学を考えている現状では、貸与ではなく給付の奨学金をできるだけ多くの学生に回す必要性を感じる。

    最後に、教職員や生協の皆様方にお伝えしたいのは、発達障害学生の困り感は非常に分かりづらいということである。一番困るのは、何で困っているかを本人が分かっていないことである。「皆で頑張ってコロナを乗り越えよう」という文句も、協調性に乏しく、集団行動の苦手な発達障害学生には意味不明であったり、逆に辛く聞こえているかもしれない。関わる皆様方には、その学生が苦しむ原因を把握して頂くことが第一であるが、それと共に支援部署を通して、その学生の障害特性を知って頂くこと、それに対する合理的配慮を考えること、感覚の偏りに対しては環境調整を考えて頂くこと、スケジュールを立てるスキルがない学生が多いので、スマホやPCによるスケジュール管理を支援すること、うまくいった支援は部署内、学内においてできるだけ共有することが、本人の二次障害併発の防止、学内における社会的障壁の除去に繋がる。コロナ禍の今だからこそ、発達障害学生にとって過ごしやすい環境ができつつあると言うことを本人が理解し、しかしその本人が発達障害であるが故に孤立している現実を認めることが大学側には求められる。発達障害を含む障害学生を、一人にしない支援が望まれる。

  • 新型コロナウィルス “COVID-19”と大学生協による支援
    北海道大学教授 吉見 宏

    新型コロナウィルスは、グローバルに影響を及ぼしている。ここでグローバルとは、地理的な意味での「世界」だけでなく、社会のあらゆる側面、世代そのほか、まさに「全体」を意味している。だから、これは世界中のあらゆる人々にとって「他人ごと」ではない

    これは、支援にも影響をあたえる。新型コロナウィルス流行の下では、助け合い、あるいは支援は、誰かが誰かを支援するだけではなく、同時に支援する側も、何らかの形で支援される側でもあるということである。もちろん、その緊急性や逼迫度には違いはある。新型コロナウィルスに罹患し、今まさに病院で苦しんでいる患者さんは最も支援されなければならない人々であろうが、治療にあたる医療関係者もまた、支援を必要とされる人々に違いない

    助け合いは生協の最も基本的な理念だといえる。加入した組合員同士が支援しあうことができる組織として、生協はある。だから、支援を必要とする組合員がいれば、その組合員のために他の組合員が支援する。これは生協同士でも同じであって、これまでも、たとえば経営困難に陥った生協があれば、他の生協がこれを支援してきた。さらに、各大学の生協以外に、連合会や共済連、事業連合が生協同士の連帯、つまり助け合いのために存在している

    新型コロナウィルスがやっかいだと思うのは、各組合員も各生協も、他者を支援する必要があると同時に自らも支援される必要がある状況に、同じタイミングで直面してしまっているというところだ。比喩的になるが、弱った人がいたときには、普通は元気な人がそれを支援するものだ。弱った人が弱った人を無理をして支援すると、共倒れになってしまう危険性もある。生協だって、その組合員だって同じ。だから、無理をせず、それぞれができる範囲での支援をしよう、そしてそれでも困ったら、狭い範囲で問題を抱え込まずに、外部にもSOSを出して、より広いネットワークで支えていこう、そういう動きをするしかない

    新型コロナウィルスの時代に大学生協が学生組合員を支援するとき、経済的な支援を含めて、やりたいことは山ほどあるが、できないこともあることは認識しておかねばならない。なぜなら、生協自身も支援が必要な状況なのだ。遠隔授業が広がり、学生のいないキャンパスを事業区域とする大学生協は、どの生協であっても未曾有の供給減に陥っている。もちろん、経営に対する影響の深刻さは、各生協によって異なるには違いない。そのとき、自分の大学の組合員を支援できる生協もあれば、それができない生協も出てくるだろう。このとき、少しでも余裕や元気があれば、他の支援の緊急度の高い生協とその組合員を助ける助け合いも、今このときだからこそ必要になる

    それ以前に、この状況下で各生協がすべきことは、組合員ができるだけ通常と同じような大学生活を送れるように、事業を続けることがまずは基本になる。それは、食事、教科書、必要な物品の供給。しかしその供給の方法は、店舗で販売する、食堂で食事してもらうといったこれまでの方法では、学生組合員の支援にはならないかもしれない。今まで供給してこなかったもの、ことを、今までとは異なる方法で供給する必要も出てくる。まずは、何がいま学生に必要なのかを、通常の事業から少し広げて考える必要がある

