Reading for Pleasure No.43

星新一のショートショートを英語で読める幸せ

水野邦太郎
水野 邦太郎Profile

今回ご紹介の本

星新一
『きまぐれロボット
——THE CAPRICIOUS ROBOT』

講談社英語文庫
本体760円+税
ISBN:9784770022127
 『読書のいずみ』第160号で、最相葉月さんが「星新一 時を超えて読み継がれる理由」というエッセイを書かれていました。私は星新一さんの大ファンなので、楽しくそのエッセイを読ませていただきました。最相さんがおっしゃるように「作品を読めば気がつくが、いつどこの誰の話なのかわからない無色透明で不思議な読後感がある作品ばかり」だと私も思います。星新一さんのショートショートは英語訳が出ていて、世界中で読まれています。そこで、今回は、私の好きな作品のひとつ "The Pillow" を紹介します。

“I’ve done it,” shouted Dr. F. in his small laboratory. “I’ve finally finished my great invention.”
The sound of his voice brought in the man next door.
“What is it, your invention? It looks like a pillow to me.”

 エフ博士があるものを発明したことを知り、おとなりの家の主人が研究室にやって来ました。その発明品は、見た目はマクラに似ていました。

It’s a device that enables you to study while you sleep. Information contained in the pillow is transformed into radio waves and transmitted into your head when you’re asleep.”
“It certainly must be a very handy gadget. By the way, what subjects can you study with it?”
“As this is a prototype, you can only use it to learn English. But when I’ve added a few improvements you’ll be able to study anything you like.”

 そのマクラは、中にたくわえてある知識が電磁波の作用によって、寝ている間に頭の中に送り込まれる、というものでした。試作品は、寝ているうちに「英語が話せるようになる」というマクラでした。しかし、エフ博士は既に英語が話せるので、おとなりの主人が使ってみることになりました。

“How long will it take?”
“About a month. After that you should be quite good.”
“Thank you very much.” With that the delighted neighbor carried the pillow home.
Some two months later he brought the pillow back to Dr. F. with a disgruntled look on his face.
“I’ve been using it all this time, but I haven’t learnt a word of English. I’ll have to give up.”

 エフ博士から「一ヶ月ぐらいで、かなり上達するはずだ」といわれ、おとなりの主人は、その新発明のマクラを持って嬉しそうに帰りました。しかし、二ヶ月ほどたつと、つまらなさそうな顔でエフ博士にマクラを返しにきました。

 この後の展開は、ぜひ、続きの次の英文を読んでみてください!

“That’s funny,” said the doctor looking inside. “Nothing seems to be broken. I wonder if I’ve made a mistake somewhere.”
Some time later the doctor saw his neighbor’s daughter in the street.
“How has your father been lately?” he called to her. “All right, thank you. But there’s something strange about him. He’s taken to talking in English in his sleep. He never did it before. I wonder what can have happened.”

 今回引用した英文は、ストーリーを追う上で大事な部分だけ引用しましたが、英文は簡潔で分かりやすいと思います。資格試験対策の英文を読むのとは違って「結末がどうなるか?」を気にしながら、楽しく読み進めていくことができます。星新一さんのショートショートは
“Reading for Pleasure”が経験できる作品として超オススメです。収録されている英語版『きまぐれロボット——THE CAPRICIOUS ROBOT』(講談社英語文庫)は現在入手が困難なようなので、図書館か古本屋で探してみてください。

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授・福岡県立大学人間社会学部准教授を経て、2018年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊は、『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)。

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