学長・総長インタビュー
島根大学 大谷 浩 学長

島根大学の地域貢献。
地域貢献、それは大学が本来持っている教育、研究に続く、いわば第3の使命といわれています。
島根大学では、大学憲章に「地域に根差し、地域社会から世界に発信する個性輝く大学」を掲げ、地域貢献を大学における最重要課題の一つと位置付けています。
島根大学の地域貢献とは、いったいどのようなものなのか。具体的にどのような活動をしてきたのか。
近年、その成果が高く評価される島根大学の大谷 浩 学長にお話を伺いました。
地域の強みにも、弱みにも、等しく当てる学問の光
尾原:全国の国公私立大学を対象に行われた日本経済新聞社 日経グローカルの「地域貢献度に関する全国調査2025」において、島根大学が全国総合3位(国立大学では1位)を獲得しました。インタビューの冒頭にあたって、まず大谷先生にお伺いしたいのは、島根大学にとって地域貢献の本質とはどのようなものなのかということです。

大谷:全国の大学にとって、地域貢献はその存在意義という点において、今や欠かすことのできない基本的な使命といえます。ただ地域貢献といっても立場が変われば、そのあり様も変わると思うので、ここでは島根大学の地域貢献についてお話をさせていただきたいと思います。
島根大学にとって最も重要な点は、島根県に存立する唯一の国立大学であり、他の4年制大学は島根県立大学しかないという島根大学ならではの立ち位置にあります。文系理系7学部4研究科を擁する唯一の国立大学なので、当然ながら島根県内をはじめ近隣も含めた地域の、すべての産業に有為な人材を輩出する役割があります。少子高齢化、人口減少、労働力不足、それにともなう中山間地域の村々の消滅問題など、島根県に限らず、同様の課題を抱える地域は日本全国に存在し、都会でも東京以外はいずれ同じ課題に直面する危険をはらんでいるといっていいでしょう。こうした課題を持続可能で、しかもよりwell-beingな形で解決することのできる人材を、地域志向教育を通じて輩出していきたいと考えています。
尾原:人材輩出を通じて地域の課題を解決し、活性化していくというお話ですが、考えてみれば島根県には古来より受け継がれてきた多様な産業・文化があります。
大谷:おっしゃる通り、島根県にはたたら製鉄や石州和紙、石見焼、茶の湯、和菓子、出雲そば、日本酒などがありますが、豊かな歴史に支えられた産業・文化やその基本となる恵まれた自然というのは島根県だけでなく、探してみれば日本中どこにでもあるものです。先日海外に行く機会があって、日本に帰ってきた時に感じたのは、山紫水明というか、なんとかけがえのない自然にあふれた国だろうということでした。もちろん課題はありますが、一方でそのような自然に育まれた歴史や文化がもたらす強みがあることを私たちはあまりよくわかっていなかったのではないでしょうか。私自身、海外から帰ってきたことで改めてその価値を再認識することができました。だからこそ、大学がやるべきなのは、そこに学問の光を当てて明らかにするとともに、今ある課題を解決しながら、受け継がれてきたすばらしい財産をいかに将来にわたって残し、発展させていくことができるかを考えることだと思います。
地域の課題解決に重要なのは、確かな現場感覚
尾原:学問の光を当てるという意味では、2026年日本建築学会賞(論文)を受賞された総合理工学部の細田智久教授の研究もそうした姿勢の結果といえるのではないかと思います。
大谷:はい、論文テーマは「山陰地方の山間地域自治体を中心とする公共公益施設と学校施設の整備再編に関する研究」でしたね。細田先生は島根県安来市のご出身で、これは出身地である山陰地方を対象として、米子高専教員時代を含む15年間にわたる研究成果をまとめたものです。山陰地域では戦後人口がどんどん減少していき、平成の大合併で多くの市町村が統合されると同時に、学校や病院などの公共・公益施設やコンビニエンスストアなどの商業施設も減少・再編されました。その結果、それらが有していた機能がそれぞれの地域でどのように保たれているかを比較、分析する研究を、フィールドワークを行いながら長年にわたって積み上げてこられた結果です。
尾原:やはり、現場が大事ということでしょうか? なんだか、刑事ドラマのようですね。
大谷:まさに、「事件は会議室で起こってるんじゃない。現場で起こってるんだ!」ということですよ(笑)。同じように地域の課題も、現場に出向いていくことなく何がわかるのかというお話の典型だと思います。もちろん、大学では地域の課題を研究するのですが、どうしても現場の実情より遅れる傾向があります。現場の変化速度の方がはるかに速く、加速度的に進行していますから。やはり、現場に出ていって実際に何が起こっているのかをいち早く、鋭敏に感じ取る姿勢を学問の方にも取り入れていかなくてはいけないと思います。そういう意味では先生も学生も、もっと積極的に現場に出ていくべきです。先生が学生に講義をするときも、その内容が現場の実情からかけ離れたものであっては説得力がないものになってしまいますよね。原理は原理としてきちんと勉強していくことは当然ですが、課題の解決には現場感覚が重要なことは紛れもない事実ではないでしょうか。
活動の継続が評価された島根大学の地域貢献

