BOOK REVIEW
『死神を祀る』(大石大/双葉文庫)
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死と向き合う街で
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『死神を祀る』
大石 大 著
双葉文庫
定価880円(税込)
「若者が大きな夢を抱ける時代はもう終わった」これはこの本の登場人物のセリフだ。ひどいセリフだが、この一文は私たちに逃れようのない現実を突き付けてくる。少子高齢化が進み、日本はこれからどんどん貧しくなっていく。そんな現実がそびえるこの国の人間には、もう現実離れした夢を見る余裕なんてないのだろう。
こんな世界にしがみついて苦しみの中生きるよりも最高の死を選びたい。そんな風に思う人がいたとして、私たちにそれを止める資格はあるだろうか。
この本の舞台は人口減少が止まらず、活気が失われつつある東北の寂れた街、はるみ市。そこにある、地元の人ですら知っている人は少ないような神社がこの本の中心地だ。この神社に一ヵ月欠かさずお参りすると、30日目の夜、この世のものとは思えない快楽のなかで、死を迎えることができるという。それを体験した男の日記がネットで拡散されるとその神社が話題になり、死にたいと思っている人たちが、その街に集まり、街は活気を取り戻していく。
この本では、死に向き合う人々が描かれる。認知症を発症した妻とともに、一緒に幸福な死を迎えようとする老夫婦、お金も職もなく人生に絶望した女性。彼らはそれぞれの理由で死を望んでいる。この本は彼らが死を選ぶことを否定することはない。人によって理由は違えど、つらい人生よりも幸福な死を望む彼らの気持ちは読んでいるうちに理解できる気がしてくる。そして死ぬために訪れる人々で徐々に活気を取り戻していく街の人々も同時に死と向き合うこととなる。「死」で再生していくのは果たして許されるのだろうか、と。
この本には様々な死との向き合い方が示されているが、同時に確かに生きることの希望も含まれている。
これからの時代を生きる私たちは、人生に、そして、死にどう向き合えばよいのだろうか。
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