学長・総長インタビュー
明治学院大学 今尾 真 学長
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明治学院大学「中期計画2025~2029年度」に寄せて
伝統的な学びと最先端の学び。中期計画が目指す明学ブランドの再構築とは?
わが国では2008年をピークに総人口は減少を続けており、2023年には86万人もの減少を記録しました。
この流れは大学受験者の減少にも直結しており、将来的な大学間の競争の激化や経営環境の悪化が懸念されています。大学を取り巻くこうした環境下において、明治学院大学では、「明治学院大学中期計画2025~2029年度」を策定。
来るべき大学受難の時代にあって、「選ばれる大学」であり続けるためには、どうしたらいいのか。
今回は明治学院大学の今尾真学長に、明治学院大学の大学改革についてお伺いしました。
文系、理系の垣根を超えた学び。文理融合ではなく、それは「文理複眼」。
鶴貝:明治学院大学では、「中期計画 2025~2029年度」の中で建学の精神である「キリスト教に基づく人格教育」から、教育理念である“Do for Others(他者への貢献)”を実践することのできる人材育成を目指すと記されていますが、これの意図するところからお聞かせください。

今尾:本学の教育の根幹を成す「キリスト教に基づく人格教育」とは、偏った知識の吸収によって果たされるものではありません。「他者貢献」や「隣人愛」といったキリスト教の基本精神を学ぶと同時に、歴史や文化、言語の異なるさまざまな「他者」と向かい合う姿勢、法則の諸相に触れることが必要です。そのためには専門教育で培われる知識や能力だけでなく、それ以外の複数の領域の考え方を学ぶ教養教育が重要であり、キリスト教精神にあふれ、容易に解が見通せない問題にも柔軟に対処できる、複眼的な視点を持った人材を育てることが肝要と考えています。ここでは、文系・理系という枠組みにこだわりません。文理融合ではなく、文系的からも理系的からも複数のものの見方ができる「文理複眼」ともいってもいいでしょう。
鶴貝:そのような人格教育を実現していくために、具体的にはどのような教育カリキュラムが体現されているのでしょうか?
今尾:現在、教養教育の抜本的な改革を推進している最中ではありますが、学生にとってはバラエティに富んだ共通科目から学びたい科目を自主的に履修できると同時に、学部学科のカリキュラムポリシーやディプロマポリシーも反映された緩やかなプラットフォームを構築しています。教養教育というと1~2年生で学ぶものであり、3~4年生になったら専門教育に特化していくというのが一般的な大学教育の在り方ですが、本学においては4年間を通しての教養教育を標榜しており、教養に基づく人格の涵養は1~2年生で終わりというものではなく、一生を通じて学び続けるものなので、そうした学びの基礎力を4年間で培ってもらいたいと考えています。また、学部学科の垣根を低くして、学生が望む他学部・他学科の科目を履修できる「クロス・ラーニング・システム(XLS)」の導入も検討しています。さらには、国外に出るだけでなく、国内の国際化に対応する「内なる国際化プロジェクト」や大学の授業と実践的なボランティアを結ぶ「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」、オンラインシステムを導入した海外協定校連携科目群(ハワイ大学マノア校との連携協定)といった既存の特色ある学びをより深化させるとともに、「ELSI(Ethical,Legal and Social Issues:科学技術と倫理的・法的・社会的課題)」、「サステナビリティ」、「日本学・アジア学」などの先端科目の創設を視野に、先端教育開発センター(2027年開設予定)を中心に、本学の新たな学びの仕組みを構築していくことを目指しています。
これらは全て、学生が本当に学びたいと思っているものは何なのか、時流や世の中の動きから学生に何を学んでほしいのか、両者の思いを真剣に考え続けた結果であるともいえます。
導入以来、大きな成果を上げるとともに、
高まるAI・データサイエンス系科目の需要。
鶴貝:明治学院大学では、2024年に初の理系学部「情報数理学部」が開設され、新たな個性を備えつつあるとされています。また、情報数理学部と連携し、学生の理系の知識や能力の向上を目指して、AI・データサイエンス教育プログラムに全学生が参加できる体制を構築したとお聞きしますが、こうした改革は現時点でどのような効果を上げていますか?