    日本では、「新型コロナウィルス」が名称として定着しているようだが、世界ではWHOが名付けたCOVID-19が呼称としては普通。考えてみると、もはや「新型」ではなく、日常生活の中で普通に存在するウィルスになりつつある。それでも、今後は各国ごとに支援を必要とする深刻さは異なってくるだろう。実は生協も国際的にある組織なのだが、海外の大学生協との連帯は、意外におこなわれてこなかった。必要があれば、海外の大学生協に支援を求めることがあってもいいし、我々に余力が出てくれば、そのときには支援を必要とする海外の大学生協との連帯、助け合いも必要なのではないか。日本だけの「新型コロナウィルス」ではなく、世界の「COVID-19」は、大学生協の助け合いのあり方を考え直す機会にもなりそうだ

  • before COVID-19, with COVID-19, after COVID-19
    どんな時でも変わらずに障害学生支援を継続するために
    国立高等専門学校機構本部
    特命准教授/学生参事補 舩越高樹

    学生たちがキャンパスに姿を見せない日々がこんなにも長く続く日が来るとは、いったい誰が想像したでしょうか。卒業生を送りだし、新年度準備を始め、新入生の入学に備える。毎年繰り返される当たり前の営みが消えてなくなってしまった。生協の皆様も本来なら年間を通じて最繁忙期を迎えるこの時期なのに肩すかしに遭ってしまい、キャンパスライフが再開されるのかを、今か今かと待ち望まれていることと思います。その日が少しでも早く来るように願っているのですが、この原稿を書いている今はまだ、その光明が見えていません

    before COVID-19

    障害のある学生の修学支援は、準備に相当の時間をかける丁寧な対応が求められます。難しいのは、いろいろな障害名や診断名のある学生がいる中で、何をどう支援するかは障害名や診断名だけで決められることではないという点です。支援に当たる人たちは、学生が修学を進めるときに困難さを感じる部分はどこにあるのかを想定しつつ、本人と共に確認しながら準備を進めます。その際に忘れないようにしているのは、本人がどんな支援を求めているか、何を学びたいのか、そしてどう学びたいのかを最大限聞き取り、それに応じていくことです。支援担当者は学生よりも大学での経験があるため、この場合にはこうしたらいい、こうすべきだというモデルをたくさん持っているでしょう。しかし、それを安易に当てはめて、押しつけることはタブーです。なぜならば、障害のある学生にも、他の学生たちと同様に、それぞれの好き嫌い、学びやすさ、学びたい方向性、そしてスタイルがあるからです。それらは必ずしもスタッフが持つモデルと合致するとは限りません。大学側が提供困難な合理的配慮を希望する学生がいますが、丁寧に「建設的な対話」をし、お互いに納得できる方法を探ることが求められています。それ故に、授業開始に向けた準備にはとても時間がかかります。ましてや大学で実際に学んだことがない新入生はなおさらです。また、学生自身の思いだけではなく、履修を希望する授業で、先生方がどんな授業を展開しようとしているのか、どんなスタイルで授業を展開しようとしているのか、どんな教材を使って、どんな教科書を用いようとしているのか…それらをすべて調べ、先生方に調整をお願いしたり、教材の工夫をお願いしたり、場合によっては教材の点字訳をしたり、動画にテロップを付けたり、学生サポーターの育成やシフト調整をしたり、といった作業が延々と続いていきます。もちろんそれに合わせ、多くの高等教育機関では支援を実行するために必要な書類作成や事務手続き、ケース会議なども必要になってきます

    修学支援の観点からすると、以上のような調整を先生方の協力を仰ぎながら進めていくのですが、障害学生支援の分野はそれだけにとどまらず、生活場面での支援についての検討や調整も必要になることもあります。障害があっても生活しやすい賃貸物件探しの協力を求められることもあります。教科書購入の方法、生協組合員への加入手続き、共済の加入手続き、学修に必要なPCの用意、そして生協食堂の利用方法の調整などが必要になる場合もあります。視覚障害のある学生の場合、生協の各種サービスを受けるために提出しなければならない書類は、残念ながら電子化されていないものもあるため、一人で作成するのは困難です。聴覚障害のある学生の場合、生協の窓口に説明を受けに行っても、手話のできるスタッフが在籍していない場合にはコミュニケーションをとることができません。筆談のためのボードが用意されている窓口もまだ少数です。そのため、障害学生支援のスタッフが情報保障を担当するケースもあります。他にも、肢体不自由の学生、特に車いすユーザーは、階段や段差に阻まれて、窓口にたどり着くことすら困難な場合もあり、学食ではトレー運搬等の補助が必要な場合もあります。これらについての調整も必要です

