Reading for Pleasure No.64

英語で算数・数学を読むと、 新しい発見がある

水野 邦太郎
水野 邦太郎Profile

●今回ご紹介の本●
マイプラン=編集、Gregory Patton=翻訳
『新版 英語対訳で読む 「算数・数学」入門』
実業之日本社 定価1,210円(税込)
ISBN:9784408339689
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 私は、2026年度から4年間、「科学研究費助成事業(科研費)」に採択された研究課題「教科の『見方・考え方』を踏まえたCLIL 教育の理論構築と深い学びの検証」に取り組んでいます。「教科の見方・考え方」とは、それぞれの教科がもつ固有の「物事の捉え方(視点)」や「思考の枠組み」を意味します。
 例えば、「ネコ」という一つの対象でも、社会科の視点から見れば「農耕の発展とともに人間と共生してきた存在」と捉えられます。理科では「脊椎動物であり哺乳類」、国語では『吾輩は猫である』のように文学作品に登場する存在として捉えられます。 同じ対象でも、教科ごとの視点によって見え方が変わることこそ、教科を学ぶ本質的な意義だといえるでしょう(奈須, 2025)。
 では、英語科の「見方・考え方」とは何でしょうか。私は、英語という眼鏡をかけて世界を見ることは、日本語にはない表現や発想を通して世界を理解し、自分の認識を豊かにすることだと考えています。
 そこで現在の科研では、日本語で算数・数学、理科、社会科を学ぶだけでなく、英語でも同じ教科を学ぶと、どのような違いや新しい発見が生まれるのかを研究しています。英語で教科を学ぶことで内容理解が深まり、同時に日本語と英語それぞれの表現の特徴への理解も深まるのではないかという問題意識から研究を進めています。そのため、アメリカの小・中学校で使用されている教科書を収集し、日本の教科書と比較しながら教科内容を学び直しています。
 今回紹介する『英語訳 算数・数学入門』は、アメリカの教科書ではありませんが、日本語と英語を比較しながら算数・数学を学び直すことができる、とてもわかりやすく面白い一冊です。

 例えば、次のような問題があります。
 
Question
There is a book with 120 pages. On the first day 2 over 5 of the whole book were read, and on the second day 3 over 8 of the remainder were read. At this time, how many unread pages are left? (120ペー ジの本があります。1日目に全体の5分の2を読み、2日目に残りの8分の3を読みました。このとき、読んでいないページは、あと何ページありますか)

 この英文を読んで、どのような印象を受けるでしょうか。remainder(残り)を除けば、中学校で学ぶ単語や文法で書かれています。しかし、「英語ではこんな表現をするのか」という発見がたくさんあります。
 例えば、「120ページの本」は a book with 120 pages と表現します。日本語では「120 ページの本」と本という名詞を前から修飾しますが、英語では with を使って a bookという名詞を後ろから修飾しています 。
 また、「5分の2」は 2 over 5 と表現され、英語では分子を先に、日本語では分母を先に言います。この違いには、それぞれの言語の数量の捉え方が反映されており、とても興味深い点です。
 さらに、「まだ読まれていないページ」は unread pages と表現されています。read(読まれた)に否定を表す un- が付くことで、「未読のページ」という意味になります。
 ここで登場する remainder という単語も、興味深い語の一つです。大学生の皆さんは、高校で the remainder of the money(残りの お金)や the remainder of his life(彼の残りの人生、余生)といった表現を学んだことがあるでしょう。この問題では、 3 over 8 of the remainder は「残りの8分の3」という意味で用いられています。また、 remainder は、15 divided by 4 has a remainder of 3(15 を4で割ると余りは3)のようにも使われます。では、これらイタリックで示した4つのremainder に共通する意味は何でしょうか。 それは、「何かを取り除いた後に残るもの」 です。
 このように、英語では一つの語が「日常生活」と「教科」の両方で使われることが多く、日常で培った語感を基盤として教科内容を理解することができます。英語で書かれた教科書や参考書を読むことで、このような言葉のつながりや意味の広がりを数多く発見することができるでしょう。
  ぜひ、算数・数学だけでなく、自分が専門として学んでいる分野の英語の本にも挑戦してみてください。英語と日本語の表現の違いを発見しながら読むことで、英語力だけでなく、その教科そのものへの理解も深まるはずです。英語で学ぶことは、英語という日本語にはない眼鏡 (レンズ)をかけて「新しい視点で世界を学び直すこと」なのです。
奈須正弘(2025).『教育新聞』「【徹底図解】次期学習指導要領の「構造化」 ゼロから聞いてきた」https://www.kyobun.co.jp/article/2025112102 (閲覧日 : 2026年7月29日)
 

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

神戸女子大学教育部教授。博士(九州大学)。専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発賞。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)、『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)【2020年度日本英語コミュニケーション学会学会賞・学術賞受賞】がある 。最新刊は『英語絵本原文とつないだ新しい教材解釈』(共著 一莖書房)

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