学生たちが一斉に髪を黒くし、リクルートスーツを着て、企業訪問を始める……。皆、就活ノウハウを学び、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)をアピールし、不合格を伝えるお祈りメールに涙する……。内定が出たら、企業から激しく囲い込まれ、辞退するのにも一苦労……。
こんな光景を、私はもう約30年、見続けています。約30年前は就職氷河期ど真ん中の就活生として、約20年前は採用担当者として、約10年前からは中堅私立大学の教員として。就活とは何だろうか。これを研究したくなって、38歳で会社員を辞め、大学院に入り直しました。就活関連で、官庁や自治体の委員を務めたことも何度かあります。様々な立場から就活をみてきた集大成が、『
日本の就活 新卒一括採用は悪なのか』(岩波新書)です。学業阻害、失敗したらやり直しがしにくい、選考が多段階かつ選考基準が曖昧、もう今の時代に合っていないなどと言われる新卒一括採用ですが、それでもなぜ、続くのか? その答は、すべてこの本に書いてあります。
学生も就活に対して、疑問を抱いたり、中には、理不尽な体験をする人もいることでしょう。一方、企業の採用担当者も「なんだかな」と思う体験をすることがよくあるのです。
「私は納豆のように粘り強い人間です……」
「私はエアコンのような人間です。様々な変化に対応できます!」
約20年前、採用担当者をしていた頃、何度もこんな自己PRを聞きました。
「最初は営業で現場を学びたい」
こうアピールする学生もいました。「現場ってどこですか」と聞いたところ、硬直しました。
「私は……。コミュニケーション能力抜群です……」
棒読みで、こうアピールする学生とも出会いました。みんな、同じようなマニュアルを読んでいるのですよね。こちらがいくら学生の個性を尊重しようと思っても、学生自体、勝ちパターンのようなものを複製していきます。
他にも、ゼミやサークルの代表、副代表であることをアピールする学生も多数いました。そういえば、友人の明治大学教授によると、彼のゼミは、代表以外は全員、副代表なのだそうです。涙ぐましい配慮なのか、それっていいことなのか、戸惑ってしまいました。
面接官として
「10年後、どんな自分になっていたいか?」
「どんな社会人になりたいか?」
などという質問をします。ただ、その後、異動や退職をするかもしれないのに、こんなことを聞くのも申し訳ないなと思った次第です。
申し訳ないといえば、大学関係者のご挨拶対応でした。大学教授や職員が突然、会社にご挨拶にやってくるのです。対応すると「門前払いをされなくてよかった」という話になったこともよくありました。私自身、営業を経験しており、何度も門前払いをされた経験があり、激しく同情してしまいました。
拙著の話に戻ります。本書では、新卒一括採用はなぜ批判されてきたのか、その批判のポイントを整理した上で、改めて新卒一括採用とは何かを定義し、その歴史を振り返り、その合理性について検証します。まるで、オセロの盤面が一気に黒から白に変わるような、そんな本を目指しました。物事の見え方が変わる瞬間を皆さんに体験してほしかったのです。この快楽、爽快感こそ、大学で学ぶ醍醐味でもあります。
こだわった点は、視点の複数性です。大学生、大学の立場からだけではなく、企業や社会の視点からも新卒一括採用を検証しています。学校から職業へと、間断なく移行でき、企業や社会に対して毎年約45万人の労働力が供給される仕組みを簡単に否定してよいのかと問いかけています。多様性を尊重しないなどという批判がいかにズレているのかも検証しております。新卒一括採用さえ、就活さえなくなれば日本は変わるかのような言説がいかに危険か、警鐘を乱打しております。
読者からもっとも評判がよいのは、第6章の中堅私大における就活支援日記です。私の、キャリア委員長としての奮闘記をそのまま掲載しました。学生の就活が教職員のサポートで成り立っているという現実をご紹介したかったのです。
よくある「就活は卒業後に行おう」という言説がいかに危険であるかについても、指摘しています。大学生活でも居場所づくりに苦労し、経済的にも豊かではなくアルバイトと奨学金に頼っている学生に、「大学生活を満喫しろ、就活は社会に出てからだ」と伝えるのは偽善そのものであり、無責任です。よく就活が個性を否定する、若者を画一化させているという言説がありますが、就活は卒業後にしろ、大学時代はよく学べという言説も、一見すると若者を応援しているようで、若者らしさ、大人が考える理想の学生像の押し付けに他なりません。
就活、新卒一括採用がテーマのこの本ですが、裏テーマは等身大の大学論です。さらには、大変にロックでプロレス的な、熱く滾る、闘っている本でもあります。皆さんの学生生活の温度を何℃もあげる本です。
就活にも楽しい面は多々あります。そんな優しさ、あたたかさを感じてほしいです。
あなたのために書きましたよ。ぜひ、手にとってください。