大学生協の保障制度

受験期の子どもに対しては「見守りつつ、時々おせっかい」が基本

東京工業大学保健管理センター 教授 齋藤 憲司先生

東京工業大学保健管理センター 教授
カウンセラー 博士(心理学)
齋藤 憲司先生

子どもの大学受験を控え、悩んだり不安を抱いたりしている保護者もいるのではないだろうか。大学生のメンタルヘルスサポートに携わる齋藤憲司先生に、学生相談の現状を踏まえながら、受験期の子どもとの関わり方についてアドバイスしてもらった。

さいとう・けんじ 1959年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程在学時よりある私立大学の非常勤カウンセラーとして学生相談に携わり、東京大学学生相談所助手(専任カウンセラー)を経て、現職。日本学生相談学会では常任理事、事務局長2期、理事長代行2回を経て、現在は理事長を務める。

悩みを抱える大学生が増加中。要因の1つは「失敗体験」の少なさ?

 近年、日本全国の多くの大学において学生相談件数が増えています。

 背景の1つには、相談に応じる臨床心理士が増加したことや、小・中・高等学校にもスクールカウンセラーが配置され、カウンセリングに対する理解が深まり、敷居が若干低くなったことがあると思います。

 しかし、それ以上に大きな要因として考えられるのが、学生の中に、やや孤立する傾向があったり、自分の思いを言葉にできなかったり、対人関係や学習への取り組みに苦労したりする人が増えていることです。

 例えば、友達ができない、試験で思うような点がとれない、研究室の先生に叱られたといったことで急激に落ち込んでしまう。人間は、適度な失敗や挫折を経験しながらも、再びチャレンジするということを繰り返して成長し、強くなっていくものです。しかし、今どきの学生を見ていると、そうした機会がやや失われているのではないかと感じます。ひょっとしたら、子どもが失敗しないよう周囲の大人が気を使い過ぎるあまり、成長する機会が奪われているのかもしれませんね。こうした状況については、私自身も非常に憂えています。

 そこで最近は大学側も、学生が大学生活にソフトランディングできるよう、工夫しながらサポート体制を整えています。例えば東京工業大学では、就学や将来のことなどを気軽に相談できる「学生相談室」、メンタルヘルスの問題に心理カウンセラーや医師が対応する「こころの相談・カウンセリング」、先輩学生が学習や学生生活などの相談に応じる「ピアサポート」といった多様な形の相談窓口を設け、学生を支援しています。

 誰かに相談するということは、決して自分が弱いんだ、ダメなんだということではありません。今の状況を変えようとする、前向きなアクションなのです。ですから、何か迷ったり困ったりした時には、学生はもちろん、その保護者の方も、ためらうことなく私たちに声をかけてほしいと思います。

受験期の子どもは過干渉せず穏やかに気遣う

 受験期の子どもをもつ保護者の中には、子どもとどのように関わっていくべきかで悩む方もいるようですね。

 例えば、放任したほうがいいのか、干渉したほうがいいのか。これは子どものタイプによって違ってくるので、どちらもあると思います。ただ、最近は全体的に保護者と子どもの関係が密になっている傾向があります。ですから、「見守ることをベースにしつつ、適度なおせっかいをやく」というスタンスが望ましいのではないでしょうか。

 子どもに少々うるさがられても、保護者のほうから話しかけていくことは、ある程度あってよいと思います。子どもの中には、それをうっとうしく思う気持ちと、ちょっとうれしく思う気持ちの両方があるからです。ざっくばらんな会話の中で、子どものほうから、「実は…」といった打ち明け話をしてくる場合もあるでしょう。

 とはいえ、過度のおせっかいは逆効果です。子どもを息苦しくさせるだけでなく、場合によっては萎縮させたり、つぶしたりすることになりかねません。私たち大人は、若い人に比べて知識やスキルの「引き出し」をたくさん持っています。それだけに、若い人に対して、つい「こうすればよい」「ああすればよい」と、いろいろなことを提示しすぎてしまいがちです。でも、そうされると、若い人は精神的に余裕がなくなってしまうのです。

 まして保護者の場合は、我が子のことが大好きで、心配でしようがない。だからこそ、子どもに対して一方的に感情をぶつけ、あれこれ言ってしまうのです。でも、それは、勉強に打ち込みたい、あるいは保護者から少し距離を置きたいと思っている子どもにとっては、ただ自分を息苦しくさせるものにしか感じられません。

 大事なのは、こうした感情を保護者がいかに抑えられるかです。子どもに対して口うるさくはしない。けれども、「あなたのことを気にかけているんだよ」ということが穏やかに伝わるような見守り方を体得していくことが大切です。

進路選択では子どもの意思を尊重し応援してほしい

学生相談と連携・恊働教育コミュニティにおける「連働」(学苑社)
著書
学生相談と連携・恊働教育
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 子どもの進路選択に関しては、やはり子ども自身の「これがやりたい」「これが好き」という気持ちを尊重してあげてほしいと思います。そういう思いが、「頑張ろう」という出発点になるのですし、たとえ途中で挫折することがあっても、それを乗り越えていく原動力になるからです。

 だから保護者は、子どもが選んだ道をとことん応援するという気持ちを伝え、「やってみればいい」と背中を押してあげてほしいですね。と同時に、「あなたが選択した結果の責任は、最終的にはあなた自身が負うんだよ」ということも伝えておいてほしいと思います。これは、子どもを見放したり、ただ厳しく突き放したりすることとは違います。「あなたのことは絶対に見放さない」という揺るぎない思いを基盤にした上で、適度な距離感をもつ、ということです。

 子どもの成長や自立を見守る上では我慢が必要です。しかし、もどかしさを感じながらもそれに耐えることは、保護者自身の成長にもつながっていくのではないでしょうか。子どもが成長していく過程においては、互いに距離を置いたり、葛藤を抱えたりすることもあるはずです。けれども、それらを乗り越えていきながら、保護者と子どもの関係は、やがて対等な、一人の人間対人間の交流になっていくのだと思います。

日本学生相談学会とは

 1955年に学生相談研究会として創立。全国の大学およびその他の高等教育機関の学生相談室、カウンセリングセンター、保健管理センターなどのカウンセラーや教職員、学生の援助活動を行っている実践者・研究者などが参加し、学生の変化や時代の要請に合わせた学生相談の在り方を研究している。

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『保護者のための大学生活入門』より転載