中国語には、「一つの言語を学ぶことは、世界を見る窓がもう一つ増えることだ」ということわざがあります。この言葉を、英語教育の研究者としての立場から、私は次のように解釈しています。外の世界を「英語」という窓を通して見るとは(日本語や韓国語、ロシア語といった他の窓ではなく)、「英語ならではの思考様式や表現方法」で世界をとらえるということです。そして、英語による世界の見方や感じ方を「理解し、味わう(appreciate)」力を育てることこそ、学校で英語を学び・教えることの文化的・教育的価値につながると考えます。
このことわざはまた、少年時代に七か国語を学んだゲーテの言葉―「外国語を知らない者は、自国語も知らない」―を思い起こさせます。日本語を母語とする私たちにとって、日本語という窓から見える風景は慣れ親しんだものです。しかし、英語という窓から同じ風景を眺めると、そこには日本語では気づかなかった新しい世界が広がっています。つまり、外国語としての英語を学ぶことで、私たちは日本語の見方・考え方から自由になり、世界をより多角的に、豊かに感じ取ることができるようになるのです。その結果、外国語を学ぶことは、むしろ母語への理解を深めることにもつながります。ゲーテの名言は、母語の見方・考え方を理解するためには、外国語の視点を学ぶことが欠かせないという意味で受け取ることができます。
こうした言語観・言語教育観に基づき、私は国語科教育法の研究者である堀江祐爾教授とともに、2024年に小学校の国語教科書に採用されている4冊の絵本を題材とした勉強会を始めました。『ずーっとずっとだいすきだよ(I’ll Always Love You)』(教科書では「ずうっと、ずっと大すきだよ」)、『 ス イ ミ ー(Swimmy)』、『 お 手 紙(The Letter)』、そして『わすれられないおくりもの(Badger’s Parting Gifts)』です。これらの絵本は、本誌でもこれまで紹介されたことがあります。
この勉強会では、絵本の作者が英語という言語の見方・考え方をどのように生かして物語を紡いでいるのか、また翻訳者がその原文をどう解釈し、日本語でどのように表現しているのかを、互いの専門の立場から読み解きました。こうした「深い学び」の時間は、知的な挑戦と発見に満ちた、非常に刺激的で楽しいものでした。その成果をまとめたのが、今回紹介する『英語絵本原文とつないだ新しい教材解釈 ―〈深い学び〉に導く物語教材の授業―』です。
私が担当した章では、英語という言語ならではの表現に注目し、翻訳では見落とされがちな物語の核心を読み解いています。また、日本の児童・生徒が小学校で日本語訳として読んだ物語を、中学校で英語原文として「再会」することの文化的・教育的意義についても詳しく論じました。とくに教員を目指す学生にとって、多くの気づきが得られる内容になっています。さらに、水野ゼミの学生3名が原稿を読み込み、意見や感想を寄せてくれた点も本書の大きな特色です。学生と教員が協働し、一冊の教育書を共に作り上げた成果が、この本に凝縮されています。
堀江教授の章では、国語の教科書に掲載された日本語訳と英語原文を詳しく比較した教材解釈に加え、実際の授業で使われたノートやワークシートなどの実践例も紹介されています。子どもたちがどのように考え、感じ、学んでいったのかが、生き生きと伝わってきます。
本書は、絵本の力、英語で読むことの新たな発見、日本語訳の魅力、そして小・中学校をつなぐ教科間連携の可能性を再認識させてくれる一冊です。英語や国語を学ぶすべての学生・教員・教育関係者の皆さんに、ぜひ手に取っていただきたいと思います。