教師とは異なる視点で学校教育に関わる2人
それぞれが考える「自立(親離れ・子離れ)」とは?

【対談】 藪 利一 氏(大阪市立高等学校PTA協議会事務局長) × 仲島 正教 氏(若手教師応援セミナー「元気塾PLUS」代表)

高校生活3年間は、「自分はどんな人間なのか」「将来、何をやりたいのか」を考える時期でもある。
保護者は子どもとどのように向き合い、関わればいいのか。
そのヒントを若手教師のサポートをする仲島正教先生と行政の立場から学校を支えてきた藪利一さんに聞いた。

「今の成績ではまずい」と気づけば、子どもたちは自ら勉強します
大阪市立高等学校 PTA協議会事務局長
藪 利一

やぶ・としかず 大阪市教育委員会事務局給与課、教職員課、大阪市教育センターなどに勤務。教職員の指導・研修を通じて学校が直面する問題に対応。現在は事務局長としてPTA を支援。

「小さな口、大きな耳、優しい目、信じる心」で見守ってほしい
若手教師応援セミナー 「元気塾PLUS」代表
仲島 正教

なかじま・まさのり 小学校教師の経験をもとに、教育サポーターとして「授業づくり」や「学級づくり」等の教師向けセミナーや、PTA 向けの講演会を全国で開く。

長時間のスマホ利用 原因を親のしつけに求めないこと(藪氏)

――現在はどういったお仕事をされていますか?

 私は大阪市の教育委員会からキャリアをスタートし、小中高校の事務、管理職への財務会計の指導助言、教職員の研修を担当し、退職後の現在は大阪市立高等学校PTA協議会の事務局長をしています。役員会、研修会などで高校生の保護者とは年に10回程度お話を聞く機会があります。

仲島 兵庫県西宮市で小学校教諭として21年、教育委員会で5年勤めた後、48 歳の時に早期退職して若手教師向けセミナーを行う塾を立ち上げました。またキャリア教育、家庭や人権をテーマにした高校生向けの講演を約80 回行ってきました。

――最近の高校生についてどのような印象をお持ちですか?

仲島 最近の高校生はまじめになりました。素直でおとなしく校則も守っています。ただ反発や反抗もしません。校則を疑問に感じても「おかしい」と言いません。校則は守らなければいけませんが、一方で校則は変えることもできます。先生たちには「おかしい」と言える生徒を育てないといけない、とよく話しています。

 私から見ますと、表面的には周囲と仲良くしているようでも、いろいろな判断の基準が自分本位な生徒が増えている印象です。また興味のあるものに対しては反応が早い代わりに持続性がなくすぐ飽きる傾向が見られます。また高校生の保護者の多くが、子どもがスマホやゲームで時間をつぶし、他人とコミュニケーションをとる機会が少ないことを心配しています。

――スマホやSNS の利用は親が制限するべきですか?

 今、高校生のスマホ・ケータイ所有率は9割を超えています。中には学校からの帰宅後数時間、スマホを触っている生徒もいます。大阪府では4月から学校へのスマホ・ケータイ持ち込みを認める方針に変わりました。学校でも検索機能を始めとしたスマホの機能を有効に活用できるように指導していくべきだと私は考えています。長時間のスマホ利用の原因を親のしつけなどに求めないことが肝要です。

仲島 子ども達は実は長時間スマホを使うことは良くないと分かっています。分かっていてやめられないんです。ですが、ある中学校でテスト前1週間のみ、スマホを使わないと生徒達が自分たちで決めたところ、おおむね守ることができたそうです。次のテスト時には保護者や先生は使用しない期間を延ばすように望みましたが生徒会は拒否。「長くすると守れないから」だそうです。子ども達に任せる方がいいんですね。

言いたいことも我慢 心配していることは届いている(仲島氏)

――子ども達にはどんな高校生活を送ってほしいですか?

 高校時代はさまざまな経験をする時期です。この時期に人の話を聞く姿勢を身につけて、特に大人とコミュニケーションを取って仕事や生活について話を聞き、職業や将来設計について考えを深めてほしいと思います。もう一つは友達です。高校生活3年間の中で、何でも相談でき親身になってくれる友達を見つけて楽しい学校生活を過ごしてほしいです。

仲島 今の子ども達にはもっと自分で考えて動くことを鍛えてほしいです。人間は自分で考えて動くと楽しいんです。そしてそれで友達と繋がったらもっと楽しいです。

――この先、受験を控えた子ども達に親はどのように寄り添い、向き合うべきでしょうか?

 私の場合、高校入学時から子どもには何事も自分で判断して決定するように話してきました。また多くの人と付き合い、支え合うという視点を持つ必要性も伝えてきました。価値観は十人十色ですし、体の不自由な人もいますから。そして過度の干渉をしない。進路についても口は挟まず、何を学びたいのか、将来は何になりたいのかを自分で考えて選択するように促しました。子どもは「今の成績ではまずい」と気づけば自ら勉強します。もし気になることがあれば「わからないこと、困ったことはないか」と問いかけるといいですね。

仲島 思春期の子育てで大事なことは「小さな口、大きな耳、優しい目、信じる心」。この4つです。子どもに話すことは最小限に止め、話をしっかり聞く。優しく見守り、信じる。これで子どもは変わります。言いたいことがあっても我慢です(笑)。ですが現実にはまったく何も言わないのは難しいですから、まずは10回中3回我慢してください。だんだん我慢できるようになります。親が心配していることは子どもの心に届いています。

困っているときは手を差し伸べる 関西人の気構えで(藪氏)

――関西人の特徴を子どもとの接し方に取り入れるとしたら?

 1つ言ったら2つ返ってくる阿吽の呼吸を誰でも持っているのが関西。気安く、面倒見が良いのも関西の人の特徴です。日頃から子どもが困っている時には手を差し伸べる気構えで子どもを見守るのが大切だと思います。

仲島 関西の人は基本的に弱いものの味方で、阪神ファンは阪神が弱い時こそ応援します。同様にいい時も悪い時も子どもを応援してほしいですね。

仲島 正教さんの著書


教師力を磨く
―若手教師が伸びる
「10」のすすめ
(2006年大修館書店)


成長しない子はいない
(2017年大修館書店)


大学生協の学生総合共済