いずみ委員・読者スタッフの読書日記 183号


レギュラー企画『読書のいずみ』委員と読書スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 甲南大学4年生
    岡本悠伽
    M O R E
  • 熊本大学3年生
    伊瀬知美央
    M O R E
  • 東京外国語大学4年生
    酒井里緒
    M O R E

 

 

甲南大学4年生 岡本悠伽

5月某日

 進路のことでバタバタして、ゆっくり読書する時間がとれなかったが、唯一読んだのが『本なら売るほど 1』(児島青 /KADOKAWA)だ。帯には「きっとあなたも、本が好きな気持ちを思い出す。」とあった。思い出さなくても本は好きだが、近頃あまり本を読めていないからこそ、本の魅力を実感したくて手に取った。結果、本が読みたくてたまらなくなってしまった。主人公の営む古本屋を中心として、本が様々な縁を繋いでいく。そんなほっこりする話が6話入っていて、どれも丁寧に、そして何度でも読みたくなる話だった。作中には実在する本がたくさん登場するため、ブックガイドのような使い方もでき、また新たに読みたい本が見つかった。まずはやるべき事を終わらせ、必ずや読書の時間を確保したいと思う。『本なら売るほど 1』購入はこちら >
 

6月某日

 忙しい日が続くと現実逃避したくなるのが自分の癖だ。そこで家にあった『陰陽師』(夢枕獏/文春文庫)を再読した。これは短編集なので読みやすく、舞台が平安時代なので現実逃避に最適だ。陰陽師である安倍晴明と、その親友の源博雅が、あやかしや鬼が絡んだ不可思議な事件を解決していく。解決する過程ももちろん面白いが、毎回事件が起こる前に、 晴明の屋敷の縁側で2人が酒を飲みながらゆるく語り合うシーンが大好きだ。読んでいるだけで癒やされる。晴明は、いつも淡々と余裕そうな態度でいるので少しは焦っているところも見てみたいが、常に焦っている私は晴明のように冷静な人間になりたい。『陰陽師』購入はこちら >
 

7月某日

 いつまでたってもバタバタしている。 しかし、どうしても本が読みたくなって、やるべき事を後回しにして一気読みしたのが、前から気になっていた遠野遥さんの『破局』(河出文庫)だ。主人公は就職活動を間近に控えた大学4年生でまさに今の自分と同じだった。とにかく読みやすい文体なのだが、読了した時はどこか気持ち悪さもあり、主人公には共感できないところもあった。しかし、少し時間が経つと、意外に自分も主人公と似ているところがあるなと気づいた。さらに解説を読んだりする中で新たな解釈や発見もあった。最近はどんな本も速く読みたいと思っている節があったが、この作品を読んで一 文一文を丁寧に読むことの面白さを実感した。 遠野さんの他の作品も読んでみたい。『破局』購入はこちら >
 
 
 
 

 

熊本大学3年生 伊瀬知美央

6月中旬

 梅雨の気配もない青空は、空っぽな元気を持っているみたいだ。
 幼い頃と比べて、季節の輪郭は曖昧になっている、傘の代わりに日傘を差して歩く中で思う。消えてしまいそうな季節の行方が知りたくなって、『春夏秋冬代 行者 夏の舞 下』(暁佳奈=原作、スオ ウ=イラスト/電撃文庫)を読む。どうにもならない思いや運命に翻弄されながらも、季節を回すために生きる登場人物たち。彼らの生き方 を見ていると、当たり前と思うものが案外愛おしいのだと、気づかされる。どうか彼らなりに幸せな結末を迎えられますように。『春夏秋冬代 行者 夏の舞 下』購入はこちら >
 