    これらを毎年、入試、合格発表、入学手続き、生協ガイダンス、生協組合加入手続き開始日、教科書購入日そして授業開始日等の日程をにらみつつ、学生、教職員、学生スタッフ、そして生協職員の皆様にも協力をお願いしながら進めています。ところがどうでしょう。今年はこれらの日程がほとんどわからなくなってしまいました。これから先、緊急事態宣言が解除され、対面による授業再開が急に決定された場合、これらの調整を短期間で、発表から開始日までの限られた時間の中で、一気に進めなければならない事態が生じます。それがいつになるのか、ひやひやしながら、でもいつになってもいいように万全の体制を組みつつスタンバイしている状態です。さらに言うならば、生活支援を必要とする障害のある学生が一人暮らしをしている場合など、障害学生支援スタッフが支援を継続しなければ、その学生の生活や生命が脅かされるような事態が生じる場合もあり、学生を待たせることも、我慢させることも許されないということもあります。学生たちの命を守るための福祉的サービスの提供を求められるケースもあり、業務を一時も停止することができない、学内でも稀有な機関であることはあまり知られていません

    with COVID-19

    ここまで例年の取り組みを紹介しつつ、現下の課題について触れてきました。しかし、長引く新型コロナウィルスの影響を受け、多くの高等教育機関がネット配信による遠隔授業を開始しています。それについて障害学生支援に関連した注意点にも触れなければなりません。多くの支援関係者、研究者の方々が情報発信を始めていますが、例えば発達障害や精神障害といわれる障害のある学生たちの一部には、登校する必要がなくなった今、周囲の学生の目線が気になる、雑音が気になる等を気にする必要がなくなり、かえってこの方が学びやすいということに気づいた学生たちもいます。一方で、スピーカーやヘッドホンから聞こえてくる音が苦手な学生、PCやタブレット、PCの画面を見続けなければならないことを苦痛に感じる学生たちや、そもそもそこから情報を読みとることが困難な学生もいます。こういった学生には、感覚過敏といわれる感覚に関する苦手さがあることが疑われるケースもあるのですが、遠隔授業が始まった今、初めてそのことに気付いたという学生が出てくるのではないかと言われています。教職員はそういった新たに支援ニーズに気づくタイプの学生にも配慮して、学びにくさを感じた学生からの相談に乗り、対応することができる体制を用意しなければなりません。また、視覚に障害のある学生、聴覚に障害のある学生への配慮、キーボード入力等に支援が必要な学生への支援も引き続き行わなければなりません

    こういったICTを通じて発生する課題にも、AT(Assistive Technology:「支援技術」と訳されることが多い) を用いて対応可能な場合があります。PC上の情報について、例えば見えにくさ、聞き取りにくさについては、それを調整するためのアプリが多数開発されています。またPC上以外にも、入力や画面を見続けるための姿勢保持のツール等もあり、それらを使ってサポートすることも可能です。障害学生支援を担当するスタッフは、こういったATの技術についても情報を収集し、学生の学びやすさの確保のために用いることができないか、アレンジしたり試行したりという作業を、これまでもずっとしてきましたし、with COVID-19下でも続けていくことになります

    大学等の高等教育機関内で、AT関連のアプリやハードウェアを購入する窓口として最初に期待するのは生協購買部です。障害のある学生のための支援関連商品をそれぞれの生協ごとにリストアップし、数多ある企業と購入ルートを確保することは効率的であるとはいえません。障害のある学生の修学機会は今後も拡大していくことはまちがいないですし、そうでなければなりません。事業連合として、障害のある学生の生活を支えるそういった支援関連商品リストや購入ルートをこの期に確保し、全国でそれらを共有し、今後各高等教育機関での購入、提供がスムーズに進むようなシステム作りを急いでほしいと思っています。生協を通じた販路の確保は、この分野に取り組む各企業の支援にもつながります。学生たちのニーズに応えるには、高度な技術開発力が要求されます。生協をハブとした売買ルートの確保は、今後この分野の安定的な発展にもつながっていくことと思います

    全国大学生活協同組合連合会のウェブサイト上にも、障害のある学生の関連情報が増えてきており、障害のある学生も、それを支える教員たちにも役立つ情報が提供される機会が増えてきています。スタッフの皆様が支援ニーズのある学生への対応ノウハウを身につけようとご努力されていることも伝わってきます。さりとて、大学に在籍する組合員すべての生活を、分け隔てなく豊かなものにすることが大学生協の使命だとするならば、残念ながらまだまだ十分とはいえません。学生もさることながら、障害のある教職員も一定数います。そういった方々の生活や福利厚生を支える機能を、生協はまだまだブラッシュアップする余地はありそうです。学生たちを相手にした直接の営業活動ができない今だからこそ、すべての組合員の生活を支えるためにできることが他にないか、見つめなおす機会が確保できるのではないでしょうか

    after COVID-19

    今回の新型コロナウィルスの影響を受け、before COVID-19では高等教育機関において当たり前とされてきた、対面授業を主とした修学方法では学べない事態を、前代未聞の規模で多くの人たちが経験しています。障害のある学生たちはこれまでも常に、その当たり前とされる修学方法では学びにくさを感じたり、学ぶこと自体が困難だったりしてきました

