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#05 上別府 隆男 さん

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参加者
上別府 隆男
(福山市立大学都市経営学部教授)

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参加者
三宅 崚太郎
(Peace Now! Hiroshima 2021実行委員/福山市立大学都市経営学部2回生)

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参加者
金田 菜緒
(Peace Now! Hiroshima 2021実行委員/福山市立大学都市経営学部3回生)

自己紹介

福山市立大学都市経営学部で教員をしています。出身は宮崎県です。

全国大学生協連Peace Now! Hiroshima 2021実行委員で、福山市立大学都市経営学部2年の三宅です。

いつもお世話になっております。福山市立大学都市経営学部3年の金田です。同じくPeace Now! Hiroshima 2021実行委員2年目で頑張っています。

国境を超える高等教育について

現在研究されているテーマについて詳しく教えて下さい。

途上国における高等教育問題を中心に扱っています。あとはSDGsと地方活性化についてや、技能実習生や留学生などの人の移動などについて研究しています。
まず最初のテーマですが、ベトナムにはフランス・ドイツ・日本の政府と協力して作られた大学があり、3つの大学の現状や課題について研究しています。高等教育分野では様々な国際的移動が発生します。主に3つあり、1つ目が「留学生などの人」、2つ目が「教育プログラム」、3つ目が「大学という組織自体」です。
私は特にこの大学の移動に関心があります。ベトナムでは大学は進学率が高まりつつあるものの戦争などの歴史的な理由もあり教育の質向上が課題としてあります。また、今のベトナムの教育制度はソ連などの影響が残っていることもあり、理論中心の教育で実学的なことがあまり教えられておらず、また、研究と教育が分断されていて教員の役割が限定されていることも課題としてあります。また、教員の待遇や設備もよくないことなどもあります。ただ、今ベトナムはどんどん発展してきており、様々な国の企業が工場を作ってきており、中間層が増加してきました。技術を持つ人をどんどん増やしたいところですが、教育の質に課題があったこともあり、先進国の教育モデルを参考にした大学を創ろうという動きが15年ほど前から出てきています。通常の教育に加え、学生が海外に研修やインターンシップに行って技術を身に着けてくるといったことも行って大学教育のレベル底上げを図っています。社会主義国のベトナムは資本主義を採用していますが、言論の自由が制限されている現状があり、それは大学も一緒なんです。そうした現状の中で先進国の教育モデルを適用して批判的思考力を高めるという教育を行うということが本当にできるのかということに興味を持つようになり研究を始めました。

ありがとうございます。現代社会のグローバルな動きの中で、先生は大学での教育の移動についてベトナムにおける実態を研究対象とされているんですね。

今はコロナでベトナムに行けませんが、様々な国の方にオンラインでインタビューをしています。実は日本のバブル期にはアメリカの分校がたくさんできたことがありました。日本に自ら来てたくさん作られていったんです。

今のベトナムのような形なんですかね。

今のベトナムでは、そこに日独仏政府の資金が動いています。日本バブル期での動きでは、アメリカの政府資金は入っておらず、自己資金で入って来ましたが、ほとんど撤退していきました。今。唯一残っている主なものはテンプル大学です。他が撤退していったのはなぜでしょうね。

海外からの異質なものを取り入れて拒否反応が起こったのでは?と思います。

アメリカの大学は当時利益を出そうとしていたものの、英語での教育を前提としていたため、学生を集めることが困難となり、成り立たなくなっていったんです。そういうことがあったので、今のベトナムは利益を追求するのではなく、日独仏のお金を使いながら国際協力的な要素を大きくして、形を変えて行っています。
ただ、韓国などのほかの国では日本のバブル期と同様のことが起こっており、世界には様々な現状があります。ベトナムが日独仏のモデルを取り入れたらどうなるのか興味深いと感じています。

なるほど。世界に目を移すだけでも教育についての見方も変わりますね。利益を得る目的でないというところについては、大学生協にも通じる部分を感じました。民主的な意思決定なども大事にしているため、そうした部分が先生の研究にも通じると感じました。
少し気になったのは、SDGsなどの国際的な動きについても研究されているということでしたが、そこについてもこれまでの研究やこれからの展望を伺わせてください。

SDGsの意義とは?

2つ目の研究テーマですが、SDGsに初めて出合ったのは「ユネスコスクール」です。2015年に前福山市長が全ての市内の小中高をユネスコスクールにするということを宣言した際に私も福山市に来たので、それ以来近隣の自治体も含めて加盟の支援を行っています。2005年頃からあったESDが2015年に登場したSDGsの目標4番に包括されましたが、ESD・教育については他の目標の前提であるとされています。
これまでの活動としては、ユネスコスクールに加盟しようとする学校がいかにしてSDGsやESDを教育に取り込んでいき、地域に根差しながら加盟基準を満たしていくかということを支援しています。その際によく行っているのは、ただ話をするだけでなく、それぞれの地域の課題についてSDGsの視点から見てみるワークショップを行っています。主に中学生向けに自ら考えるという経験を提供しています。例えば、尾道市の因島では少子高齢化の課題についてSDGsの視点から考えてみようということで、島で困っているお年寄りをどう助けることができるかということを考えてみるといったことをしています。
また、今行っている研究では、地方創生ということで、福山市役所でSDGsをどう行政の中に取り入れているかについて研究しています。SDGsがなくても行政は回っていく訳ですが、最近全国的にSDGsを取り入れた施策が行われるようになってきています。例えば、福岡県の大牟田市では石炭産業が衰退した後SDGsを深く取り入れて一から町おこしを行っていったということもあります。ただ、福山市には様々な施策を世界共通言語となりつつあるSDGsを通して考えていけるように働きかけていきたいと考えています。

