リレーエッセイ
後藤万由子(読者スタッフ・名古屋大学四年生)

P r o f i l e

後藤 万由子(ごとう・まゆこ)
名古屋大学医学部医学科四年生。
他の好物は古代史とピアノ。ピアノはショパンのエチュードOp.10-4を弾けるようになったのに披露する場が無く、ダイエットは大成功したのに誰も気づいてくれませんでした。悲しい。

 自己紹介の時、多くの人は好きな食べ物を言う。早速だが私は唐揚げが大好きだ。今回はこの魔性の食べ物について一寸語りたい。
 唐揚げ。数えたら去年一年間で六百個以上食べていた。今まで何羽の鶏さんが犠牲になったかは、わからない。小中高と、一番好きな食べ物はいちごです、とか言っていた。勿論そんなことはない。ただ、女子が揚げ物を好きと言うのはなぁ、とか、「後藤さん、唐揚げが好きだからぽっちゃりなんだな」と思われそうだなぁ、と気後れしていただけだ。今は堂々と言える。
 塩より醤油、ムネよりモモ。お弁当に入った、衣が少し粉っぽくなったのも好きだが、やはり揚げたてが一番。叔母から「揚がったわよ」と連絡が入ると——母は鶏肉が苦手で唐揚げは揚げない―― 私はいそいそと揚げたてを狙いに行く。あっついのを、上顎の皮がむけるのお構いなしに食べる。サクッとした衣、ジュワッと溢れる肉汁、プリップリの身。あの端っこの、ほとんど衣のところなんてたまらない。あー、これさえあれば(白米以外)何もいらない。イモタレ? なにそれおいしいの?
 一個目、二個目を食べ、残り三個は夜ご飯本番のお楽しみ。一回のご飯で食べられるのは、最大五個と決めている。
 三年前、コロナ禍で時間が有り余り、人生最大の課題・ダイエットに挑戦した。毎日十kmのウォーキング、唐揚げ禁止令と努力を重ね、これは大成功を収めた。そしてこの禁止令―― いやこれは本当に辛かった―― を撤廃し、私は再び唐揚げを食べられるようになったのだ……と思いきや、ここで大問題が発生した。唐揚げを食べすぎると、太る。しかし三、四個なんて絶対に、足りない。唐揚げ欲に五分の乙女心が歯向かうようになったのだ。六百は節制しての数字で、体重を気にしなければ軽く千は超えていたのである。
 大皿に盛られた唐揚げを目の前に五個で済ませろだなんて、酷だ。そこで解決策を考えた。最初に自分の食べる分を取っておく。しかし、気がついたら六個目にお箸が伸びていた。ならばウォーキングを頑張れば良いではないか。一個につき二十分で消費可能だから十個食べても一時間……よんじゅっぷん?
 だいたい、いちいちカロリーを考えたり言い訳したりしながら食べるとは、唐揚げに失礼だ。美味しいから食べすぎた。だから私の血となり肉となった。これで良いのだ。
 そう豪語した今日の夜ご飯。ああどうしよう、六個目に突入しようかしら、この後ウォーキングするし。そうこう迷っているうちに、それは父の胃袋の中であった。
 

次回執筆のご指名:高津咲希さん

174号では読書日記に登場。小説もノンフィクションもどちらも好きで、関心事も多そうな高津さん。自己紹介を兼ねて、今、とくに注目していることを教えてください。(編集部)

「リレーエッセイ」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