いずみ委員・読者スタッフの読書日記 185号


レギュラー企画『読書のいずみ』委員と読書スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 兵庫県立大学3年生
    河井千佳
    M O R E
  • 東京薬科大学4年生
    庄司春菜
    M O R E
  • 北海道大学大学院修士1年生
    上野颯太
    M O R E

 

 

兵庫県立大学3年生 河井千佳

4月×日

 大阪のカフェで一気読みしてしまった『西の魔女が死んだ』(梨木香歩/新潮文庫)。母が好きな作家さんらしく、小さいころ母の本棚から取り出して冒頭だけ読んだことがある。しかしそのときは、退屈してしまって最後まで読めなかった。十数年たった今は楽しみながら読むことができてなんだか感慨深い。大人になることってどういうことなのかということを個人的には学べた作品だと思う。心が明るくなるのと同時に、強くたくましく生きなければと前向きな気持ちにさせてくれるパワーがあった。梨木さんの他の作品も読んでみたい。『西の魔女が死んだ』購入はこちら >
 

5月〇日

 『ありか』(瀬尾まいこ/水鈴社)は図書館の本屋大賞コーナーにあったので手に取ってみた。瀬尾さんの作品を無性に読みたくなる時があるのだ。家族がテーマ。特に親子。なので読む人の立場によって捉え方も違ってくるという点も面白く、いろんな人の感想を聞きたくなった。私自身は、幼稚園の年長さんくらいからの記憶しかない(友達に、赤ちゃんのときの記憶がある子がいてびっくり)。子どものときの自分ってどんな子だったのかなとか、お母さんお父さん大変だったでしょう? とか聞いてみたくなった。照れくさくてこんなこと聞けないけど。いつか聞けたらいいな。この作品から、親であっても子を愛せない人や、親じゃなくても大切に見守ってくれている人もいるということや、いろんな家族の形を知れた。『ありか』購入はこちら >
 

7月△日

 『蜜蜂と遠雷』(恩田陸/幻冬舎)を読もうと思ったきっかけは友達の勧めだ。その友達は別の友達に借りたが返しそびれて、今は私の手元にある。私が読んだらさすがに返さないとなあとぼやいていた。この本のハードカバー版は二段組みになっている。慣れていない人には読みにくいのだ(共感求む……)。この本は国際ピアノコンクールを舞台にしているが、クラシックをあんまり知らない私でも楽しめた。私は大学生からジャズドラムを始めた。始めて三年。楽しさ、面白さだけでなく、常に壁と直面してきた。それでも続けるという努力をしてきた作中のコンテスタントの姿が自分と重なって見えて共感の渦に巻き込まれた。また、たった短い一文だけで、膨大な情報量が頭を殴られたぐらいの重みで入ってくる。作者の表現力に度肝を抜かれた。『蜂蜜と遠雷』購入はこちら >
 
 

 

東京薬科大学4年生 庄司春菜

とある晴れた日

 赤い表紙と題名で目に付いたその本は、『マヨネーズ解体新書』(日本のマヨネーズ誕生100周年記念委員会=著、キユーピー株式会社=監修/CEメディアハウス)だ。マヨネーズ×解体新書という組み合わせがとても気になり、手に取った。私たちにとってマヨネーズは、普段何気なく食べている身近な調味料である。しかし、それについて深く考えたことはなかった。この本を読んで、マヨネーズそのものだけでなく、その容器にも歴史があることを知り、興味深く感じた。マヨネーズはさまざまな料理に合い、多くの人に親しまれている。日本に誕生してから100年もの間、人々に愛され続け、これからも愛される存在であるマヨネーズは、本当に素晴らしいと感じた。『マヨネーズ解体新書』購入はこちら 
 

とある雨の日

 大学生といえば、アルバイトを思い浮かべる人も多いだろう。そんな身近な存在であるアルバイトを題材とした作品として、ふと目に留まったのが『或るバイトを募集しています 再求人』(くるむあくむ/KADOKAWA)だ。「或る」と「アルバイト」 が掛けられているようなタイトルに惹かれた。本作はアルバイトにまつわる話が描かれている作品であ る。ホラー作品は数多く存在するが、この作品ではこれまでにない新たな感覚を味わうことができた。読んでいると、ゾクゾクするような、それでいて奇妙で、どこか気味の悪さが残る独特の雰囲気がある。それぞれの話が短くまとまっているため読みやすく、ホラー作品が好きな人はもちろん、普段あまりホラー作品を読まない人でも、この作品なら新たな感覚を味わえるのではないかと思う。『或るバイトを募集しています 再求人』購入はこちら >
 