6月のある週末

 前から気になっていた朝ごはん専門店『本と朝ごはん TSUBOI SOUP』行く。朝の日差しが柔らかに射す店内 で、まだ眠そうなラジオの音楽が耳を包む。魅力的な本がずらりと並ぶ店内で、『フランスのかわいい雑貨に出合 う 宝探しのパリ暮らし』(Mash Aya/ KADOKAWA)と熊本県高等学校教育研究会 国語部会(編)『くまもと文学紀行』を読みつつ、朝食を取る。旅にまつわる本を読んでいると、心がカラフルになるような気がする。見たい景色が増えて、まだ見ぬ世界を冒険したくなるからだろうか。お店のすぐそばには漱石旧居 がある。今日は時間があるし、見て帰ろう。 何もない日、本と美味しいご飯で始まる朝も魅力的だ、まっさらな頭で思う。『フランスのかわいい雑貨に出合 う 宝探しのパリ暮らし』購入はこちら > 
 

6月の終わり頃

  
 宮地尚子『トラウマ』(岩波新書)を読む。見ないふりをしてい た心と向き合うこと、それに寄り添うことの難しさを体感させられた。心の傷と向き合うことには覚悟がいる、自分が本能的に忘れたいと思ったことを暴く行為なのだから。上橋菜穂子『闇の守り人』(新潮文庫)に「心の底についた傷は、忘れようとすればするほど、深くなっていくものだ。それを癒す方法はただひとつ。—— きちんと、その傷を見つめるしかない。」とあったのを思い出す。一度傷ついた心は癒すことは出来ても、一生元には戻せない。完全な修復不可能な傷だからこそ、変わらず傍に居てくれる人が必要なのだと思う。もし自分の周りに、心の傷に気づき戸惑う人がいた時は、根気強く傍にいたい。
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東京外国語大学4年生 酒井里緒


4月中旬

 まず紹介するのは、『吉本ばななが友だちの 悩みについてこたえる』(吉本ばなな/朝日文庫)という本。本屋さんでふと開いてみると、友人・人間関係の相談に対しての回答が、気持ちいいほど切れ味がよく、その日は買わずに帰ったが数日 経っても続きが読みたかったので購入。 永遠に議論される「異性とも親友になれるのか」問題についての回答が特にお気に入り。様々な人間関係の悩みに厳しくも的確にアドバイスしている本書だが、決して友人付き合いはない方がいい、と言っているわけではないところに救いがある。とはいえ読んでいて感じたのは「私ここまで色々考えられていないな……」 ということ。もしかすると私は周りの人を悩ませる側の人間なのではないか……と思いぞっとした。気をつけよう。『吉本ばななが友だちの 悩みについてこたえる』購入はこちら >
 

5月初旬

  以前読んだ『ベルリンは晴れているか』(深緑野分/ちくま文庫)がとても面白かったので、深緑野分さんの他の作品も読みたいと思い『戦場のコックたち』(深緑野分/創元推理文庫)を手に取った。前回も思ったことだが、状況の描写が非常に細かく、圧倒される。単なるエンタメとしての作品ではなく、歴史を伝えていこうとする姿勢が感じられて胸が熱くなる。私は大学でドイツ語を専攻していることもあり、戦争ものは主に日本かドイツ視点で書かれたものばかり読んでいたと気づかされた。終戦から80年を迎える今年、読むことができてよかったと思っている。
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6月中旬

 教職課程も集大成、ついに教育実習の時期を迎えた。教科は英語で、担当したレッスンのテーマが「迷信」だった。英語圏以外の迷信も紹介したら喜んでくれるのではないかと思っていると、あるエッセイを思い出したのでこの機会に読み直した。翻訳家・奈倉有里さんの著書『ことばの白地図を歩く』(創元社)である。ロシア留学中に知ったという現地の迷信について書かれたコラムがあり、これが面白い。この本では奈倉さんが留学中や翻訳の際に感じたことを元に、他言語や異文化に触れる面白さを語っている。10代以上向けと銘打ってあり、子どもはもちろん、大人にも読んでワクワクしてほしいと思う一冊だ。
 実はドイツ語の免許も取得予定で、実習の最後には少しドイツ語も教えさせてもらった。英語に限らず色々な言語を楽しんで勉強してほしいという気持ちが強くなった『ことばの白地図を歩く』購入はこちら >
 

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