読書の秋にいかがでしょうか?
秋の夜長にぴったりな、長編海外文学と謎解き系海外ノンフィクションを紹介します。
『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』 上・下
R.F.クァン 〈古沢嘉通=訳〉
『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』 上
東京創元社 定価3,300円(税込)
R.F.クァン 〈古沢嘉通=訳〉
『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』 下
東京創元社 定価2,750円(税込)
購入はこちら >
上・下巻合わせて約800ページの大作ながら、刊行後すぐに重版が決定したことでも注目。世界20カ国以上で翻訳されているファンタジー歴史小説でもある本作。大学で外国語の修練を積む大学生の姿に共感できるのはもちろんですが、言語の魔法性や、外国語の知識が国家の命運をも左右する様子も描かれており、ファンタジー小説ながらリアリティもあり、引き込まれました。
大英帝国が世界の覇権を握る19世紀。オックスフォード大学の王立翻訳研究所、通称「バベル」では、言語のエキスパートになるための厳しい訓練が課されていました。そこに広東から連れてこられた主人公の中国人少年ロビン。同級生と言語の修練に励みますが……。母国では、アヘン戦争が勃発し、危機を迎えていました。
衣食住すべてが保証された特別対応のバベルの学生ですが、母国への気持ちを捨てきれないロビン。母国にとっては、裏切り者、イギリス国内では、差別される外国人。果たしてロビンがとった行動とは?
貧困、外国語習得の過酷さ、母国への想いなど、主人公の様々な葛藤に、歴史的事実も絡み、特に下巻からは、展開もスピードup。一気読みさせられました。
『謎のチェス指し人形「ターク」』
トム・スタンデージ 〈服部桂=訳〉
『謎のチェス指し人形「ターク」』
ハヤカワ文庫 定価1,320円(税込) 購入はこちら >
ChatGPT などの対話型生成AIの利用者が 増え、ますますAIが身近になった昨今。
仕組みを理解しなくとも、簡単に利用することができますが、頭の片隅では、どうしてこんなことが、と、不思議さに魅了されている方々も多いのではないでしょうか。
そんな機械への好奇心や熱狂への共感はもちろん、謎解き感覚でも、すらすらと読むことができる本作。
1770年、ウィーン宮廷では、官吏ケンペレンによる前代未聞の発明、チェスを指す自動人形が大人気でした。中東風の衣装をまとっていたこともあり、「トルコ人」、すなわち「ターク」と呼ばれたこの人形。所有者が次々と変わり、謎はなかなか明かされませんでしたが、本当に完全自動の機械人形だったのでしょうか? どのような仕掛けだったのか。エドガー・アラン・ポーも挑んだこの謎を是非解いてみて下さい。
執筆者PROFILE
重松 理恵(しげまつ・りえ)
大学生協職員。広島大学、東京大学、名古屋大学生協など各大学生協での書籍担当者を経て、現在、大学生協事業連合書籍商品課に在籍。著書に『東大生の本の使い方』(三笠書房)、最新刊は『読んで、旅する 海外文学』(大月書店)。