全国教職員委員会

「リーディングリスト運動」を 日本のすべての大学へ

危機感を持とう!

玉 真之介 全国教職員委員会委員長

プロフィール
農学博士(専門 農業経済学, 日本農業史, 農業市場学) 1977年 北海道大学農学部卒 1985年 北海道大学大学院農学研究科修了 2011年 徳島大学大学院SAS研究部教授 全国大学生協連副会長・全国教職員委員会委員長在任中

「食堂と書籍」は、発足以来、大学生協事業の二本柱。その一方の書籍事業が危なくなっています。背景にあるのは、学生の読書離れ。大学生協が実施している学生生活実態調査によると1週間の平均読書時間0分の学生が全体の4割を超えています。また、この10年間で、大学生協の書籍事業は、25%以上も供給が減っています。とりわけ、人文・社会系の図書販売が減少しています。

その一方で、私たちが向き合うべき世界の現実は一段と複雑化しています。政治・経済の世界でも、宗教や文化の世界でも、環境・防災に関しても、多様な考えや価値観がせめぎ合っています。国内に目を向けても、原発や安全保障、貧困や経済格差、人口減少や地方経済等々、考えなければならない問題が目白押しです。

この時代に、学生の読書離れは日本の未来の危機といえるのではないでしょうか。このことに、すべての大学人が危機感を持つ必要があるのではないでしょうか。

教職員委員会の出番

徳島大学生協の読書マラソンコーナー

いまこそ教職員委員会の出番であると、私たち全国教職員委員会は立ち上がりました。学生委員会に比べると、全国の大学生協の組織活動において教職員委員会の活動は、外からは何をしているのか見えません。 「教職員委員会って何する組織?」。 多くの教職員は、イメージできないと思います。その時に、「学生に読書を薦める組織」と言い切っても構わないと私は思います。その他にもありますが、読書推進こそ、教職員委員会が昔から取り組んできた重要課題だからです。特に、教育に携わっている教員は切っても切れない課題です。

ただし、私たち教職員委員会は、読書推進という活動の難しさも身に沁みて感じています。いろいろ取り組んだけど、なかなか成果が出せない。その結果が学生の読書の現状です。なので、「またやるの???」「どうやって???」という反応を示す方もいるでしょう。しかし、全国教職員委員会はもう一度、本気で読書推進に正面から挑戦していくことを決めました。それが「リーディングリスト運動」です。

どこが新しいのか?

甲南大学生協の読書マラソン棚

今回、全国教職員委員会が提唱した「リーディングリスト運動」のどこが新しいのでしょうか。これは大学の根幹である教育を変えていこうとするところです(ちょっと大袈裟ですが)。

これまでは、学生が余暇の時間を少しでも読書に向かうように働きかけることに主な重点がありました。そこでの読書のイメージも、「趣味や関心のある書籍」を読むことでした。今回は違います。読書を大学の授業に結びつけ、授業のより深い理解のための読書を重要な柱として運動を広げていこうとするものです。すなわち、最初の授業の時にリーディングリストを学生に示すことを提起するものです。

もちろん、授業だけを対象にするのではありません。平和の問題や環境問題、地域社会の問題等々、さまざまなテーマについても、リーディングリストを作成して学生に提示していくことで読書を推進したいと考えています。要するに、読書のパッケージ提案です。

授業のために読むのが果たして読書と言えるか、という疑問を持つ方もあるかもしれません。同様に、漫画本を読むのは読書か、教科書はどうか、など議論はあると思います。これに対して、全国教職員委員会は、読書をできる限り幅広く捉えることとしました。

連携した実践

新潟大学生協が発行している書評誌
「ほんのこべや」

私たち大学人は議論が好きです。ですから、今回提唱した「リーディングリスト運動」についても、さまざまな議論があると思います。議論は大切です。ですが、いまもっとも必要なのは、アイディアを出し合って読書推進を実践することです。その実践を踏まえた上での議論が大切なのです。

その際、大学生協の強みは、学生委員会が存在するということです。学生委員会と教職員が一緒に知恵を出し合って実践することで、新しいとりくみが期待されます。また、生協職員と教職員が協力・連携することが書籍事業の充実のために不可欠です。

今回提唱した「リーディングリスト運動」は、授業を担当している教員であれば誰でも実践が可能です。それにより、学生の教室外学修の時間を増やすという現在の大学教育が求められている重要課題にコミットしていくことも可能となります。

読書を大学教育にビルトイン

現在の学生の読書離れは、日本の大学が教育システムに読書を組み込んでこなかった結果と見ることもできます。「大学生になれば本を読むのは当たり前」といった固定観念がありました。それは、旧制高校などから引き継がれた「旧教養主義」です。

私たちが提起する「新教養主義」は、学生の将来に深く関わる現実世界の複雑さを踏まえて、大学教育の一部として読書推進を提起していくものです。現在の大学教育改革の大きなテーマは、主体的に学ぶ態度の育成であり、そのためにインターンシップ、体験学習等を含む能動的学修が重視されています。

しかし、体験を振り返り、内省する力を養う上でも、能動的学修の一部として読書は不可欠です。私たちは、読書を大学教育にビルトインするという発想に立って、「リーディングリスト運動」を広げていきたいと考えています。

(全国教職員委員会委員長 玉真之介)

ざ★ポイント POINT

  • 教職員が読書推進で学生の育成をサポートする
  • 大学(授業)と連携。大学教育とリンクする
  • 実践を踏まえて論議する。運動のブラッシュアップをしていく
  • 新教養主義で学生の主体性を促進する