これまで学校の教育にSDGsの視点を取り入れることを後押しする活動をされていった中で、自治体でのSDGsに関する取り組みをご研究されているんですね。

そうですね。ちなみに隣の岡山県は日本の中でもかなり先進的な都道府県で、SDGs未来都市として認定されている自治体も広島に比べても多いです。SDGsについて取り組んでいかなくても特に損はないのですが、SDGsという共通のものを共有していると国際的にもつながりやすくなると思います。

SDGsという目標、いわば共通言語のようなものをもとにすると、国際的につながりやすくなったりするんですね。

そうですね。それから、通常公務員は自分の所掌業務をやらないといけないのですが、SDGsは分野横断的なものです。SDGsの各目標には行政の中の様々な部署が関わることが多いのが特徴です。今のコロナ禍でも様々な省庁が絡んでいいますね。こうしたことも含めて研究者としての視点から自由に指摘していこうと思います。

SDGsを皮切りに可能性を広げていけそうですね。それって大学生のようなまだ何をするか考えていない人にとっても自分の興味関心のある分野を見つけるきっかけになるのかもしれないですね。

そうですね。社会人になると自分の配属の中でしか考えられなかったりしますが、学生は何にも縛られず自由な発想ができるため、SDGsとつながりやすいと思います。先ほどの話で出した岡山県の素晴らしいところは、縦割り行政の中でもSDGsをきっかけに横断的な考えを取り入れようとしているところです。特に自治体のSDGsへの取組はトップの意向によるところが大きく、ボトムアップでは難しいと思います。

ユネスコやSDGsについては金田さんも学校でサークルに所属されていると思いますが、どういったことをされていますか?

ユネスコは主に福山市で活動しています。SDGsやESDといった教育に関することを勉強したり実践したりしています。主に発信するというよりは今は学び合おうということを重点的におこなっています。

すごいですね。SDGsについては大学生みんなで考えられる共通のことだと感じました。

追加すると、学校や市役所でSDGsについて話す際によく聞かれるのは、「SDGsについて考えるのは何がメリットですか?」です。それぞれの世代が自分たちの生きる環境について自分たちで考えたことが自分たちに返ってくると思います。例えば、学生なら就職活動で、企業ならブランドイメージでといった具合ですね。

課題という意味で言うと、様々なものが出てくるものの、SDGsを通して可能性を考えるきっかけとなり当事者意識をもって様々なことについて考えて行動していこうとするきっかけになるということですね。

コロナ禍でも、最初は武漢での話だと思っていたら、人とウイルスの移動で世界に広がったと思います。今は世界において様々なことが起きており、自分たちの身にも影響が出ることも多いため、世界のことについて目を向けていかないと考えています。
それから、中学生に対してこうした問題について話す時には悲観的な未来を話すのではなく、世界的に明るい未来を目指すときにどんな課題がありそれをどう解決していく必要があるのか考えてみましょうということにしています。

なるほど。より良い未来を目指すためにどんなことが課題で自分たちには何ができるのかを考えるきっかけにするんですね。

バックキャスティングと言って、2030年の理想的なイメージをもってそこに向けて今から10年間で何ができるのかを考える手法がSDGsでは使われています。

確かにその方がよりよい未来を目指していくという期待感もありますよね。

今年日本はSDGsの世界ランキングの中で総合18位になっていますが、その中でもジェンダーについては世界的に見てもかなり低い現状にあります。日本におけるジェンダーギャップの深刻さについて見つめ考えるきっかけになればと思います。

確かにそういうことは世界に目を向けてみないと考えられなかったりしますよね。

今はコロナ禍で移動に制限がありますが、都市経営学部の学生には外に出て教員の話と実際の差があるかどうか考えてみようと言っています。

ジェンダーなどといった課題について気づくきっかけが必要ということですね。

例えば、ミャンマーや香港などで社会の問題について反応しているのは学生が多いですね。日本でも昔学生運動が起きていました。学生は自由な発想で動きやすい存在だと思うのですが、最近の日本ではあまりそうした場面は見ない。そこまでして欲しいというわけではないですが、社会のことに興味・関心をもって声を上げることが増えて欲しいなと思っています。

現代社会における大学生と一緒に社会問題について考えたいということですね。

まさに大学生の皆さんはこれから70年ぐらい生きていくわけですよね。今の上の世代がたくさん問題を残していく中で、大学生の皆さんには短期的な問題だけでなくそうした中長期的な視点ももって社会に目を向けて考えてもらいたいと思います。