    障害のある学生たちがスムーズに学べるようにするために提供されるのが「合理的配慮」という、本人の個別の支援ニーズに合わせて行われる変更・調整です。高等教育機関においてこの「合理的配慮」は、学生間の機会平等を実現するために提供されます。しかし、その学部、学科、研究科が三つのポリシーやシラバスで示している「教育の本質」を変更することは許されていません。これまでも障害学生支援においては、場所を変える(例:精神障害等が理由で大教室に入ることが難しい学生向けに、他の場所へ授業を遠隔配信する)、方法を変える(例:筆記試験を受けるのが難しい、視覚障害や発達障害のある学生向けに、口頭試問に変更する)、などの調整を行ってきました。しかし、これらにおいても教育目標や公平性を損なうような「教育の本質」や「評価基準」の変更・調整は、教育の質保証の観点からも認められておらず、常に「教育の本質」は何か?変更してもそれを損なわない方法は何か?を追求し続けてきました

    ほぼ全高等教育機関が、障害の有無関係なくすべての学生を対象とした遠隔授業を開始した今、その方法での授業においても、各機関が提供しようとしてきた「教育の本質」を、いかに変えたり省略したりせずに実施できるか、広範にわたり、教育分野の垣根を越えて議論されるようになっています。これまでは残念なことに出席重視、遠隔授業の実施やその他の方法の変更・調整に難色を示される教員も一部見受けられました。この広範な議論の進展は、「教育の本質」の変更がなければ、いろいろな教育方法や修学方法の検討が可能であることを、広く認める契機になるといえます

    全世界にこれだけの社会的インパクトをもたらした COVID-19。after COVID-19にたどり着いたとき、残念ながら世界を元通りにすること、皆が元の生活様式に戻るのは難しいかもしれないと言われています。それは私たち一人ひとりに大きな変容を強いることがあるかもしれません。しかし、それを悲観的にとらえるのではなく、少しでもよりよいものにするために、人々がよりよく生きられるようにするために、私たち皆が現状を変えていこうと努めることが必要だと思いますし、それは可能だと思います。障害学生支援分野からも生協に期待するところはここに書ききれないほどたくさんあります。それは別の機会に譲るとしても、多様な教育方法、修学方法を支えるツールやソフトの導入や、学生たちの多様な生活方法を支える手段の提供に、これからも応え続けるため、じっくりと考える時間を確保しやすいこの期間に、前へ進むための検討に是非取り組んでほしいと願っています

    with COVID-19でも、after COVID-19でも、障害のある学生も含めた全ての学生の学びや生活をより豊かなものにするために、生協組合員皆一人ひとりが、いつもとはちょっと違った視点で、できることをしていきましょう

    【with COVID-19における障害学生支援参考情報掲載サイトの紹介】
    いろいろな機関が障害学生領域の新型コロナウィルス対策関連情報の発信を始めています。その中でも日本の高等教育機関における障害学生支援に関連した全国規模の協議会である「一般社団法人 全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN)」のサイトの情報は、各機関へのリンク集も含め総合的な情報を提示しているためここで紹介します

    「新型コロナウィルス対策関連情報」はこちら
    https://ahead-japan.org/covid19/

  • 学生が在宅で主体的に過ごすポイント
    学校法人桐蔭学園理事長 桐蔭横浜大学学長 溝上慎一

    学生の授業料やアルバイト、生活費などの問題は緊急の課題である。政府や大学が対応していかざるを得ないし、筆者も学長として誠実に取り組んでいる。ここでは、大学生協が取り得る学生支援のテーマとして、学生の在宅生活について取り上げる。

    以下の内容は、筆者の所属する桐蔭学園・桐蔭横浜大学で、中高大学生向けにオンデマンド講座として配信した、学生が「在宅で主体的に過ごすポイント」を基に紹介するものである。「在宅で主体的に過ごすポイント」だけでは少し説教くさいので、心理学の解説も交えながらお話しする。

    1.なぜ「主体的に過ごす」なのか?

    まず、このテーマの意図である。在宅の過ごし方だけなら、「規則正しい生活をしよう」「学習するときは学習、遊ぶときは遊ぶなどで、メリハリのある生活をしよう」といった話が多いように思う。それはそれでいいのだが、ここでは“主体的に”を強調してお話をしたいわけである。つらい状況でつらく感じるのは人として当たり前。ストレス下にあってストレスを感じるのは当たり前である。しかし、そのような受け身の姿勢でいいのかということを、学生たちにはこのコロナ禍の状況の中で考えてほしいのである。

    人は、つらくてもそれを乗り越えようとする、ストレスを感じていてもそれを軽減しようとする主体的な生き物である。環境に流されるのではなく、ここでは自然も含めて環境に打ち勝ってきたからこそ、今日私たちが築き上げた工業化・近代化社会がある。文明社会と言ってもいい。それの個人版を考えてみたい。