とある快晴の日

 金曜日が終わり、土曜日に差し掛かろうとしている。そんな、ほっと一息ついたころに読 み始めたのが、『ご自愛さん』(矢部太郎/PHP研究所)だ。この本は、かわいらしい漫画と短い文章によって一章ずつ構成されている。著者の日常やこれまで生きてきた中で気づいたこと、感じたことに、そっと言葉が添えられている。その空気感は、なんともほのぼのとしている。きっと共感する人は多いのではないか。何気ない普段の日常を肯定してくれるような作品だった。 ページをめくるたびに著者のやさしい人柄が頭に思い浮かび、読後は心が温まっている。こんなにも穏やかな作品に出会ったのは、初めてかもしれない。『ご自愛さん』購入はこちら >
 
 

 

北海道大学大学院修士1年生 上野颯太


5月

 研究史料を集めに東京へ。時間をつくり、かねて心を寄せていた神保町を訪れた。惜しむらくは夕暮れ時で、多くの古書店が閉店時間を迎えてしまっていた。私は退店を催促されつつ古井由吉の『杳子・妻隠』(新潮文庫)を購入した。
 神経病の女子大生・杳子との出会いと青春をえがく、微かな光明を頼りにするような儚い純文学だった。身体の描写が多い反面、その身体に人格を結びつけるような文体ではない。ありのままを観察・描写していて、杳子という魅力的なキャラクターが何を考えているのかまではわからないようにしてある。由吉は肉体と精神の二項対立について何か考えをもっていて、神経病の女を通して表現しようとしたのではないかと思う。『杳子・妻隠』購入はこちら >
 

6月

 再び、東京へ。目的の史料館が休館する日曜日、今度は明るいうちに神田神保町を訪ねることができたが、思いがけないことに神保町の定休日は日曜なのだった。私はリベンジを誓いながら営業している本屋をはしごし、三省堂本店で朝吹真理子さんの『きことわ』(新潮文庫)に出会った。
 醒めきらぬ午睡のような小説だった。幼馴染の貴子と永遠子が、思い出の別荘を処分するために25年ぶりの再会 を果たす。25年前の記憶というのは不確かになっているけど、変なところは覚えていて、夢のなかに現れたりもする。記憶の夢を通して貴子と永遠子の境界が混ざりあっていくようにも、逆に取り戻していくようにも読める。過去のすべての体験が夢のなかでつながっているのだとしたら、醒めながらにして夢を見ていても不思議ではないのだ。『きことわ』購入はこちら >
 

7月

 『きことわ』にわが意を得た私は、同氏の『TIMELESS』(新潮文庫)を手にとった。タイトル通り、時間観の喪失が描かれる。丸谷才一の『笹まくら』(新潮文庫)ともまた違う、見たことのない時系列の遊び方だった。江戸から近未来の話まで扱うし、原爆や3.11など時代の節目もとりこぼさず、一冊のなかでひとつの歴史が紡がれる。「雨」という縦の概念もキーワードで、空から降ってくるのは死(原爆)だったり猫だったり死んだ友達だったりする。地球を循環し続ける雨にも時空観を託したのだと思う。
 作中、ガゼンボ谷という場所を歩く印象的なシーンがある。検索してみると我善坊谷という実在の地名がヒットして、ふむふむ「かつて港区麻布台に存在したが、麻布台ヒルズの開発により現在の地形は大きく一変した……」おや、麻布台ヒルズ? 私が作業していた史料館の、真隣の複合施設ではないか! 気が詰まる作業の憂さ晴らしに毎日散歩しに行っていたあそこが、ガゼンボ谷の遺跡だったとは、時空のダイナミクスをアハ体験させられた。読書というのは一期一会という出会いでありながら、いつか偶然に回収される伏線にもなりうることがわかった。『TIMELESS』購入はこちら >
 

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