世界の本棚から⑳

 

Cody Cassidy
How to Survive History
Penguin USA
ISBN : 9780143136408購入はこちら >

 むかし起きた大変な出来事を読むときに、自分だったらこうするのに、と思ったことはだれでもあるだろう。歴史上の危険なシチュエーションをピックアップし、もしタイムスリップでその場に居合わせてしまったらどう生き延びるか? というのが本書のテーマ。
 たとえば恐竜のいる時代に肉食のティラノサウルスに遭遇した場合、最近の研究では彼らの走る速度はそれほど速くないことが分かり、すばしっこく方向転換やストップ&ゴーで予測不能な走り方をすれば人間も逃げ切れるそうだ(ただし成獣の場合。若く身体の小さいティラノは機動力があるので非常にまずい)。あるいはベスビオ火山が噴火した日のポンペイにいたら、噴火直後であれば北西に歩いてヘルクラネウムという町に向かい、さらに北のナポリまで逃げ延びれば安全。ただし噴火の4-5時間後には火砕流でヘルクラネウム全体が瞬時に破壊されてしまうので、タイミングが命、という具合に本書は様々な危険な状況を描いていく。エジプトのピラミッド建設で重労働の奴隷になってしまったとき、船員260人のうち18人しか帰還できなかったマゼランの世界一周に乗り合わせてしまったときなど、あとからいくらでも言えるよな、と思いつつ想像を巡らせるのが面白い一冊。

 
 

Alice Slater
Death of a Bookseller
Hodder & Stoughton
ISBN : 9781529385335購入はこちら >

 書店を舞台にしたミステリーというとほのぼのした謎解きを期待されるかもしれないが、ネガティブなことも含めとてもリアルな描写をしているのが本書。主人公はローチといい、変人扱いされている若い女性。愛想はなくて友達はペットのカタツムリだけ。仕事のやる気もないが実際に起きた犯罪を分析するtrue crimeというジャンルだけは好きで、自店の棚用にどんどん関連書を発注し売れ残りを抱えるダメ書店員だ。ある日ほかの支店からローラという優秀なスタッフが異動してきて、瞬く間に売上げを伸ばし明るい性格で周囲にも気に入られる。しかし順風満帆な人生を送っているように見えるローラは、連続殺人犯に母親を殺された過去があった。連続殺人はまさにローチの大好物で、そんな彼女の興味本位に振り回されてなるものかとローラは必死に過去を隠そうとする。逃げ回るローラに近づこうとするローチはなんとカギを入手しローラの家に潜りこんでみるが……。
 書店員同士の会話や繁忙期のストレス、上がらない給料などリアルな描写と、ダークでひねりの利いたユーモアが感じられるミステリーで、著者は英国NO.1書店チェーンWaterstonesで支店長を務めた人物。

 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外店舗網を持つ書店チェーン・紀伊國屋書店の洋書専門店店長。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

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