    なお、「在宅で主体的に過ごす」というテーマの「主体的」というのは、外界の事物、他者などの「環境」に対して自ら進んで働きかけていく、まさに環境を変えようとする行為のことである。英語では「エージェンシー(agency)」とも言われている。勉強で言えば、与えられた課題を「やりゃあいいんでしょう」のような気分で取り組むことを「主体的な学び」とは言わない。課題に対して自ら、積極的に進んで取り組むこと、自身の知識や理解、疑問など課題に関わる自分をいろいろ作り上げていくこと、それが主体的な学びであり、そういうときに「主体的」という言葉を使う。対象(環境)に負けないで取り組むような働きのことである。

    2.具体的な2つのポイント

    それでは、「在宅で主体的に過ごす」具体的なポイントを2点ご紹介する。

    1. ①1日の活動をリスト化する
    2. ②次にすべきことを意識しながら、今の活動を行う

    一つ目の「1日の活動をリスト化する」についてである。主体的に過ごすためには、自分で活動を作る必要がある。与えられて「やりゃあいいんでしょう」ではないわけだから、自分で活動を作り操作してこそ「主体的な生活」と言える。

    少し恥ずかしいが、私の方法を参考として紹介する。私はiPadのメモ帳に、1日することを毎朝書き出している。終わったら線を引いて消していく。夜寝る前に「明日はこれをしよう」と書き出す人もいる。要は、自分が取り組めれば何でもいいので、自分に合った方法を見つけてほしい。私はiPadを使っているが、小さなホワイトボードに書き出したり(100円ショップで売っている)、ポストイットで書き出して机の前に貼ったりしてもよい。人それぞれであるが、とにかく自分に合った方法を見つけることが大事である。

    心理学的に見ると、「1日の活動をリスト化する」には「目標」という時間概念が込められている。人は、今ここの世界だけで生きているのではなく、過去や未来のこと、ここから離れた場所のことをいろいろ思い描きながら、難しく言えば、時間的・空間的に離れた出来事を思い描きながら生きている。目標はこうした未来事象の一つで、こうなってほしいと思うことである。私は今現在2020年5月に横浜市にいるが、頭の中では奈良時代のこと、アメリカで起こっていることを思い描くことができる。このような頭の中に思い描く時間や空間は、「主体的」に操作することができる。こうして、自分の中で思い描く時間や空間が、人の行動を変えると言える。

    ある心理学者が、ドイツナチスの強制収容所で、未来を信じて過ごした人と、未来に絶望して過ごした人の収容所での過ごし方がまったく異なっていたと論じている。これは心理学では「時間的展望」という概念で説明される有名な話であるが、このように人は同じ環境に身を置きながらも、そこから未来や過去をどのように思い描くかの自由度がある。大学生の皆さんがキャリア教育で将来の仕事や生き方を考えることで、今の過ごし方が変わってくるのも同じことである。今回は、「時間的・空間的」というときの「時間」を主に取り上げているが、1日したい活動、すべき活動を自らが作り出すことで、自分なりの、自分独自の環境を作り出してほしいと思う。

    次に、二つ目の「次にすべきことを意識しながら、今の活動を行う」についてである。活動をリスト化しても、それを実行していないといけない。1つ実行できても、次は続かないということもある。人の心はそんなに強くないから、そこで立ち止まってしまう人と、そこから前へ進む人とに分かれてくる。ここでは前に進めるための一つの方法を紹介する。

    それは、次にすべきことを頭のどこかに意識しながら、今の活動を行うことである。たとえば私は、iPadでリスト化した1日の活動リストを常に横目に見ながら、「次は何」と思いながら、今の活動を行っている。こうすることで、今の活動が終わった後、よし次は!と意識することなく、次の活動に移っていけることが多くある。

    心理学的に説明しよう。人は自分の頭の中で思い描いたことだけでそれを実行していくことはなかなか難しく、環境との相互作用、時に環境の力を借りながら行為していく存在である。自宅で勉強する気がしないから、図書館や塾の自習室で勉強するといったことがある。それも環境の力を借りている。環境との相互作用によって、つまり環境に影響を受けて主体の活動を調整していると言える。

    スマホである事柄を検索することがある。そのとき、自分の頭から適切な言葉が浮かんでこなくても、世の中の人びとが検索している用語に助けられて、検索が進むという経験を持っているはずである。これも環境の力を借りて、自身の活動を調整すると説明される。自分一人の力で行為を進められないと考えることが重要である。

    主体的に過ごすポイントは、最後は自分で、まさに主体的に作り出すものである。上記でお伝えしたものも、そのきっかけを提供したに過ぎないものである。そうだと思えば実践してみて、自分なりの方法に仕上げていってほしい。いや自分はこうする方が主体的に過ごせる、と思うものがあればそれでよし。皆さま自身の実践を考えてほしい。

