世界の本棚から⑱

　ファッション界で大きな影響力を持つ雑誌ヴォーグ。そのトップに君臨するアナ･ウィンターは泣く子も黙る鬼編集長として知られ、映画「プラダを着た悪魔」の怖い上司ミランダの実在モデルと言われる。現在はヴォーグ誌に加えて親会社コンデナスト社が抱える複数の雑誌やウェブサイトに君臨。知名度は高いが、ウィンター自身はプライベートを明かすことが殆どなく、ジャーナリストの著者が関係者250人以上に取材した本書は画期的な伝記といえる。
　ウィンターはイギリスの裕福な家に生まれ、父チャールズはイブニング・スタンダードという有名紙の編集長。アナは父に憧れて編集に興味を持つと共にファッション好きになり、自然と雑誌編集を目指すように。しかし簡単にはいかず、進学の代わりにトレンド最先端のブティックでバイトをしてはクビになり、せっかく父の紹介で入った英国ファッション誌もクビ。しかし彼女は斬新なセンスとこだわり、時代を見る目を持っており、何度かの挫折を経てアメリカに渡って認められた後、念願のヴォーグ編集長に就任する。本書はその後の彼女が雑誌の広告収入に悩んだこと、紙からネットへの移行、全米で話題のメットガラ立上げなども紹介する。しかし最も印象に残ったのは、「プラダを着た悪魔」のミランダ同様ウィンターもアシスタントの名前を覚えないということ。１分１秒も無駄にしないハイペースの仕事ぶりで、無駄な情報は頭に入れたくないらしい。変わっているが、強烈なインパクトのある人物である。

　本書の主人公フェリシティは両親と妹と暮す中学生。友達も多く、ゲームが得意で絵やマンガを描くのが大好き。でも勉強が出来て器用な妹に引け目を感じており、自分らしく勝負できると考え学校の「世界を変えるビジネスコンテスト」に友達と応募を決める。賞金は1,000ドル！　ただしフェリシティは企画書作成などのコツコツした作業は苦手。それに中学に入ってから疎遠になった幼馴染のジョセフがコンテストに参加することが分かりプレッシャーが倍に。彼にだけは負けたくないフェリシティだが、提出期限が翌日に迫っているというのにビジネスパートナーの友達と喧嘩して絶体絶命になってしまう。
　お話は漫画形式で描かれているので、洋書初心者にもわかりやすい。また多様な登場人物も魅力的。フェリシティはアフリカンアメリカン、ジョセフは韓国系、クラスにはムスリムの女の子もいる。先生の一人はジェンダーニュートラルな敬称Mx.で呼ばれているし、生徒たちが見学に訪れる書店店主は車椅子ユーザーだ。自尊心と友人関係という普遍的なテーマを明るく描いた一冊。

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