龍谷大学 障がい学生支援室 支援コーディネーター 瀧本 美子氏
日時:2021年3月15日(月)18時~
「学生支援」とは、学生生活で経験する様々な苦楽を仲間と共有しながら(仲間になりながら越える過程の中で)、学生が、他者を知り、自分を知ること、そして自己の問題を社会とつなげて考える力を得ることを支援(応援)すること、またそのための環境を整備することである。(瀧本)
→競争と分断の社会の中で育った若者が生きなおすための学びや交流、経験が必要。
若者が、行方不明になっていた自分を取り戻す(内発的主体形成)作業で、今後の人生を真に豊かに生きるために必要不可欠な営みである。
上記の様に学生支援を捉えた上で、改めて「障がい学生支援」とは何か。
1.コロナ禍、障がい学生支援室を訪れた学生の声より
障がい学生支援室では、共生のキャンパスづくりを考える情報誌「VarIproD.」(ヴァリプロード)を年1回発行している。2021年3月に発行した「特集 龍大生発 コロナ禍、学生のリアル」(資料参照)より学生の声を紹介する。
上記の声を寄せてくれた学生は、新型コロナウィルス感染拡大により家業の廃業を余儀なくされるなど、コロナ禍の影響を多大に受けた学生である。学生は、家族が直面する様々な問題に両親を気遣いながら立ち向かっていたが、2020年7月頃より抑うつ状態となり、修学上の配慮を求めて障がい学生支援室へ来室した。学生は、以前聴覚障がいの学生のパソコンテイクを行っていたことから、自ら障がい学生支援室へ支援を求めることができた。
支援の申出以降卒業の見通しがつくまでは、障がい学生支援室において週1回~2週間に1回程度面談を行った。面談を行う支援コーディネーターは、社会福祉士や精神保健福祉士、保健師、養護教諭などの資格を持つ対人援助の専門職であるが、一方で同じ時代を生きる人生の伴走者として話を聴くこと、共に考えること、つまり「当事者性」を大事にしながら「対話」を繰り返すといった面談を行っている。
今回の面談では、学生が自分の状態や経験したことを語り、それらをどの様に理解し、受けとめれば良いのか、またこれからどうすれば良いのかといった学生自身の問いについて共に考えていた。服薬治療も継続する中、徐々に状態が安定し、語りは自己のことから家族のことへ、そして社会の状況へと往還する様になった。
上記の「声」は、卒業間際に「コロナ禍の経験や思いを伝え合うことから創る未来」というテーマでインタビューした内容の一部であるが、インタビューからは、コロナ禍において我が身に降りかかった苦難の中で学生が悩み、また他者と対話する中でやっと掘り出した「気づき」や、その「気づき」が、人生の学びとして社会化される様が読み取れる。
そして経験を発信することで、学びは確かなものへと変わっていく。他の学生や教職員も学ぶことができる。コロナ禍という人類が初めて経験する危機的状況の中を生きていくための智慧や、解決しなければならない社会課題は、こうやって共有されていくものだと思う。
障がい学生支援室では、個別支援に加え、情報誌の作成や学生実行委員会による「共生のキャンパスづくりシンポジウム」などを実施し、学生の豊かな育ちと人生を応援している。インタビューに応えてくれた学生が経験した様な苦労は無いに越したことはないが、学生に心を寄せ、対話をしながら共に歩む人がいれば、困難は学生自身の力に変えていくことができる。障がい学生支援室は治療の場ではないが、学生の苦しみに心を寄せ、共に考え、歩むことはできる(ケアしながら、共に、ゆっくり前に進む)。良い伴走者がいれば、つまずきは学びとなり、その後、学生自身の大きな力となる。全てうまくいく訳ではないが、その様な学生支援を目指している。
「龍谷大学オンライン授業推進委員会障がい学生支援ワーキンググループ」が実施した「障がいのある学生のオンライン授業受講状況調査結果」によると、「オンライン授業により、通学の負担や大学内の雑音や騒音から解放され自分に合った環境で学習に集中できた」という回答や、「オンライン授業は、わからないところをいつでも繰り返し視聴できるため、授業内容の理解や定着が進んだ」とする回答が多かったことなどにより、「オンライン授業は、障がいのある学生にとっての社会的障壁を軽減し、学習意欲や授業内容の理解、定着を促すことから一つの選択肢である」と考えられる。
