世界の本棚から㉑

 

John Scalzi
Starter Villain
Pan Macmillan
ISBN : 9781509835423購入はこちら >

 新聞社をリストラされて近所の学校でsubstitute teacher(本来の教師が体調不良で休んだ時の代理)として生計を立てているチャーリー。彼の唯一の相棒は愛猫ヘラのみ。

 ある日怪しげな代理人が訪れ、チャーリーの伯父ジェイクが亡くなったと伝える。実はただの実業家だと思っていたジェイク伯父は各国政府からも恐れられている巨大悪徳企業のボスで、あっという間にチャーリーは跡継ぎとしてライバルに命を狙われてしまう立場に。

 かくしてチャーリーは南の島にある伯父の研究所を継ぎ、宇宙衛星を撃ち落とせるレーザー砲や遺伝子操作で人間並みの知性を持つ猫のスパイチームを手中にする。慣れないヴィラン業務に苦労するチャーリーだが敵組織ロンバルディ評議会と直接対決するため、イタリアの高級ホテルに乗り込んでいく、というストーリー。

 悪の組織なのに待遇は大企業よりホワイトだったり、海の諜報活動をするイルカたちが組合活動をしたりとユーモラスな描写が続く本書は、往年のスパイコメディ映画へのオマージュと言える。荒唐無稽な設定のなかであくまでも普通の常識人としてがんばるチャーリーに好感が持てる一冊。

 
 

Amy Edmondson
Right Kind of Wrong
Atria Books
ISBN : 9781668034576購入はこちら >

 ハーバード大学ビジネススクールで教鞭をとる著者エドモンソン博士は長年組織の失敗を研究してきた第一人者。本書は2023年のフィナンシャルタイムズ紙ビジネスブック賞を受賞した、職場の失敗を学びと成功に繋げるメソッドを紹介する本だ。

 博士によると失敗には三種類ある。①単純タイプは、メール誤送信などルーチン作業で起きるもの。②インテリジェントタイプは最先端の医療研究やエンジニアリングなど新たな領域の探求で起きる失敗。③複合タイプは、原因が一つではなく複合的、場合によっては全くの不運が重なることもあり一番困難なタイプ。それぞれのタイプを分析する前半と、失敗をしたあとの本人の感情や周囲の受け止め方を観察。最後に失敗をオープンに共有する環境をいくつか紹介し、情報共有の大切さを説く。海外にはfailure fridays と銘打ち、その週に起こした失敗をみんなの前で明るく発表する企業もあるそうで驚いた。

 ミスを人に知られたくないのは万国共通。そのうえで国や文化によって失敗に対する考え方や感情も変わってくるだろう。本書のほかに失敗を研究するほかの本も読んで比較いただくと、色々と発見があるかもしれない。

 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外店舗網を持つ書店チェーン・紀伊國屋書店の洋書専門店店長。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

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