世界の本棚から⑤



 Call Them by Their True Names
 「災害ユートピア」などで知られるアメリカ人作家・歴史家・アクティビストのレベッカ・ソルニットは環境・人権・フェミニズムなど広く社会にかかわるトピックについて執筆しており、本書も2016年米大統領選・人種偏見・気候変動・ジャーナリズムなどを取り上げている。各イシューの本質を見極めるには上っ面だけでなく歴史的経緯も含めて正面から対峙すべき(true name を見つける)と説く。例えば公園で休憩していた警備員に警察が十数発も銃弾を浴びせ殺害したサンフランシスコの事件では、警備員がラテン系アメリカ人でギャングに見間違われたことが原因と思われている。しかしIT ブームによって富裕層が流入した結果、古くからの地域コミュニティが変貌し、新旧の住人に格差や軋轢が生まれたことがその背景にあり、大きな影響を与えていることが本書でわかる。「それを、真の名で呼ぶならば: 危機の時代と言葉の力」の邦題で岩波書店から翻訳版も発売中。

TRAILBLAZER
 クラウドを使ったCRM分野でトップを走る企業セールスフォースの創立者で会長のマーク・ベニオフによる著書は、とにかく前向きでポジティブなメッセージが詰め込まれた一冊。企業が社会を変える力を持てるのか?という問いに全力でyes と答えるベニオフ。生い立ちから始まり、企業の社会貢献がセールスフォースの重要な柱になった経緯を語り、実践方法を語る。例えば前職の会社では貧しい地域の学校にパソコンを大量に寄贈するも、設置を手伝う社員が足りないために児童をがっかりさせてしまうのだが、セールスフォースでは会社を挙げて社員を送り、設置だけでなくプログラミング講座も開いて全力で支援する。社員・顧客・地域すべてを応援する信念が感じられ、読後感もさわやかだ。

WHERE THE CRAWDADS SING
 ノースカロライナ州沿岸にある湿地帯は手つかずの動植物がのこる自然の楽園。その湿地の奥に一人で暮らしているカイアのことを、住民は変人扱いして避けていた。実はカイアは幼いころに父母や兄弟に見捨てられ、たった一人自然の中で生き抜いてきた繊細で賢い少女だった。小さな庭で作物を作ったりボートを操って貝や魚を取ったりして生計を立てるものの、学校には通えず孤独に育つ。やがて美しく成長した彼女は、村に住む少年とようやく友達になることができるが……著者は動物行動学博士。昨年大ヒットした本作、早川書房から邦訳(『ザリガニの鳴くところ』)が出るので、それもぜひお楽しみに(2020年3月発売)。
 

  • Rebecca Solnit
    Call Them by Their
    True Names

    Haymarket Books
    ISBN: 9781608469468
  • Marc Benioff
    TRAILBLAZER
    Crown
    ISBN: 9780593136089
  • Delia Owens
    WHERE
    THE CRAWDADS SING

    Putnam
    ISBN: 9780593085851
 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外に30店舗持つ書店チェーン・紀伊國屋書店で洋書仕入に携わるバイヤー。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

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