    どのようなものであっても、100点、完璧を目指さないことも重要である。60点か70点くらいでいいから、とにかく活動を止めることなく前に進めていくことである。コロナに負けず、この時期の体験をポストコロナに生かしてほしい。

    ※ここでの話は、コロナに打ち勝つ!桐蔭オンライン講座「在宅で主体的に過ごすポイント、かつ心理学を学ぶ」で動画で視聴することができる。学生向けに作った講座なので、伝えていただければ幸いである。
    https://www.toin-tc.com/ondemandseminer

  • コロナ禍における地域協働授業の取り組み
    富山県立大学 工学部 情報システム工学科 岩本健嗣

    0、はじめに

    コロナウィルスの蔓延状況を踏まえて、多くの大学で遠隔講義での授業を強いられているものと考えている。本稿では、富山県立大学での遠隔授業の状況と、この状況下における地域協働型のゼミの実施例とその課題について報告する。

    1、本学における講義全般の状況

    富山県立大学では、4月8日に開始予定であった授業を2週間延期し、4月22日より全ての講義を遠隔講義で開始し、実習、演習系の授業は当分の間見合わせている。具体的には、Microsoft社のTeamsとZoomを併用しリアルタイム(双方向)型、オンデマンド型それぞれの形式で授業実施を支えている。GWを挟んでいるものの、約1月が経過し概ね順調に講義が実施できていると認識している。

    一方、まだ課題も多い。本学は、工学部、看護学部の2学部からなる大学であるが、演習、学生実験など機材等の関係で学生が大学に来る必要がある授業に関しては全く目処が立っていない。また、研究室の活動も完全に停止しており、卒業論文や修士論文を抱える学生は大変不安な思いをしている。

    上記の様な状況において、本学の地域協働型授業の活動も大きな影響を受けている。まず、本学の地域協働授業について簡単に説明すると、1年時から3年時にかけて実施されているゼミ形式の授業を中心に、地域と関わるテーマを扱うものを地域協働授業と呼んでいる。学年にもよるが、3人から10人程度に1名の教員が割り当てられ授業を行っている。工学などの専門知識を活かすことに捉われず、地域の課題を学生が学んだり、地域の様々な方との対話を通してコミュニケーション力や課題解決力を養っている。

    例年の地域協働授業では、多くの授業で現地視察や関係者とのディスカッションを行う関係で、大学外へ出向くことが多い。4月の大学からの通達で、上記の様な外での活動は完全に禁止されており、実施はほぼ困難となっている。

    2、コロナ禍における地域協働授業の取り組み

    上記の様な状況から、地域協働授業の実施が困難となっていることについて述べた。一方で、テレビ会議ツール等を用いて地域協働授業を継続している取り組みや、テーマを変更して実施を検討している取り組み事例について紹介する。

    ある先生は、富山県南砺市で生産されている干し柿の生産や廃棄物に関する課題を解決することをテーマとした、2年生向けの授業を担当されている。この授業では、もともと柿農家を見学したり作業の補助を行いながら、人手不足や後継者不足などの生産に関わる問題を学習したり、生産の過程で出る廃棄物について学びその削減方法等について議論する予定であった。しかしながら、その様な訪問型の活動はできない状況であることことから連携先の農家の方々とテレビ会議でディスカッションする形式に変更している。しかし担当教員はやはり現地での体験しないまま議論することについては学生からの提案内容等が不十分になる可能性があると考えており、8月までの間に状況が好転すれば現地調査を行いたいと考えている。

    別の事例として、私の担当する2年生のゼミを紹介する。私のゼミでは射水市の観光アプリのコンテンツ開発を通じて、工学的な視点から観光振興に資する提案を学生から行う予定であった。このテーマでは取材等で校外での活動が前提となるため、このコロナウィルスの蔓延状況を踏まえテーマの変更を行った。そこで、富山県では、県や一部市町村において若者の交流人口の向上などを目指して力を入れている、eSportsを新たなテーマとして取り扱うこととした。富山県には、全国的にも有名なeSportsのキーパーソンが代表を務めるベンチャー企業があり、またこの企業とは研究室で共同研究も行っており、協力を得やすいことがあった。また、学内では球技大会の中止も決定されていたため、「学生が誰でも参加できるeSportsイベントを実施」することことを目標として、それを通じて富山県が進めているeSports事業を通した地域振興について学ぶこととした。

    まさに今現在進めているところであるが、遠隔でゼミ形式を実施する難しさを痛感しているところであり、その点について共有したい。

    主にゼミでは、学生同士のディスカッションや簡単な成果発表を繰り返すことで進めていくことが多い。上記のゼミでは、13人の学生がおり、Zoomのブレイクアウトルーム(学生を小部屋の様なものに分ける機能)を使って、イベント実施の役割ごとに4つのグループに分かれて議論をすすめている。対面型であれば、それぞれのグループの議論の様子を遠巻きで眺めながらゆるい形で参加したり、こっそり議論の内容を聞くことも可能であるが、ブレイクアウトルームに教員が参加してしまうと、そのようなゆるい形ではなく、学生が萎縮してしまい議論が進みづらいという問題が分かった。