しかし以下に示す実態から、全ての学生のアクセシビリティが向上したとは言い切れない側面や、オンライン授業から受けたマイナスの影響も大きいと考えている。
※調査時期:2020年6月5日~6月11日,対象:障がい学生支援室に登録している学生(休学等を除く)184名,回答:101名(回収率54.9%)
特に、発達障がいの学生より「授業の受講や課題提出に関して、自己管理ができず困っている」という相談が多く寄せられた。スケジュールを確認し合ったり、困った時にその都度直接相談できる場(学部教務課、障がい学生支援室等)を失ったことによる影響を受けていたと考えられる。
また、オンライン授業も未発達であり、例えば、「授業ごとに配信されるソフトが異なる」、「個別の課題通知設定がない」、「課題提出期限を1秒でもすぎれば未提出となる」などにより、受講や課題提出そのものを途中で諦める学生が増加する中、それらの管理を親が担わざるを得ない状況となり、疲弊した保護者からの相談が増加するという状況もあった。特に大学への入構が完全に禁止された2020年度前期においては、これまで大学が担っていた学生支援の役割を家族が丸抱えすることとなり、家族への依存度が高まったと考える。
2020年4月下旬より1回生の相談が入り始める。1回生は大学生活の経験がないにも関わらず、授業だけでなく大学に関する全ての情報を、オンラインで、しかも文字を読んで理解し行動しなければならず、長時間集中してパソコンやスマートフォンを使用し過ぎたことにより、所謂「VDT(Visual Display Terminals)症候群」の状態を呈していた。障がい学生支援室には、「目が疲れる」「吐気がして、手も震えて、パソコン画面を見られなくなった」といった相談が複数あった。
オンライン授業においては、適度な休息を入れるか否かも学生自身の選択になるということが理解できる。
「最近の体調で気になることはありますか」の問いに対し、「特に問題なし」と回答した人は、5月時点では9.4%であったが、7月は5.0%に減少している。また、「やる気がおきない(13%)」「ストレスを感じる(12%)」「目の疲れ(13%)」など心身の不調を訴える学生が増加している実態も読み取れる。
https://www.univcoop.or.jp/covid19/recruitment_thr/pdf/link_pdf01.pdf
「1割以上の学生に中等度のうつ症状がみられた」という結果がある。
以下は、新たに疾病にり患した訳ではないが、オンライン授業への出席や内容の理解、課題作成等において困りごとを抱えることとなり、医療機関を受診し、診断書を持って障がい学生支援室を訪れた学生たちの事例である
→社会的障壁は、機能障がいを有しない者にも生じる可能性はいつでもある。
2020年10月に本学で策定した「『共生』のキャンパスビジョン」に掲載した障がい学生支援室からのメッセージを持って本日の講演のまとめとする。
「一人ひとりの生命の平等」、「障がいという個性、多様性」への理解を促し、「互いにリスペクトできる友」に出会う大学環境づくりを模索する
学生の相談は、授業や学生生活、就職活動に関する悩みごとから始まります。
しかし繰り返し話をするうちに、他者とつながること、理解し合うことの難しさや、そこへの苦しみが語られるようになります。特に「障がいを『違い』の一つとして、当然のこととして受けとめてくれる友、対等な関係でつき合える友、心を許せる友に出会いたい」、「一緒にご飯を食べたり、たわいもないお喋りができる友達が欲しい」といった友人、仲間を求める気持ちを多くの学生が持っています。そうしたことからも、障がいのある学生を含む全ての学生が、自分とは違う「他者」に出会い、「自分」を伝え、「他者と自分」について考え、共に「自分たちが抱える課題」に、そして「大学というコミュニティの課題」に向き合っていくことのできるインクルーシブな教育環境を整備していくことの必要性を感じています。
自分とは違う「他者」に出会うことは、当然、摩擦や葛藤を生じることとなります。インクルーシブな教育環境とは、摩擦や葛藤を生まない環境ではなく、それらを大学という教育の場で安心して経験する中で、人間は一人ひとりちがっていること、しかし同じ生命をもち共に生きている信頼し得る存在であることを実感し、より良い社会を創る主体として成長を促す教育環境だと考え、日々の実践を模索しています。
(引用):龍谷大学「共生」のキャンパスビジョン(概要版)