今尾:まず、AI・データサイエンス系科目群の履修状況についてですが、2025年度はレベルⅠ(初級)の「AI・データサイエンス入門」は春学期のみで1,500名以上、レベルⅡ(中級)の「データ解析・活用入門」、「プログラミング入門」はそれぞれ500~600名、技術だけでなく倫理的な学びも含めた「AIと人間」は1,500名以上、レベルⅢ(上級)の「データ解析・活用基礎」「AI基礎」はそれぞれ100名以上、それに関連する「統計学」は500名以上の履修者を得ています。本学の全学生数が12,000名あまりですから、その中で何らかの形でAI・データサイエンス系科目を履修している学生が4,000名を超えるという成果を上げています。これによって、現代社会が求める人材の育成にも対応できると考えています。
鶴貝:AI・データサイエンス系の科目を展開する大学は少なくありませんが、それと比してもその成果は大きいのではないかと思います。
今尾:また、2026年度からは教養科目(本学では共通科目という)の諸領域科目群について、原則として4つの中項目を学科ごとに指定することになっています。これらの科目群に含まれる情報科学系科目は、多くの学科で指定されることが予想され、さらにAI・データサイエンス系科目の需要が高まるものと考えられます。そういう意味では、これらの学びが本学の大学としての価値を大いに高め、その個性を際立たせてくれるのではないかと期待しています。
未来に暗い影を落とす人口減少。明学ブランドを、いかに再構築するか。

鶴貝:わが国の人口減少による影響は、大学進学者の減少という形で本学の未来にも暗い影を落としています。こうした事態を払しょくするため、中期計画には、文理を備えた真の総合大学としてさらに発展していくべく「明学ブランドの再構築」が必要である旨が記されています。2040年に予測される18歳人口の急減を前に、各私立大学がまさに存続をかけた取り組みを展開していく中、明治学院大学におけるこの点についてのお考えをお聞かせください。
今尾:これまでお話ししてきたような本学の伝統的な学びの深化・拡充と、本学ならではの新たな特色ある学びの提供(教育の質の高度化)に加えて、「学修者本位の学びを実現するための環境整備」への着手・検討を重ねています。現在、本学は白金キャンパスと横浜キャンパスの2つにキャンパスが分かれており、多くの学部は1~2年生まで教養課程として横浜キャンパスで、3~4年生が専門課程として白金キャンパスで学ぶことになっています。それを全ての学部が白金キャンパスか横浜キャンパスのいずれかで4年一貫教育を行う施設再開発に一部着手するとともに、将来を見据えた計画立案を検討しています。そうすることによって両キャンパスのそれぞれの特色を活かして各学部の競争力を高め、他大学との生き残り競争に勝ち抜くための体力と魅力を培うことができると確信しています。さらには、食文化や農業と経営、園芸、リベラルアーツなど、現代の若者のニーズに対応する新たな学部の創設も視野に入れて、積極的な情報収集と計画立案を行っています。
鶴貝:大学の魅力づくりという点においては、そのほかにもさまざまな取り組みをされているとお聞きしました。
今尾:本学の在学生や教職員はもとより、卒業生の本学への愛校心を醸成・喚起する施策の実施に取り組んでいます。その一つとして力を入れているのが、箱根駅伝本選出場を目指すプロジェクト「Road to Hakone 2028」です。これは文字通り、2028年までに箱根駅伝の本選出場を成し遂げるべく本学が一丸となって取り組んでいる一大プロジェクトといえます。もちろん、箱根駅伝だけでなく、さまざまなスポーツを対象としたスポーツ振興による一体感の共有を目的とした「スポーツプロジェクト」(2006年から実施)の拡充などにも一層力を入れています。これらの取り組みが実現すれば本学のステークホルダーだけでなく、全国に明治学院大学の名前が広がり、新たな“明学ファン”の掘り起こしにもつながるものと考えています。これらの諸施策を今のうちから着実に実現・実行することにより、2040年以降の18歳人口激減期を乗り切り、さらに100年、200年と輝きながら存続する大学としての地位を維持することができると信じています。
もっと魅力的なキャンパスであるために。
明学ファン獲得のための重要なファクター。
