リレーエッセイ
山岸 奈緒(いずみ委員・埼玉大学)

P r o f i l e

山岸 奈緒(やまぎし・なお)
埼玉大学工学部4年。
机の上の物はほとんどが頂きもの。複数の知人からいただいた物たちで構成されているにも関わらず、メルヘンチックで女の子らしく統一されている。「私ってこんなイメージ?」と疑問に思いつつ、机を眺めてうれしくなる。

 自室のない私にとって、机の上だけが自由にデザインできる箱庭だ。そこに新入りがやってきた。めずらしく自分で購入したものだ。アルバイト先の近くにあるショッピングモールの1階、入ってすぐの花屋で出会った。
 私は時計店で働いている。大学4年生になり、授業もぐっと減ったのでアルバイトばかりしている。本音を言えば働かずに研究活動にいそしみたいところだが、自動車運転免許を今年度中に取得しなければならず、金が入り用なのだ。
 そんな6月の或る日、私は昼休憩をとるためショッピングモールのフードコートへと向かっていた。自動ドアが開き、施設内の涼しい空気を感じていると、目の前に花屋があった。いや、いつもあるのだが、その日はレイアウトが変わっていたので目に留まったのだ。なんとなく立ち寄ってみると、手のひらサイズの観葉植物がずらりと並べられていた。女性の店員が小さな鉢植えを次々と棚に並べていく。邪魔にならないよう、少し遠くから眺める。
 ガジュマル、ポトス、モンステラ……。よく見かける植物たちだがどれも小さく可愛らしい。あとでよく見なければ。
 その日の昼休憩はスマートフォンで観葉植物についてまとめたサイトを読み漁った。
 休憩終わりに花屋に行くと、鉢を並べていた店員はレジの中で忙しそうにしていた。私はミニ観葉植物が並ぶ棚をじっくり眺めた。先ほどのサイトで、王道で育てやすいと紹介されていたパキラがあった。私は王道を敬遠しがちだが、そこにあったパキラはあまりにも可愛かった。葉の大きさが不ぞろいで、どこか愛嬌がある。私はその日のアルバイト終わりに972円を支払い、パキラを迎え入れた。
 こうしてやってきたパキラは私の癒しだ。机という箱庭をいっそう彩ってくれる。あの店員に言われた通り、土が乾くたび水をやる。それが私とパキラとのやり取りなのだ。私は今日も机を眺めてうれしくなる。
 

次回執筆のご指名:岩田恵実さん

今年度から読者スタッフの岩田さん。160号では読書日記を執筆しています。岩田さん、最近のお楽しみは何ですか。自己紹介を兼ねて、ぜひ教えてくださいね。(編集部)

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