社会に近い学生、大学院生の生活
〜第9回大学院生の生活実態調査より〜

全国大学生協連では、大学院生を対象とした「大学院生の生活実態調査」を3年に1度実施しています。
この調査は、大学院生の生活を明らかにすることで、その結果を大学生協の諸活動や事業活動、大学院生の研究生活向上に生かすために行われています。
第9回の2016年は18生協で実施、3855名から回答を得ました。今回はこの調査結果の中から、大学院生の経済生活と日常生活で感じる悩みやストレスについて報告します。

「第9回大学院生の生活実態調査」概要

実施時期 2016年10月17日〜11月8日
調査対象 全国の国立および私立大学に在籍する大学院生
調査方法 Web調査
回答数 3,855

大学院生の経済生活

※ 1カ月の生活費はサンプルによるデータのばらつきが少ない修士課程についての報告としています。

収入、支出ともに3年前から減少

収入合計は自宅生7万6830円、下宿生12万4260円で、前回調査の13年からそれぞれ1万710円と7990円減少となりました。収入の内訳をみると、下宿生の「仕送り」は2840円増加しているものの、自宅生の「小遣い」は5050円と減少が大きく、さらに「奨学金」「アルバイト収入」は自宅生、下宿生どちらも減少しました。
収入金額の縮小は支出の「貯金・繰越金」の減少にも表れており、減少金額は自宅生が7770円、下宿生も7880円と大きな金額となりました。

奨学金受給は敬遠傾向

収入のうち「小遣い」や「仕送り」に次いで金額の構成比が高い「奨学金」ですが、その受給率は全体の46・4%(自宅39・6%・自宅外50・5%)と、3年前と比較し3・8ポイント減となりました。
奨学金受給者のうち貸与奨学金を受給している人は39・9%(奨学金受給者を100として86・0%)ですが、そのうち奨学金を返済することを「不安に感じる」院生が受給者の65・9%を占めています。さらに学部・大学院の両方で貸与型奨学金を受給していた人(全体の23・0%)は、「不安に感じる」が74・8%と高い傾向がみられ、受給率の減少は大学卒業後の返済に対する不安が大きく影響していると思われます。
また、貸与奨学金受給者のうち〈返済の遅延によりリスクが生じること〉については82・0%が、日本学生支援機構の奨学金受給者(全体の39・5%)のうち〈返済が困難な場合返済期限を猶予する制度〉については74・7%が周知しているなど、貸与奨学金受給の際の『リスク』も認識したうえで受給している人が多いようです。

アルバイトの機会は増加、収入は減少

「奨学金」が敬遠される一方で、アルバイトの就労については前向きな院生が増え、アルバイトをしている大学院生は60・0%と、13年より17・2ポイントも増加しました。
しかし週の就労平均時間は3年前から0・6時間、1時間当たりの賃金も104円減少しています。また先述の「1カ月の生活費」を見ても、「アルバイト収入」が減少していることから、拘束時間が短く、賃金が低いアルバイトに従事する院生が増加しているものと思われます。
大学院生は1日の研究時間が長く、修士課程が平均8・8時間、博士課程は10時間にも及びます。そのため、大学院進学後にアルバイトしたものの辞めた人(全体の19・4%)の、辞めた理由として「学業・研究が忙しくなった」が11・0%(文系7・7%・理系12・0%)と半数以上を占めており、近年アルバイトに前向きな傾向が続く学部生とは違い、院生のアルバイト事情には時間的、精神的な制約が大きいようです。

文系院生の暮らし向き

院生のうち、自身の現在の暮らし向きを「苦しい」(「やや苦しい」+「大変苦しい」)と感じている人が22・5%おり、学部生の「苦しい」(「苦しい方」+「大変苦しい方」)が8・9%であることと比べると2倍以上の差があります。
その中でも文系院生は「苦しい」が32・2%と、他の専攻と比較して多い傾向があります。文系は研究費の自己負担が大きいため、1カ月の生活費の構成比を見ても、研究費に含まれる「書籍購入費」の占める割合が高く、「趣味・娯楽費」が低いこともその背景にあると思われます。
加えて理系よりもアルバイト収入が多く、支出面でも「教養娯楽費」が多かった学部生時と比較して、院生となった現状を「苦しい」と感じることも多いのではないでしょうか。

大学院生の日常生活

悩み・ストレスの原因は「研究活動」や「将来の進路」

悩み・ストレスが「ある」と答えた大学院生は72・3%で、その原因としては「研究活動」が54・2%、「将来の進路」が39・8%と続き、「将来の進路」については文系が50・1%で、他専攻(理系36・5%・医歯薬系45・5%)と比較して高い傾向にあります。
また、悩みやストレスを感じているのは男性の68・8%に対し、女性は81・3%と高く、内容も「政治や社会」「その他」を除くすべての項目で男性を上回っています。特に「研究活動」「将来の進路」「学内や研究室の人間関係」「結婚・婚期に関すること」は男性を10 ポイント程度上回っており、研究室における女性比率の低さや相談環境が整っていないことも背景として考えられます。

相談相手は「友人」

そういった悩み・ストレスについての相談相手が「いる」大学院生は77・4%(男性73・4%・女性86・3%)で、 相談する相手(単一回答)としては「友人」が最も多く22・3%、次いで「親」16・7%、「同じ研究室の人」12・8%と続きますが、「教員」は3・0%(男性3・3%・女性2・3%)と、学部生(全体0・7%・4年生1・4%)と比較すると多いものの、少数にとどまっています。院生になり、研究面で教員との関わりは深まるものの日常的に相談する環境や関わりが少ないとも考えられます。
専攻によっては大学院への進学を大学入学前から決め、進学することが当たり前という人も多くいるものの、調査結果からは大学院生の生活は学部生の延長ではない、学生の中でも社会に近い、特有の存在であることが読み取れます。

(編集部)

※ 今回の報告のほか、調査結果についてはこちらでご紹介しています。
http://www.univcoop.or.jp/press/life/report_m09.html

『Campus Life vol.52』より転載