    そこで、現在はTAを活用して議論の活性化に努めている。あえて自分はブレイクアウトに参加しないようにして、各部屋に研究室の学生をTAとして配置して学生同士でディスカッションを進めている。各回でそれぞれのチームの成果を発表してもらうことで情報共有と指導を行うようにしている。

    今後の課題としては、授業の成果をアウトプットとして報告する場をどのように担保するかについて憂慮している。例年であれば、学期末に多くの地域協働授業の実施クラスを集めた成果発表会があり、学長や外部のゲストを招いた発表会を実施しているが、今年度、学生の成果をどのように発表し、学生に成果に対する実感を持たせるかについて考えていく必要がある。

  • 開講延期~オンライン化への大学生協の取り組み
    ~学びと成長事業の一側面から~
    大学生協事業連合 関西北陸地区 キャリア支援事業部 次長 松田 高広

    本年度の教職員セミナーでご紹介する予定だった、京都地区の合同プログラム「First Year Program in KYOTO」の取り組みを中心に、コロナ休校に対する学生サポーターたちと事業活動の対応についてご報告します。


    新型コロナウイルスの感染拡大により、大学の開講延期・講義のオンライン化が行われることで、大学生協の学びと成長事業も大きな影響を受けています。
    公務員やPC、英語などの各種講座は教室集合型での講座が実施できなくなり、多くの講座が中止を余儀なくされ、オンラインでの開催に切り替えを行っています。オンラインでの開催に至った会員生協でも、この分野のノウハウの蓄積はほとんどなく、生協担当者も講師もいまだに手探り・試行錯誤の状態が続いているのが現状です。

    そんな中で、2018年度から取り組んでいる京都地区の合同プログラム「First Year Program in KYOTO(以下FYP)」では、学生サポーターが中心となって講座の開講延期・オンライン化に対応し、受講生から高い満足を得て講座をスタートさせることができました。
    FYPは京都地区の新入生を対象にした、「TRY(視野を広げる)&LEARN(経験から学ぶ)」をコンセプトに、成長の体質をつくることを目的としたプログラムです。例年4月から12月までの14回(ほぼ隔週)の講座と、企業や団体との共同プログラムである2回の「チャレンジプログラム」とで構成されており、事業連合のインターンシップ生でもある上回生の学生サポーターがそれぞれグループを担当して、新入生の4月から12月までの変化や成長を見守り、支援しています。
    新型コロナウイルスの感染拡大が進むまで、サポーターたちは事前研修を重ね、新入生を迎えるための準備を続けていました。しかし、感染の拡大と4月初頭の緊急事態宣言の発出により、当初予定の4月11日の開講が不可となり、その時点で急遽5月9日までの延期を決定しました。

    延期にあたり、サポーターのミーティングでは「1ヶ月間大学に来るのが延期になった新入生はどんなことを不安に思い、悩み、講座に何を期待するか?」など時間をとって想像しあいました。「友達ができない」「時間割やいろんな手続きがちゃんとできているか不安。でも誰にも相談できないので不安が消えない」「サークルもバイトも始められない」「家から出ないと人とも話さないし、孤独でネガティブになりそう」「ゲームと動画で時間が過ぎてしまいそう」「おいてきぼり」「自分だったらパニックになる」「大学に対するモチベーションがなくなる」。。。
    では、その状態に対して何かできることは?という問いかけに、事務局が想像していた以上に彼らはどんどんアイデアを出し、具体化を進めました。「Pre-FYP」プログラムとして、①各大学の上回生が日替わりで大学生活をラフに語るzoomイベント「17人の先輩が語る17通りの大学生活」、②LINEによる情報発信、③インスタライブで毎日上回生が交替で自分の大学のことを紹介する「インスタライフ」、④同じ大学の先輩が1対1で不安や相談にこたえる「メンタリング」の4つの取り組みを1ヶ月の間に次々と行いました。
    これらの取り組みを行っている最中に、各大学の「前期授業のオンライン化」が相次いで発表され、この講座も前期中はオンラインでの開催に切り替えることとなりました。大人たちが「オンラインだからこれはできない、あれは無理」と考えがちなのを横目に、サポーターたちは「オンラインならどうやったらできるか?」という姿勢で、オンラインでもやれること・オンラインだからやれること、を考えて、プログラムも当初の教室集合型から変えること/変えないことの切り分けと再構成を行いました。

