世界の本棚から⑲

 

Rebecca Yarros
Fourth Wing
Abacus
ISBN : 9780349437002購入はこちら >

 2023年夏の米国ヒット小説といえば本書。ファンタジーと恋愛要素が合わさったromantasyというジャンルで若い読者に人気の1冊だ。設定は架空の国・ナヴァルで、南方からの攻撃に対抗する軍人を育てるため国防大学を設けている。主人公のヴァイオレット・ソレンゲイルは利発だが小柄で持病があり、情報管理を行うScribeの学部を志すが、軍司令官でもある母にエリート部隊・ドラゴンライダーを目指すよう命じられる。ドラゴンライダーたちは文字通り竜に乗って最前線で戦う危険な部隊で、入学試験に死人が出るほど。君には無理だ、と幼馴染らに止められるヴァイオレットだが負けん気が強い彼女は入学試験に挑んでいく。一方、大学側には彼女を追い落とそうとするライバルや、優秀だが危険人物のシェイデンが待ち構えており……。
 読むとすぐわかるが、ドラゴンライダーの設定は映画「トップガン」の空軍パイロットに似ている。それもそのはずで、著者のYarrosは軍人一家に生まれ夫も軍人。ロマンス作家としても成功している。ヴァイオレットの恋、ドラゴンたち、国家の陰謀などわくわくする要素がてんこ盛りのエンタメ小説で、2作目が11月に発売予定。

 
 

Emma Törzs
Ink Blood Sister Scribe
Ebury Publishing
ISBN : 9781529136364購入はこちら >

 昔の一部の古書には、人の皮膚を使ったものがあったらしい。本書では人の血液をインクに混ぜて書かれた魔法の書籍が登場し、それに関わった人々の苦悩と、書籍を狙う人間の欲望が描かれている。
 母親の違う二人の姉妹。妹のジョアンは父が集めた魔術書のコレクションを守るためにバーモント州の実家に暮らすまじめでシャイな女性。姉のエスターは一見奔放で世界中を旅し、現在は南極基地で電気技師として働いている。実はエスターは好きで旅をしているわけではなく、毎年必ず同じ時期に引っ越しをしなければ家族の命が危ないと脅されていたのだ。しかし南極基地で素晴らしい恋人を見つけたエスターは初めて引っ越しをせず、その影響でエスターに危険が迫ってしまう。一方、イギリスで暮らす少年ニコラスは自分の血液を使ったインクで魔術書を書く仕事をしているが、彼の後見人である伯父に頻繁に血を抜かれて徐々に体が弱っている。それぞれに孤独な3人の話が同時進行し、やがて交わっていく。
 魔法が出てくる現代ファンタジーではあるけれど、読んでよかったのは姉妹二人の関係だろう。本を守るために実家から離れられず友達や恋人もいないジョアンは、エスターが家に戻れない理由を知らず、一人ぼっちにされたことを根に持っている。一方エスターは引っ越しを繰り返して根無し草になってしまい、別な孤独を味わっている。タイプの全く違う二人が姉妹としての絆を取り戻せるかどうかにご注目。

 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外店舗網を持つ書店チェーン・紀伊國屋書店の洋書専門店店長。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

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