KATABASIS.png)
R. F. Kuang
Katabasis
harpercollins
ISBN:9780008501877
『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』(東京創元社)などのヒットで知られるクアンによるダーク・アカデミアファンタジー。カタバシスはギリシャ語で黄泉の国へ旅することを表す。
血の滲むような努力を重ねケンブリッジ大学の魔法学の権威グライムズ教授のもとで学び始めるアリス。ようやく実績を出せた矢先、彼女が関わった実験中に教授が死亡。このままでは修了できないと焦るアリスは、教授を現世に連れ戻すため自ら地獄へ潜ることにするが、クラスのライバル・天才ピーター と、教授の飼い猫までついてきてしまう。
ついてみれば地獄は志半ばで命を落とした研究者だらけ。「気が散って調べ物が進まない図書室地獄」「論文提出するまで出られない地獄」などを経てグライムズを見つけることができるのか。過酷な道中、アリスは徐々にピーターの真意を疑い始める。自身もイェール大学博士課程にいる著者がオタクぶりを発揮した小説。
 WHO HAVE NEVER KNOWN MEN.png)
Jacqueline Harpman, tr. by Ross Schwartz
I Who Have Never Known Men
Vintage Classics
ISBN:9781784879037
ベルギー人著者ジャクリーヌ・アルプマンが1995年に発表した小説が近年新訳で発表され、英語圏のZ世代でヒット。
ある地下壕で40人の女性が檻に閉じ込められ男性看守たちに監視されている。囚われた理由は本人たちも知らず、看守たちは何も語らない。毎日運ばれる僅かな食材で煮炊きし無気力に生きるだけの大人たち。未成年の少女「わたし」は外の記憶がなく、女性としか話したことがないものの、好奇心は旺盛。やがて「わたし」の小さな発見をきっかけに女性たちは自由を得るが、外の世界は想像とは異なるものだった。
なぜ彼女たちが収監されていたか、主導した男たちの行方は? 外に出られれば答えがあり、活気ある街にたどり着けると考えていた女性たちの思惑は裏切られ、事実は不明のまま。それでもコミュニティを作り生活を楽しむ彼女たちだったが……。
不条理に自由を奪われ人生が一変する様子はマーガレット・アトウッドの「侍女の物語」とよく比較される。女性の身体や心理について静かに問いかける最後の章も含め、読む人の年齢によって異なる感想が聞けそうな一冊。

海外店舗網を持つ書店チェーン・紀伊國屋書店の洋書専門店店長。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。
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