    この議論をするにあたり、サポーターと話したことは大きく次の3点です。①数年前から「VUCA」と呼ばれていて不透明で変化の大きな時代が来ることは予想されていた。この瞬間はまさに「VUCA」で、社会が大きく変わるタイミングに自分がいることを味わおう。②1回生にとってこの期間が「自宅にこもって大学から与えられた課題を先が見えないまま受け身でこなす6ヶ月」になるのか、「自宅にいてもいろんな人とつながって、自分なりの目標を持って成長を感じられる6ヶ月」にするのかで4年間の過ごし方は大きく変わるはず。③オンラインで議論したり何かを作ったりすることは、グローバルビジネスですでに始まっていること。この経験は自分たちが社会に出る時のシミュレーションだと思って取り組もう。ということでした。

    サポーターたちの取り組みの効果か、5月9日の第1回講座には申し込んだ新入生全員が出席、終了後のアンケートでも5点満点の4.52という高い満足度を示しています。「大学に入ってはじめて同じ大学の友達/先輩と話した」「最近あまり人と話してなかったので楽しかった」「いろんな大学の人がいて刺激を受けられそう」「1年間頑張ろう!って思えました」という感想、何よりzoomの画面で見る参加した新入生たちの楽しそうな表情が期待に応える出発になったことを物語っていました。
    5月23日の第2回の講座も全員が出席、「その月の誕生日の人をみんなで祝ってあげよう!」という細かなイベント(zoomの回線のタイムラグでテンポが合わず「ぐだぐだ」でしたが。。。笑)等もサポーターの発案で織り込みつつ、9月に実際に顔を合わせるのを楽しみに、これからもオンラインでの学びと成長をつくっていく経験を重ねていけそうです。

    同様に、「大学生活の目標をつくる」1回ものの企画として例年行っている「ビジョンナビセミナー」というセミナーがあります。こちらも多くの大学で開催見送りになりましたが、京都大・富山大ではオンラインで実施することができました。
    新入生同士、先輩と話す場は求められていて、セミナーの終了後もオンライン上のルームに残っていつまででも話し続けているグループもたくさん見られました。

    この状況を受けて、セミナーコンテンツを動画で提供し、大学でやりたいことを交流する「オンライン交流セミナー」を急遽開発、4月末にリリースしました。
    60分間の「オンライン交流セミナー」では、サポートに入ってもらった上回生からも経験談を話してもらいながら「大学でやりたいこと」をたくさん出し合い、「まずはじめにやること」を決める、という構成でおこなっています。
    取り組む会員が限られており、参加者数はまだ少ないですが、参加者からは「同じ新入生同士で刺激を受けた」「自分も頑張ろうと思った」「大学に行くのが楽しみになった」という感想が、上回生からも「もう一度大学生活の目標をしっかり持とうと思った」など相互に触発される場になっています。

    例年なら先輩や新入生同士、相談したり周囲の姿を見ながらいろんなことを考えて、「高校生」から「大学生」のメンタリティに変わっていく時期ですが、自宅にいて送られてくる教材に取り組むだけでは「高校生と大学生が違う」ことになかなか気づかない、ということもありそうですし、モチベーションを持てないままの受け身の6ヶ月は大学生活を諦めてしまうことも危惧されます。FYPや「オンライン交流セミナー」に参加して、いきいきと自分のやりたいことを話す新入生の姿を見るにつけ、置かれた状況に対して自分なりの目標や意味づけをすることの大切さを感じます。まだまだ非力ではありますが、オンラインであろうが、教室であろうが、上回生とともにそのことに貢献できる確信も持っています。
    反面、(あくまで個人としての意見ですが)大学生協は「学内に(店舗などの)拠点がある」ことを強みと考えるあまり、職員自らの仕事の定義が「学生の支援」ではなく「店舗の運営」に偏りすぎてないか虚心坦懐に見直すことの必要性を強く感じています。過去の成功体験が未来を保障するとは限らないことを素直に受け止めて、おそらく2021年新学期にも残るだろうウイルスへの対策を準備しておきたいと考えています。
    最後に、ぜひとも教職員のみなさまの知見を大学生協事業の運営に反映できるようにお力添えいただきたく、お願い申し上げる次第です。

4月以降全国のほとんどの大学で従来の形での講義は行われておらず、講義の開始の延期もしくは新たに取り組まれているコミュニケーションソフトウェアなどを使用したオンライン講義が始まっております。学生は、学習面はもちろんのこと、現在の生活や自分や家族の健康、友人とのコミュニケーション、そして卒業・就職などの将来に多くの不安を抱えていることと思われます。コロナ休校中の現在において、学生支援の必要性はセミナーを企画した当初にくらべ、格段に高まっているにもかかわらず、元来支援を必要としていた学生に対する支援の実施が困難になっているものと思われます。教員職員の皆様も、初めての事態に直面し、手探りで対策を行っているものと思います。今後の大学での学生支援や講義などに参考にしていただければ幸いです。