確かに今あるものが将来に大きく変わっている可能性もあるからこそそこを疑ってみるといったことをしてみた方がいいのではないかということですね。

大学生活は4年で、いいところに就職していい暮らしをしたいということに関心が向いているかと思いますが、その中でもっと中長期的な視点を持っていくことは新鮮だと思います。会社に貢献するという視点だけでなく、もっと広い視野で社会に貢献していくといったことについて考えてみると楽しいかもしれませんね。

一つの物差しだけでなく、様々な物差しをもって社会を見ていくのがいいということですね。

未来に向けて私たちと共にどう行動していけばいいか。どんな社会であるべきか。

研究テーマ3つ目に関連しますが、多文化共生ワークショップを大学で市民対象に行っており、外国人労働問題などの外国人が直面する問題について扱っています。ワークショップの最後によく出るコメントが、「こうしたつながる機会があってよかった」という点です。いろんな貴重な活動を行っている人でも他の活動を知らないといったことも多く、ワークショップを通して交流することでリソースが繋がったりして、一緒にこんな活動してみましょうといった話になったりしているんですよね。
みんな社会に出ると様々な役割があって分断されがちで、日々新たなつながりを生むことは難しいと思います。知らない人と話すハードルが高いのが日本の特徴だと思います。海外では知らない人同士でも気軽に話していることが多いです。昔学生を海外に連れて行った時も驚いていましたね。日本は日本の中で完結するぐらいのマーケットがあるので、意識していないと世界を見る機会がないですね。だからこそ、日本は国際的な比較をすると面白いと思います。

日本にいて、ただ一つの視点から考えるだけでなく、世界に視野を向けたりすることで様々な視点から考えてみることも大事ということですね。

また、ボランティアに行くと普段会えない人に会えないことが多いですが、ボランティアはする側も新たな発見があってお互いにうれしくなることだと思いますので、ぜひ学生の皆さんにも行ってみてもらいたいと思います。

ボランティアだとやってあげている感覚になることもあるかと思いますが、そうした見方をするとやってみたいと思ったりしますね。

成熟した日本社会ですが、気軽に様々な人と交流する機会をたくさん作っていけるといいですね。特に若者はSNSやオンラインツールなどを使って交流できる可能性がたくさんあると思うので、ぜひやっていってほしいですね。

まだ見つかっていないもの、目を向けていないことに気づけることは貴重ですよね。

私はかつて法学部で勉強し公務員となったものの、その後留学に行って現場に行って様々なものに触れたことで、新たなことに気づいて考えることがたくさんありました。特に、お二人のように、学生のうちに様々なアルバイトやボランティアなどを通して多くの人と関わっていくことで見る目が養われていくと思いますよ。いろんな大学で学生を見ていると、就職してみたら想像していたことと違ったと言う人もいますが、今のうちから社会に目を向けておくとより広い視野で就職活動もできるかと思います。
未来は皆さんの肩にかかっているので、上から目線の「今の若者」という言葉はなくしたいですね。
いいアイデアや経験を持っていてもつなぐ場がないと新たに生まれることもないと思うので、つながる場を作るということがとても大事だと思いますよ。

ちなみに、ワークショップは今年は5回行う予定で、すでに防災と外国人については5月に終えていますが、今度は8月27日学校とSDGsについてというテーマで行いますので、ぜひご参加していただけるといいと思います。誰でも参加可能ですよ。

インタビューの感想

お話ありがとうございました。モノの見方についても様々な視野を持つといったことや、これまでに経験したことのないことにチャレンジしてみると新たなものが生まれるといったことが大事なんだと気づきました。今の自分たちの既成概念を自分たちから能動的に壊していくぐらいの感覚で行動していけるといいなと思いました。

ぜひ街を歩いている中からでも新たな気づきがあると思うのでぜひ普段から考えてみてくださいね。

質疑応答

コロナ禍で外国に行きたくてもいけない中で外国にも視野を向けることは大事だと思うんですが、日本にいながら外国に目を向ける方法は具体的にどういったものがありますか?

欧米の国のニュースなどを見てみるということも大事ですが、それ以外の例えば中東などの国が欧米のことについてどう報道しているかということを見てみることで、世界がどのようなことを考えているのかを幅広く知ることができると思います。様々な国のニュースについてネットで調べて自動翻訳を使って読んでみることもできますし、オンラインだったら外国にいる様々な人と交流してみることもできます。
また、外国に住んでいる日本語を話せる人や日本人と話してみたり、セミナーを設けてみたりといったこともできると思います。オンラインだとお金も時間もかからないから簡単になんでもできますよ。メディアやオンラインツールをうまく活用してみてください!

確かにコロナでオンラインというツールを手に入れることができたのは大きいですね。

あとはこれを機に、英語など言語の勉強もしておくと将来的にも役立つと思うのでぜひ頑張ってみてくださいね。

記録:児島佳幸(全国学生委員)

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