我々が日々身を置いている場所は「大学」と呼ばれているわけですが、そもそも大学とはいかなる場所なのでしょうか。文部科学省が開示している令和元年度学校基本調査を見てみると、大学進学率は54.67%(短大含む)です。大学の数を見てみると、2019年度の日本の大学数は774大学2,397学部5,179学科(旺文社調べ)とのことです。大学へ進学することはもはや「普通」のことであり、何か大きな志がなくても、選ばなければ、とりあえずはどこかの大学には入れる状況と言えそうです。
最初の問いに戻りますが、この状況で我々は大学というものをどのように定義したら良いのでしょうか。私自身が大学を卒業したのは2009年です(少し時間がかかりましたが)。09年は大学進学率が50%を超えた年です。その頃から比べても、何となく大学が窮屈な場所になってきているように感じます。大学が「就職予備校」となってしまっているとの嘆きの声もよく耳にします。学生たちも日々、様々なものに追われていて、余裕がなくなっているように見受けられます。もちろん、それは個々の学生のせいではなく、社会構造の変化や、この国の教育政策による部分も大いにあるでしょう。そのような状況で、今一度、大学とは何か、今後の大学はどうあるべきか、ゆっくり考えてみてはいかがでしょうか。自分たちがいる場所は、自分たち自身の手で作り上げていくのが理想だと思います。
そのヒントを与えてくれるのが、この松村圭一郎さんの『これからの大学』(春秋社)です。松村さんは岡山大学准教授で、専門は文化人類学です。近著の『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)や『文化人類学の思考法』(編者、世界思想社)は私が勤める早稲田大学ブックセンターでも注目されています。とても読みやすく書かれているので、読み切るのは難しくはないはずです。直接、「就活」などに役立つものは得られないかもしれませんが、この本を読んで辿ることになる思考のプロセスと、読後の大学における自分自身の行動の変化は、就活ハウツー的なものでは得られない貴重な財産となるはずです。
最後に手前味噌になりますが、早稲田大学生協で2019年度からスタートした連続講座「早大生のための教養講座Resonance」には、今後の大学のあり方を大学生協の立場から考えていこう、という意図も込められています。『これからの大学』の内容とも呼応するものだと言えると思います。
早稲田大学生協
ブックセンター
鈴木 祥介