鶴貝:明治学院大学消費生活協同組合は、貴学の改革の方向に寄り添いながら、これからも貢献し続けたいと考えています。これから先、大学生協が貴学とともに何ができるか、率直なご意見・ご要望があればお聞かせください。今尾:明学ファンの獲得にあたっては、魅力的なキャンパスづくりが重要であることはいうまでもありません。白金キャンパスや横浜キャンパスの施設等を近代化・再開発することもそうですが、もう一つの重要なファクターとして私が考えているのが、経済的にもやさしく、かつ、健康的、魅力的な学食づくりです。例えば、国際化にともない、キャンパスにはさまざまなバックボーンを有する人たちが集まっています。グルテンフリーやハラル、ヴィーガンなど、誰もが気兼ねなく、安心して、おいしい食事を楽しむことができたら、それに勝るものはありませんし、それこそが大学としての大きな魅力につながっていくものと考えられます。また、健康的な朝食習慣の定着を目的とした100円朝食の実施も予定しています。大学生協の皆さんにも、こうした点でぜひご相談に乗っていただき、アイデアをいただきながら大学の改革や改善に積極的に関わっていただければと思います。また、大学生協さんの購買ですが、願わくば大学での学びにふさわしい、さらなる図書・書籍の充実を図っていただくとともに、学外のコンビニエンスストア並みの品揃えがあると学生たちにとっては今以上に価値あるものになっていくのではないでしょうか。
鶴貝:それと、先ほどAI・データサイエンス系科目や情報数理学部の解説のお話がありましたが、こうした学びの変化に伴って欠かせないのがパソコンです。学生一人一人にパソコンの購入が求められるようになっていますが、こうした面でも大学生協がお役に立てるのではないかと思っています。
今尾:既に大学生協さんではパソコンの販売をしていただいていますが、すべての学生が大学生協さんで購入するわけではありません。学部によっては、業者指定で学生にパソコンの購入をアドバイスしている例もあります。確かに家電量販店とは違いますから、すべてのニーズに対応するのは難しいのかもしれませんが、もう少し品揃えがあると、学生の選択肢も広がるのではないかと思いますね。カタログは置いてあっても手で触れることができないとなかなか購入には結び付きませんよね。
鶴貝:ただ、大学生協でパソコンを購入することによる特典として大きいのは、故障した時に代替品を貸し出してくれることですね。万一、壊れても授業に支障なく対応できますから。
今尾:大学生協さんのそうしたフォロー体制というのは特筆すべきものがありますから、それをもっとみんなに知っていただければいいんですが。意外と知らない人がいるのではないですか?
鶴貝:宣伝があまり上手じゃないもので。これから多くの方に知っていただけるよう努めてまいります。
今尾:とにかく私が目指しているのは、一度キャンパスに入ったら、外に出ることなく完結すること。勉強することはもとより、食べることも、くつろぐことも、必要なものを購入することも、外に出ることなく学内ですべてを済ませることができる。そんなキャンパスライフを学生たちに届けるべく、大学生協さんにもぜひお手伝いをいただきたいと思います。
鶴貝:私たちからも、ぜひよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

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今尾 真 学長 Imao Makoto
1997-2000年 | 明治学院大学 法学部 専任講師 |
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2000-2004年 | 明治学院大学法学部 助教授 |
2004-2008年 | 明治学院大学 学生部長補佐 |
2006年~現在 | 明治学院大学法学部 教授 |
2010年 | 明治学院大学 法学部長 事務取扱 |
2012-2016年 | 明治学院大学 学生部長 |
2016-2024年 | 明治学院大学 法学部長 兼 法律科学研究所長 |
2024年~現在 | 明治学院大学 学長 |
学歴 | 法政大学法学部法律学科 卒業 早稲田大学大学院法学研究科 博士前期課程修了、博士後期課程単位取得満期退学 |
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専門分野 | 民事法学 |
所属学会 | 日本私法学会、比較法学会、日仏法学会、フランス政治思想史学会 |

明治学院消費生活協同組合 理事長
鶴貝 達政 Tsurugai Tatsumasa
(明治学院大学 法学部 消費情報環境法学科 教授)
1994‒1997年 | 明治学院大学 一般教育部 講師 |
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1997‒2000年 | 明治学院大学 一般教育部 助教授 |
2000‒2003年 | 明治学院大学 法学部 消費情報環境法学科 助教授 |
2003年~現在 | 明治学院大学 法学部 消費情報環境法学科 教授 |
学歴 | 東京都立大学 理学研究科 理学博士(理学) |
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専門分野 | 情報通信・計算科学 |
所属学会 | 情報処理学会、日本物理学会 |