リレーエッセイ
伊瀬知美央(いずみ委員・熊本大学)
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P r o f i l e

伊瀬知 美央(いせち・みお)
熊本大学3年生。
読書と旅、美味しいものが好きなので、定期的に文学散歩をしています。ビーズアクセサリーを作ることにハマっていて、現在は指輪を大量生産中。可愛いものを集めることも好きなので、リボンやビーズ、シールを集めています。最近の推し作家は里見弴と暁佳奈。
私にとって物語を味わうことは、友人に会いに行くことだ。薄暗い電球を灯し、1 人本を開くその時、私は住んでいる世界も立場も価値観も異なる友人とつながることが出来る。彼らと共に物語を探検するうちに、私の心に柔らかな光が灯る。誰にも話すことが出来ないで、自分の胸にある負の感情さえも否定することなく、寄り添ってくれるような光が。この瞬間がどうしようもなく愛おしくて、私はゆっくりと物語世界を噛みしめる、幼い頃の思い出を閉じ込めた宝箱の蓋を開けた時のように、丁寧に。
何もかもが異なる彼らと行動を共にする中で、私は不思議な気持ちになる。分かるようで分からないところのある彼らの言葉が頭を何度も行ったり来たりして、自分の輪郭がぼやけていくような、そんな感覚がする。ずっと自分の中にあった「正しさ」 や「当たり前」だらけの境界線が、不安げに、でも新たな世界に期待しているみたいに、波打ち、形を変えていく。物語の余韻に浸っている間、私が見ている世界は、今までのものとは異なる。私に物語は、私以外の誰かの人生を追体験させてくれる。言葉を通して、他者の人生を追っていく中で、私は自分にとっての「正しさ」よりも 大切なものの存在に気づくことが出来た。
他者と価値観がぶつかり合った時、私たちに必要なことは、互いの考えを「正しさ」の秤に投げ込むことではない。大切なのは、互いが、何を大事にして「好き」だと想っているのか、じっくりと聴き合うことだと思う。
「正しさを基準にして選ぶと、自分と違う人達は、全員、間違っているように見えるけれど……。 好きで選べば、自分と違う選択をした人達も、 好みが違う人の、友人になれる。」『魔法使いの約束』で出会った言葉。私にとって、北極星のような芯のある煌めきを持つ言葉だ。何がしたいのか、迷い戸惑ってばかりの私に、自分の心の芯にあるものを、もう一度思い出させてくれる。どんなに先行きの見えない事態に陥ったとしても、周囲の人の想いをよく聴いてはたらきかけることで、よりよい未来が出来ることに、気づかせてくれる。物語の世界であれば、たとえ 何もかも異なる人間同士であったとしても、私たちは友人になれる。現実世界でもきっと出来るはずだ。他者の胸に輝く「好き」や「大事」な想いを受け止める。 少しの間だけでもいい、こういったことを通して私たちは、かけがえのない友人になれる、そう信じている。
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