尾原:インタビューの冒頭で「地域貢献度に関する全国調査2025」において、島根大学が全国総合3位(国立大学では1位)を獲得したことに触れましたが、現場=地域との密着感が新しいものを生み出しているという点では他大学と比べても群を抜いている気がします。
大谷:今回、地域貢献度で高い評価を受けましたが、島根大学における地域貢献は何も最近始まったことではなくて、これまでも6位とか、4位とか、良い評価を実は受けていました。でも、全国の大学で3位、国立大学で1位となれば、学内外へのインパクトも大きいのではないでしょうか。何か特別な活動を最近になって始めたということではなくて、長年にわたる積み上げを評価していただいたものと考えています。
尾原:長年の積み上げというと具体的にはどのようなことをされてきたのでしょうか?
大谷:例えば、島根大学の教育学部には、「1000時間体験学修」というプログラムがあります。大学での理論学習だけでなく、4年間で1000時間におよぶ現場体験を重ねることでより高度な実践力を養うユニークな取り組みです。地域活動や学習支援ボランティア、学童保育の補助などさまざまな体験を積むことで段階的な成長を促します。これはもう20年以上続いていますね。「じげおこしプロジェクト」では、島根県内の市町村からの相談・要望を受け、大学から専門チーム(教員・研究者・URAで構成)を派遣し、課題解決に取り組んでいます。大学が自治体や地域産業と提携し、大学が持つ専門知(シーズ)と地域の現場課題(ニーズ)をマッチングさせるという全学的な地域貢献事業です。先生や研究者が個人で取り組むには荷が重いことも、組織対組織の関係で進めることができれば、より大きな成果が得られるのではないかというのがポイントで、これも始めて10年以上になるかと思います。
さらに「SDGsユニット」は、学生・教職員によるSDGs達成に向けた自主的な活動を公式に認定・支援する制度で、地域課題の解決や地域密着型の小さな改善活動などさまざまな取り組みが自発的に行われています。
また、島根大学では「地域志向型入試」を実施し、将来的に山陰地域の課題解決や発展に貢献したいという強い意欲を持つ学生を選抜・育成しています。入学後には「地域人材育成コース」に所属してもらい、学部を横断した学びや実践的な授業、地域インターンシップなどを通じて、地域人材としての能力を高めていきます。
学生たちを動かすのは、地域や人の役に立っているという実感
尾原:SDGsユニットに象徴されるように、地域貢献には学生からの自発的な働きかけが重要と考えます。大学生協でも地域社会や企業と関わりながら現在注目されている学生の「社会人基礎力」や「主体性」を養う「まなたび講座」を開講するなどさまざまな取り組みを行っていますが、その中でも企画や運営には過去に受講した先輩スタッフの声が取り入れられています。大谷:学生にとっては自分たちのやっていることが地域貢献につながる、誰かの役に立っていることを実感できることが大事なんですね。
尾原:そういう意味では大学生協の学生委員会に所属している学生というのは、自分たちが大学と一緒に学びや環境をよくしているという自負感を持っていると思いますし、それこそが彼らを突き動かしているモチベーションになっているのでしょう。
大谷:確かに学生委員会には意識の高い学生が手をあげていると思いますし、そういうことを感じられる場として大学生協の活動はとても大きな意味があると思います。大学生協に対しては、先ほど「事件は現場で起こっている」というお話をしましたが、キャンパスという現場のことを一番よく知っているのはやはり学生であり、学生委員会の皆さんだと思うので、彼らに現場の声をきっちりとリサーチしていただき、それを私たちにも共有していただけるとありがたいですね。
尾原:すべては現場を知ることから始まるということですね。本日はありがとうございました。


大谷 浩 Ohtani Hiroki
| 1995年 | 島根医科大学医学部教授 |
|---|---|
| 1997年 | 島根医科大学評議員 |
| 2001年 | 島根医科大学医学部附属動物実験施設長 |
| 2003年 | 島根医科大学医学部医学科解剖学講座教授 |
| 2003年 | 島根大学医学部医学科解剖学講座教授 |
| 2005年 | 島根大学教育研究評議会評議員 |
| 2009年 | 島根大学医学教育・研究担当副学長 |
| 2011年 | 島根大学医学部長 |
| 2015年 | 島根大学教育研究評議会評議員 |
| 2018年 | 島根大学学術研究院医学・看護学系教授 |
| 2021年 | 島根大学理事 |
| 2024年 | 島根大学学長(現任) |
| 専門分野 | 解剖学、発生生物学 |
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島根大学生協 理事長
尾原 幸治 Ohara Koji
(島根大学 材料エネルギー学部 教授)
| 2010年 | 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門協力研究員 |
|---|---|
| 2012年 | 京都大学産官学連携本部特定助教 |
| 2015年 | (公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門研究員 |
| 2018年 | (公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門主幹研究員 |
| 2019年 | (公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室主幹研究員 |
| 2023年 | 島根大学材料エネルギー学部設置準備室教授 |
| 2023年 | 島根大学材料エネルギー学部教授 島根大学大学院自然科学研究科教授 島根大学次世代たたら協創センター教授 |
| 2025年 | 島根大学生活協同組合理事長 |
| 専門分野 | ナノテク・材料、無機材料、物性、量子ビーム科学 |
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